前話のあとがきに掲載しておりますので是非ご覧ください。
なお、支援イラストの掲載方法を変えました。詳しくは活動報告で。
「いつもはチーターがちずを持ってるから、今日はチベスナさんが持つと思いますよ」
言いながら、チベスナは地図を覗き込む。
いや、チベスナ地図の見方とか……と一瞬思ったが、よく考えなくてもいつも俺と一緒に地図見てたわけだし、流石に見方くらいは分かるわな。それにここの地図くらいなら大きさもさほどじゃないし。
「じゃあそれでいいとして……どこに行く?」
「そうですね……」
地図には三つ、ちょうど左上、右上、右下の角の近くに赤い点が打ってあって、俺達はその点のない最後の角――左下の角にいるような状態だ。つまり、どこの赤い点に向かうにしても多少動かなくてはならない。
それ自体はいいのだが、当然ながら施設内は部屋割りがされているので単純に『赤い点の方へ直進できる!』という話でもないのだ。なんというか、ちょっとした迷路みたいな話だな。
チベスナがやるというので、余計な口出しはしないが。
「うーんと、まずはここ! みぎのほうの角に行こうと思いますよ」
「うむ」
チベスナはそう言いながら、右下の角の近くにある赤い点を指差し、歩き始める。
そっちの方へ歩き出すと、ほどなくロビーを抜けて通路――おそらく廊下に出た。
道幅はそこそこあり、俺達が並んで歩いてもそこまで手狭には感じないほどだ。もっとも、さっきのスイッチでついた照明はロビーのものだけだったので、廊下の方はまだ暗いが。
「ぽちっとな」
チベスナが照明のスイッチを見つけて押す。
ぽちっとなてお前……なんでそういう語彙は意外と豊かなんだよ。
「んー……なんとなく、じゃぱりしあたーを思い出すと思いますよ?」
照明のついた施設の廊下を見渡して、チベスナは呟く。
確かに、現代的な雰囲気はどこかジャパリシアターに通ずるものがある。床はリノリウム張りだし、壁もザ・研究所って感じの現代的な材質で、ジャパリシアターのどことなくレトロな雰囲気とは違うが、どちらも『文明的』という点では共通しているしな。
「……しかし、けっこう部屋数はあるんだな」
チベスナに続いて歩きながら、俺は感心していた。
廊下にはいくつも扉があり、ここに多くの宿泊者がいたことを思わせる。地下施設という事実とデザインからなんだか研究所みたいだと思っていたが、こうしてみると『研究所の素材で作ったホテル』といった方がいいかもしれん。
なんというか、『研究所みたいなコンセプト』のホテルみたいな。まぁ、テーマパークとしてのジャパリパークでそんなコンセプトをわざわざやる意味もないので、やはり従業員用の宿泊施設というので間違いはないと思うが。
「チーター、こっちの扉とか見なくていいんですか?」
「あ? ああ、そうだな……」
のんびり施設を眺めながら歩いていると、先行していたチベスナが立ち止まってこっちの方へ首を傾げていた。
言われてみれば、あんまり中を見ようとかは考えてなかったな……。いや、ここがアトラクションなら見ようという気にもなったんだが、従業員用の宿泊施設かもってなると、ちょっとな……。下手に探したりして変なもの見つけてもいやだし、それにいくら遠い昔にいなくなった連中とはいえ、プライバシーってもんがあると思うし……。
と思いつつも扉の方へ視線を向けて、俺は思わず目を丸くした。
「えっ、カードキーかよ」
そう、カードキー。
なんと、扉にはカードキーを差し込んで開けるものと思しきカードリーダーが設置されていたのだ。なんたるハイテク……。
改めて思うけど、ジャパリパークができた時代って俺の前世の時代と比較してどのくらい未来だったんだろうな……。二〇二〇年代とか二〇三〇年代の技術じゃあんな大きな動物園を作るのって不可能だと思うぞ。
「かーどきー?」
「なんかこう……薄っぺらい紙みたいなのを……しゅっと通すと開く鍵のことだ」
「ほぇー……」
あ、伝わってない。
まあいいか。別に開けなきゃいけないもんでもないし。
ということで、探索続行。
「でも、鍵がかかってるんならそれは困ったと思いますよ」
「あん?」
「だってそうじゃないですか。この赤い点が描かれてる部屋だって、もしかしたら鍵がかかってるかもしれないと思いますよ?」
「ん? ああ……そういえばそうだな」
チベスナの言葉に、俺は頷く。
まあ、こうして宝探しの体をとらせている時点でそれはないと思うけどな。あったとしても、どこかしらにカードキー自体を隠したうえで鍵をかけてるだろう。
「ええ……もしそうだったらどうすると思いますよ? 扉壊しますか?」
「すぐ実力行使に出るのやめろよほんと!」
カメラもお前そんなノリで攻撃してたじゃんか。
「まあ……心配しなくても、宝探しなんだから探せば見つかるようにはなってるだろ。お前は気にせず探索に集中しな」
なんてことを話しながら歩いているうちに。
俺達の目の前に、目的の場所が現れた。
廊下の突当り、その一番奥にあるその部屋は――――扉が、しっかりと開いたまま固定されていた。
……ほらな?
