今回シリーズのサブタイは黄昏縛りで行く予定。(治水編の大蛇縛りみたいなもの)
「チーター、わたし達の歌と踊り……どうだった?」
チベスナに一旦音楽を止めさせたプリンセスは、同じくカメラを止めていた俺に向けて開口一番問いかけてきた。
どう……って言ってもなあ。
確かにお世辞にもよかったとは言えないが、かといってそれをそのまま言うのも憚られるよな……。
何せ、フレンズ達はそもそも歌も踊りも、その概念すらない段階から始めているのだ。
それなのに歌も踊りも知っている、現代日本のアイドル文化に(まぁそこまで興味があるわけじゃなかったが……)親しんだ土台の上から評価するのって……なんか違くないか?
批評とか修正点は段階を踏んで進歩していくべきであって、いきなり高度なことを言っても何かが歪んでしまうというかな……。
「んー……そうだなー……。まぁ、初めてにしてはよかったと思うぞ?」
なので俺は、とりあえず頭に浮かんだことはのちのち伝えることにして、とりあえず現段階、フレンズ基準で見たときの評価を伝える。
確かに色々と粗はあったが、それでも途中で音楽を止めるまで曲がりなりにも形にはなっていたんだ。おそらく通しでやるのは初めてだろうに、そこは評価してもいいと思う。
そういう意味を込めての言葉だったが、横槍は意外なところから飛んできた。
「えー、そうだと思いますよ? チベスナさんはダメダメだったと思いますよ」
「チベスナぁ!!」
お前なぁ、お前なぁ……! 確かにお前はヒトの映画とか見てるからこういうエンタメ方面にはだいぶ肥えた目を持っておろうが……、
「しんりんちほーで見たらいぶの映像は、もっとすごかったと思いますよ」
…………あー、そういえば見てたね、ライブ映像……。
「でもさぁ、チベスナ。コイツら今回が初めてなわけだしもっとこう、」
「チーター」
手心をさ……と純粋ゆえ融通のきかないチベスナを宥めるように言っていた俺に、さらにプリンセスが横槍を入れる。
ふとそっちの方を見ると、プリンセスはとても真剣な表情で、俺のことを見ていた。
「──わたし達の歌と踊り、どうだった?」
……………………。
「………………ダメダメ、だった」
俺は素直に、思ったことを口にした。
「まず、イワビーだけどな。歌詞を覚えられてないのは、別にいいんだ」
──そういうわけで、俺はプリンセスの気迫におされて真面目なヒト基準の講評を行っていた。
「いいんだ!?」
俺の講評にイワビーが目を丸くして驚くが──そう、そこは別にいいのだ。
「もちろん、合唱パートとかで間違えるのはアレだけどな。でも、ソロパートなら歌詞が乱れて変な感じになることもないし。それよりも問題なのは、言葉に詰まって歌が途切れてしまうことなんだ」
「別にだからどうということでもないと思いますよ? あとで編集でカットだと思いますよ」
「映画じゃねぇんだよ」
あと編集でカットは今俺達がやってることでしょ。*1
「っつーかな、歌詞が間違ってても、ライブで盛り上がってればとりあえずノリでうおーって乗り切れるんだよ。そこで『プッ歌詞間違ってら』って思うようなヤツはライブ来ないから。でも、『あっ歌詞忘れた……』って止まったら、他のメンバーにも動揺が広がるだろ?」
「確かに……」
頷いたのはコウテイだ。気の小さいコウテイはなおのことだろう。
「だから、歌詞は間違えてもいいから思い切って歌ってしまえばいい。最悪鼻歌でフンフフーンみたいな感じでもまぁいいから」
「いいのか?」
「詰まっちゃうよりはな」
もちろん最終的には歌詞をちゃんと覚えておくのが前提だけどな。
で、歌詞をちゃんと覚えておくのが前提と言えば──
「ジェーン。……これプリンセスからもらった歌詞カードと見比べてみたら、お前歌詞間違ってない?」
