畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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九四話:受け継ぐ雪遊の技法

「よかった……キタキツネは?」

 

 ギンギツネが来たから興が削がれたのか、あるいはお話モードにその場の雰囲気が移行したからか、とりあえずすぐさま雪の城を破壊しようとする構えがなくなったチベスナを開放しつつ、これはギンギツネに問いかける。

 が、この問いにギンギツネが答えることはなかった。

 

「いるよ……」

 

 ギンギツネが答える前に、後ろからのっそりと、暖簾をくぐってキタキツネがやってきたからだ。二人して俺たちのこと探してくれてたのか。なんかちょっと悪いことしたな。

 暖簾の前にいるギンギツネとキタキツネをこちらに招こうと手招きしようとしたところ、

 

「それよりチーター! さっきのはどういうつもりだと思いますよ! せっかくいいところだったのに!」

 

 そこで、チベスナが俺にかみつくように言って来る。いやまぁ……うん、そこのところも悪かったな。

 

「いやな、雪遊びってのは別に雪で作ったごっこ遊びをするって意味ではなくってな。『雪でものを作ること』そのものが、もう雪遊びの一種なんだよ」

 

 謝意も兼ねて気持ち丁寧な物腰を心掛けて説明すると、チベスナはそれでも納得いかなそうな表情を浮かべて小首をかしげていた。

 

「えー? でもそれだけだとあんまりおもしろくないと思いますよ?」

「そうか? 砂浜だとチベスナあのままでも楽しんでたじゃないか。ああいう感覚でいいんだよ」

「うーん、そういわれると……」

 

 実際、砂浜で作った城はチベスナも壊そうとはしてなかったしな。あの城は魔王の城感全然なかったから、最初からそのつもりで作ってなかったってだけだと思うが、その感覚が分かるんなら今回のも同じように適用していいだろう。

 

「それに俺は今回、この雪の城をギンギツネ達に見せたかったんだよ。壊した後の雪の城じゃなくて」

「あぁ! なんだ、そういうことなら最初からそう言えばいいと思いますよ。チーターはたまに紛らわしいからよくないと思いますよ」

 

 言ってんだよなぁ最初っから……伝わってなかったが……。

 まぁ、これだけ長い間一緒にいる相手でも、前提となる情報が共有できてなかったら思わぬところで取り違えが発生するって分かっただけでも収穫ではあるのだが。

 

「さっきから二人とも何を揉めてるのかしら? 喧嘩ならやめた方が……」

 

 そこで、俺たちが色々話しているのを心配してくれたのだろう、ギンギツネがキタキツネを連れてこっちまで寄ってきた。垣根を越えてこちらへ来たギンギツネは、必然的に俺たちの作った雪の城を目の当たりにすることになる。

 結果、

 

「なっ、何これセルリアン!?」

「待て待て待て待て!!」

「ギンギツネが壊すくらいならチベスナさんが壊すと思いますよ!」

「お前も待てぇ!! 頼むキタキツネ! ギンギツネ止めろぉ!!」

「なにこれ? なんの遊び……?」

 

 …………色々と、大変だった。

 

の の の の の の

 

ゆきやまちほー

 

九四話:受け継ぐ雪遊の技法

 

の の の の の の

 

「──というわけで、雪で城を作ってたわけだ……。はぁ、説明疲れた……」

 

 で。

 紆余曲折あってキタキツネの力も借りて何とか暴走気味の二人を宥めた俺は、ようやくギンギツネとキタキツネに一通りの説明をすることができた。しかし雪の城をセルリアンと見間違えられるのは予想外だった……。まぁ見たことない形だろうし、怖い顔とか作ってたし、普通のフレンズならまずセルリアンを疑うだろうね……。

 そうなるとキタキツネが割と冷静だったのが不思議だけど。

 

「キタキツネはよく慌てなかったよな」

「ああいうの、げぇむで見たことあったから……」

 

 なるほど。

 

「でも、やっぱりチーターたちは面白いことを思いつくわね! 雪でものを作るの……なんだかとっても面白そうだわ」

「ああ、だろう? 二人もやってみるといい。やってみるとわりと楽しいからな……ぶるるっ」

 

 ……寒いけど。

 と、震えが来た俺を見たギンギツネが軽く笑いながら言う。

 

