畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一三話:宵闇の撮影準備

「まぁ落ち着けオーロックス」

 

 さながら殴り込み(というには経緯がちょっと不憫すぎるが)という感じのオーロックスと俺の間に、すぐさまライオンが割って入ってくれた。

 するとオーロックスも少しは落ち着いたのか、今度は話しかける対象をライオンに切り替えたようだった。

 

「でもな大将、聞いてくださいよ! こいつ、俺が話しかけたら話も聞かずにすぐ走ってどっか行っちまったんです」

「ああ、そうです。私も一緒にいましたけど、凄い速さで走って行っちゃいました。あんなに速いフレンズは初めて見たなぁ……」

 

 アラビアオリックス、ちょっと脱線してないか?

 

「お前たちの気持ちも分かるが、こいつ――チーターの気持ちも考えてやってくれ。いきなり武器を持ったフレンズに怖そうな声で声をかけられたら、びっくりするだろう」

「う……でも俺たち別にひどいことしようなんて思ってないぜ!」

「チーターからは分からないだろう?」

 

 心外そうに言っていたオーロックスだったが、ライオンがそう言うとハッとした表情になって、それからしゅん……と落ち込んでしまった。…………実際には『相手をするのが面倒だったから』とかいう酷すぎる理由だっただけに、そこまで落ち込まれると逆にこっちが申し訳なくなってくる。

 

「うう……そうだな。ごめん、悪かった」

「私からも、ごめん。ちょっとやりすぎたよ」

「いや……俺の方こそすまん。ちょっと、先を急いでたもんでな……」

「うむうむ。これで仲直りですね! 仲がいいのはいいことだと思いますよ!」

 

 なんでお前が総括するんだよ……と言いたいところだけど、今回チベスナはほんとに無関係だからな……。完全に俺のせいで起きたゴタゴタだし。今度からは、フレンズ相手ならとりあえず対話を試みよう。面倒くさいからって対話を放棄したら、あとあと凄い心が痛むって気付いたし。

 

「それで、先を急いでたってのはどうしたんだ?」

「そうだね、ここで何をしていたのかも気になるけど……」

「ああ……実はそこが繋がってるんだ」

 

 首を傾げるオーロックスとアラビアオリックスに、俺はさっとかいつまんで事情を話す。かくかくしかじか。

 

「おぉー……そっか、旅をするために、ちず? っていうのを探してたのか」

「見つかったみたいでよかったよ。おめでとう」

「ああ、ありがとう。ついでに色々と便利なものも手に入って…………ライオン、今更だけどこういうの勝手に持ってっちゃってよかったのか? お前の縄張りのものだけど……」

「全然構わん。よその縄張りのジャパリまんを食べてはいけないなんてルールはないだろう? 基本的に、パークのものはみんなのものだ。気にしなくていい」

「そういうことなら」

 

 ということで、俺は改めてトートバッグを自分のものにしたのだった。いや、断られてもなんとかもらうつもりだったけど、満場一致の方が後味いいからな。

 ……にしても、『よその縄張りのジャパリまんを食べてはいけないというルールはない』。なんか慣用句めいてるぞ。パークのものはみんなのものっていうのも、そういう精神が成り立つって地味に凄いことだなぁと思わされる。人間の社会じゃ絶対無理だからなそれ。

 

「つまり、ここのぬいぐるみは取り放題ということですね……? 全部チベスナさんのもの……」

「お前少しは遠慮しろよ! あと要求をさりげにレベルアップさせんな!」

「はっはっは……旅が終わったら、もともとの縄張りに持って行ってもいいぞ?」

「本当ですかっ!?」

 

 ライオンの言葉に、チベスナは喜色満面で食いつく。それ、多分俺も荷物持ちをやらされそうな……。…………いや、このへんで手打ちにしておけばこの場ではこれ以上駄々はこねられないだろうし、俺ものっかっておくか。もしかしてライオン、この流れに誘導してたとか……?

