畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

160 / 161
一六〇話:黄昏の成果

「いつか大空を制すのだ♪」

 

 

 パン、パン、パン、パン。

 

 

「泣いたり♪ 笑ったり♪」

 

 

 パン、パン、パン、パン。

 

 

「Pop People Party、PPP♪」

 

 

 

 そうして、PPPが歌と踊りを終えた。

 踊り終えて清々しい表情をしているPPPの面々を尻目に、俺はチベスナの方へ向き直って、こう言う。

 

 

「どうよ? 大分よくなったろ?」

 

 

 ──あの屈辱のリズム取り失敗事件から、三日後。

 ジャパリ図書館での修行の成果を発揮するということで、俺はPPPにお願いして、もう一度伴奏ナシでのダンス練習をしてもらったのだった。

 もちろん、PPPのダンスは俺の手拍子に合わせて行う。俺の手拍子がズレていれば、PPPの踊りも乱れるというハイリスクな挑戦だったが──無事、俺はそれをやり遂げることに成功した。

 これぞ、人類の英知! 失敗を失敗として諦めず、克服しようという不屈の魂! それこそ単なる猿を万物の霊長へと押し上げた原動力なのだ!!

 

 

「おー、やるもんだと思いますよ」

 

 

 …………ということにしたかったのだが、チベスナのリアクションはそんなもんだった。

 

 

「……あのさチベスナ。お前あんだけ俺のこと煽ってたじゃん。んで俺だって三日も修行したじゃん。けっこう熱を入れたリベンジだったわけよ。なんかもっと言うことない?」

 

「さすがはチベスナさんのかんとくだと思いますよ」

 

「そうじゃなくってさぁ!!!!」

 

 

 もっとこう、『クッソ~上手くなりやがって~!』とか、そういう、ぎゃふんと言わされましたみたいなリアクションできないの!? 何平然と後方ムービースター面きめてんの!?*1

 

 

「まぁまぁチーター。リベンジはできたんだからそれでいいじゃない」

 

「そうだぞ。カッカしてもサンドスターが減るだけでいいことないぞ」

 

「お腹もすくしね~」

 

 

 と、そこで踊りの休憩を終えたらしきPPPがステージから降りてきた。釈然としないものはあるが……まぁ、一応『リズム取るのがヘタクソ』という汚名は雪げたのだし、よしとするか……。

 

 

「むぅ……」

 

「ところで、チーターさん、さっきのわたし達の歌とダンスはどうでしたか? 一応、わたし達も練習の成果のつもりだったんですけど……」

 

「チーター、聞いてなかったんじゃねえのー? 手拍子に夢中でさ」

 

「ああ、それは心配いらん」

 

 

 笑いながら言ったイワビーに、俺は手を振りながら答える。

 確かにリベンジマッチではあったがな、手拍子のリズムを一定間隔に保つので精一杯なんて完成度でチベスナに挑むほど俺は無計画ではないよ。チベスナを倒すなら、完膚なきまでに。それが俺のモットーである。*2

 

 

「練度の話もあるが……それ以前に、チーターの目と耳があるからな。手拍子にある程度集中してたとしても、お前達の動きくらいはちゃんと見てたよ」

 

 

 その上で──俺は、奇を衒うことなく断言して見せた。

 この合宿で最初に五人の演技を見た時と、同様に。

 

 

 

「すごくよかったんじゃないか?」

 

 

 

 一瞬、静寂が館内を包み込む。

 それは多分、PPPの面々が俺の言葉を咀嚼するのにかかった時間だ。

 そしてその一瞬が過ぎれば、

 

 

「ほ、本当っ!? やったぁ、チーターに認められたわよ!」

 

「チベスナからはもう褒めてもらってたけど、アイツいまいちアテにならないからなー」

 

「それどういう意味だと思いますよイワビー? 撤回するなら今のうちだと思いますよ」

 

「ま、まぁまぁチベスナさん、落ち着いて……。イワビーさんも言いすぎですよ……」

 

 

