畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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世界動物の日記念隔日(?)投稿中です。
なお──次回でしんりんちほー編ラストのため、連続更新も一旦終了したいと思います。


一二九話:手の中の希望

「宝……?」

 

 博士の言葉に、俺は怪訝な表情を隠すことができなかった。

 宝……といっても、多分一山いくらの量産品アクセサリーだしな、これ……。色のついた透き通ったプラスチックの球の中に何やら綺麗なラメ? のようなものが入っている程度で、特に何か高級そうな雰囲気もないし……。

 ……いや、単純に量が少ないから貴重、という意味で宝といっているんだろうか。ジャパリパーク運営時代にはなんでもなかったものが時代が下るにつれて『宝』になるってことは普通に今までのパターンからしてもありそうな流れだからな。

 アライさんもかばんの帽子のことをお宝とか言ってた気がするし。

 

「宝と言っても、本当のお宝という意味ではないです。我々にとってはそれと同等の価値のある存在──そういう意味の『お宝』です」

 

 そんな俺の懸念を知ってか知らずか、博士はさらに続けて補足を入れた。

 

「……それは、我々もひとつだけ持っているです。パーク時代の遺物とされています」

 

 うわ、博士達でも一つだけしか持ってないのか? ってことはこれ、ひょっとしたらかなり貴重なものなのかもしれないな……。……なんかすごく価値ありそうだし、色々持ってるって言ったら博士達に全部ぶんどられそうだな。黙っとくか。

 

「それより、です。質問に答えるですよ、チーター。これをどこで見つけたんですか?」

「きりきり答えるですよ、チーター」

「どこでも何も、ロッジ地帯だよ」

 

 まぁ今俺らが持ってるものならともかく、それ以外のものについて教えてやるのは別に構わない。ということで、俺はさくっと説明することにした。

 

「つっても、地上にはない。偶然、ロッジ地帯の地下に従業員用の居住区があるのを発見したんだ。その中を調べて見つけた」

「従業員用の……ですか?」

「なるほど。確かに大昔ヒトが住んでいたはずのパークに、その痕跡がまったく見られないのはおかしいと思っていたです。ロッジ地帯にヒトの縄張りがあったですか」

「これは新発見ですね、博士。ヒトは今までヒノデ港での目撃情報を最後に絶滅したといわれていましたが……」

「そうですね、助手。ヒトの手がかりを見つける新たな証拠です」

 

 お? なんか進展したってことになってるっぽいな。

 ……というか、博士と助手のこの口ぶりから察するに、ヒト関連の情報ってジャイアントペンギン全部黙ってるんだな。

 

「しかしチーター、よくそんな場所を見つけることができましたね」

「地図見たからな」

 

 隠すことでもないので、俺は地図を広げながら理由を説明した。

 

「ほら此処。此処だけ不自然に森が拓けてるだろ? だから何かあるんじゃないかと思って」

「なるほど。なかなかやりますね」

「われわれほどではありませんが……」

 

 そこは張り合わなくてもいいと思うけど……。

 

「とすると、他にもロッジ周辺には何かがあるかもしれませんね、助手」

「地下に何かあるとすると、地下通路あたりも怪しいですね、博士」

 

 が、博士と助手は既にそこではなく、新たな推論の方に意識を向けているようだった。

 

「チーター、他には何か知ってるですか?」

「チーター、知ってることがあるなら言うですよ」

「他は何も知らんが……」

 

 パークの従業員がフレンズの為に保管しといたっていうのは確かだと思うが、まぁ普通になくしやすいおもちゃが散逸しないようにっていう意味合いでしかないと思うし。

 

「というか、俺の方が聞きたいんだが。それ、いったい何なんだ? 普通のおもちゃじゃないのかよ?」

「…………」

 

 問い返すと、博士助手は逆に黙り込んでしまった。

 …………おいおい、それは露骨すぎやしないか?