 

「(……にひ)」

 

 ……ウインクしてくるあたり、そうなんだろうなぁ。コイツほんとに……。

 

「それじゃ、二人が合流してきたところで、改めて売店の物色を再開するとしようか!」

 

 呆れるやら感心するやらな俺を横目に、ライオンはそう言って再開の音頭を取り始める。

 ヘラジカも凄かったが、ライオンも凄いよなぁ。……やはり群れのリーダーになるようなフレンズは、人間基準で見ても凄い――そういう一面を持っているのだろうか?

 

の の の の の の

 

へいげん

 

一三話:宵闇の撮影準備

 

の の の の の の

 

「……すっかり空が暗くなってきたなぁ」

 

 で、色々やってたら一日が経っていた。

 いやぁ、こればかりはしょうがないと思う。バックヤードへの扉に鍵がかかっていて、その鍵を探すのに手間取ったり、開けたら開けたで中に段ボールが入ってて本能と戦うハメになったり……。さすがに、リーダーのプライドがあるライオンと文明人の矜持がある俺は段ボールinは回避することができたが。

 ………………正直、気を緩めていたらやられていた。凄い魔力だよあれ。いったいどういう原理なんだろう……。

 

「チーター、いつまで段ボールを小脇に抱えているつもりですか? それ、邪魔だと思いますよ」

「……いいだろ。段ボールは万能素材なんだよ。何かに使うかもしれないだろ」

「チベスナさんのこと言えないと思いますよ……」

 

 分かってるよ。旅には持っていかないから。今日の寝床にするだけだから。ほんとだから。

 

「……それで、チーター。これから何をするの? もうすっかり夜だけどさ~」

 

 そう問いかけるのは、箱状態の段ボールの上に腰掛けたライオンだ。ライオンもまた、完全には段ボールの魔力から逃れられなかったらしい。今は周りに部下もいないから、多分放っておいたら段ボールをひっくり返して中に潜り込んでしまうだろう。

 

「ああ、実は試してみたいことがあってな」

 

 それはともかく、俺はそう言いながら、トートバッグからいくつかの道具を取り出してみる。

 

「実は、こんなものを見つけたんだ」

 

 俺が取り出したのは、手回し式の懐中電灯。バックヤードの中に入っていたものだ。売り物って感じではなかったので、おそらく防災時の備えとして取り付けられていたものだろう。

 

「これを使えば――夜でも撮影ができると思ってな」

「さつえい? ……ああ、昼間に言っていた、キミたちの旅の目的の一つね~」

「おまけな」

 

 目的は色んなところで色んな体験をすることだから。チベスナが勝手に目的にしようとしてるけど。

 

「俺達の持っているカメラにもライト機能と暗視機能はついているが、それだと流石に心もとないからな……。懐中電灯とこの傘を使えば、夜間撮影の照明にも使えるだろうし」

「よくわかんないですが、チーターはかんとくなのでえいがのことには詳しいと思いますよ」

「わたしもよく分かんないけど、面白そうだし協力しよっか~?」

「実は、それを頼もうと思ってた。色々と準備もあるんでな。仲間を呼んでもらえるか?」

「それくらいならお安い御用だよ~」

 

 にこやかに了承すると、ライオンはすっ……と一瞬だけ目を瞑り、そして開く。目を開いた頃には先ほどまでの和やかな気配は消えていて、刃物のように鋭い眼光がその瞳に宿っていた。

 

「――――全員、集合しろ!!」

「はい、大将!」

 

 一拍。

 城内に響き渡るかというくらいの声が響き渡ると、軽快な足音と共に三人のフレンズがすぐに集まってきた。

 

「それではチーター、説明してくれ」

「おう」

 

 俺は頷くと、ライオンの横に立って三人のフレンズに向き直る。……遅れて、チベスナも同じように俺の横に立った。お前特に喋ることないんだけど、なんでそんな無駄に偉そうな表情してるんだ……?