「わー! 第一ポイントだと思いますよー!」
「おい、部屋の中は暗いんだからそんな急ぐなよ……」
後ろから声をかけるも、チベスナは全く気にせず部屋の中に突貫していった。俺もそれに続いて部屋の中に入り、壁を適当にバンバンして照明のスイッチを入れる。
「……これは……」
ぱっと明かりのついた部屋は、どうやら誰かの私室のようだった。
部屋にはベッドと机と本棚があり、ちょっと手狭な印象。本棚の中はすっからかんになっていて、見た感じ埃が結構積もっていた。
「あ! チーター見てください。あそこに段ボールがあると思いますよ」
「お、ほんとだ」
チベスナが指さした先――ベッドの横、部屋の隅に、抱えられるくらいの大きさの段ボールが置いてある。蓋はされていないようで、中に入っている……なんだ、これは? 宝石みたいなアクセサリーの山が照明を反射して輝いていた。
「おお……なんか綺麗だと思いますよ! なんですこれ?」
「なんだろうな……。パークの土産物か?」
言ってみるが、自分で言って自分で首を傾げてしまいそうになった。だって、土産物になっているんなら、今までの売店のどこかで見かけるはずだが……こんなもの見たことないしなぁ。一体なんなんだろうか。
「……ん?」
と、そこで俺は机の上に一枚の紙を見つけた。
『おみやげだと思いますよ?』とか言いつつアクセサリーの山の方へ向かったチベスナをよそに、俺は机の前まで移動して、紙を手に取った。そこには、こんなことが書かれていた。
ようこそ、ちかジャパリけんきゅうじょへ!
われわれは じゃぱりけんきゅうだん。ここに オタカラを かくさせてもらった。
ろびーには もういったかな? そこに ちずがあるから、ぜひとも さがしてみたまえ。
とびらに かぎが かかっていても こわしては だめだぞ! カードキーが あるから それをさがすのだ!