「そうね。でも今日はもう暗いし……明日にしましょっか。良ければ明日、詳しいやり方を教えてくれない?」

「ボクも、ちょっとやってみたいかな……」

「いいでしょういいでしょう! チベスナさんが直々にゆきあそびのやり方を伝授して差し上げると思いますよ!」

 

 と、そこで。

 ブッ……と、何気に今まで周囲を照らしてくれていた懐中電灯が切れた。

 

「わっ!? 急に暗くなったと思いますよ!」

「あー……懐中電灯のバッテリーが切れたみたいだな」

 

 言いながら、俺は手探りで懐中電灯を拾い上げる。これ、手回し充電式のバッテリーだからぐるぐる回してないといずれは電池が切れるんだよな。フレンズの膂力で一番最初に思いっきり蓄電していたから今までは普通に使えていたが。

 

「まぁ大丈夫だ。こうやってぐるぐる回せば……ほらな」

 

 ぱっ、と明かりがつく。

 ………………まぁ、これは『充電する方法がある』ものだからできる話でもあるんだがな。

 

「それもすごいわよね……。中に戻ったら、詳しい話を聞かせてちょうだい!」

「もちろんいいと思いますよ! チベスナさんにお任せだと思いますよ!」

「お前十分の一も説明できねぇだろ」

 

 こういうのを使うのって大体俺の仕事だしな……。

 

の の の の の の

 

 ──そして、夜が明けた。

 昨日は……長かった……。俺の持ってたアイテムたちを見て興味津々になってしまったギンギツネにいちいちアイテムを見せたり、ぬいぐるみを見て気に入ったキタキツネを振り払ったりしていたら八時過ぎたし。眠かったので後の方とか全然記憶に残ってないし。

 

「……むむ……おはようと思いますよ」

「おう、そして俺の身体の上から足をどけろな」

 

 いつものごとく壊滅的な寝相で俺の快眠を邪魔したチベスナをどかしつつ、俺は起き上がる。こいつ、周りにキタキツネとギンギツネもいるのにピンポイントに俺の方に突撃してくるんだよな……。俺の眠りだけを妨げるプロかよ。

 

「んぅ……おはようチーター、チベスナ……早いのね……」

 

 俺たちが言い合いをしていると、横合いで丸くなっていたギンギツネが起きだしてきた。瞼をこするその姿はまだ眠そうで……ギンギツネ達の朝はもうちょい遅いのかね? まぁ俺たちのように旅をするわけでもないから、普通のフレンズはもうちょい朝が遅いのかもしれんが。それにキタキツネの方は完全に爆睡状態だし。

 …………っていうかほんとに爆睡だな、キタキツネ……。仰向けになって寝てるし……。マジで警戒心ゼロなんだな……。犬とかならめっちゃ写真に撮りたくなるような可愛げのある絵面なんだろうけど、ヒトの姿だからいかんせん普通に見えるなぁ。

 

「ほら、キタキツネも。起きなさい、一緒に雪像づくりするんでしょ?」

「う~~ん…………眠いよ~……」

「い、い、か、ら! 起きなさい!」

 

 案の定眠たげなキタキツネを、ギンギツネが無理やり引っ張り起こす。うおー強引。キタキツネがあんまり自分から動きたがらないのって、ああいうギンギツネの態度が一因してるのかもなぁ……。まぁなんだかんだでいいコンビみたいだし俺から言うことはないけど。

 

「あー……まぁまぁ、そんなに無理に起こさなくても……」

「いいのよこれで!」

「はい」

 

 それでもあんまり不憫だったので声を掛けてみたのだが、ばっさり切り捨てられてしまったので俺は黙ることにした。よそ様の事情に首を突っ込むのはよくないよな。

 

「ぷぷ、チーター弱いと思いますよ」

「おうだがお前には強いぞ」

「あー! あー!」

 

 頭をぐりぐりしつつ、キタキツネも眠気がとれたらしいので四人で表へ。

 夜のうちにまた雪が降ったのか、俺たちが雪をかき集めて露出した地面は、今はもうすっかり雪に覆われていた。そして玄関先に作った雪の城も、粉雪を被って全体のシルエットが曖昧になっている。

 

「おー、降ったなぁ」

 

 俺はあたりを見渡しながらそう呟き、

 

「概要については昨日も説明したが──そういえばここって、あんまり雪かきとかしないんだな」

「雪かき?」

「屋根なんかに積もった雪を下に下ろす作業のことだよ」

 

