畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

151 / 161
話数が膨大すぎて過去の伏線を探すだけで一苦労だったりします。


一五一話:霊長の資格 ・

「故郷と思いますよ? ジャイアントペンギン、実は石のフレンズですか?」

 

「いや、アイツは化石って言ってだな、もとは向こうで展示されてた骨とかと……、……ん? 待てよ」

 

 

 首を傾げるチベスナに、いつものようにツッコミを入れようとして──俺も、遅れ馳せながら違和感に気付く。

 そういえば、そうだ。此処は確かに化石が多く展示された博物館だが、ジャイアントペンギンはそこを故郷とは一言も言わなかった。もしジャイアントペンギンが化石として展示されていたフレンズなのだとしたら、博物館に入った時点でそう言っているはずだろう。

 それに、俺には覚えがあった。

 

 

「化石博物館で展示されていたから。どうだ?」

 

「おお! なかなかすごい知識量。やっぱお前変わってるな……」

 

「でも残念。そうじゃーないんだなー。まぁイジワル問題だし正解ってことにしといてやろう」

 

 

 前回出会った時。*1

 ジャイアントペンギンは『化石博物館で展示されていた』と出自を推理した俺に、『残念』『イジワル問題だし正解ってことにする』といった趣旨の返答をしていた。

 何故正解じゃないのか。何が『イジワル問題』なのか。その時はいまいちピンと来なかったが……今なら分かる。

 

 

「…………絶滅動物のフレンズ化、その研究、か……」

 

「大当たり。流石に分かるよな」

 

 

 そこはかとなく微妙な気持ちになりながら呟いた俺に、ジャイアントペンギンはいっそ肩透かしを食うほどあっけらかんと返してくれた。……気を遣われてるなぁこれは。

 いやね? 別に何が悪いってわけでもないんだが……なんかこう、科学の為に終わった命を利用するって、なんとなく気持ちのいいものじゃないんだよな。

 人間のエゴとか言うつもりは毛頭ないんだが(そこまでモラリストじゃないし)、いざ目の前に『その実験対象だった存在』がいるとさ、気後れするところがあるじゃん。

 そのへんの機微を感じ取ったジャイアントペンギンは、先んじて俺のことを気遣ってくれたんだと思うけども。

 

 

「なんですかなんですか? 二人とも、チベスナさんにも分かるように説明するといいと思いますよ」

 

「フレンズになるのは、全くの偶然だけとは限らないってこと」

 

 

 当然の帰結ではあるんだけどな。

 だって、サンドスターって空から降ってきて、触れることでフレンズ化が発生するんだし。

 化石なんて地中に埋まっているものだし、まして海底火山の活動によってできた*2土壌に埋まっている化石なんてよくて貝殻程度だろう。

 ジャイアントペンギンなんて生物の化石は、当然ながら人間が持ち出さないと存在しえないし──人間が持ち出した化石は屋内で厳重に保管されているはずだから、自然にサンドスターに接触する機会は絶無に近い。

 

 それに、俺は既に人間がサンドスターを運用しようとした結果を既に見てるしな。このアクセサリーで。

 

 

「ジャイアントペンギンは、ヒトが意図的に作り出したフレンズなんだよ」

 

 

 作り出したって言うとちょっと語弊があるけども。

 『化石博物館で展示されていたから』が正解じゃないのは、『そこで行われていた研究の結果フレンズ化した』から。

 イジワル問題なのは、『化石博物館というのは外向けのカモフラージュで、実際にはフレンズ化を研究する研究施設でもあった』という実態を説明していなかったから。

 そう考えると、ジャイアントペンギンのあの時の言動にはとても納得がいく。

 

 

「はぇー、ヒトって凄いと思いますよ。チーターはそれ知らなかったんです?」

 

「知るわけないだろ! 今こうして教えてもらうまで考えてもみなかったよ!」

 

「にっしし。そうだろうなぁ。絶滅動物のフレンズはともかく、わたし達みたいな()()()()()()()()()は一般の従業員には存在も伏せられてたし。チーターは知らなかったろうな」

 

 

 あ、そうなんだ。

 ひとくちに従業員って言ってもなんかそういう情報格差とかあるのね……。もしかしてミライさんってめちゃくちゃ凄い人だったのかな?

