畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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今日がアニメ放送開始一周年でした。


七六話:黄金の林檎

「ちなみに、アミメキリンはどういう場所が探偵の修行に相応しいと思う?」

 

 修行場所を探すために歩き始めながら、俺はアミメキリンにそんなことを問いかける。

 最終的にはアリ……アリなんとかって鳥のフレンズのロッジに辿り着くんだろうが、別にそこまで俺達が面倒を見ないといけないというわけでもなし、とりあえず現状でアミメキリンが満足する修行場所さえ見つければいいだろうという考えである。

 ……あ、そうだ。アリツカだ。ロッジ・アリツカだから、アリツカゲラのロッジだ。

 

「え? どんな場所? そうねえ、事件が起きる場所かしら」

「またばくぜんとしていると思いますよ……」

 

 とりあえず何も思いついていないことがまるわかりなアミメキリンに、チベスナが真っ当にツッコミを入れる。確かに。事件が起きる場所と言われても『パークなんてどこも何かしら事件が起きてないか?』というのが俺の旅をして来ての素直な感想である。

 

「と言われてもなあ……パークはどこもかしこも事件まみれだぞ? チベスナの言う通り、ちょい漠然としてるな」

「え!? 本当!?」

 

 ということでそう言ったのだが、アミメキリンは逆に俺の言葉に『具体的にどんな感じ!?』と言いたげな種類の興味を示してしまった。

 まぁ、具体例を混ぜながら説明するのも大事だしな……。旅の話をするという話でもあったので、ちょっと恥ずかしさを感じつつも旅の話をしてやることにする。

 

「そうだな……あれは平原地方だったか。ヘラジカってフレンズの群れの縄張りに遊びに行ったら、決闘をすることになってな」

「決闘……事件のニオイがするわ……!」

「だから俺が経験した事件の話をしてんだよ!」

 

 事件の話をしてるんだから、導入から事件の匂いがするのは自明の理だよなぁ!

 

「ま、ぶっちゃけ事件ってほど事件でもないんだが……。真っ向からの決闘が嫌だった俺は、チベスナを巻き込んで二対二のタッグバトルをすることにしてな。敵はヘラジカとシロサイ。防御力の高いフレンズで、まともに戦えば、俺たちに勝ち目はなかった」

「ど、どうやって切り抜けたの……?」

「結論から言えば切り抜けられなかった」

 

 というのは、横で思い出しむすっと顔を披露しているチベスナも知っての通り。

 

「ええ!? それはおかしいわ! だって今アナタはここにいるじゃない! アリバイがあるのよ!」

「アリバイはそういうものじゃないからな」

「完全犯罪だと思いますよ!」

 

 チベスナは黙ってなさい。

 

「種明かしをすると、俺はそのとき、チベスナを担いで戦ってたんだ」

「担いで? なんでそんなことしたの? そんなことしたら邪魔でしょ?」

「いや。むしろ担ぐことで一人分のスペースしかとらなくなるから、動きやすくなるんだ。チベスナは軽いし」

「動きやすくなったのはチーターばかりだと思いますよ……」

 

 チベスナの恨み節は聞き流しながら、

 

「で、チベスナを担いだ俺が二人相手に有利に立ち回ったら……アミメキリン、お前ならどう思う?」

「ずるいわ! 反則よ!」

「ああ、うん……」

 

 そういう発想もあるのか……。確かにタッグなのに片方を担ぐって、一歩間違えば反則って言われかねないか。ヘラジカ組が馬鹿でよかったなぁ……。

 

「ま、まぁそのときの二人は、ずるいって思う前に『自分たちもまねしよう』と思ったわけだ」

「なるほど! 確かに同じことをすれば同じ条件だものね!」

「ところがどっこい……そのときのヘラジカのタッグ──シロサイはとにかく重いフレンズでなぁ」

 

 そこまで言うと、アミメキリンも俺の言いたいことを理解したらしい。

 

「重さで、ヘラジカは勝手にダウンしちまったってわけだ」

「大勝利じゃない! やっぱり切り抜けられなかったなんて嘘でしょう! 名探偵であるわたしにはオミトオシなのよ! 吐きなさい!」

「いや、ヘラジカがダウンしたのはいいんだが、チベスナもダウンしちゃってな……」

「チーターがあんまり速く動くものだから、チベスナさんはおなかが苦しくなったんだと思いますよ!」

「ごめんごめん」

 

 再燃したチベスナに謝っておく。いや本当に、あれは悪いことをした。ちゃんと背負っておけばなー……。

 

「ちなみに、あそこはなんかの神社の跡でな、ああ神社っていうのは……、」

 

 そんな感じで、俺はヘラジカ組の縄張りについて話を始める。

 …………今更思ったんだが、別に俺達が旅の中で色んな地方を経験してきたからといって、その場所を教えてもアミメキリンの修行場所のヒントにはならないような…………。

 ……まぁいいか。

 

の の の の の の

 

ろっじ

 

七六話:黄金の林檎

 

の の の の の の

 

「──という感じだな。参考になったか?」

「うーん……じんじゃ? っていうのは面白そうだと思ったけど、もう廃れちゃってるのよね? なら事件にはならないかしら……」

「それもそうか……」

 

 そんな感じで歩きながらヘラジカたちの住処について話していた俺だったが、肝心のアミメキリンからの反応はあまり芳しいものではなかった。神社の廃墟って、けっこう雰囲気あるというか、サスペンスの導入的にちょうどいいと思うんだけどなぁ……。廃墟ってけっこうフレンズが住み着いてそうだし、そういう意味ではフレンズが巻き起こす事件が絶えない場所でもあるだろうし。

