畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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世界動物の日記念隔日(?)投稿中です。

感想九〇〇件ありがとうございます。励みに……なります……!!


一二七話:遍在する紫電の水脈

 考えてみれば、最初から違和感はあった。

 

 アニメでは高山地帯のジャパリカフェで、ジャパリバスのバッテリーを充電することができていた。

 博士の話では、似たような電源がジャパリパークの施設には大体存在しているということらしい。俺はその話を聞いて、『(博士助手には知るよしのないことだろうが)ジャパリバスの充電が切れて立ち往生しないための工夫なんだろうな』と思った。

 思い返すと今までの旅路にはジャパリバスの充電スタンドのようなものはなかったし、各施設がそのスタンドの役割を果たしていると考えるのは至極真っ当な推理の流れだろう。

 だが、そう考えると一つの違和感が発生する。

 

 そう。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ジャパリカフェはロープウェイを使わないと登れないくらい切り立った崖の上にある。とてもじゃないがバスで行くことはできない。

 一応バッテリーは取り外し・持ち運び可能なのでかばん達がやったように充電することは可能なのだが、ジャングル地方にはほかにも施設が幾つかあるし、わざわざ山を登るよりもそっちの方が圧倒的に利便性が高い。

 言ってしまえば、あそこにバスの充電スタンド機能を設置する意味は、皆無とまでは言わないがほぼないのだ。

 

 だが、仮にも企業が運営して、その設計には多分に合理的な判断が関わっているであろうジャパリパークの施設に、『意味がほぼない』機能など存在しうるだろうか?

 答えは、NOである。

 

「…………アレだけじゃなかったんだ」

 

 呟き、俺は木の幹を探ってみる。調べてみると、思った通り──木の幹に、ジャパリカフェにあったような黒いフタがあった。これが、バッテリー充電用の設備だろう。

 

「チーター?」

「コレの用途だよ。『電源』の用途は一つだけじゃなかったんだ」

 

 バスのバッテリーだけじゃない。

 アニメだと分からなかったが……この充電ユニット、充電する為の端子の大きさに幾つか種類がある。

 ジャパリパークで流通している従業員用のバッテリー類には、サイズごとに統一の規格が存在していたんだ。そしてそれらバッテリー類は一律でこの電源を使い充電することができる。従業員の各種アイテムが使用不能になるリスクを低減する為の、『自然の中のテーマパーク』ならではの工夫……!

 一番大きいとバスのバッテリーサイズのようだが、この端子を切り替えると……やっぱりだ!

 

「カメラのバッテリー、ここで充電できるぞ!」

 

 

の の の の の の

 

しんりんちほー

 

一二七話:遍在する紫電の水脈

 

の の の の の の

 

「す、すごいと思いますよチーター! 本当に充電できてると思いますよ!」

 

 言いながらカメラのバッテリーを取り外し、実際に端子をはめ込むと──ピピピ、という音と共に充電が開始されたのが分かった。

 それを認めたチベスナが、嬉しそうに声を上げる。

 

「充電アイテムとはそれのことだったのですか?」

 

 と。

 そこで、博士の拍子抜けしたような声が聞こえた。いやまぁ、それ以外にないよな。

 

「……それが必要だったのならさっさと言えば答えたのです。勝手に落ち込んでとてもびっくりしたですよ」

「紛らわしい言い方は慎むです」

「……は?」

 

 まるで、分かっていたけど俺の聞き方が悪かったから教えられなかったみたいな言い草だな? いやいや、いくら自分が電源の使い道を知らなかったからといってその物言いはちょっといかがなもんかと──いや待て。

 言われてみれば、確かに博士は『今まで一度もカメラに取り付けるようなアイテムは見たことがないのです』としか言っていなかったような。それにそもそも、充電アイテムという言葉を知っている時点で『カメラのバッテリーを充電する存在』についての知識はあるはずなんだよな。

 つまりそこで『充電アイテムはカメラではなくバッテリーにつけるものなので、博士が説明の意図を取り違えている』という可能性に気付くことができれば、ここまで話はこじれていなかったことに……、

 

「……岡目八目だな」

「チーター」

「後で状況を整理したから分かることであって、その時気付けと言われても無理」

 

 ま、結果的に解決したんならそれでいいとも言える。

 

 だが、そこで終わらないのが厄介なところというか。

 記憶が確かなら、アニメだとバスのバッテリーを充電している間はその施設の電気類が使えなくなってた気がするんだよな。ジャパリ図書館の場合は、充電している間ライブ映像が見られなくなる可能性が高いのだが……。

 

「じゃ、問題も解決したところで次のライブ映像見ましょうか!」

 

 と。

 どうやら一連の流れを見てDVDの扱い方をマスターしていたらしい(何気に覚えがめちゃくちゃよい。根本的に要領がいい)プリンセスが、早くも普通にDVDデッキを動かしていた。

 ……あれ、めちゃくちゃ普通に電気を活用しておられる???