 

「昼間にも話したと思うが、俺達は旅をするついでに……チベスナそんな目で見てもついではついでだ。……ついでに! 撮影をしているんだ。それで、此処でも撮影しようと思う。ただ、せっかくフレンズがこんなに大勢いるわけだし、二人でやるのも味気ない……。そこでだ。みんなで撮影をしようと思うんだが、協力してくれないか?」

「おう、いいぞ!」

「面白そうだね、やってみよう」

「いや~、わたしもさつえい、やってみたかったんだ」

 

 面白いくらいに二つ返事。

 まぁ、フレンズがこの手の申し出を断るパターンって、恥ずかしいとかできる気がしないとかって感じ以外に想像できないしな……。

 

「ありがとう。俺はこれから脚本の仕上げをするから、その間にこれから言うものを準備しておいてもらえるか?」

「任せろ! 俺らはパワーが強いからな、どんなモンだって持ってきてやるぜ!」

 

 胸をどんと叩くオーロックスと一緒に、アラビアオリックスとツキノワグマも頷く。うんうん、別に力仕事ではないけど頼もしいな。よろしく頼む。

 

「ところで、チベスナさんは何かやることがありますか?」

「お前は台本覚えるのに集中な」

 

 なんで一番経験豊富なはずなのに一番覚えが悪いんだろうな、お前……。

 

の の の の の の

 

 そういうわけでチーターと別れたライオン組は、チーターから言われた『あるもの』の準備に取り掛かる。

 

「にしても、段ボールで『斧』を作るって……こんなの簡単だと思うけどなぁ。完成予想図のメモももらったし」

「チーターが言うには、『こどうぐ』の出来が作品の出来を左右するとかなんとか……流石チベスナがかんとくって言って褒めているだけのことはあるね」

 

 オーロックスとアラビアオリックスは、口々にそんなことを言う。

 チーターからライオン組に作るよう言い渡された『あるもの』とは、小道具だった。ちなみに斧の他にも『伝説の聖剣エクスカリバー』とかも作るよう命じられているが、そっちはライオンとツキノワグマの仕事なのだった。

 作り方も説明されていて、段ボールを『カッター』で切って、それに『マジック』で色塗りするとかなんとか。材料の場所も教えられていたので、二人はこんな簡単な作業すぐに終わってしまう……と高をくくっていた。ちなみにチーターも『いざとなればカッターじゃなくてフレンズの技で切断とかできるだろうし、そこまで難しくないだろ』みたいに高をくくっていた。

 の、だが……。

 

「……なんだ? これ、うまくいかないぞ??」

「この、カッターという道具……き、切り口が、かくかくしてしまって……メモの絵の通りに切れないな……!」

 

 案の定、二人は慣れない作業に悪戦苦闘していた。

 そう、チーターは迂闊にも、フレンズの手先が不器用であるという事実を失念していたのだ。いや、あるいはその()()を甘く見ていたとでも言うべきか。

 

「ぐぬぬぬぬ……ぬあー! なんで俺がこんな斧一つ作れねぇーんだ!?」

「オーロックス、落ち着こう。何かコツがあるのかもしれない…………それを見極めるんだ」

 

 たまらず頭を掻き毟るオーロックスに冷静に言うアラビアオリックスだったが、そのアラビアオリックスもカッターを全部出して剣のように構えだしてしまったので、なんかもう本当に迷走中という感じなのだった。

 

「はぁぁぁ…………! よし! オーロックス! いける気がする! 段ボールをこっちに投げてくれ!」

 

 剣のように構えてカッターを持ったアラビアオリックスが、オーロックスに言う。その手からは心なしか光の粒子――けものプラズムが漂っているようですらあった――こんなお遊びに本気出しすぎである。

 

「おう! 任せろ!」

 

 ともあれ、お遊びでも全力投球がフレンズのいいところでもある。勢いよく答えたオーロックスはそのまま段ボールを放り投げ――――、

 

 ズパンッッッ!!