 

「ただのアクセサリーにしては、物々しい対応だな」

 

 今までは、普通のおもちゃだと思っていたが……この博士の対応。たかが『ヒト時代の遺物』程度のものにここまで特別な態度を示すだろうか。これじゃあまるで、オーパーツとかそんなものに相対しているみたいだぞ。

 

「……しょうがないですね」

「博士」

「助手。チーターはきちんと説明しないと納得しないですよ。他の子と違って、チーターは聡いです」

 

 そんな他のフレンズがアホみたいな……いや、アホか。

 ともあれ、助手に言い含めた博士は何も言わずに図書館の奥へと引っ込んでしまう。

 

「なんだと思いますよ? 勝手に奥に行っちゃったと思いますよ」

「わたし、一緒に聞いちゃって大丈夫かしら? なんだか込み入った話みたいだけど」

 

 全く遠慮しないチベスナに、言葉こそ遠慮しがちだが態度はいたって平常なプリンセス。このへんの遠慮のなさはさすがフレンズといったところか。俺なんかバリバリに当事者なのに気後れしてるんだが。

 そんな俺をよそに、助手はプリンセスの疑問にさらっと答える。

 

「お前達もいていいのです。下手に隠してもお前たちは気になるでしょう?」

「博士は何しに行ったんだ?」

「おそらく、もう一つの『お宝』を取りに行ったのでしょう。お前達に『あれ』を見せるためです」

「…………あれ?」

「見れば分かるです」

 

 ……答えをはぐらかしおる。

 だが、見れば分かるということは本当に顕著な現象が見ることができるのだろう。……これまでの話からして、博士助手は『けものプラズム』や『四神』について調べているらしい。この流れを見ると、おそらくこの『お宝』──アクセサリーも似たような系統の情報、つまりけものプラズム関連のアイテムだということは推測できる。

 ……そういう前提に立って考えると、色々符合する部分もあるんだよな。

 従業員居住区の地下、ヒト時代のパークを想定できないフレンズには決して見つからない場所に保管されていたこともそうだし。

 そして思い返せば、アクセサリーを見せたときのジャイアントペンギンのリアクションも、どこか引っかかる感じだったような気がする。

 ジャイアントペンギンの興味の方向性はあくまで『時渡り』にある──というのは多分間違いない。そういう意味で、アクセサリーは微妙に方向性は違うものの、別の意味では重要アイテムだったからあのリアクションになったと考えれば、全てに納得がいく。

 

 と。

 

「お待たせしたのです。持ってきましたよ」

 

 図書館の奥に引っ込んでいた博士が、そう言いながら戻ってきた。

 その手には──俺達の持っているものより若干古びた感じのアクセサリーが握られていた。

 

の の の の の の

 

しんりんちほー

 

一二九話:手の中の希望

 

の の の の の の

 

「それは……」

「これは、パーク時代の遺物です。……もとはこれとくっついていたようですが」

 

 そう言って、博士はアクセサリーの他にもう一つ、懐からアイテムを取り出した。緑色の宝玉のようなアクセサリーと同じ色をした……輪っか。ネックレスというよりは、首輪とでもいった方がよさそうなデザインだ。人間用という感じはしないが……でもこれ、人間につけるくらいのサイズはあるな。

 

「……俺の持ってたアクセサリーと似てるが」

 

 ただ、俺の持っているアクセサリーは全て、ビー玉のように色のついた、透明感のある球だ。銀色の金具のようなものがあるが、それだけ。博士の持っているもののように首輪とセットになっていたりするわけじゃない。

 しかもその状態で大量に従業員居住区に保管されていたことを考えると、おそらく首輪がついている方が正常っていうわけでもなさそうだし……。

 

「おそらくヒトは、これを『身に着けるもの』として使っていたと考えられるです。ちょうど、こんなふうに……首か、足に取り付けていたんじゃないでしょうか」

「だろうな」

 

 正直俺はカバンか何かにつけるアクセサリーだと思っていたのだが……装飾具だったのか。

 だが、それはそれで疑問が出てくるぞ。

 

「それは分かったが、そこのどこに興味が惹かれる点があるんだ?」

 

 話を聞く限りじゃ、アクセサリーはヒトにつける装飾品らしいが、それだけ。特に不思議な力があるわけでもなし、博士助手が特別視する理由が分からない。

 材質だって、安っぽいビー玉みたいなプラスチックだからな……。中に入っている虹色のラメ(?)は綺麗だが、それだけだ。ごく普通の土産物だと思うが。

 

「この中の虹色の輝きが見えますか?」

 

 そんな俺に、博士はビー玉の中を指さし、

 

「この輝きは、サンドスターです」

 

 と、断言してみせた。

 

 …………。

 

「……はぁ!?」

 

 サンドスター!?

