畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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世界動物の日記念隔日投稿中です。


一二四話:この島の長

 さて、カメラの充電が切れた俺達は、バッテリーの充電アイテムを手に入れるべく図書館へと向かっていた。

 が、図書館まではまだまだ距離がある。その前にキャンピングゾーンを通り抜けなくてはならないし、ただでさえ俺は一度ダウンしているので、スタミナについては慎重にいかねばならない。

 

「チーター、どうかしら?」

「おう、いい感じー」

 

 というわけで俺は、ソリの上に乗っていた。

 チベスナは手にカメラを持ったまま歩いている。さっきの今なので、カメラを手放すのは心細いのだろう。分かるよ。特に解決には繋がらないけど、手放すと本当にどこかにいっちゃいそうで不安になる感じ。俺も子供の頃似たような気持になったことがある。

 なお、今ソリを曳いているのはチベスナではなくプリンセスだ。

 スタミナに慎重になりながら移動するというのであれば、やはり一番いいのはソリに乗って移動することである。もともとソリは半分くらいそれが目的で作ったわけだしな。半分は荷物を効率的に運搬する為だが。

 そしてプリンセスにソリを曳いてもらうことで、チベスナに借りを作ることも防止できている。この完璧なる作戦よ……!

 

「チーターねてなくて大丈夫だと思いますよ? この先まっすぐでいいなら、チーターがナビする必要もないと思いますよ」

「起きてないとお前らどこをどう逸れるか分かったもんじゃないでしょ」

 

 チベスナは放置していたらなんか適当な冒険を見つけ出して別方向に突っ走りそうだし、プリンセスもプリンセスで意外と押しに弱いところがあるから、チベスナに引っ張られたら断り切れずに乗っかっちゃいそうだしな。

 

「しっけいな! チーターが寝ててもチベスナさんはしんりんちほーガイドを全うしてみせると思いますよ!」

「そうよ! わたしだって……が、頑張るわよ!」

「ちょっと自信がなくなったな?」

 

 素直なのはいいことだが。

 いやあ本当に……正直、プリンセスはもう少し我が強いイメージがあったんだけどな。こう、自分からグイグイ押していく性格というか。いや、実は自分に自信がないっていうか余裕があんまりない性格だっていうのはアニメ見て知ってはいたんだけどね?

 こっからPPPを復活させていく過程で徐々に自信をつけたり、虚勢を張るようになったりしたんだろうか。

 

「それより、ここはどんなところだと思いますよ? さっきからなんだか開けた感じになってると思いますよ」

「お、そうだったな」

 

 チベスナに言われて、俺はゴトゴトと揺れるソリの荷台から辺りの様子を眺める。

 開けた──と言いつつ、別段広場のような形になっているわけではなく相変わらず周囲は並木道である。道幅は二〇メートルあるので大分広々とした印象だが、まぁこのくらいならの範疇である。

 そんな広々とした道の真ん中には噴水があり、そこから一本の水路が流れていた。

 

「お、チーター。変わった形の川だと思いますよ? 泉から川になってるんです?」

「あんなのみずべちほーでも見たことないわ。変わった形の川があるのね……」

「や、川じゃなくて水路な」

 

 感心している二人に、俺はひとまず注釈を入れる。が……なるほど。

 ここはキャンピングゾーンだからな。キャンプをするために必要なもの──水場が用意されているようだが、ただ蛇口を設置するだけでは芸がない──あるいは自然と密接なジャパリパークらしくない、と判断したのかもしれない。

 水場を川のような形式にすることで自然っぽさを増大させるとはな。実際、チベスナもプリンセスも騙されるくらい自然っぽさは増大しているようなので効果としてはなかなかのものだと思う。

 

「すいろ……?」

「チーター」

「こんな感じで、人工的に水を流した道のことだよ。キャンプに使う水場をここで賄っているんだろう。上水道とか下水道とかいう区分があったけど詳しいことは分からん」

 