 

 と。

 粒子を帯びたカッターナイフが、光の筋を薄暗い虚空に描き出した。

 

「お、おぉ…………」

「す、すげぇ……!!」

 

 結果。

 段ボールは、空中で真っ二つになっていた。

 いや、それだけではない――余波なのか、地面にまで切れ込みが入っていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にも拘わらず、だ。

 

「カッター、すごい。すごいぞ……!」

「強すぎるぜ、カッター……! まさかチーターはこのことを俺達に教えようとしてたんじゃねぇか…………!?」

 

 ともあれ、撮影準備は絶賛迷走中だった。

 

の の の の の の

 

「……うんまぁ、全くその通りに行くとは思ってなかったけどな」

 

 そう言って、俺は目の前の惨状を直視する。

 ライオン・ツキノワグマ組の方はそこそこ上手く行っていた。なんでも手先の器用なツキノワグマが主体になってやってくれたらしく、わりといい感じの――もちろん作り物と一瞬で分かるレベルではあるが――大剣を作ってくれた。俺も慣れてないのでまだあんまりきれいな絵が描けなかったというのに、よくやったと思う。

 ただ、オーロックス・アラビアオリックス組が問題だった。

 意気揚々と俺のところに戻ってきた二人は、バラバラの段ボール片とカッターを俺の方に突き付けて、『分かったぞチーター! カッター、すごいな!!』と満面の笑みで返してきた。俺はうん、そうだね……としか言えなかったよ。なんで小道具作ってって言ったらカッター凄いねって結論が出てくるんだ。やっぱりフレンズはよく分からん。

 

「何かおかしかったか?」

「おかしいも何も、斧作れって言ったんだよ俺は! なんで得物がカッターナイフになってるんだ!」

「でも、かなり凄かったんだよ? こう、刃を全部だして力を込めると……すごい切れ味になるんだ」

「力を込めると、って……」

 

 …………え? そっちにも光を帯びさせられるの? 知らんかった……。…………いや、そういえばアニメでヘラジカとかライオンとかが巻物で同じようなことやってたっけ。ってことは、フレンズは自分が出したものでなくても力を込められるわけか……。…………あとで練習しよ。

 

「…………違う違う! 危うく脱線するところだった。……まぁ、いいか。二人も頑張ってくれたんだろうし。今回はせっかく道具があるんだからと思ってフレンズの武器は禁止するつもりだったんだけど……しょうがない。あとでオーロックスの槍を貸してくれ」

「いいけど……何に使うんだ?」

「ちょっとな」

「あ! わたしのハンマー貸してあげよっか?」

「お前のそれ、ハンマーだったの!? …………ああいや、お前のはいらん」

 

 あまりにも見た目がファンシーすぎるからな。

 ……しょげるな。別にお前の武器が悪いって言ってるわけじゃないから。かわいいと思うよそれ。ハンマーじゃなくて熊手だと思ってたけど。クマの手だし。

 

「――それで。脚本の方は、完成したのか?」

 

 じろり、と。

 話題を変えるようにして、ライオンがこちらの方を見る。うむ、そっちだよな。

 

「安心しろ、完成した。ちなみに、今回は初めて『タイトル』を用意してみた!」

「たいとる?」

 

 俺の言葉に、ほかのフレンズが首を傾げる。

 チベスナだけは、『その手があったか――!!』という感じで目を見開いているが。よかった、流石のチベスナも映画館でいろんな映画を見てきただけあって、タイトルの概念は知っていたか。

 

「ああ、タイトルというのは、作品の名前のようなものだ。これがあると、どの作品のことを言っているのか分かりやすくなるばかりか、タイトルと作品内容の関連性によってより作品内容が奥深くなったりも……」

「チーター、チベスナさんにも分かる言葉で説明したらいいと思いますよ」

「……要するに、タイトルがつくと作品がより面白くなるってことだ」

 

 まぁ、ダメなタイトルもあるけどな。作品内容と全く関係がないとか、作品内容を誤解させるようなタイトルとか……。

 

「なるほど。それで、そのタイトルというのは? さっさと説明するといいと思いますよ」

「分かった分かった」

 

 目をキラキラさせながら急かすチベスナを宥めつつ、俺は一呼吸置く。

 記念すべき初の題名付作品。そのタイトルは――。

 

「『ジャパリ大河物語』だ!」

 

 今回、大河ドラマ風味にしてみようと思います。前世じゃ大河ドラマ見たことなかったけど。


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