畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一三九話:今再びの湖畔 ・

 さて、その後の俺達だが。

 

 プレーリーには、川づくりのためのアドバイスをもらいに行くので適当に石を掘り出しまくっておいて──と指示した俺は、そのままチベスナをプレーリーに付き添わせて湖畔方面へと進んでいた。

 これから俺はビーバーに会いに行って川づくりのアドバイスとかを聞きに行くわけだが、そういう知識面での話にあの二人を混ぜるとたぶん話が進まなくなっちゃうからな。

 

 あと、この時点でプレーリーとビーバーを出会わせてもあんまりいいことなさそうというのが少し。

 いや、確かにアニメだとプレーリーとビーバーはナイスコンビネーションを発揮できた。でも、アレってわりとかばんとサーバルの仲介あってこそだと思うのだ。だってプレーリーは基本話を聞かないし、ビーバーは話下手だし。

 ちょっとシミュレーションしてみたが、俺ではチベスナをさばきながらプレーリーとビーバーのコンビネーションを上手く形にさせるのはできなさそうだなという結論に落ち着いた。

 

 それで変に二人が気まずくなっても悪いし……。なので、ビーバーとプレーリーの住居事情はいずれ来るであろうかばんに丸投げすることにしたのだ。

 結局穴に支柱をつける作戦も微妙に失敗しちゃったしな。こっちはまた後でチャレンジするが。

 

 チベスナも置いていったのは、プレーリー一人に作業を任せると思わぬ方向に事態が転がりかねないと思ったからである。

 そういう意味ではチベスナも大概だが、アイツの場合は俺が今何をしたいのかも分かってるし、最低限の指示役にはなってくれるはずである。……多分。流石に…………できると思う。きっと。*1

 

 

「さて……湖畔はどのへんだったかな、と」

 

 

 今日は旅をするつもりで外出したわけじゃないので、地図を持ってきていない。

 なので初めて湖畔に来たときのように進むべき道が分かっているわけじゃないが……一方で、俺自身のスキルも初めて湖畔に来た時とはくらべものにならないくらい成長している。

 

 つまりどういうことかというと。

 

 

 ──よっと。

 

 

 適当な木を見繕った俺は、軽く足に力を込めて地面を蹴る。

 チーターはあまりジャンプ力の高い動物ではないが、それでもすいと俺の身体は空中に飛び出した。

 あとは両手で太そうな木の枝を掴み、そして腕の力でそのまま枝の上へとのぼる。

 

 フレンズになりたての頃は木に登るのにも四苦八苦していたものだが……ま、旅をしている間、何度となく枝の上でハンモックを作ったりしてたからな。この程度の木登りはもはやお手の物である。

 

 で、そのまま懸垂の要領で枝を登っていけば──あっという間に木の上に顔を出し、あたり一面を一望することができる。

 

 えーと、湖畔は…………あのあたりか。意外と近かったな。

 ……お? あそこにいるのはビーバー。灰褐色の短い髪に黒いチューブトップのようなインナー、焦茶のジャケット、ホットパンツに黒のスパッツという出で立ちは記憶と変わりない。

 ……懐かしいな。こうして形は違えど俺が木の上に登ってからビーバーと出会うっていうのはあの日の焼き直しのように思える。

 

 

「おーい! ビーバー! 元気してたかー?」

 

「……はっ!? どこッスか!? 誰ッスか!? セルリアン!?」

 

 

 …………ビックリさせてしまったのも同じだが……。

 

 

 

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一三九話:今再びの湖畔

 

 

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「久しぶり。いやーすまんすまん。驚かせるつもりはなかったんだが」

 

 

 言いながら、俺は木から飛び降りてビーバーのところまで歩み寄る。

 そのころにはビーバーも俺の姿を認め、だいぶ落ち着きを取り戻していた。取り乱していたビーバーは少し恥ずかしそうに頬を掻きながら、

 

 

「お、お久しぶりッス、チーターさん。お元気だったッスか? あ、それとあのソリの設計図は……」

 

「ああ。ソリはあの後しばらくしてから作った。今もシアターに保管してあるよ」

 

 

 俺がそう答えると、ビーバーはほっと胸を撫で下ろしていた。どうやら何だかんだで上手くいっているかどうか心配だったらしい。

 俺はそんなビーバーを安心させるように、さらに続ける。

 

 

「お陰で助かった。道中、やっぱり色々と荷物が増えてな。アレがなかったらどうなっていたことか……」

 

「え、えへへ……。そう言ってもらえると、ほっとするッス……。俺っち、あれからずっと心配で……ひょっとしたら設計ミスでチーターさんとチベスナさんに迷惑かけたらどうしようって……」

 

「ずっと!?」

 

 

 あれからずっとか!? ビーバーの心配性を舐めていた……。これ、ビーバーにはもうちょっと自信をつけさせないといけない気がしてきたな。これだけ凄い能力があるんだから、もう少し胸を張って生きてたってバチは当たらないだろ。

 

 

「そうだビーバー。実は今日は折り入って頼みがあってな……」

 

「頼みッスか? おれっちにできることだったら、協力するッスよ〜」

 

「実はシアターの前まで川を引きたいんだ」

 

「えっ……」

 

 

 あっビーバーの表情が一気に不安げに……。まぁそうだよな。いきなり川を作るとか言い出したら誰だってビビると思う。俺だってビビるし。

 というわけで、まずは事情説明から。

 

「実は……というほどでもないんだが、ジャパリシアターの周辺って水場がないじゃんか」

 

「そうなんスか?」

 

「ああ。だからいつも俺は水筒を持ってチベスナと近くの川まで水を汲みに行くんだが、流石に数日おきに行くのが面倒になってな。家の近くに川ができれば便利だなあと思って」