 豪雪地帯じゃ雪かきをしないと雪の重みで屋根がつぶれたりして危ないんだが……このギンギツネの反応だと、今まで一度も雪かきはしてこなかったみたいだな。ってことはしなくても問題ない設計になってるんだろうか。ジャパリパークの技術力すげぇな。

 

「それをしないとどうなるの?」

「普通の家なら重みで家が歪む……が、此処はそんなふうにはなってないしなぁ。単純にしないんだな、と思っただけだよ」

「家が歪む!? 大変じゃないそれ! 早くやらないと! あ、そうだわ。せっかくだしそれを使って雪像の材料にしちゃいましょ!」

 

 ……あー、ただ何となく言ってみただけのつもりだったんだが。

 ギンギツネは『家が歪む』という被害を聞いて、血相変えて屋根の上に飛び上がり雪かきを始めてしまった。どうでもいいけど道具一切なしでぱぱっと雪かきできちゃうフレンズはやっぱすごいな。屋根の上に飛び乗ってって言ったけど普通に二~三メートルくらいの跳躍力は要るからなあれ。

 

「……まぁ、雪かきに行ったギンギツネは後にして」

 

 とりあえず手が離せなくなってしまったらしいので、キタキツネの方に向き直って話を振ることにする。

 

「キタキツネは、なんか作りたいものあるか?」

「作りたいもの?」

「そう。雪像ってのは何かしらを模して雪で作ったものだからな。モチーフになるものがなければ始まらない」

「って言っても……」

 

 キタキツネの方は、悩ましいようだった。まぁそうか。いきなり何を作りたいって言われても困るよな。

 

「ボクが思いつくのは、げぇむのキャラかな……」

「あー……」

 

 キタキツネは自信なさげに言うが、確かにそれは自信もなくなろうというものだ。だってギンギツネはゲーム好きくないしな。おそらく一緒に作ることになるであろうことを考えると、二人で一緒に作れた方が……いや待て? 別に一緒に作る必要ないんじゃないか? それこそ、それぞれが好きなものを作ってるだけでもいいんじゃないか?

 確かに一緒に作ってる感はないかもしれんが、一緒に雪像づくりをしていることに変わりはないわけで、別々のものを作っていてもそれはそれで会話は生まれるだろう。よし、行ける気がするぞ

 

「じゃあ、そのゲームのキャラで行こう。最初だし小さいものをってことで、別々のものを作ればいい」

「あら、別々のものを作るの? チーターたちは一緒のものを作ってたように見えたけど」

 

 あ、ギンギツネが戻ってきた。

 

「ああ、それはな……。俺たちはそういうの慣れてるだけっていうか、俺は特に作りたいものなかったからな。チベスナが作りたいものを作ることにしたんだよ」

「…………そう」

 

 俺がそう言うと、ギンギツネは少しだけ黙り込んだ。

 …………? どうしたんだ? 何か思うところでも……あ、自分が何作ろうか考えてたのか。確かにいきなり作るもの決めろって言われても困るよなぁ。

 

「……いや、いいわ。わたしも、キタキツネと一緒のものを作る。作りたいものは、キタキツネに合わせるわよ」

 

 と、思っていたのだが。

 どうやら俺の予想は外れていたらしく、ギンギツネはキタキツネと一緒に雪像を作ることにしたらしい。……うーん、俺だけが勝手に気にしてると思ってたんだが、案外ギンギツネにも思うところがあったりしたんだろうか?

 

「……! ギンギツネ、いいの……? げぇむのこと知らないのに」

「別に……いつも脇で見てたもの。形くらいなら分かるわよ!」

 

 そんなことを考えている俺をよそに、二人はなんだか仲良しな雰囲気になっていた。うむ、なんか俺何もしてない気がするけど、いい感じの影響を与えていたならよかったぞ。

 

「……んじゃ、俺たちもなんか新しく作るか」

「チベスナさん、今度は空中要塞にチャレンジしたいと思いますよ」

「無茶言うなバカ」

 

 …………なお、この後本当に空中要塞にチャレンジすることになり、それだけで午前中が潰れてしまったのはご愛敬である。……ご愛敬なのだろうか。

 まぁ、キタキツネとギンギツネが一緒に仲良く遊べるものを伝えることができたので、そこのところは満足かな。




このへんでアニメ一周年記念定期更新タイムが終わりました。

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