 PPPの面々(あとチベスナ)が賑やかに盛り上がる。

 あとチベスナがいまいちアテにならないというのはイメージによる錯誤だと思うぞ。アイツあれで野生的勘というか、そういう直感めいたものはちゃんとあるから。

 

 

「というか……まぁ、俺もそこまで専門的なタイプというわけではないからな。あからさまに見て分かるような欠点があればツッコミも入れられるけど、頑張って仕上げてきたものに対してダメな部分とかが分かるほどすごくはないんだよ」

 

 

 そんなPPPの盛り上がりに水を差すようで悪いが、俺は一応そう言い添えておく。

 実際、こういうのはヒトがいたころからアイドルやってたジャイアントペンギンみたいな専門家の方が詳しいだろうしな。まぁアイツは今のPPPに直接アドバイスとかしないと思うけど。

 

 

「だから、俺に認められて満足しちゃあダメだぞ」

 

 

 さらに続けて、俺は噛んで含めるようにしてそう言った。

 PPPは、これからジャパリパークを背負って立つペンギンアイドルグループになるのだ。ジャパリシアターの館長とはいえ*3、いち施設のフレンズに認められて満足するようではまだまだである。

 

 

「これからも向上心を忘れずに頑張ってくれよ。俺も、PPPのファンとして応援しているからな」

 

「チベスナさんも応援してると思いますよ。ライバルとしてせっさたくますると思いますよ」

 

 

 うむ。実際、PPPの活躍にはそういう意味での期待もあるのだ。

 チベスナも、ジャンルは違えど同じように頑張っている仲間がいれば、モチベーションが上がるというもの。ジャパリカフェ然り、トキ然り、アミメキリン然り、そしてこのPPP然り、何かを頑張っているフレンズはいい刺激になってくれることだろう。*4

 

 

「それで…………チーターは何かつかんだの~?」

 

 

 と、そこでフルルが俺にそんなことを問いかけてきた。

 ……? 掴んだ? いや、リズム感は掴んだと思うが。

 

 

「どういう意味だ?」

 

「え? だってチーター、この三日間いつもとしょかんに行ってたでしょ? リズムかんかくをつかむだけなら、そんな必要なくない~?」

 

 

 首を傾げる俺に、フルルはその理由を説明してくれた。

 ……ああ、そういうことね。っていうかフルル鋭いな。いや、アニメで見たときからフルルはところどころ鋭かった気がするが……。マゾの話とか。

 ともあれ、察しているなら説明してやるのが優しさというものだろう。

 

 そう。

 俺は、この三日間リズム感覚の修行だけをしていたわけではないのである。

 

 むしろ、真の成果は別にある。

 というか本来、ジャパリ図書館に足を運んだのもそれが大きな理由なんだしな。

 

 

「それなら、見せてやろう。俺のもう一つの三日間の成果――――『DVD』を!」

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

なわばり

 

 

一六〇話:黄昏の成果

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 図書館で手に入れたレコードがDVDであることを突き止めた俺だったが、その後も図書館に通い詰めていたのには理由がある。

 それは、カメラの画像を編集しDVDに焼く技術を学ぶため。普通に前世でも映像の分野には全く触れてこなかった俺は、今回全くのゼロから知識を身につけなければならない。

 当然博士と助手に聞いても分からんだろうし、それらを知識として手に入れるには、図書館の膨大な文献を地道に漁っていくしかないと思ったのだ。

 ただ、この目論見には少々誤算があり──

 

 

『でーぶいでーの作り方、ですか? ……でーぶいでーとやらの作り方は知りませんが、映像を別のものに移すやり方なら知っていますよ。われわれはこの島の長なので』

 

『あまりわれわれを舐めない方が身のためですよ。この島の長なので』

 

 

 ……という一幕があり、なんとDVDへの出力方法については、博士と助手は断片的ながら知っていたのである。

 断片的というのは、使用する専用機器の場所と動かし方を知っているという意味で、カメラの中の映像を抽出する方法までは知らなかったという意味だ。

 たぶん、博士と助手はDVDを別の媒体にダビングする方法を知っていたということなんだろうな。

 