「えっ!? 本当ですか!?」
ジェーンに指摘してみると、当人は思ってもいなかったのか、意外そうな声で驚かれた。
まぁ俺も歌詞カードがなければ気付かなかったけどさ……。
「で、でも歌詞が間違ってても、堂々と歌えてればいいんですよね……?」
「『詰まるよりは』な。でも、覚えとくことに越したことはないだろ」
それに、ジェーンはジェーンで問題があるのである。
「最初の挨拶。お前、プリンセスに教えてもらうまで出番来たことに気付いてなかったろ?」
そう。歌詞が抜けてるだけなら、まぁそういうこともあるで済む。だが、最初の挨拶の時の失態と合わせて考えると、またちょっと話が変わってくるのだ。
「ジェーンは……段取りが頭に入ってなさすぎる!」
「なっ!」
ガーン! といった調子で、ジェーンが身を強張らせる。
……まぁ言ってもそこまで深刻ではないんだが、挨拶の順番も歌詞も、しっかり段取りを覚えてれば間違えないからね。
他はマイペースながらも一応順番が来たら動けていたことを考えると、そこは特に直しておくべき部分だろう。
「で、次にコウテイか」
「うっ……」
呼ばれたコウテイは、あからさまにびくりと体を震わせる。そういうところがなぁ……。
「コウテイはだな……声が小さすぎる」
「うっ!」
「自信がないのが見て取れるのもよくない。コウテイはPPPの中でも一番背が高いだろ? だからそんなお前が縮こまった動きをしてしまうと、凄く目立つんだよ。むしろPPPのリーダーとして、デンと構えるくらいじゃないと」
「ぺ、PPPのリーダー……? わ、わたしがか? そそそそんな、それはプリンセスに決まってるだろう」
……あっやべ、この時点ではそういうことになってなかったのか? っていうかそもそもコウテイがPPPのリーダーってどこ情報だったっけ……。確かどっかでそういう話を見た記憶があったんだが。
「あー、でも実際、この中でリーダー格って言ったらコウテイだろ?」
そりゃ確かにPPPとしての中核はプリンセスだ。そこは間違いない。ただ、この間水辺地方でセルリアンと対峙したときとか、明らかにリーダーシップをとっていたのはコウテイだったからな。
そういう意味で、『群れとしてのPPP』を縁の下で支えているのはコウテイだと言っていいだろう。
「うん、そうね」
そしてプリンセスも、俺の言葉に同調する。
「確かに、コウテイっていつも肝心なところではしっかりとまとめてくれてるもの。……いいわね、決定よ! コウテイ、アナタがPPPのリーダーをやりなさいっ!」
「え、えええええええっ」
……あ、白目になってしまったが。
まぁコウテイに関しては自信さえどうにかできたらかなり前進しそうなので、今は置いておくとして……。
「フルルは言うことないな」
「え~、そうなの~?」
「うむ」
マイペースすぎてちょっと歌としてアレな感は確かにあったが、逆に言えばアレがフルルの味かもしれないし……。
アイドルって、別に歌ウマじゃなきゃいけないわけでもないしな。音痴でも愛嬌があればオッケーみたいなところあるし、逆に歌ウマでも愛嬌がなければアイドルとしてどうなのって話にもなる。
その点、フルルはアイドルとして既に唯一無二の個性を持っているので、もうそれでいいんじゃないかな……。それ以上に専門的なことは一介の映画館館長*2である俺には分からん。
「最後、プリンセス」
「任せなさいっ!」
いや、この期に及んでお前にお任せするようなことは何一つないが……。
それに、プリンセスはプリンセスで言いたいことがあるのである。
「まぁ、プリンセスが一番よかったのは事実だけどな」
「……くちばしに何か挟まったような言い方ね」
それは奥歯に何か詰まったような言い方って意味か?
