畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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感想が二〇〇件になりました。確かちょっと前に一〇〇件とか言っていたはず……。ありがとうございます。


三二話:王座の秘宝

「にしても、ずんずん行くなぁ……」

 

 先に歩いていくツチノコの背中を見ながら、俺は小さく呟いた。なんというか、足取りに迷いがない。やはり何度もここを探検したことがある――みたいな感じなんだろうか。

 地図があるのは知っているしあの口ぶりだとツチノコも地図は読めるとは思うが、にしたって初見の遺跡なら色々と見ながらだと思うんだよな。俺達がそうだったし。

 

「ツチノコって、どのくらいここを調査してんだ?」

「そうだな……かれこれ三か月くらいかな」

「三か月」

 

 チベスナが驚いたように声を上げた。

 俺も驚きだ。三か月……三か月も調べてるのか。これはけっこうガチな感じで調べてるっぽいなぁ。

 

「この後はどれくらい続けるつもりなんだ?」

「さぁなぁ……あらかたのことが分かれば、別の遺跡を探すだけだ。お前らこそ、どのくらいここにいるつもりなんだ?」

「ああ……基本、俺達は観光してるだけだから」

 

 一日、長くて二日くらいで一つのアトラクションを巡るよな。まぁ、テーマパークのアトラクションと考えれば、一日かけてアトラクションを巡るってだけでも相当時間をかけてると思うが。しかしそのくらいジャパリパークのアトラクションは手が込んでいるということなのだ。

 …………改めて考えてみると、テーマパークの中で寝泊まりして年中無休でアトラクション遊び放題って、すごい贅沢だよな……。しかもジャパリパークほどのテーマパークになると、年間パスポートだけで一〇万円くらいはしそうだし……いやもっとか? 寝泊まりとかしていいってなると多分五〇〇万はくだらないんじゃなかろうか。

 

「だから大体、一つのアトラクションにつき一日かけるくらいだな。じっくり遊んだり、見て回ったりして、日が暮れてたらそのまま泊まるって感じ」

 

 と言ってみたものの、ツチノコはいまいち俺の感覚にピンときていない様子だ。まぁ、しょうがないかもしれない。ツチノコにとって人間の残したものは遺跡扱いなわけで、そう考えると俺は遺跡で一日中遊んだり泊まったりしてるおかしなヤツってことだし。

 

「じゃあ、今日もここで泊まるのか?」

「いや、そもそもここには別の目的で――」

「あ! 王の間が見えてきたと思いますよ!」

 

 そんな話を言いかけたところで。

 ちょうど話の腰を折るように、チベスナがそんなことを言った。……まぁ、地下道の話は後ででいいか。

 

の の の の の の

 

さばくちほー

 

三二話:王座の秘宝

 

の の の の の の

 

「おおー、此処が王の間か」

 

 王の間は女王の間と比べるとそれなりに広かった。大きさとしては、女王の間が二つ分くらいって感じか。

 でも、確かに広いは広いが王の眠る場所としては殺風景な気もする……。

 というのも、装飾の類が殆どないのである。一応額縁に飾られた壁画や問題らしきプレートは設置されているが、それはピラミッド本来の装飾じゃなくてこのアトラクションとしての装飾だし……。

 ……おそらくこのピラミッド本来のものといえば、部屋のど真ん中に置かれた石棺くらいのものだろう。

 

「チーター、ちっとも豪華じゃないと思いますよ? さっき女王の間のとき、豪華なのは王の間って言ってましたよね?」

「……豪華じゃん。広さとか、棺とか」

「まだまだ全然地味だと思いますよー!」

 

 そして無駄にハードルを上げてしまったのでチベスナが面倒くさい。さて、しょうがないから問題でも読み上げて煙に巻くか……と思っていると、ツチノコが興奮を押し殺した感じでこっちに詰め寄ってきた。

 

「待て、待て待てチーター。……今、『ひつぎ』がどうとか言わなかったか?」

「ん? あー…………そ、そんなこと言ったっけ」

「言ってた! 絶対、ずぇったい!! 言ってた!!」

 

 ツチノコは興奮気味にグイグイと顔を近づけてくる。おい、近い……! 顔が近いんだよ……!! 怖いんだよそのテンション……!