 

 

「ってなわけで、お前らの持ってる『アクセサリ』について説明するなら、サンドスターを研究する施設でもあるこの区画に案内するのが一番だろーってわけだ。……このへんはセルリアンもフレンズもわたし以外は来ないからなー」

 

 

 内緒話には最適ってわけだ。

 

 ……そりゃ、内緒話にもしたくなるってものだろう。

 何せ、博士助手の推測が正しいなら……このアクセサリは、まさしく福音だ。*3

 もしもジャイアントペンギンが俺達にこのアクセサリの『使い方』を教えたいのであれば、周りにセルリアンは当然いちゃいけないし、情報の重要度を考えるとなるべくフレンズにもいてほしくないだろう。

 

 ジャイアントペンギンの本音で言えば、チベスナも席を外しておいてほしいくらいかもしれない。

 何せ、対セルリアンの切り札だからな。いくらたくさんアクセサリがあるって言っても数が限られてる以上、リソースは俺やジャイアントペンギンみたいな限られたフレンズで管理しておいた方がいいに決まってる。

 そうしないのは、ジャイアントペンギンから俺達に対する敬意みたいなものなんだろう。

 

 

「チーター、大丈夫と思いますよ? なんか緊張してそうな耳ですけど」

 

 

 …………消してえっ!!*4

 

 あ、ガラにもなく責任感めいたものを感じてちょっと緊張してたが、それはなんかいつの間にか直っていた。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

なわばり

 

 

一五一話:霊長の資格

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「しかし、アクセサリの真の価値、ね……」

 

 

 ジャイアントペンギンに連れられて、鉱石コーナーを歩きつつ。

 俺は舌の上で転がすように、しみじみと呟いていた。

 

 

「正直、なんとなく想像はつくけどな。博士から話は聞いたし」

 

「お、『おたからはフレンズに力をもたらす』って噂のことだろ?」

 

 

 まぁな。というか、多分今回の件って本当にそのままだろ? アクセサリには正真正銘フレンズに力をもたらす作用があって、ジャイアントペンギンはそれの使い方を知ってるんだろうさ。

 だから、これからジャイアントペンギンは俺達にその使い方を教えてくれる。そう考えるのが自然な流れってもんだ。

 

 

「でもなー、それってはかせ達の勘違いなんだよな」

 

「…………えっ?」

 

 

 そこで俺は、思わずそのまま問い返してしまった。

 ……勘違い? いや、確かに博士達は色々勘違いとかニュアンスの違う覚え方をしてるとかあると思うが、にしたって『フレンズに力をもたらす』が勘違い……?

 

 

「どういうことだと思いますよ? チベスナさんは、このアクセサリはすごいものだと思ってましたが……意外とすごくないと思いますよ? チーターみたいですね」

 

「おいコラ」

 

 

 一言余計だったチベスナをぐりぐりしつつ、

 

 

「……セルリアンにだけダメージを与える何かが出せるとか、そういうことか?」

 

「んーにゃ。……とゆーか、説明が悪かったなー。ま、簡潔に説明すると、だ……」

 

 

 言いながら、ジャイアントペンギンは何の変哲もない壁の目の前で立ち止まった。

 無地に見える壁にジャイアントペンギンが手をかざすと──ギィ、と、古びた音を立てて壁が動き、奥への通路が現れる。

 

 

「いたいたいたた……あ! チーター! ひみつつうろだと思いますよ! 手を放すといいと思いますよ!」

 

「反省の色なしだなお前」

 

 

 まぁ放すけど。

 

 

「……もう話していい?」

 

「あっごめん」

 

 

 チベスナへのお仕置きを解除すると、ジャイアントペンギンはそのまま隠し通路へと入っていく。

 俺とチベスナも、その小さな背中を追って通路へと入っていった。

 ジャイアントペンギンはずんずんと先へ進みながら、

 

 

「『アクセサリ』がフレンズに力を与えるのは本当だ」

 

「勘違いじゃないじゃんと思いますよ」

 

「チベスナ」

 

 

 まぜっかえすな。話は最後まで聞きなさい。

 

 

「まぁそう言うなって。わたし的には重要なとこなんだなーこれが」

 

「『力をもたらす』じゃなくて『力を与える』ってとこがか?」

 