 上水道は飲む水で、下水道は出す水……みたいな感じだった気がするけど、じゃあ川は下水なの? 上水なの? みたいなのとか全然わかんない。ああ、ウィキペディアが見れたらこういうときぱぱっと調べてこのもやもやをすっきりさせられるんだけどな。

 まぁ、ないものについて考えても仕方がないけど。

 

「ほう……これは造られた川ということですね。川……造れると思いますよ」

「めっちゃ大変だけどな」

 

 ビーバーとかなら普通に作れそうだけど。

 ……ああ、そういえば前に川をジャパリシアターまで引きたいみたいな話をしたことがあったっけ。あのときは完全に与太話のつもりだったが、今はもうフレンズのスペックを知ってしまっているだけに、完全なる与太話でも片付けられなくなってるから困る。

 

「あ! チーター。あれこの前見たと思いますよ」

 

 と。

 水路に沿ってずっと歩いていると、不意にチベスナが前方を指さして見せた。

 チベスナの指先にあったのは──かまどだ。

 あー……なるほど。このキャンプ場。こういう仕組みなのね。水場とかかまどとか、そういうキャンプに使えるスポットを一つの場所に固めておく、みたいな。

 どうせならここも水場よろしく自然っぽくすればよかったのに……と思ったが、かまどを自然っぽくっていうのもなかなか謎な概念だな。火口的なものにすればいいんだろうか。

 

「ここ、なんなの? ここもきゃんぷに使うところなのかしら」

「まあそうだな」

 

 首を傾げるプリンセスに、俺は軽く同意を返した。

 

「ここは火を焚く場所だな。まぁ普通のフレンズには使えないところだから、今は気にしなくていい」

「……ほう、よく知ってるですね」

「!」

 

 その瞬間。

 ソリの背後から聞こえた声に、俺は思わず疲れも忘れて素早く振り返る。スローモーションの世界に佇んでいたのは──灰色を基調としたコートを身に纏った少女と、それよりも一回り大きな茶色いコートの少女だった。

 

「む……素早いですね」

「髪の風圧が凄いです」

 

 疲れているのに高速で動いたせいで若干ダルくなっている俺を他所に、二人の少女はなびいた髪を整え涼しそうな顔をしている。

 もう大分前世の知識も薄れてきた今日この頃だが、それでも目の前の少女達には強烈な見覚えがあった。

 その答え合わせをするように、一拍遅れて振り返ったチベスナが声を上げる。

 

「はかせ! じょしゅ!」

 

の の の の の の

 

しんりんちほー

 

一二四話:この島の長

 

の の の の の の

 

「チベスナですか。久々なのです」

「久々に見ても憎たらしい顔なのです」

「なにをー!?」

 

 再会して早々ご挨拶である。

 だが、実際にこいつの顔憎たらしいからなぁ……絶妙な煽り感があるというか。

 初対面なら気にならないだろうが、一度でもコイツのウザさを体感してしまったらもう駄目だ。かばんやサーバル並の良い奴でもない限り顔を見ただけで「煽ってんのこいつ?」と思うこと請け合いである。そんなことないけど。

 

「まぁまぁそれよりも、話を聞くにお前達が──」

「アフリカオオコノハズクの博士なのです。こちらは助手のワシミミズク」

「おまえは……チーターですね」

「ああ、よろしく」

 

 ソリの荷台に寝そべったまま、返事をする。

 今回は……なんか疲れてるから招き猫の手をやるのも億劫だ。皮肉なものだな……今まであれほど頭を悩ませてきた招き猫の手が、疲労によってクリアできてしまうとは。

 いや、これ多分元気になったらまた再発するから、ちっとも根本的解決にはなってないんだが。

 というか、普通に名乗る前から言い当てられてしまった。やっぱり長だけあって、フレンズの種類的なのは詳しいんだろうか?

