畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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三一話:槌模す幻の怪蛇

 絶叫していたツチノコだったが、流石に色々と場慣れしているらしく我に返るまでが早かった。突然の叫び声にチベスナが驚いている間に、ツチノコは通路の奥に引っ込んでしまう。

 …………あの妙に恥ずかしがりな性分は、ツチノコの『なかなか見つからない』って特性を反映させたものなのかね。いや、俺がヒトだったころの性格そのままでフレンズになっているところからして、元動物の生態がフレンズ化の時性格に影響するって話も眉唾なんだけども……。

 あのラッキーの『フレンズ化の時に生態の特徴が性格に反映されている』発言、どの話で言ってたのか思い出せないけど大概適当なこと言ってると思う。

 

「なななっ、なんだぁ、お前らぁ!! なんだそのかっこぉ、な、何者だぁ!? 新手のセルリアンかぁ!?」

 

 と、奥の方に引っ込んだツチノコが、警戒した様子で問いかけてきた。……セルリアンか、と言いつつ一応対話を試みてるあたり、最悪セルリアンと思いつつ本気でセルリアンと思っているわけじゃなさそうだな。

 …………しかし、自分もUMAのフレンズなんだから見覚えのないフレンズでも『ご同輩か?』くらい言ってもいいんじゃねぇかなぁ……。そそっかしいヤツだ。

 

「失敬な! チベスナさん達がセルリアンなわけないじゃないですか!」

「まぁまぁチベスナ、今のは言葉の綾みたいなもんだろ」

 

 憤慨するチベスナを宥めつつ、

 

「俺達は普通のフレンズだよ。こっちはチベットスナギツネのチベスナ。俺はチーターだ」

「チーターにチベットスナギツネぇ……?」

 

 俺がそう言うと、ツチノコは通路の奥からそっと顔だけ出して、こちらの方を見てくる。めっちゃ怪訝そうな表情だ。何をそんなに怪訝に思ってるんだ……、……あ。ぐるぐる巻き(これ)か。

 そういえばまだこれつけたままだったな……そりゃ、フレンズから見ればこんなのつけてるヤツなんか見たことないから、おかしなヤツに見えるわな。

 俺はタオルを軽くずらして顔を見せると、

 

「これは気にしないでくれ。ただのタオルだ」

「きゃお゛わぁっ!? だっ、脱皮したぁ!? おまっそっなんだそれぇ!!」

「タオルだと思いますよ」

 

 で、チベスナがドヤっと切り返した。いや、今俺が言ったからね、それ……。

 

「こう、布を顔とか肩とかのあたりに巻いてたんだよ。外は日差しがキツイだろ? それで」

「な、なるほどなぁ……。直射日光から身を守ってたってわけか…………。お前ら、面白いこと考えるな……」

「考えたのはチーターですけどね」

 

 直射日光。

 久方ぶりに他人の口から文明的な単語を聞いたな。なんか新鮮だ……。あと、こっちの意図を普通にくみ取ってくれるフレンズも何気に初めてだな。いや、ライオンはわりと知能指数高い感じだったが、あれも文明の知識があったわけじゃないし。

 

「で、お前は?」

 

 ツチノコの疑問もひと段落したところで、俺はツチノコに誰何する。一応知ってはいるが、自己紹介してもらわないことには始まらないからな。

 ツチノコの方はというと、まだタオルターバンのショックが抜けきらないのか、恥ずかしがることも忘れて普通に返してくれた。

 

「オレは……ツチノコだ。ここには遺跡の調査をしにきた」

 

 遺跡の調査ね……。……あ、なるほど。アニメ版でやってた地下迷宮の探索の前は、ここを色々と調べてたってわけか。位置関係的にも自然だ。なんかすっきり。

 

「調査……なるほど、チベスナさん達と同じというわけですね」

「同じ…………?」

「こっちの事情を説明してもいいですけど、そろそろこっちに出てくるといいと思いますよ。いつまでも隠れられていると話しづらいと思いますよ」

 

 そこで、チベスナがさくっとこっちに来るように促す。ほんと、こいつ相手のペースとか考えずに話を進めていくよな……。まぁそこに助けられているところも多々あるが、こういうところを見ると改めてマイペースだなぁって思う。

 

「お、おう……」

 

 ツチノコの方もチベスナの勢いに押されて普通にこっち歩いてきてるし。なんか苦労人っぽくて親近感が湧くぞ。

 

「……で、お前らも調査ってのは、一体どういうことだ……?」

 