 

「いや、いやいや待て待て。それは……ない、いや、ある、のか……? ビー玉の中に入っているからサンドスターが他のものと反応せず状態を保っているのだとしたら納得はできるが……」

「チーター?」

「俺も何がなんだかわかってない」

 

 混乱してるので説明は無理。ゆるせ。

 ……っていうか、問題はそこじゃないだろ。実現可能性ではなく……そんなものがアクセサリーとして成立しているってことは、パーク運営時代から既に、ヒトはサンドスターを独自に扱っていたってことにならないか?

 そんなことってあり得るのか? なんていうかこう、サンドスターはヒトにも全容が分かっておらず扱い方も不明……みたいなイメージがあったんだが。

 

「そしてこの球は、フレンズに力をもたらすと言われているです」

「力……?」

 

 えっ、何その凄そうな逸話は。

 

「もっとも、ただの噂ですけどね。わたしがフレンズになったばかりのときに聞いた噂話なのです。実際に力をもたらされたところは、一度として見たことがないのです」

「……………………」

 

 う、う~~ん…………。その話、なんだかすごい信憑性がありそうな気がするぞ。

 だってそういう付加価値がない限り、わざわざサンドスターを封入したアクセサリーなんか作ったりするか? アクセサリーに見せかけてフレンズの強化アイテムを流通させる……みたいなこと、ジャパリパークの人たちなら考えそうな気がする。買い被りすぎか?

 ともかく、アクセサリーがフレンズの力になった試しがないというのは、おそらく条件が揃ってないということだろう。

 

「ただ、サンドスターを中に入れた球というのは普通ではないです。四神についての手がかりになるかも……と思い、色々調べてるです」

「なるほど」

 

 だから俺がこれをどこで見つけたのか聞いてたわけね。

 ……んー、そうなると、俺が持ってるアクセサリ類も提供した方がいいような気がするな。正直シアターの土産物として使いたかったので博士には大量所持を伏せておくつもりだったが、ここは渡しておいた方がパークのため、ひいては俺達のためになるだろう。

 

「……実は、他にもこれ、大量に持ってるんだ」

「なんですって?」

 

 俺はソリに近寄ってアクセサリを両手いっぱいに掬いながら、

 

「本当は、シアターに持ち帰って土産物としてシアターの宣伝に使うつもりだったんだけどな。博士達の話を聞く限り、何かかなり貴重そうなものだし……譲ろうか?」

「チーター?」

「ま、こういうのは有効活用してくれそうな人に渡すのがいいだろ」

 

 少し不服そうなチベスナだったが、俺が目配せしながら言うと、あっさりと矛を収めた。そこのところは同意見なのだろう。いくらなんでも凄い重要アイテムっぽいものを土産としてテキトーに配るのもな。

 しかし博士は俺達の申し出に首を横に振って、

 

「いえ、せっかくですが遠慮しておくです。話を聞く限り、お前達が持っていた方がよさそうなので」

「……博士、いいのですか? またとないチャンスですが」

「いいのです。色んなフレンズの手に渡るのはいいことですし、何よりほしければわれわれも取りに行けばいいだけなのです。われわれは飛べるので」

「確かに……」

 

 あ、もらうもんはもらうつもりなんだ。さすがは博士助手だな……。そこんところは図々しい。

 

「話は以上なのです。チーター、色々と助かりました。映画の貸しは返してもらいましたよ」

「いいってことさ。俺もあんまり借りを作りっぱなしにはしておきたくないしな」

 

 特に博士助手みたいな、頭のいいフレンズ相手には。

 

 ……さて、映画も撮ったし、充電もできたし、これ以上は此処にいてもお邪魔かな。

 

「じゃ、俺達はもう行くよ。じゃあな、博士と助手」

「ばいばいと思いますよー」

 

 俺達は手を振りながら、図書館を後にする。 

 

「もう行くのですか? お前達は使えるので、何かあったらまた来るですよ」

「われわれの方から呼ぶかもしれないので覚悟するですよ」

 

 相変わらずふてぶてしい博士と助手の声を背に、図書館を出たところで、俺は一旦足を止める。

 まだ話が終わってないヤツが一人いるからな。

 

 

「……それとプリンセス。ちょっと今から、いいか?」




次回、「監督じゃないが」。

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