 

「はかせ! じょしゅ! 助けてほしいと思いますよ!」

「お前の話はあとです」

「今はわれわれの話が先です」

「なにをー!?」

「まぁまぁ……」

 

 アニメ見た感じでも分かってたが、やっぱこの二人態度でっかいよなぁ……。まぁ、この島の長だから当然なのかもしれんが。

 ……そういえば長ってどういうことなんだろうな? 確かに島のフレンズをほんのり統率している感じはあるけど、どういう経緯でそうなったんだろうか。そのへんの説明とか一切なかったからなぁ。ジャイアントペンギンがいる以上、単純にフレンズの中で一番長く生きてるってことではないと思うが。

 とはいえ、ただ仲裁しているだけでは話が一歩も先に進まない。俺はほどほどのところで博士と助手に本題を促してみる。

 

「我々の話ってのは?」

「この先で大きな物音がして、セルリアンの目撃情報が出たと聞いたのです」

 

 答えたのは、助手の方だった。

 ああ、その話な。

 

「最近フレンズが襲われる被害も出ていたので、われわれも調査に向かおうとしたのですが──そこでお前らと出くわしました」

「チーター、お前は疲労していますね?」

 

 事情を説明する助手に付け加えるように、博士がそう切り出してきた。

 うむ……見れば分かるが確かに俺は疲労しているぞ。さっき暴れたからな。

 

「チーターというのは疲れやすいフレンズなのです。ですが、それでも普通にしていればそんなに疲れることは滅多にありません。つまり、お前は特別暴れまわったということになるのです」

 

 博士は滔々と、俺のしてきたことを言い当ててくる。

 ……うーむ。自分の思考を説明せず突然結論を突き付けてくるジャイアントペンギンとはまた違ったタイプのクレバーさだ。

 

「確かにそうだが」

「では、われわれの確認したいことも分かっているでしょう? お前は他のフレンズよりは多少賢そうです」

「まぁ、そうだな……。確かにやったのは俺達だ」

 

 おそらく、セルリアンを始末したのはお前達か、というのが聞きたかったのだろう。そう判断した俺は、特に隠すことでもないので素直に説明することにした。

 遊園地以前の俺ならともかく、今の俺はパークの危機を()()()()救ってしまったことに対して罪悪感を持ったりはしない。

 

「やはりですか……。無茶をしたのです。特にチベスナなんて、戦えるタイプではないでしょう」

「無茶は厳禁なのです。大事があってからでは取り返しがつかないのですよ」

「まぁちゃんと作戦立ててやったから」

 

 お小言を言い始めた助手に応えるように、俺は弁解をした。すると俺の意を汲んでくれたらしく、二人とも一旦はお小言を抑えてくれたようだった。

 まぁ、博士の方は何か思うところがあるような顔をしているが……。

 

「ともあれ、セルリアンを退治したのは褒めてやるのです。われわれの仕事が減るので」

「われわれが楽をできるので」

 

 包み隠さねぇなぁ……。

 

「そして──」

 

 セルリアンの顛末を聞き終えた二人が次に気にしたのは、俺達と同行しているもう一人のフレンズ──プリンセスだ。

 

「お前は、ペンギンのフレンズのようですね」

「ええ! ロイヤルペンギンのプリンセスよ!」

「ロイヤルペンギン? ……ああ、ジャイアントペンギンが言っていた子ですか」

 

 あ、そこで話が通ってるんだ。やっぱジャイアントペンギンの根回し凄いな……。

 

「あれ? もう先輩から話を聞いてるの?」

「ええ。PPPのことについて聞きたいということですね? 案内してやるのです」

「われわれについてくるのです」

 

 そういうと、二人は空を飛んで移動を開始してしまう。飛んでいくんだ……。まぁ、あんまり歩いたりするイメージはなかったが。

 あまりにも普通に移動を開始してしまうものだから、少しの間ぽかんとその様子を見ていた俺達だったが──

 

「…………早くしないと置いていきますよ」

「い、今行くわよ!」

「待つと思いますよ!」

 

 慌てて移動し始めたプリンセスのソリさばきによって、俺のお尻がとんでもないことになったのは言うまでもない。




タイトルで何が出てくるか分かるのはいかがなものかと思いましたが、
今までも大概だったし何より『これしかない』と思ったのでした。

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