 そう言って、ツチノコは首を傾げる。

 あー、そこの説明もしないといけないよな。

 

「……そこについては、歩きながら説明するのでもいいか?」

 

の の の の の の

 

さばくちほー

 

二八話:槌模す幻の怪蛇

 

の の の の の の

 

 ツチノコと合流した俺達は、通路を通って王の間へ移動しながら事情の説明を始めた。

 

「チベスナさん達は、チベスナ探検隊としてこのピラミッドの探索をしているんだと思いますよ!」

「おまっ……この遺跡の名前を知ってるのか……?」

「チーターが知ってたと思いますよ」

 

 バッ!! とツチノコが凄い勢いでこっちの方を振り向いてくる。おいやめろ、そんな目に力を入れて見つめられるとちょっと怖いだろ。

 

「知ってるっつーか……これだよこれ、地図に書いてあったんだよ。近場にあったのがピラミッドだったから、とりあえずやってきたってわけだ」

「地図ぅ……? …………お前、地図読めるのか。ってことは文字も読めるのか」

「まぁ大体は……」

 

 曖昧に答えると、ツチノコは驚いたように目を瞠った。それから、完全に自分の世界に入ってブツブツと呟き始める。

 

「博士と助手以外に文字の読めるフレンズがいるとはな………………しかも明らかに砂漠に住んでるフレンズじゃない…………チベスナの話からして、オレみたいにパークに残された遺跡を調査してるフレンズってことか………………」

「あの! チベスナさんの話がまだ続きだと思いますよ!」

「どふぁっふぇえい!?」

 

 なんつー声を……。仮にも女の……いや、フレンズに女の子がどうとかって感じはあんまりしないけども。

 

「な゛な゜っ! なんだいきなりお前は突然!! いい加減にしろよ! シャー!!」

「えぇ……チベスナさん何も間違ってないと思いますよ……」

「まぁまぁ」

 

 困惑気味なチベスナとテンパり気味なツチノコの間に入って、俺はお互いを宥める。確かにツチノコが思いっきり話の腰を折ってたけど、チベスナはもうちょっと相手のペースに合わせてやろうな。

 

「っていうか、俺達も探検隊とかじゃないしな……」

「はぁ!? でもさっきチベスナが……ど……どっちなんだよ!」

「探検隊だと思いますよ」

「ややこしくなるからチベスナこれ飲んでて」

 

 チベスナには水筒を渡しつつ、

 

「なんていうか……俺達は、旅してるんだ」

「それはなんとなく分かる。遺跡調査の旅をしてんだろ……?」

「いや、主目的は観光」

 

 そう言うと、ツチノコは軽く驚いたようだった。ああ……こっちの意図が簡単に伝わる心地よさよ。文明ってやっぱり素晴らしい。

 

「とにかくパークの施設やアトラクションを見たり、色んなフレンズと出会ったりする――そういうのをしたくて、コイツと一緒に旅してるわけだ」

「ぷは。映画撮影もですね」

「だからそれは後付けの理由だからな。あとここで水飲み尽くしたら、次の水場まで水分補給はなしだからそのつもりでな」

「えぇ!?」

 

 いや、本当になくなったら一応俺の水を分けてやるつもりだが……。でもそれ言うとコイツ本当に遠慮せず全部水飲むからなぁ。

 

「待て待て待てぇ! その話もうちょっと詳しく聞かせろ! パークの()()()()()()()()()()って……何の話だ?」

 

 ……ん? 引っかかるのそこか? てっきり映画の方を気にするかと思ったんだが……。あれかな、施設とアトラクションの区別まではつかないというか、そこらへんややこしいみたいな話だろうか。

 

「それがどうかしたのか? ……まぁ、確かに施設とアトラクションの区別はつきづらいか。多分、ここはエジプト美術の美術館兼ピラミッドのレプリカってとこだから、区別的にはアトラクションか……? そもそもフィーリングで使ってるからそこまでかっちりとした決まりっていうのは……、」

「…………………………」

 

 ……そこで、俺は自分の思い違いに気付いた。

 そうだよ、フレンズは基本的に『テーマパーク』って概念を知らないんだ。無論自分たちが暮らしているジャパリパークがそういうものであるということも知らない。そういえばアニメ版でも、地下迷宮が何のために作られたかとか知らなかったような気がする(多分)し、そう考えるとすらすらとピラミッドが何のためのものかまで言い当てちゃうのはフレンズ基準では異常だよな。

 