 ただ、これが俺にとってはとても有難かった。

 

 ダビングに使うソフトの設定を少し変更するだけで、なんとカメラの映像をDVDに移すことができたのだ。

 もちろん、カメラの映像はそのままではただのホームビデオにすぎないので、別口で編集ソフトを使う必要はあるのだが……今まではカメラを覗き込むしかなかったのが、今や銀幕に流すことができる。それだけで、凄い成果ではないだろうか。

 

 

「チーター、何をするんだと思いますよ? なんかえいがかんモードにしてますけど……」

 

 

 俺の隣の席に座るチベスナが、不安そうにこちらを見ている。

 ちなみに映画館モードというのは、先程までPPPが躍っていたときのようにステージ上の銀幕を取り払いスペースを確保した状態ではなく、銀幕を下した、上映に適した状態にステージを変形させたモードのことだ。

 そしてそうなった以上やることは一つしかないのだが、チベスナ的にはこのタイミングで上映する意図が分からないといったところなんだろうな。まぁ、言ってないので当然だが。

 

 

「何をやるのかしら。楽しみだわ」

 

「いきなり暗くなったんだが……大丈夫なのか? これ」

 

「これ……ひょっとしてえいがをやるのでは?」

 

「えいが!? マジかー見てみたいと思ってたんだよなー!」

 

「ぐー……」

 

 

 その向こう側で、PPPの面々も思い思いの反応をしてくれていた。あとフルル、寝るな。

 

 そして、タイマー設定しておいた上映システムが動き出す。そして映し出されたのは──平原地方の一角だった。

 

 景色は何やら傾いており、視点の高さはヒトの腰くらい。

 顔の高さではなく、何故か腰のあたりにカメラを据えて撮影していただろうことが想像できる画角だったが、微妙に見づらいあたり、狙った演出ではなさそうだ。

 

 というのも無理はない。この映像の撮影者は、俺ではなくチベスナなのだから。

 

 ガサゴソと、数秒間の環境音ののち、カメラは動きを止め、フレンズの声が聞こえる。

 

 

『あ、これもう動いてるのですか! カメラ動いてるのですか? それならそうとチベスナさんに教えた方がいいと思いますよ』

 

 

 ……相変わらず無茶苦茶言ってんなぁ、コイツ。

 カメラの画面外から無理難題をのたまったチベスナは、そのままカメラをテーブルに置いたらしい。ゴトリという物音と共にカメラの揺れが安定し、景色が一変する。

 雲一つない晴天の空に、遠く見える木々、端に映るジャパリシアター──それと、画面中央に陣取るチベスナ。

 

 チベスナは得意げな笑みを浮かべると、かしこまったように一度咳払いをする。

 

 

『えーこほん』

 

「チーター、これ……!」

 

 

 そこで、チベスナの声が重なる。

 銀幕の中のチベスナは、やはり得意げな笑みを浮かべたまま、

 

 

『さあさあ追い詰めたぞセルリアン太郎! このチベスナ様が来たからには、お前のぼーぎゃくはここまでだと思いますよ!』

 

 

 木の棒を構えて、そんなことをのたまいだした。

 ……うわー、やっぱいつ見てもヤバイなこのシーン。何もかもがツッコミどころになっておる。

 銀幕の中のアホはさらに続けて、

 

 

『さあ食らいなさい! チベスナ・ミツメールブレード!』

 

 

 木の棒を振り上げ、そして。

 

 

 ゴスッ。

 

 

 …………映像はそこで終了した。

 映像の終了を検知した上映システムが、館内の照明を操作して、またもとの明るい空間を取り戻す。まるで波が引くようにして、銀幕がカーテンに覆われていった。

 

