さて、ピラミッドである。
「でっけぇ……」
改めて見ると、想像以上のサイズ感だった。
近くで見れば分かるのだが、ピラミッドは無数の石材を積んで作られている。そして、この石材がとんでもなく大きい! 一つ一つが俺よりも大きい。大体縦横一七〇センチくらいはあるんじゃなかろうか?
ぶっちゃけ実際にこの目で見るまでは大きいと言っても高さ一〇メートルが二〇メートルくらいが精々かな……なんて思っていたのだが、見た感じこれは……一〇〇メートル以上はあるんじゃないだろうか? 平原地方のライオンの城よりでかいぞ、これ。
「で、どこから入ればいいと思いますよ?」
「ん? ああ、そうだな……」
そういえばピラミッドの入り口ってどこなんだろうか――と少し不安だった俺だがそこはジャパリパーク、幸運にも案内板が残っていたので(途中で二、三個折れた案内板の残骸を見つけたが)、特に捜索する必要もなく普通に入り口を見つけることができた。
入り口は地面と接しているわけではなく、ピラミッドの斜面を少し登ったところにあった。なんでこんなところに入り口が? と疑問に思ったが、特に説明が書かれたボードはない。壊れてしまったのかもしれないが……。……気になるな……。
「おー、ここがピラミッドの中ですね。なんだか不思議な感じだと思いますよ」
「だな。ここの石材とか妙に角が丸まってるし……。ジャパリパークもよくここまでこだわるよなぁ」
無事に入り口を発見した俺は、おそらくチベスナとは別の部分に感心しつつピラミッドの中へと入っていく。
今言ったようにピラミッドは材質含めておそらく本物そっくりにしているらしく、何か本当のピラミッドの中を探検しているようなわくわく感があった。城のときも思ったが、ジャパリパークの運営陣、ほんと妙なところで凝り性だと思う。
そんな凝り性な部分に遠い未来の人間(フレンズだが)が呆れたり感心したりしているんだから、不思議な話だよなぁ。
「あれ、チーター、もう撮影しているんですか?」
「おう。せっかくのピラミッドだからな」
カメラを手に持っていることに気づいたチベスナに、俺は頷いて見せる。いやぁだってかなりいい雰囲気だからな。資料映像集めついでに色々と撮っておこうと思って。
「ふっ……チベスナ探検隊というわけですね?」
「まぁそういうことでいいや」
何か乗り気なチベスナに、俺は適当に返しておいた。
あんまりこう……ドキュメンタリー方向に偏るのは嫌なんだけどな。やっぱりちゃんと脚本を練った映画を撮ってこそだと思うし。
「こういうのって、いったい誰が作ってるんでしょうね」
「そりゃ、ヒトだろ」
「ヒト? そういえばさっきもヒトがどうとかって言ってましたけど……」
歩きながらの質問に俺が答えると、チベスナは首を傾げてきた。
ああそっか、ヒトが何なのか、チベスナは知らないんだっけ。
「ヒトっていうのは……ほら、あれだ。…………」
…………どうしよう。
なんか、こう……ヒトについての情報って、フレンズに教えてもいいものだろうか……みたいな不安が、この土壇場で生じてしまった。ラッキーに怒られないかな? まぁ大丈夫だとは思うが……。
なんで知ってるの? って聞かれたら、説明が面倒くさそうな……。
「……フレンズ化する前から、俺達みたいな姿をしている賢い動物のことだ。前にどっかで聞いたことがある」
悩んだ結果、『噂話で聞きましたよー』みたいなスタンスで、ヒトそのものの性質についてはあんまり言及しない感じの説明をすることにした。これなら問題あるまい。
「なるほど……。フレンズになる前から、フレンズみたいな動物……なんか不思議な動物ですね? いずれ会ってみたいと思いますよ」
「そうだなー」
もしもかばんが生まれることがあったら、そのうち会えるかもしれないな。いつになるかはちょっと分からないが……。
と、そんなことを話していると。
「あれ? 道が二手に分かれていると思いますよ?」
「………………ほんとだな」
俺達の目の前に、上と下、二つの道が現れた。
「どっちに行くべきか……迷うと思いますよ」
「いや待て」
さっそくどちらに行くか考え始めたチベスナを、俺は制止する。……よく見なくても、通路脇にマップがあるじゃないか。若干掠れているが、全然読める
「このマップによれば……上の方に『王の間』と『女王の間』があって、下の方に『未完の地下室』がある……らしい。んで、『このピラミッドはギザの大ピラミッド(クフ王のピラミッド)をもとにして作られているよ。ギザの大ピラミッドは世界で一番大きなピラミッドなんだ』…………だそうだ」
「ぎざのだいぴらみっど? なんだと思いますよ?」
「俺も分からん……」
ピラミッドが一つしかないわけではないことは知っていたが、名前を言われてもいまいちピンと来ない。普段ピラミッドと言われて一番最初に思い浮かべる感じので正解なんだろうか……?