「……お前、いったい…………?」

「チーターはたまによく分からないことを言うので気にしないでいいと思いますよ。分からないと言えばちゃんと分かりやすく言ってくれますので」

「そぉいうことを言ってるんじゃないんだよっ!! ィいいから水飲んでろよ!!」

「だって全部飲んだらもう飲み水なくなりますし……」

「…………っていうか! そこもだよっ!」

 

 我慢しきれず、といった感じで、ツチノコは現在進行形でチベスナが手に持っている水筒を指さす。

 

「それ! その……水の入ったもの! なんだそれ!?」

「水筒だと思いますよ。中に水が入ってて、持ち運び便利だと思いますよ」

「水をぉお゛お゛ぉぉおお!?」

 

 ツチノコはオーバーすぎるくらいに目を見開いて、思いっきり低音気味な悲鳴をあげる。

 

「そんなもんどこで手に入れたんだよっ!?」

「平原にあるライオンの城の売店だと思いますよ。売店には色んなものが置いてあって便利です」

「ば、ばいてん……?」

「オアシスにもありましたね。よさそうなものはこのタオル以外ありませんでしたが……」

「オアシスって……あ、あの砂漠種の植物を保存してる遺跡のことか!?」

「ツチノコもよく分からないことを言うと思いますよ……」

 

 種の保存、か……。なるほど、植物園もそういう見方ができるな。そしてあそこも遺跡扱いなのか……。いや実際、大昔の人が作った施設なんだから遺跡で間違いないが。

 

「ってことはお前ら、ひょっとしてあそこの出土品を持ってきてたのか!? 持ってきてそんな風に使ってたのか!? おまっ、貴重なんだぞそれぇ!!」

「そんなこと言ってもそこにあるんだから使わないと勿体ないしな……」

 

 出土品、ね。ここらへんはツチノコと俺の意識の違いだなぁ。

 ツチノコ的には『過去の人類の情報を知れる重要な手がかり』みたいな感じだが、俺からしてみれば異世界のという但し書きがつくとはいえ前世はその人類だった以上、大体のことは知ってるわけで……しかもタオル程度から得られる手がかりなんかたかが知れてることも知ってるので使うことに躊躇いはないのだ。

 

「くっ……所詮はこいつもフレンズか……!」

 

 失敬な。一応施設は壊さないように気を付けてるっての。

 

「あと、それ! お前がその手に持ってるの、何だよ!? さっきから気になってたけど……」

「これか?」

 

 言いながら、俺は手に持ったカメラを掲げてみせた。地味にさっきからずっと撮っていたカメラは、今もツチノコのことを映し出している。

 

「これはカメラと言ってな。ものを撮影したり、その映像を保存して後で見返すことができる機械だ」

「キキッキッカイっ、機械だとぉぉお゜お゜おおあ゛あ゛あ゛!?!?」

 

 また凄い声…………。

 

「お前っ! お前もしかして、機械の使い方が分かるフレンズなのか!? 本当にチーターなのか!?」

「まぁ分かるっていうか覚えたっていうかな……」

 

 そんなグイグイ来られると困る……。

 なんか面倒になってきたし、前世の記憶があって中身はヒトなんですって言っちゃおうかな? 多分なんだかんだ納得され……、……いや、やめておこう。きっととんでもない勢いで質問攻めにされるし……、……。

 

「機械の使い方が分かるフレンズなんて聞いたことないぞ……。博士たちだって図書館の本で調べないと分かんないってのに……自分ひとりで使えるのなんてラッキービーストくらいじゃないか……?」

「ボスと同じくらいとはさすがはかんとくですね、チーター」

「お、おう。あと俺は監督じゃないからな」

 

 俺は戦々恐々だよ。完全に墓穴掘った。

 

「それより、だ。そろそろ王の間だぞ。遺跡調査の本分を忘れてないか?」

「ア゜っ!!」

 

 話を逸らす意味も込めてそう言うと、ツチノコははっとした表情になって今までの流れを吹っ飛ばしてしまう。……こういうところは助かるな。フレンズらしい、というより、オタクらしい特徴だが……。

 

「おいお前ぇ! チーターも急げ! 遺跡調査にお前は役立ちそうだ! そっちのチベスナと違ってなぁ!」

「ちょっと待ってください! 今のは聞き捨てならないと思いますよ!」

 

 カツカツという足音を響かせながら、ツチノコはさっさと大回廊の先へと進んでいってしまう。そんなツチノコを追って走って行ったチベスナを見送りつつ、俺は重い足取りを引きずるようにしながら、大回廊を登っていくのだった。




ツチノコの口調再現が…………難しい。っていうか無理ですねこれ。

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