 

「大きなバッテリーならともかく、カメラのバッテリー程度なら電気を止めなくても充電できるのです」

「ブレーカーが落ちるのが問題なのですよ」

 

 あ、そういう……。

 確かにバスのバッテリーなんてどう考えても大容量だろうし、それの充電ともなると発電設備をフルスペックで稼働させないといけないわな。

 そうなると必然的に、電気の余裕もなくなるわけで……そんな状態で普通に施設の設備を使えば、そりゃブレーカーも落ちる。

 

「…………」

 

 と、納得していると、俺の方を興味深そうに見つめる博士と助手の視線に気づいた。

 あー、まぁ、不審に思うわな。それについてはバッテリーのことを質問した時点でそうなると思ってたから別にいいけど。

 

「チーター。少し話をしませんか」

 

 ほらきた。

 チベスナとプリンセスは……ライブ映像の方にかかりきりって感じだな。今なら内緒話をするのにも都合がいいだろう。

 

「分かった。じゃあ、いったん下に降りるか」

 

 そう言って、俺は枝の下──図書館ゾーンを指さした。

 

の の の の の の

 

「で、話っていうのは?」

 

 下に降りた俺は、さっそく博士と助手に問いかけていた。

 まぁ、大体予想はできてるけどな。十中八九、俺の持つ知識の異常性についてだろう。普通のフレンズが電源だとかブレーカーだとかって言葉を知っているのは……まぁジャイアントペンギンの例もあるから不自然ではないが、大分珍しいからな。

 で、俺はここについて特に隠すつもりもない。別に探られても痛くない腹だ。

 

「話と言うのは──お前が何を知っているか、なのです」

「……何を知っているか?」

 

 意外だった。てっきり『俺が何者か』を聞いてくるのかと思っていたが……そういうことには興味がないってことか? 聞かれれば、ジャイアントペンギンにも一応話してはいることだし、普通に説明しようとは思っていたが……。

 

「そうです。お前は、普通のフレンズには分からない情報を知っているです」

 

 博士は俺のことを見ながら、

 

「正直、お前がどこの何者かというのは興味がないです。ちょっと変わっててもフレンズであることにかわりはないです」

「いいのかそんなあっさりして……」

 

 いやまぁ、変に警戒されたりしても困るんだが、詮索すらしないというのは懐が深いのか、色々と適当なのか……。

 

「いいのです。それよりも気になるのは──お前が、どこまでけものプラズムについて理解しているか、なのです」

「……?」

 

 どこまで理解しているか? いや、正直俺はけものプラズムって用語自体はじめて聞いたわけだし、扱い方に関しても独学だから体系的な知識は何も知らないんだよなぁ……。

 

「…………この様子だと、何も知らないようですね。助手」

「四神について知っているかもと思いましたが、当てが外れましたね。博士」

 

 四神……?

 あ! アニメでやってた、フィルター貼るヤツか! …………あーでも、確かに知っているは知っているが、詳しい位置がどうとかっていうのはアニメではやってなかったからな……。知識としては何もないな……。

 でも、そっか。博士と助手は四神の封印について色々と知りたくて、俺の正体云々よりもそっちの方が重要だったってことか。

 

「なんかよく分からんが、四神ってのが心配ならこれから俺が調べようか? ちょうどよく旅をしてるわけだし」

 

 とはいえ役に立たないということはあるまい。俺も博士と助手に助力を提案してみる。まぁもう旅自体は終わるわけだが、別にすぐ二周目に行きたくない理由があるわけでもない。カメラの充電方法も見つかったことだしな。

 しかし、博士は首を横に振って、

 

「いえ。『あそこ』は神聖な場所なのです」

「入ってはいけないのですよ」

 

 へー……。……そういえばそんな話もあったっけ?

 

「あそこって?」

「それを言っては意味がないではありませんか。馬鹿なのですかお前は」

「われわれの口を滑らそうとは狡猾ですよ」

 

 ああ、やっぱり言わないか。一応大義名分的なものが欲しかったので聞いてみたが……。

 ま、助力が要らないというのならいいだろう。博士と助手も馬鹿じゃない。助けが必要なほど切羽詰まっていたら、勝手に俺の方へ相談してくれるだろうしな。

 

「でも、本当に電源についてとか、そういう知識をどこまで知ってるのか聞かなくていいのか? 別に俺は隠してるわけでもないから、聞かれれば答えるけど……」

「興味ないのです」

 

 あまりにも肩透かしだったので一応聞いてみるが……博士の回答は変わらなかった。

 ジャイアントペンギンは言葉巧みに俺のことを探ってきたのに、なんか博士助手がこうまでノータッチなのもそれはそれで奇妙だな……。

 

「なぜか気になりますか?」

「そりゃな。ジャイアントペンギンにはたいそう興味を持たれたし」

「ああ……」

 

 博士は合点がいったとばかりに頷き、

 

()()()はそういうヤツなのです。われわれは島にかかわることでなければ動く気はないのですよ」

「楽したいときは楽をするに限るです」

 

 のんきだなぁ……。まぁ、フレンズらしいといえばらしいけど。

 とはいえなんかちょっと釈然としない俺に、博士と助手は噛んで含めるように、こう続けた。

 

「チーターも、あまり気を張りすぎない方がいいですよ。頑張りすぎは寿命を縮めるのです」

「何事もほどほどにが、長生きのコツですよ」

 

 ……島の長が言うと、説得力あるなぁ……。


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