「……するどいな」

 

 

 さらっと聞き返すと、ジャイアントペンギンは感心したように呟いた。

 

 

「そ。アクセサリは、持ったものに無条件で力を与えてくれるような便利な代物じゃない。力を与えるには、それ相応の条件ってものがあるのさ」

 

 

 ジャイアントペンギンがそこまで言ったところで、通路が終わった。まだ部屋に入ったわけじゃないが、身長の関係で、ジャイアントペンギンの頭越しにその全貌が俺にも見えた。

 

 そこは、意外にも雑然とした仕事部屋のような風体だった。

 最新機器が所狭しと並んでいるスマートな『施設』というよりは、色んな資料が所狭しと収納されている『倉庫』といった方がいいかもしれない。

 まぁ、収納されているというには机やら床やらに色々散らばりすぎてるんだが。……ジャイアントペンギン、片付けとかしないのか?

 

 

「やー、すまんな。散らかってて。ちょっとお前達が来る前に資料漁りをしててなー」

 

「気にしないでいいと思いますよ。ウチも似たようなものだと思いますよ」

 

「は?」

 

 

 いや、綺麗なんだが? ちゃんと片付いているんだが??? こんな資料が散らばった、これ以上ない散らかり具合よりは全然マシなんだが?????

 

 

「ち、チーター、ごめんなさいと思いますよ。だから耳を……耳を鎮めるといいと思いますよ」

 

「耳に気圧されてんじゃねぇよ!!」

 

 

 くっ、珍しくチベスナを押す方向で作用したが……やっぱ消したい、この耳!!*5

 

 

「……で。わざわざこんなほかに誰も聞き耳を立てようのない場所まで連れてきたんだ。いい加減教えてくれよ。『力を与える』っていう作用について」

 

「ああ。お前達の持ってるアクセサリが、フレンズに力をもたらす『条件』。……ま、これを見てくれれば分かると思うが」

 

 

 そう言って、ジャイアントペンギンは机の上から一枚の写真をつまみ上げた。

 そこには──赤と青の羽飾りをつけた、白い帽子をかぶった女性の姿が。

 いや、それだけじゃない。その女性は淡く光るアクセサリを掲げ、その光を一人のフレンズに浴びせていた。

 

 

「……これ、誰だと思いますよ?」

 

「…………ミライさん?」

 

 

 うわっ……これミライさんじゃん。ま、まさかこんなところで見かけるとは……いずれラッキーの音声メモかなんかで見ることはあるかもって思ってたけど、こんな場所で初めて見ることになるとは……。

 ……あ。

 

 

「チーター? このヒト知り合いだったと思いますよ?」

 

 

 しまった。うっかり声に出してしまった。

 チベスナが心配そうな顔してる。*6

 

 

「ん、まぁ……一方的に知ってるってだけだ。うん。そんな知ってる人じゃないから」

 

「だろーなー。ミライはああ見えて有名人だったからな……。一般の従業員にもけっこう人気あったみたいだし」

 

 

 ジャイアントペンギンはどこか誇らしげに笑いながら、

 

 

「ただまぁ、ここで重要なのはミライの存在じゃーない。『ヒトがアクセサリを持っている』って部分だなー」

 

「………………まさか」

 

 

 ここに『俺』を連れてきたのって……そういうことなのか?

 

 

「そうだ」

 

 

 ジャイアントペンギンは適当に写真を机の上に戻し、そして今度は俺の瞳をぐっと見据えて、こう切り出す。

 その瞳には、何か燃えるような輝きがあった、ような気がした。

 

 

()()()()()()()()()()()使()()()()

*1
上記のやりとりは九七話参照。

*2
ジャパリパークは火山活動によってできた島の上にできた総合動物園。チーターもこのへんはまだ覚えている。

*3
アクセサリにはフレンズに力を与えるという噂がある。一二九話参照。

*4
消せる。

*5
消せる。

*6
前世の知り合いを見つけて寂しい思いをしてるんじゃないかと考えているのかもしれない。




◆支援イラスト◆

【挿絵表示】

丸焼きどらごんさんより。二周年記念ということでいただきました!
凛々しい表情なのに可愛らしいチーターがすごいと思いますよ。
あとミニなチベスナさんがすっかりマスコットの風格だと思いますよ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。