 

 

 俺の言葉に、ビーバーはただ感心しているようだった。フレンズは基本的にそういうこと――つまり環境の意図的な整備――はしないというのもあると思うが、ビーバーの場合おそらく規模の大きさだろうな。

 ビーバーはそういう大きなことをするの苦手だろうし。

 

 

「ただ、恥ずかしながら俺もチベスナも陸のけものだ。川の扱いとかはよく分からなくてな。できればビーバーにはそういうのを教えて欲しいんだが」

 

「教えるだけでいいんスか?」

 

「ああ。掘るべき深さとか、傾斜とか……メモ持ってきたから、簡単なメモでいいから教えてくれよ」

 

 胸ポケットからメモ帳を取り出しながら、ビーバーに頼む。対するビーバーは何やらむず痒そうな表情をしていたが、やがてぱっと顔を明るくして、こう言ってくれた。

 

「それでよければ! もちろんッス!」

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「チーターさんとお話してると、なんだか照れくさくなるッス」

 

 快諾の後、『教えるのはいいけど此処は落ち着かないから場所を移していいッスか?』と言うビーバーに付き従って、俺は湖畔まで移動していた。

 にしても……照れくさい?

 

 

「ほら、おれっちってこういう性格なので……誰かに頼りにされたりとか、チーターさん以外にしてもらったことなくて」

 

 あ〜……そういえばそうか。

 俺はアニメでのビーバーの無法とも言える有能っぷりを見てるのでコイツの能力がいかに有能か分かってるから、その手腕には全幅の信頼をおけるが……そうでないフレンズにとっては、ビーバーって普通の気弱なフレンズだもんな。

 

「だからチーターさんにこうやって色々と頼りにしてもらうと、なんだか……どう言えばいいのか分からなくなるッス」

 

「いやだったか?」

 

「そそそそんなこと! あぁぁぁ嫌な気分にさせちゃったかもしれないッス……」

 

「単純な疑問だから気にすんな」

 

 

 勝手に頭を抱え出すビーバーを宥めつつ、

 

 

「ビーバーはもうちょい自分に自信を持つべきだと思うんだよな」

 

 

 フレンズって大概自分に対して無根拠な自信を持ってるもんだが*2、ビーバーは珍しくそういうのないからな。

 心配性な性格が災いしてるのかもしれないけど、そういうのって生きづらいと思うし、やっぱ傍から見て滑稽だったとしても、ある程度自分を無条件に肯定する気持ちは持っておいた方がいいと思うのだ。

 言うは易しの典型だとも思うけど。

 

 

「自信……ッスか?」

 

「そそ。少なくとも此処に、お前に助けられて、今もお前を頼りにしてるヤツがいるんだしな」

 

 

 いやほんと、近場にビーバーがいて本当によかったと思うよ。

 平原地方にはビーバーもライオンもヘラジカもいるし、ちょっと歩けば博士と助手もいる。わりと人材的には恵まれてると思う。

 平たいから暮らしやすいしな。平地大事。

 

 

「自信……自信っスか」

 

 

 そんな俺の励ましに、ビーバーは神妙な面持ちで頷いていた。

 どうやらちょっとは響いてくれたようで何よりである。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「戻ってきたぞー」

 

「おっ、早かったと思いますよ!」

 

「おかえりなさいであります!」

 

 

 結局、相談自体はあっさり終わった。

 まぁ、聞くべきことって言っても石の厚みはどうするかとか、水路の深さや広さや形状はどうするかとか、長さはどれくらいかとか、傾斜はどのくらいがいいかとか、そういう話だけだからな。

 メモ帳三ページ分くらいの話を聞いて(チーターは耳がいいし素早いのでメモをとるのがめちゃくちゃ楽だった)、それで終わりである。

 ……あ、そういえばお土産渡すの忘れてたな。また今度会った時にでも渡そう。

 

 

「色々と有意義な話が聞けたよ」

 

「ビーバーは元気してたと思いますよ?」

 

「ああ。前と同じようにしてたよ。湖畔の端っこの方に茂みを積み重ねた巣を作ってた」

 

「お! 巣、できてたんだと思いますよ!? よかったと思いますよ」

 

「仮住まいらしいけどな」

 

 

 なんでも、これじゃあしっくりこないらしい。まぁ最終的にログハウスを作るビーバーからすれば、木枝を積み重ねただけの住居はいかにも物足りないだろう。

 そのへんは俺にはどうしようもない部分だが。

 

 

「で、お前らの進捗はどうだった?」

 

 

 何の気なしに、俺は進捗報告を聞くつもりで二人に問いかける。するとプレーリーとチベスナは互いに顔を見合わせて、それから思い出したように不安げな表情になった。

 お? なんだなんだ? 不穏な感じだな?

 

 

「どした?」

 

 

 俺はチベスナの表情でだいたい何があったかわかるのだが、この感じは別にチベスナやプレーリーがとちったというわけではなさそうだ。もしそうならもっと耳が申し訳ない感じになってるからな。

 表情から察するに、作業中によく分からないものに遭遇して対応に困ってる、と言ったところだろうか。

 岩盤にでもぶつかったかな――と呑気に構えていた俺に、チベスナは眉を八の字にしながらこんなことを言ってきた。

 

 

「チーター…………チベスナさんは『いせき』をはっくつしてしまったと思いますよ」

 

 

 

 …………ほわっつ???

*1
言ってて自信がなくなってきた様子。

*2
この点はチーターも人のことを言えない。





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◆支援イラストのご紹介◆
柴猫侍様よりいただきました!
ドット絵風の可愛らしいチーターとチベスナです。
二人の旅路も自由度の高いRPGっぽいところがあるので、けっこうお似合いかも。

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