「なぞの言葉、ぎざのだいぴらみっど……ふふふ、面白くなってきたと思いますよ! さぁ、チベスナ探検隊はさらに奥地へ……」
「だからどっちの奥地へ行く?」
「えーと……どっちがどっちだと思いますよ??」
全然分かってなかったみたいだな……。しょうがない、俺が決めよう。
えーと、上が女王と王で、下が未完か……。地下道がありそうなのは下だから、まずは上から行った方が無駄なく探検できそうだな。
「上の方に色々あって、下の方にはあんまり施設もなさそうな感じだな」
「なるほど……じゃあ色々ある方を見たいと思いますよ!」
うむ、意見も満場一致。
「それじゃ、上の道に行くぞー」
「レッツゴーだと思いますよー!」
意気揚々と、俺達は上りの道を歩いていく。道はスロープ状になっており、道幅もそれなりに広い。まさか本物のピラミッドの道も広いとは思えないので、このへんはジャパリパーク版のアレンジだろう。ユニバーサルデザインへの意識の高さを感じさせる。
壁面には何やら壁画のようなものが額縁に入れて飾られており、それらに一言説明のプレートが設置されていた。これもおそらくはレプリカなのだろうが、ここはどうやらエジプト美術の展示回廊みたいな感じで設計されているみたいだな。肝心のプレートについては、ぶっちゃけ読んでみてもいまいち理解できないが……。
「おおー……これはなんだと思いますよ?」
「絵……だな」
「ほうほう、チーターが前にライオンの城で書いてたり、こはんでビーバーが書いてたあれですか?」
「あれとは全然違うな」
あれは設計図で工学的なアレだが、こっちは美術的なアレだ。
「こっちの方はなんていうか……絵で表現する映画みたいな感じだな。設計図はものを作るときの目安に使うものだから」
「なるほど。なんとなくわかったと思いますよ」
チベスナはまさしくなんとなくといった感じで頷き、他の壁画を興味深げに見ていた。やはり仮にもムービースターを自称するだけあって、芸術に関しては独特のアンテナがあるのかもしれないな。まぁ、俺には全然よさが分からないが。
そんな道を、大体五〇メートルほど歩いただろうか。
勾配が急に緩やかになって、また道が二手に分かれていた。一方は真っ直ぐ緩やかな勾配のままの道、もう片方は先ほどまでの道と同じような勾配の、ものすごく天井の高い道だ。
「いやほんとに高いなこれ……一〇メートルくらいはありそうだぞ」
多分、道が凄い豪華だから上の道が正規ルート(?)なんだろうな……と思いつつ、例によって分かれ道に設置されていた案内板を確認してみる。
どれどれ……。
「上に行く道の先にあるのが王の間で、真っ直ぐ行く道の先にあるのが女王の間、らしいな。どっちに行く?」
「うーん……悩むと思いますよ。どっちも魅力的……チベスナ探検隊は選択をしいられていると思いますよ」
「ちなみに、多分豪華なのは王の間だと思う」
「じゃあ女王の間だと思いますよ! 豪華なのは最後にとっておいてこそだと思いますよ!」
うーむ、分かりやすい。
そしてチベスナは多分ショートケーキのいちごとか最後まで食べないタイプだろうな。俺は、好きなものは最後までとっておくと腹がいっぱいになっておいしく食べられないから、先に食べちゃうタイプだが。
「了解、隊長」
適当に言いながら、道を真っ直ぐ進んでいくと――やがて、狭い小部屋に辿り着いた。部屋の広さは、大体六畳一間あるかないかくらい。観光施設としてはあまりにも狭い感じだが、不思議と息苦しさは感じられなかった。