 

「つ、ツチノコ……ちょ、ちょっとその、落ち着いて」

「はっ」

 

 そこで、ツチノコも自分が我を忘れていたことに気づいたらしい。みるみるうちに顔を真っ赤にすると、

 

「う、うるせぇ! い、いいから教えろコノヤロー! キシャー!!」

 

 と、チベスナの後ろに隠れて気炎を上げだした。あ、チベスナは別にいいんだ……。

 ……とはいえ、チベスナ相手ならともかくツチノコ相手に下手なごまかしは通用しないよな……と思いつつ打開できる材料はないかと視線だけを巡らせていると、ちょうどよく棺のところにプレートを発見した。

 よく考えてみればジャパリパークの説明好きっぷり的に考えて、棺みたいないかにもなモニュメントの近くに何の説明もないわけがなかった。助かった……これ見て知ったって言ってごまかしておこ。

 

「これだよ、これ」

 

 言いながら、俺はプレートの方へ歩み寄る。どれどれ、プレートによると――、

 

「『王の間には石でできた棺のようなものがあるけれど、実物のピラミッドだと棺の中にファラオは入っていなかったんだ。ギザの大ピラミッドを作らせたクフ王の墓所がどこにあるのかは、今も分かっていないんだよ。歴史のミステリーだね』……らしいな」

「何を言ってるんだかさっぱりだと思いますよ」

「つ、つまり! 此処はパークの外にある遺跡を再現したものだってことかぁ!? なるほどなるほど……パークの遺跡にはオリジナルのものとっ、パークの外にある遺跡を再現したもののっ、二通りのものがあるってわけだなっ! つまりパークは種の保存の他にもヒトの文化を保存する役割も持っていたかもしれなくて、だとするとパークの全体の目的にある程度の統一性が…………いやでもほかの目的を帯びた遺跡もあるわけだから一概に()()()()()()()()が目的とは断言しづらくて……」

 

 おお……凄い考察力。俺はただ、実在の文化をコンセプトにしたアトラクションや博物館でも作ってるのかなーくらいにしか思ってなかったが……。

 と、そんな感心を込めてツチノコの方をじっと見つめていると、ツチノコの方も俺の視線に気づいたらしい。

 

「なななっ! なんだよお前! こっち見てんじゃねぇ!!」

「そんな理不尽な……」

 

 ちょっと呆れつつ。

 

「しかし、プレートがあるのに読んだりしないのな。ツチノコは字が分からないのか?」

「俺が分かるのはこのひらがなとカタカナくらいだ……。このぐちゃぐちゃした文字は読むことができん……。博士や助手もそんなもんだった気がする」

 

 あ、そうなんだ。というか博士と助手も漢字は読めないんだな。だからかばんに料理をわざわざ作ってもらってたんだろうか……。俺はてっきり火が使えないからだと思っていたが。

 そういえばジャパリパークのプレート、フリガナとか振ってないんだよな……。そこはかとなく子供向っぽい雰囲気出してるくせに。

 

「というか、漢字が読めるフレンズが異常なんだよ……。お前、いったいどこで文字を覚えたんだ? 例の異変前から生きてるフレンズでもない限りそんな……」

「あ!! チーター、ツチノコ、こっちにも問題があると思いますよ!」

 

 ……例の異変? と首を傾げかけたところで、もはや早々に俺達の話から興味を逸らしていたチベスナが、またしても絶妙なタイミングで話の腰を折る。今ちょっと込み合った話してるから後にしてくれないか?

 

「はやく! こっち! この中に何かあると思いますよ!」

「な、おい馬鹿下手に手ぇ突っ込むな! 貴重な遺跡の一部なんだぞぉ!!」

 

 ……が、ツチノコはチベスナのなんか暴挙っぽい行動に気を取られてしまったらしい。まぁいいか、後で聞けば。

 で、チベスナが発見したというアトラクションは――――。

 

 『箱』、だ。

 

 石……のようなプリントがされたプラスチック製の箱の両脇に、穴が開いている。チベスナの身体が邪魔だが、箱には……『中に何があるか、触って当ててみてね!』とある。あ、※印つきで『取り出してもいいけどちゃんと中に戻しておいてね』とも書いてある。これは………………。

 

「いよいよピラミッド微塵も関係ねぇじゃねぇかオイ!!」

「ひぃ!?」

「うお゜お゜あ゛あ゛っ!?!?」

 

 うわっびっくりした。

 自分が出した声にびっくりした声にびっくりした。

 

「な、なんだと思いますよ! チーター今日はチベスナさんが悪くないのに叫びすぎだと思いますよ!」

「ご、ごめん……」

「まっ、まったくだ! お、俺もびっくりしたぞ!」

「悪かった……」

 

 これは流石に完全に俺が悪かったので、素直に頭を下げる。……あ、耳が申し訳なさそうに垂れてしまった。そこはいいんだよ、別に……!