「でもさ、プリンセスにはもっとこう……PPPの中核としての働きを期待しちゃってたんだよな」
これはアニメの見過ぎとかそういう話になっちゃうのかもしれないけども。
「プリンセスってPPPのエースなわけじゃないか。唯一の経験者で、他の面々はズブの素人。なら、プリンセスが積極的に引っ張っていくくらいじゃないと」
「わ……わたし、引っ張っていけてなかったかしら?」
「そういう意味で言えば、全然駄目だ」
確かに形にはなっていたと思うけども、それは『形になっていた』ってだけで、際立ってよかったわけじゃない。
声ももっとしっかり出せると思うし、動きだってもっと滑らかにできるはず。そして集団の中でそういう『明確なお手本』がいれば、他のメンバーの動きだっておのずと改善されるんじゃないだろうか。
コウテイが土台で柱なら、プリンセスはその上に立派に立ってみんなを覆う屋根みたいな……そんな働きができたら、なおいいなと思うのだ。
まぁそんな観念的な話をされても困るだけだと思うが。
「ぜ、全然」
「チーター。全然は言い過ぎだと思いますよ。ちょっとはよかったと思いますよ」
「ちょっと」
……チベスナ。こういうのは半端にフォローされた方が傷つくもんなんだぞ。
「い、いいわ……。どうだったって聞いたのはわたしの方だものね、いいのよ……」
あまりにショックだったからか、プリンセスはよろめいて額に手をやりながらも気丈にそう言った。横でコウテイが心配そうにそれを支えている。
やっぱああいうちょっとしたところの動きがカッコイイよなコウテイ……。
「なんというか、他のみんなもだけど、プリンセスもまだ動きが固いんだよ。最初だし仕方ないかなとも思ったんだけど、フルルはそのへん意外とリラックスしながら動けてたしさ」
まぁ、リラックスしすぎて半テンポ遅くなってた気もするが……。
「指摘みたいなのはこんなとこかな。参考になればいいんだが」
「ご苦労だったと思いますよ。うまくチベスナさんの言いたいことを言えたと思いますよ」
「は?」
ナメた口をきいたチベスナに制裁をくだしつつ、*3
「でも……正直感想を聞かせてくれって二回目に言われたときは、思わず言葉が詰まったよ」
俺の忌憚ない意見に死屍累々といった調子のPPPを見て、俺は苦笑した。
んで実際にボロボロになってるので、本当に言ってよかったのかって思いもないことはないが……。
「そりゃそうよ。だって、じゃなきゃチーターのところに来た意味がないじゃない」
いじけモードから復帰してむくりと起き上がりながら、プリンセスはそう返した。
……そうか。俺のところに来た意味、か……。
「ただ歌いたい、踊りたいだけならみずべちほーでやっていればいいもの。フレンズもいっぱいいるし。それでもこっちに来たのは……」
「ちょっと待つと思いますよ。それはしあたーにフレンズがいないと?」
「俺も聞き捨てならないぞそこは」
「だっていないじゃない!」
うぐっ! き、忌憚ない意見返し……。
「ともかく! 此処に来たのは……ふつうのフレンズには聞けない意見を聞きたかったからなの」
「はかせじょしゅやジャイアントペンギンはだめだと思いますよ?」
「はかせとじょしゅは歌とかうるさいから嫌いって言うし……先輩は、『こういうのは先輩が口出ししちゃ台無しだからなー』って……」
「言いそう」
ジャイアントペンギンはそういうこと言うよね。
それで俺に助言を求めるよう誘導してんだから、結局自分でやればいいんじゃないかと思わなくもないが────ま、多分照れ臭いんだろ。先輩としてのメンツを立てて言わないでおいてやるが。*4
「じゃあ、逆にどうだった? 俺の意見は役に立ったか?」
「チーター。俺『達』だと思いますよ」
「逆にオメーは何したよ」
横から茶々入れてただけだろ!
「ええ。すごく参考になったわ。とってもね。それでその……お願いがあるんだけど」
そう言って、プリンセスは横のコウテイをちらりと見る。
コウテイはプリンセスの視線に頷き、前に一歩進み出た。……なんか段取り臭を感じるな。最初から予定してたのか?
怪訝に思う俺をよそに、コウテイは真面目な顔でこう言った。
「チーター、頼む。此処でわたし達に……『がっしゅく』をさせてくれ」
……はは~ん? なるほど、ここまでがジャイアントペンギンの入れ知恵だな?