「……………………えぇー」
なんていうか……なんだこれ。
まずこれ、地下ジャパリ研究所っていうのは嘘だろ。だって研究所にしては研究機材とかここまで一切なかったし。ここもただの私室だし。
多分研究所だのなんだのというのは、この空間をアトラクションっぽく見せるための方便。多分、フレンズを楽しませるための仕掛け……みたいな感じなんだろうな。
この手紙……多分、フレンズに読まれることを前提としてるし。
まぁ、ここに来るまでに重い鉄扉を持ち上げないといけない時点でこの手紙を読めるのがフレンズだけなのは分かり切っているんだが、わざわざ『扉を壊すな』と忠告しているあたりチベスナのようなフレンズの存在を考慮して、宝探しを本格的に始める前に読ませたかったのは間違いあるまい。
とすると、多分この手紙は文字が読めるフレンズがいた時代……多分、パーク運営時の名残といったところか。なんでこんなもんを残してたのかは、ちょっとよく分からないが……。
「チーター、これどうしようと思いますよ?」
うーんと悩んでいると、チベスナが段ボールを持ちながら俺の方へ問いかけてくる。
「別に持っていっちゃっていいんじゃないか? 見つけたお宝なわけだし……」
「ですよね! ボスもいないしもらっていっちゃおうと思いますよ!」
「まあいいけど……」
ソリがあるから持ち運びも簡単だし、段ボールに入ってるから保管もしやすいし。
「にしても、不思議だな……」
チベスナの持つ段ボールから一つ、アクセサリーを摘まんで、ぽつりとつぶやく。
アクセサリーは色んな色のものがあり、俺が摘み取ったのは青色のものだった。外観は大きな丸いビーズといった感じで、大きさはゴルフボール大。
色がついているので分かりづらいが、中には虹色の結晶のようなものが埋め込まれているようだった。
「チーターもこれがなんなのか分からないと思いますよ?」
「ぜんぜん」
重さからして周辺の材質はほぼ確実にプラスチック。でも、中に入っている結晶の輝きはラメとかでは説明できないものだし……。
なんか高価なんだか安物なんだか、印象がちぐはぐなんだよな……。
「なんだ……使えないと思いますよ」
「お前、今自分の両手が塞がってるという事実をもう少し重く見た方がいいと思うぞ?」
頬をぺしぺし叩くという攻撃だってできるんだからな、おい。
そんな感じで、自称研究所を漁ること一時間と少しくらいだろうか。
「……なんとか全部集めたが……」
ロビーに戻ってきた俺達の目の前には、三つの段ボール箱が転がっていた。当然、どの段ボールも中にはアクセサリーが山と積まれている。
途中、カードキーを探す必要があったりしたものの、概ね探索で問題はなかった。流石にチベスナも施設を壊すようなヘマをしでかすはずもなく、まぁ地図の見方が分からなくて迷子になることは何度かあったが、それも俺が軌道修正して何とかなるレベルだったし。
そんなわけで、特に手こずることもなく、宝探しは完結した。
が。
「……結局、このイベントはなんだったんだ……?」
という疑問だけは、最後まで解決しなかった。
結局あの手の手紙みたいなのは最後まで出てくることもなく、アレを書いたヤツが俺達に宝探しをさせたかった意図も分からずじまい。いったいなんだったというのか。
何がなんだかさっぱり分からなかったので、アイテムを手に入れることはできたが俺としてはただただ徒労感ばかりがたまっていく時間だった……。
「まぁまぁチーター。色々もらえたからよかったと思いますよ。そんなに気にしなくてよくないですか?」
「そうかもしれないがなぁ……」
パークの従業員がやったことなら、実はあのアクセサリーがとんでもない罠でしたみたいなことにはならないと思うし、そういう意味では気にしなくていいのかもしれんが……。
うーん、まぁ、いい……のか?
「さ、そんなことより、さっさと外に出て先を急ぐと思いますよ。まだ日没には早いですし」
「……だな」
チベスナの先導に応じて、俺は照明のスイッチを消し、そして真っ暗な中、地上へと続く階段を上り始める。
「……」
そうして外に出た後、鉄扉を閉める前に俺は一度、今出て行った従業員用宿泊施設の方を振り返った。
アニメで見たミライさんの映像メモが正しければ、パークから退去することになったパークの従業員たち。
彼らが生活していた場所にあった、フレンズに宛てたと思しき大量のアクセサリー。
……これを遺した連中は、いったいどんな思いでこの島を去ったのだろう。
「……さ、行くか。日が沈むまでに適当なロッジを見つけるぞー」
「了解と思いますよ!」
そんなの俺には分かりっこないんだけども。
まぁ、精一杯楽しんでやれば、遺した側としても本望だと思ってくれるだろうか。
今回手に入れたアクセサリー達のヴィジュアルはGB四巻をご参照ください。
アニメ時代のジャパリパークで稀に出土することのあるもので、パーク運営時代にお土産品として売られていたものだそうです。