 …………でも、こればっかりはしょうがないと思うんだ。なんだってバラエティ番組でやるような『中に入っているものを当てましょう』的なのがピラミッドのアトラクションの一つとして登場してくるんだよ。完全におかしいだろ。

 

「ともかくっ! お前さっさと手ぇ抜け! 壊したら怒るぞ!」

「おー、これは……石だと思いますよ? 丈夫そうですね」

「聞けよぉ!!」

「まぁまぁツチノコ、これ、こういう遊びらしいから……説明文によると」

 

 そう言って宥めると、本来の遊び方がこういうものだと分かったからか、ツチノコも矛を収めてくれた。ふぅ、喧嘩みたいな感じにはならなそうでよかった。

 

「……でも、こういうのも再現なのか……? いや、ここまでのものとは毛色が違う気がする……」

「あー……」

 

 違う……と、俺は分かっている。途中に並んでいた絵画もこれも、ジャパリパークがピラミッドをアトラクションっぽくする為のアレンジだ。でも、それをツチノコに伝えると…………さっきみたいに面倒なことになるからなぁ。

 

「うーん、なんなんでしょうこれ。ちょっと分からないと思いますよ」

「じゃあどいてろ。俺が調べる」

 

 そう言うと、ツチノコはギブアップしたチベスナを脇に移動させて箱の前に立つ。お、ツチノコもやるのか……と思いながら横からツチノコの様子を見ていると、スゥ……とツチノコの顔に影が差し、目が青く、フードの飾りが赤く、仄かに光り始めた。

 

「野性解放……!?」

「違げぇーよ」

 

 一瞬身構えた俺だったが、ツチノコはあっさりとそれを否定する。

 そして遅れて、俺の思考も追いついた。

 というのも、ヘラジカの野性解放を見て気づいたんだが、野性解放の時の目の輝きって、瞳の色に準じるんだよな。それで言うと、ツチノコは濃い鶯色の瞳をしているから輝くとしたら黄色系になるはず。

 だが、今のツチノコの瞳の輝きは髪の色と同じような青。つまり、野性解放の輝きとは違うってわけだ。となると……、

 

「これはピット器官! ……と言ってだな。なんというか……赤外線を見れるんだ。これがあればわざわざ壊したり触ったりしなくても中のものを確認できるんだ! 遺跡探索でもよく使っててだな……」

「はぇー……よく分かんないと思いますよ」

「……! くそっ、チーター!」

「要するに、隠れてるものも見えるってことだよ」

「おお、それは凄いと思いますよ。最初からそう言えばいいと思いますよ!」

「言ってるんだよっ!!」

 

 はっはっは。これがチベスナだ。今度からはもうちょっと分かりやすい言葉で説明すべきだな。

 まあ、要するに体温感知とかもできるわけだ。……あれ、その理屈だと熱を持たない無生物は感知できないような……いや、細かい熱伝導率の違いとかで読み取れるってことなんだろうか。まぁ、チベスナがさっきまでべたべた触ってたから温度の面では問題ないと思うが。

 そんなツチノコはじっと箱の中を見つめていたが――、

 

「これは……なんだ?」

 

 と、首を傾げてしまった。あれ、分からなかったのか。

 

「多分、何かのミニチュアだと思うが……」

「形状は?」

「うーん、見た感じ、フレンズ化する前の動物……か……? 四足歩行のけものっぽい感じだな。うつ伏せになっているってことは分かる……が、後のことは……温度からじゃなんともだな……」

 

 むしろ、それだけ分かってれば自然界では十分のような気もする。まぁ、答えは見ればすぐ分かるんだろうが……。

 と考えながら、俺は箱の側面に立てかけられた板に手をかけ、

 

