畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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八二話:ロッジ劇団撮影風景

 その後、オオカミ先生たちとお喋りしていた俺とチベスナは、ほどほどのところでロビー的な部屋へと移動した。

 目的はもちろん、ジャパリまんを回収するためである。

 どうもこのロッジ・アリツカはボスがジャパリまんを運搬してフレンズに配っているのではなく、ロッジにまとまった量を提供して、保管してあるジャパリまんをフレンズが各々好きなタイミングで食べたりするとのこと。

 ジャパリまんを食べに行きたい旨を話したところ、オオカミ先生たちもひとまず休憩しようかという話になり、一緒にロビーへ向かうことになった。

 その道すがら、

 

「……という感じで、たま~にフレンズさんが黙って夜にジャパリまんを持って行ってしまうことがあるんですよね~」

「勝手に持って行っちゃいけないんですか?」

「ん~、ダメというわけではないんですけど、なくならないように、毎日数を数えてるので……。おかしな時間に減ってるとびっくりするというか~……」

「──フフ、実はそれは、食いしん坊のセルリアンが真夜中に……!」

「はわわわわ」

「も~、オオカミさんはまた~」

「あはは、冗談だよ、冗談」

 

 ロビーでごはんということで、俺達はそんなことを話していた。

 アリツカゲラが言っていたの、もしかしなくてもアニメのサーバルみたいなアレだよな……。具体的にどういう話の流れだったかは忘れたけど、夜のうちにジャパリまんをつまみ食いして、翌朝かばんに速攻でバレた流れは覚えてる。

 そういえばあっさりその話は流されてた気がするけど、フレンズ的にはよくとは言わないまでもそこそこある話だったのか。言われてみればフレンズだし、勝手に持って行っちゃうくらいはやってもおかしくない気がする。チベスナあたりなんて、多分持って行っても悪びれることすらしないだろうし。

 

「そういえば、今日はまだジャパリまん食ってなかったな」

 

 その話の流れで、今日はアミメキリンと一緒にバンガローを出発してから、一度もラッキーに出会っていないことに気付いた。ラッキーに出会っていないということはすなわちジャパリまんを食べていないということである。

 今日は朝からオレンジホテル探索したり砂浜で城を作ったりしていたので、すっかり忘れていたが……。

 

「確かに。そう言われると急におなかがすいてきたと思いますよ」

「ということは、ナイスタイミングでしたね~」

 

 プラシーボ効果の権化と化したチベスナが俺のボヤキに同調したところで、俺達を先導してくれていたアリツカゲラがそう言って立ち止まる。

 見ると、既に目の前にはロビーがあった。受付前の待合エリアみたいなところのテーブルの上には、カゴに入ったジャパリまんがいくつも乗っかっている。

 テーブルが二つ、椅子は一つのテーブルにつき二つという具合なので、椅子をズラせば全員座ることができそうだ。

 

「しかしこうやってジャパリまんが置いてあるというのは、なんだかじゃぱりしあたーを思い出すと思いますよ」

「ん?」

 

 俺が椅子を動かしていると、動かした椅子にどかっと座りながらチベスナがそんなことを言った。

 ジャパリシアターもロッジみたいな感じでラッキーがジャパリまんを供給していたのか? いや、ラッキーの行動パターンを考えたら当然の帰結かもしれない。

 ラッキーがジャパリまんを複数配置するというのは、そこにフレンズが多く集まりうる場所だからというのが理由として一番考えられる。ではその『フレンズが多く集まりうる場所』をどうやって判定しているかだが……『パーク運営時に人が多く集まる場所として運営されていた施設』かつ『フレンズが実際に住み着いて管理していること』が条件設定されているのではないだろうか。

 その理屈で言うと、ジャパリシアターは映画館なのだから運営時には色んな利用客やフレンズが遊びに来ていたことが想像できる。そしてチベスナが住み着いているわけだから、一応『管理している』と言えるかもしれない。

 まぁ実際にはチベスナが住み着いているだけで他のフレンズとかもあんま来なかったんだろうけど、そこは条件だけ見てしまうラッキーの弱点というかなんというか……。

 多分、そんな感じでジャパリシアターにもラッキーがジャパリまんを置いて行ってたんではないだろうか。死ぬほどどうでもいい推察だが……。

 