というか、なんか風の流れを感じる。妙だな――と思って視線を走らせてみると……、
「あれ? あそこに通気口みたいなのがある……」
部屋の上の方の隅っこに、穴が開いているのが見えた。なるほど、あそこから空気を入れ替えているわけだ。よく考えたら、通気口が全くなかったら酸素がそのうちなくなっちまうしな。
「……チーター、ここはこれだけですか? なんか物足りないと思いますよ」
「まぁまぁまぁ、此処に来るまでに壁画とか色々あったし……」
刺激が足りなくて不満げなチベスナを宥めつつ、俺は改めて室内に視線を走らせてみる――と、普通に文字の書かれたプレートが目に入った。
「チベスナ、あれはどうだ?」
「おお、何が書いてあるんでしょう。チーター、読むといいと思いますよ」
チベスナに急かされ、俺はプレートの前に立ってみる。
プレートには砂漠に残された足跡のイラストが描かれていた。見た感じ一歩目だと四本足、二歩目だと二本足、三歩目だと三本足……って感じのようだ。……あー、なるほど。
「『朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足で歩くものは何か』」
「はぇ? チーター、チベスナさんにも分かるように話すといいと思いますよ」
「そういう謎かけなんだよ!」
そもそもチベスナに謎かけという概念を説明するのがまず難しい気がするが……。
「とにかく、そんな動物が何か考えて当ててみるんだよ」
「えー、そんなの分からないと思いますよ……。時間によって歩く足の数が変わるなんて、それもうセルリアンでは? ……はっ。そうです、答えはセルリアンです!」
「ぶぶー」
よくわからないものをセルリアンにするんじゃない。
「そんなばかな……それじゃあどんな動物が正解だか、皆目見当がつかないと思いますよ……ヘラジカ……?」
「ヘラジカどっから出てきたんだよ」
「つのを足代わりにするのかなぁと……」
なんだその奇想天外な発想は! ……でもまぁ、わりといいとこついてはいる……のか? 夜に三本足っていうのも、杖を使うからって話だしな。何かを使うことで三本足っていうのは良い発想だ。
まぁ、この問題そもそもチベスナには最初から正解できるはずないから、もう答えを教えてやるか。
「うーん、それならもう、ヒトで。こんな不思議な動物はヒトくらいしか思いつかないと思いますよ」
……………………あてずっぽうで正解しちゃったよ。
「どうです? 今度こそ合ってますか?」
「……正解だよ」
「おおー!」
「……でも、時間によって歩く足の数が変わるなんて、ヒトはとんでもない動物だと思いますよ」
「足の数は変わらないから!」
そしてとんでもない誤解を生んでいたので、俺は慌ててチベスナの思考に待ったをかけた。というかフレンズ≒ヒトって言っておいただろうに、そういう勘違いをしてしまうのか……。…………まぁ、年老いたフレンズとか聞いたことないし、そういう意味では分からなくて当然なのかもしれないが。
「いいか、ヒトはな、生まれたばかりのころは足が成長してないから両手と両足で歩いて、大きくなると二本足で立てるようになるんだ。ヒトの一生を一日に見立てると、朝は四本足で昼は二本足になる」
そう解説すると、チベスナは納得したように頷いて見せた。
「なるほど、そう考えると辻褄が合うと思いますよ……。……しかし、三本足というのは? ヒトはさらに成長するともう一本足が増えるのですか? ヤバイと思いますよ……」