 んー、事件が起きそうな場所……場所……。

 

「あ、チーター」

 

 考えながら歩いていると、不意にチベスナが声を上げた。

 

「なんだ?」

「事件といえば、あれだと思いますよ。チーターがえいがを撮ってた時!」

「そこから始まる事件は枚挙に暇がなさすぎてなんのことかさっぱり分からんぞ……」

 

 毎回のように事件が起きるからね。

 

「だから! あれだと思いますよ! あれ!」

 

 言いながら、チベスナは頭のあたりに手をやっている。んー? 頭……ああ、ターバン。タオルターバンか。ってことはピラミッドのこと言ってたのか。分かりづら……。

 

「っつか、ピラミッドのアレは事件っていうかなんていうか……」

 

 マジのホラーっていうか……幽霊疑惑。

 

「え!? 何何!? 何かあったの!?」

 

 そんなことをチベスナとやりとりしていると、アミメキリンがついに食いついてきた。俺あの事件はちょっと……幽霊とかマジ勘弁だしあんまり思い返したくもないんだけども……。

 

「ふふん。ぴらみっどというアトラクションで、ゆーれーに出会ったんだと思いますよ!」

「何それ? 事件のニオイがするわ……」

「事件だと思いますよ!」

 

 まぁいいや。チベスナに解説を任せて俺は適当に地図で事件っぽいイメージがする場所を見繕おう……。事件っぽいイメージがする場所って、自分で言ってて意味分からんが。

 

「ツチノコと一緒にえいがを撮ってたと思いますよ。そのとき偶然かめらに映ってたと思いますよ」

「ツチノコって何? 犯人?」

「ツチノコは犯人ではなく犠牲者だと思いますよ!」

 

 んー……このあたり、やっぱロッジ地帯というだけあって、ロッジが多いな……。ちょっと歩くだけの範囲に泊まれる場所が五、六個はある。川沿いの小屋とかもあるのか……。

 

「ぎ、犠牲者……!? そんな、いったい誰がそんな……」

「ふっふっふ……それはですね、」

「あ、待って! 名探偵であるこのアミメキリンが推理を、」

「めんどくさいと思いますよ! 犯人はゆーれーだったと思いますよ!」

「あー! あー!!」

 

 うるせー……。

 ……で、地図を見た感じ他にも色々……お? なんだこの『ジャパリホテル』って。こんなガッツリな感じのホテル、仮にも動物園なジャパリパークに建てちゃっていいのか? 地図の絵を見た感じ、かなり近代的なホテルっぽいが……。

 んー、近代的な感じ=事件の匂いってことで、ここならアミメキリン的にもいい感じなんじゃなかろうか?

 

「おい馬鹿二人」

「馬鹿とはなんだと思いますよ!」

「そうよ! 訂正しなさい!」

「いいから。目的地決まったぞー」

 

 そう言うと、二人はぶーぶー言うのもやめて俺の目的地発表に備え始めた。静かになったのを確認した俺は、先ほど発見したホテルのことを二人に伝える。

 

「ここだよ、ここ。このホテル。ここなら色々な事件に繋がりそうなものがあるんじゃないか?」

「そうなの?」

「チベスナさんに聞かれても分からないと思いますよ」

 

 方針決定に関してお前らに意見を求めた俺が馬鹿だった……。

 

「ともかく! そういうことだからこのホテルに行くぞ! いいな!」

「はーい」

「分かったと思いますよー」

「なんか張り合いがないなぁ……」

 

 もうちょっとこう、ホテルってどんなものなの!? みたいな感じに興味を示してくれてもいいのに。特にアミメキリン、お前の為の新しい住処さがしなわけだしさぁ……。

 そんな感じでちょっと肩を落としつつ、俺は二人を案内して歩き始める。

 ……しかしホテルねぇ。いったいどんな感じなんだろうか。

 

の の の の の の

 

「………………なんだこれ…………」

 

 で。

 実際にホテルに到着した俺は、思わず目の前に広がる惨状に固まっていた。

 俺達の目の前にあるホテルの外観は──端的に言うと、果物を模していた。その見た目はカットされた縦長のオレンジ……だっただろうことが見て取れる。

 過去形なのは、そのオレンジがところどころ破損しているからだ。先端部分の尖った箇所は劣化のせいか崩れ落ちており、コンクリートの部分を露出させている。

 オレンジ色の壁面はところどころ塗装が剥がれていたり、あるいは蔦らしき植物が這い回っており、此処が遺棄されてからかなりの月日が経っているだろうことを想起させた。

 

「おー、なんだかけっこうぼろっちいと思いますよ」

「そうなの?」

「だな……」

 

 なんというか、今までもパークの施設が寂れている様は一度ならず見てきているからそういう意味ではそこまでインパクトもないんだが、なんというかなぁ……。

 ヒトが住んでいたであろう場所がこうも廃れていると、ああ、本当に此処ってヒトがいないんだなぁと実感させられる。

 

「外はこんな感じでも、中はどうなってるか見てみないことには始まらないが」

「ふふん。ここがこのアミメキリンに相応しいか……早速調査開始というわけね!」

「早速チベスナ探検隊出発だと思いますよ!」

「違うわよ! アミメ探偵団よ!」

 

 早速言い争いになった馬鹿二人を背に、俺はオレンジを模したホテルへと足を踏み入れる。

 

 ──あえて言わせてもらうならば。

 この時俺は、引き返しておくべきだった。

 もしもこの時引き返していれば、あのとき、あんなことにはならなかったのに…………。




オレンジは別名『黄金の林檎』らしいですよ。

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