「じゃぱりしあたー、ですか~?」

「ええ。チベスナさんとチーターのもともとのなわばりだと思いますよ」

「俺は住んでたわけじゃないけどな」

 

 出会って即日で旅に出たわけだし。

 

「そういえば、二人は旅しているんだったね」

「ええ~、旅ですかぁ。わたしは一つの場所にいるのが好きなので、真似できませんね~」

「まぁ、俺らもアリツカゲラみたいに一つの場所をしっかり管理できる自信とかないし、そこんところはおあいこだよな」

 

 『フレンズによって得意なことは違う』、だ。普通に考えて、一人(チベスナはあてにならん)で映画館レベルの建物を管理できる気がしないし、ロッジなんて不特定多数が使う場所を管理するのなんかフレンズになって膂力その他が向上していると考えても無理無茶無謀な気がする。

 それができるのだから、アリツカゲラのまめな性格は本当にすごいと思うよ。

 

「でも、チベスナさん達も旅が終わったらじゃぱりしあたーを色々盛り上げていかないといけませんし。チーターが頑張らないとダメだと思いますよ」

「オメーも頑張るんだよ」

 

 何を他人事みたいに言ってんだ。むしろお前がメインになって頑張るのがスジまであるからな? いや、チベスナにそこまでを求めるのは酷だというのも分かっちゃいるが。

 

「ちなみに、このろっじはフレンズが泊まる場所だけど……そのじゃぱりしあたーというのは何をするところなんだい?」

「じゃぱりしあたーではいろんなえいがが見れると思いますよ。チベスナさんはそこでむーびーすたーとなることを決意したのです……ふふん」

「えいが……どんなものか気になるね」

 

 お、オオカミ先生がここで映画にリアクションを示した。

 そういえば映画を作ってるってことは話したが、具体的に映画というのがどういうものかは説明せずにここまで来てたな。

 

「映画っていうのは、簡単に言うと『動く漫画』だな」

 

 ジャパリまんを頬張ってから、俺はおそらく一番相手に伝わるであろう説明を言った。

 

「『動くマンガ』?」

「ああ。漫画みたいなストーリーを作って、フレンズが実際にその動きを演じる。その様子をカメラで撮影する……って感じだな」

「なるほど、マンガよりも大変そうだね……」

「漫画の方が大変だと思うが……」

 

 下書きしてペン入れして図書館まで行って文字入れて……って考えると、ストーリーを考えてそれを演じてもらうだけで済む映画撮影の方が楽な気がする。単純に慣れの問題のような気もするが。

 

「興味があるなら、一緒にえいがをやってみるといいと思いますよ!」

「お。面白そうだねぇ。是非やらせてくれないか?」

 

 そう言いながら、オオカミ先生は俺に確認をとってくる。

 まぁ、チベスナがやるって言うんだから俺としては異論もないし。ただ、オオカミ先生と会ってからずっと『やりたいこと』があってな……。今回はそれを実践させてもらいたい。

 

「じゃあ、ちょっと時間をくれないか」

 

 そう言って、俺は準備に入った。

 

の の の の の の

 

ろっじ

 

八二話:ロッジ劇団撮影風景

 

の の の の の の

 

 ──夜のロッジにて、二人の少女が向かい合って座っていた。

 一人はチベスナ。木の枝をパイプのように咥えて、腕を組んで目の前の少女をじいっと見つめている。

 もう一人はアリツカゲラ。居心地悪そうに、縮こまりながら座っていた。

 

「……アナタは、昨日の夜どこにも行っていなかったと思いますよ」

 

 そう言うチベスナは、目の前の『獲物』を静かに追い詰める、狩人のような眼光を光らせていた。

 なお、チーターとタイリクオオカミはこの場にはいない。

 というのも──この撮影、脚本はタイリクオオカミが書いたものなのである。カメラ撮影や全体の仕切りはチーターがやっているが、今回に限っては監督はオオカミがメインとなってやっている。チーターにとっては、最初のへいげんちほー以来の複数監督での撮影だった。

 

「うう、それは……」

「その証拠は揃っていると思いますよ! にも拘わらず、アナタは外に遊びに行っていたと嘘をついた……そのどーきは、チベスナさんにはまるまる御見通しだと思いますよ!」

 