「そうじゃねぇよ!」
もし本当にそうなら俺もヤバイと思う。
「そうじゃなくて、ヒトは年老いるとまた足の力が弱くなるんだよ。だから、二本足で歩くのが疲れてくるんだ」
「? それなら、四本足になるのでは? なんでまた片手だけ使わないなんて……。ヒトは不思議だと思いますよ」
「だからその代わりに、『杖』を使うわけだ」
四本足で歩くわけにもいかないからな。杖を突いて歩くことで、移動を楽にしているわけだ。
「つえ? なんですそれは」
「チベスナだって、疲れたら何かに寄りかかるだろ?」
「はい。よく休憩のときにチーターに寄りかかりますね」
「あれ暑苦しいからやめろよ」
それはともかく。
「歩きながらそれができるように、木の棒をこう……地面に突くようにして、体重をかけながら歩くわけだ」
「なるほど……。……それ、チベスナさんも欲しいと思いますよ! とても便利な知恵だと思いますよ!」
「ただ、とくに疲れてないときには邪魔になる」
「じゃあいらないと思いますよ……」
俺達の場合、基本的に疲れても無理やり歩かなきゃいけない事情とかないからな。歩き疲れたらそのへんで休憩すればいいわけで、そう考えると杖の必要性がまるでなかったりする。
「まぁ、杖を使う動物なんてヒト以外にはいないからな。そういうわけで答えはヒトになる」
「むずかしい問題だったと思いますよ……。というか、チーターはなんでそんな問題の答えをすらすらと言えるんです?」
「……有名だったしな、この問題」
スフィンクスが出した問題、なんだっけ? これ。確か答えられなかったら食われるとかなんとかだった気がする。
……と思いつつ、プレートを確認してみると。
『ちなみに、この問題を出したスフィンクスは、エジプトのスフィンクスじゃなくてギリシアのスフィンクスなんだ。スフィンクスは色々な神話に登場するよ』とのこと。
「…………エジプトじゃないんかい!!」
「ひわっ!? チーター、突然吠えるのはよくないと思いますよ。今回チベスナさん何も悪くないと思いますよ」
「ああ……すまん、ちょっとな」
いつもは自分が悪い自覚あったんだな。
……つか、スフィンクス繋がりとはいえ別の神話の話をなぜ持ってきたのか……。説明してくれるだけマシではあるが、そこもうちょっとこだわれよっていうかさぁ。どうせならもっとエジプト由来の問題にするとかできなかったのか。
「さて、ここはもう何もなさそうだな。さ、王の間にでも――」
と、そう言って振り返った、ちょうどその時。
俺の鼻と耳が、部屋の外に誰かの気配を感じ取った。セルリアン…………ではない。カツカツという足音もとい靴音からして、十中八九フレンズ。何か迷いのある足音のように聞こえるが……。
「誰か此処にいるのかぁ~……? くそぅ、とんだ誤さ、」
そんなつぶやきを漏らしながら、一人のフレンズが部屋に近づいてくる。
茶色いフードを目深に被った、陰気そうな雰囲気の少女は――――、
「み゜ゃっ、うぉ゛おぇ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁああ~~~~~っ!?!? だだっ、誰だぁお前らはぁ!?」
――と、開口一番に奇声をあげた。
……あーうん。わざわざ確認するまでもなく分かる。こいつツチノコだな。
ちなみに、クイズでは何故かしんりんちほーのクイズの森が砂漠のラクダ推しだったりと、ジャパリパークのクイズの出題傾向は謎が多いです。