 見るとあまりにシュールすぎる映像に、観客一同(PPP)も言葉を失っている。

 まぁ、そりゃそうだわな。俺だって初見ではあらんかぎりの声でツッコミを入れたレベルだったんだし、まだ判断基準がしっかりしてないフレンズだとツッコミを入れればいいのか褒めればいいのか微妙という感じだろう。

 なので俺が代わりに、評価をくだしてやることにする。

 

 

「いやー、クソだな!!」

 

「クソとはなんだと思いますよ!? せっかくのチベスナさんのデビュー作だと思いますよ!?」

 

 

 ああ、チベスナの方は自分の銀幕デビューに感極まってたのか。

 

 

「ち、チーター? あんまりそういう言い方はよくないと思うわよ、せっかく頑張って作ったものなのに……」

 

「じゃあ、プリンセス」

 

 

 柄にもなくフォローに回り出したプリンセスに、俺はずいと身を乗り出して言う。

 

 

「あれ、面白かったか?」

 

 

 ま、合宿の最初にやったことの焼き直しだ。ダメなとこはダメと言われた方が、よりよいものが作れるものなのだ。もちろん限度はあるけども。

 そういう意味で、最初の最初にダメな部分を洗い出せた方が、今後の為にもなるというかね。

 

 プリンセスは、俺の言葉でこっちの真意を理解したらしい。こくりと頷くと、はっきりと言った。

 

 

「面白くなかったわ!」

 

「うぐっ!? ぷ、プリンセスまでぇ……!?」

 

「だって、セリフも棒読みだし、動きも硬いし、内容も良く分からないんだもの」

 

「うぐぐっ!?」

 

「わたしはよく分からなかったな……。えいがは初めて見たから、いいか悪いかどうなのか……」

 

「暗くなったり明るくなったりは面白かったけどなー」

 

「チベスナさんが映ってたの、あれはいったいなんだったんですか? いつのチベスナさんだったんです?」

 

「ぐー……」

 

 

 他のPPPの面々については、良し悪しが分からないという感じだが……っていうかだからフルルは寝るんじゃないよ。暗い=夜=寝る時間じゃないんだぞ。

 

 

「ま、これが最初の評価ってことだ……()()()()。今回はただDVDに焼いただけで編集も何もしてないから、次はもっと面白いものにしてやる」

 

「そうだと思いますよ! チーターこれ何もしてないじゃないですか! かんとくなのに!」

 

「そもそも監督は撮影したりしねぇんだよなぁ」

 

 

 これ以降のやつ、だいたい俺が撮影も脚本も演出もやってるからね。監督ってそういう仕事をするやつじゃないからね。……まぁ今更だが。

 

 

「いいじゃない! わたし達もこれからもっともっと、一流のペンギンアイドルになってみせるし……チーターとチベスナ、アナタ達も頑張りなさい! これ、決定よ!」

 

「任せるといいと思いますよ!」

 

 

 挑戦的な笑みを浮かべるプリンセスに、チベスナはグッとサムズアップをしてみせる。

 ふふん。合宿が始まったときはあんなに乗り気じゃなかったというのに、やっぱなんだかんだで満更でもなかったみたいだな。

 ま、それでこそ俺も、PPPの合宿会場を提供した甲斐があったってもんだが……。

 

 

「……ぐー……」

 

「だからテメェはいつまで寝てんだ! フルル、寝るなァーっ!!」

 

 

 俺が作ったわけじゃないとはいえ、自分達の映画で寝られるとマジで腹が立つね。

 今度から、映画は『フルルが寝られないようなもの』を基準にして作るようにしよう……。

 

 

 …………そんなこんなで。

 

 合宿は、ジャパリシアターとPPPの双方に得難い成果を与えて終了したのだった。

*1
自分は結構後方監督面している。

*2
今考えたのは明白。

*3
館長じゃないが。

*4
後方監督面。




というわけで、しれっと撮影した映画の上映技術を身に着けました。
とはいえ編集技術が手に入ったわけではないので、今後もチーターの修行は続きます。

博士助手、ライブ会場の設営とか遊園地の整備とかしてるし、多分機械類にはそこそこ強いんですよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。