 ばしーん! と指をさして、チベスナは宣言する。

 アリツカゲラはその勢いに思わず縮こまってしまった。それによって、大勢が決したと言ってもいいだろう。チベスナはさらに勢いづきながら、こう続ける。

 

「そのどーきとはもちろん! パークのゲートにセルリアンを集めて、フレンズ達を困らせたことを知られたくなかったから! しかしあさはかでしたね……チベスナさんはそんないんぼーなど簡単に見抜けるのです!」

「そ、そんなことは……うぅ……」

 

 アリツカゲラはなんとか言い返したいようだったが、チベスナの剣幕と抑えられているらしい『証拠』のせいで強く出られないようだった。相手が反論できないのを見て取ったチベスナはにんまりと笑って、

 

「さあ! ハンターたち、かのじょをれんこーするといいと思いますよ!」

 

 チベスナがそう号令をかけると、手が空いていたタイリクオオカミふんするハンターにアリツカゲラが連行されていく。

 それを見届けてから、チベスナは一人になったロッジの中でぽつりとつぶやく。

 

「ふふん……おそらくかのじょは単純に散歩に出て行っただけだったのでしょうけど、チベスナさんにそれを察知されてしまったのが運のつきでしたね。チベスナさんは『犯人を絶対に捕まえる名探偵』。それは真実をあばくという意味ではなく……真実を『作り出す』という意味だと思いますよ!」

 

 どーん! と胸を張る名探偵チベスナ。

 ──そう。

 一連の推理は単なる推理劇ではなく、チベスナによる冤罪風景の一幕だったのである。

 

の の の の の の

 

「ちょっと! これはどういうことだと思いますよ!」

 

 演じきったチベスナが、不服そうにこっちに向かってくる。いや、今回脚本作ったのオオカミ先生だし、俺に言われても困るっていうか。

 まぁフレンズの作る話らしからぬダークな雰囲気は俺的には新鮮で面白かったというか、チベスナの畜生っぷりによくマッチングしていたというかなので不満はないのだが……。

 

「あっはは、いやぁごめんね。チベスナを見ていると、こんなキャラはどうだろう? という想像が止まらなくてね」

「チベスナさんはせいぎのみかただと思いますよ! 悪いことなんか絶対にしないと思いますよ!」

「まぁまぁチベスナ、色んな役ができてこそのムービースターだと思えば……な?」

「これもけいけんだと思いますよ」

 

 うむ、今日もチョロい。

 

「しかし、オオカミ先生もちょっと意外ではあったな。こういう話って書かないと思ってたんだが。ギロギロもなんだかんだで主人公は良いヤツだし」

「まぁね。ギロギロは名探偵だし正義の味方なんだけど、描いているうちに『ここで真逆の行動をとらせたらどうなるんだろう』って想像をすることがよくあるんだよ。もちろんギロギロのやることとして不自然だからやらないけど……そういう『使わなかった展開』のストックがいっぱいあって、今日はいい機会だしと思って」

「なるほど」

 

 そういう話、なんかすごい参考になるなぁ……。

 俺はまだ話を作るのに精いっぱいで、『使わなかった展開』をストックしたりとかは全く考えられない状態なんだが……これから先もっと色々作品を撮って、色々やる余裕ができたら、そういうこともしてみるか。

 いやほんと、創作者として先輩のオオカミ先生にここで会えたのは僥倖だった。

 

「ちなみに、まだギロギロで使わなかった展開のネタはあるんだが……どうだい? やってみないかい?」

「面白いな! やろう!」

「おお、チーターがいつになく前向きだと思いますよ!」

「わたしは、そろそろ見回りがしたいんですけど~……」

 

 困ったように頬を掻くアリツカゲラには悪いが、こんな機会は滅多にないんだ。いっぱいやって、俺も創作者としての経験を積ませてもらうとしよう。

 ……いやまぁ、監督をやるつもりはないんだが、それはそれとして、な。




オオカミ先生が映画撮影を始めるとき、速攻でチーターに確認をとったのは、二人の力関係的に主導権を握ってるのがチーターだと判断したからです。
なお、実際にこういうので音頭を取るのはチベスナの方なのでこれはオオカミ先生の読み違いですね。

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