「? チーター何して、」

 

 ずっ、と引っこ抜く。

 まぁ、考えてみればすぐに分かることだろう。

 中に入っているものを当ててみる、っていうアトラクションで、中に入っているものを取り出さないと正解が分からないというのは少し煩雑だ。材質は壊れにくいものを選ぶとしても、何度も繰り返し出したりしまったりしていれば壊れるリスクは高まる一方だしな。

 というか、この手のクイズって基本こうやって中のものが見えるようになる仕様なことが多いし。

 

「うおわあ゛あ゛ぁぁぁ!! 何してんだお前ぇ!!」

「ひわっ!? ツチノコも突然ほえるのはやめた方がいいと思いますよ!」

「あー心配するな。これはこういうものなんだよ。ここに矢印が書いてあるだろ」

「だからってお前……お前……お前ぇ……!!」

 

 まぁそう怒るなって。

 さて、実際の答えは、っと……。

 

「……これか」

 

 箱の中に入っていたのは、スフィンクスのフィギュアだった。それも、表にあるようなジャパリパーク風のアレンジが入ったものではなく、ちゃんとした(?)ちょっとボロい感じのスフィンクスである。

 

「あー、これはさっき見たやつですか? そっくりだと思いますよ」

「いや全然そっくりではないが……」

 

 まぁ、フィギュアとか見たことなくて目が肥えてないフレンズ達からすれば、色と形が大体似ていればそっくり扱いになるのかもしれないが。

 でもこんなもの見つけたらツチノコがまたうるさくなりそうな……。

 

「これは……なんだ? なんの為の道具なんだ……?」

 

 ……あれ、反応がなんかおかしい。なんというか初見のものを見たようなリアクションだぞ……? 確かコイツ、三か月間この遺跡を調べてるんだよな? それなら当然スフィンクスだって何度も見ているんじゃないのか?

 

「外にあったスフィンクスのミニチュアだろ。ツチノコも見たんじゃないか?」

「は? 外ぉ?」

 

 ツチノコは思い切り首を傾げる。

 なんだか話が読めてきたぞ。

 

「外なんか……オレは知らん。大体さばくちほーは爬虫類のオレには暑すぎる……お前らは哺乳類だがそこのところはそうだろ?」

「それはそうだと思いますが、チベスナさん達はその外から来たと思いますよ」

「はぁぁ!? てことはお前ら、本当にそのタオルで直射日光を抑えるだけでここまできたっていうのか……?」

「あと、日が昇り切らない時間帯から急いでここまで来たっていうのもある」

 

 そう言うと、ツチノコは辛うじて納得したようだった。

 しかしこのツチノコの言いっぷりからは、ある事実が読み取れる。

 つまり、ツチノコは砂漠の()を普通に歩いてこのピラミッドに来るのは現実的ではない――と思っているということ。

 であれば、ツチノコはそれ以外の方法をとってこのピラミッドまでやってきたということになる。たとえば――――。

 

「はぁー……やっぱり変わったフレンズだなお前ら。そんな場所行かなくても、地下道から行けば楽ちんなのに。地下道はいいぞー……ひんやりしてて暗くて。オレは基本そこで暮らしてるからな」

 

 地下道。

 やはり、ツチノコは地下道を経由してピラミッドにやってきていたらしい。地下道を活動の拠点にしていたならこの暑さの厳しい砂漠地方でツチノコが地下迷宮やらピラミッドやらいろんな場所に行けていたのにも納得だ。植物園は……地下道への入り口が崩落する前に訪れたんだろうか? そう考えると、あそこが崩れたのって意外と最近なのかもしれないな……。

 

 ともかく。

 ツチノコが地下道を経由してここに来たというのであれば、俺達としては取りうる選択肢は一つしかなくなる。

 

「ツチノコ、お願いがあるんだが」

「あぇ? なんだぁ?」

「地下道……案内してくれないか?」

 

 ツチノコに、地下道の案内を頼む。

 情報は宝なり。図らずも、王の間で一番欲しかった宝物を手に入れてしまったな。




一挙生放送でツチノコが出てきたとき、ヘビ博士ネタが続々湧いてきてたのがとても面白かった覚えがあります。

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