(キョウシュウエリア方言で「チーターが実装されたのでチベスナとのツーショットスクショを撮りました」の意)
「流石に飽きてきたと思いますよ」
そんな感じで、ステージゾーンをうろちょろすること一時間ちょい。
解説のプレートを探したりしながら楽しんでいたのだが、チベスナの方はプレートを探し回るだけのステージゾーンに飽きが来てしまったようだった。
まぁ無理もあるまい。屋外展示と動物ショーがメインだってのに肝心の動物がいねぇんだもん。そんなとこ見て回ったってチベスナが楽しいわけがない。楽しいのは俺だけである。
「おー、もう限界かー」
「む……」
そんなチベスナを今まで持たせていたのは、意外にも(意外なのか?)ジャイアントペンギンの存在だった。存在というか煽りだった。
こんなふうに、チベスナが飽きてきたなーというときに絶妙に煽りを入れてくるのであろう。お陰でチベスナはムキになって今まで飽きを抑えられていたのだが……、
「そろそろ十分このあたりも見たし、そろそろ次行こうか」
俺ばっかり楽しんでチベスナが我慢するのもアレなので、反駁しようとするチベスナを遮って俺はそう返した。ジャイアントペンギンみたいに煽れば確かにチベスナの動きは制御できるんだが、フレンズってのはそうやって意に沿わない誘導をしようとすると、大抵こっちが最終的に痛い目を見るんで……。
なんていうか、テキトーに好き勝手やって、なんとなく落ち着いた結果が結局一番幸せな流れっていう気がするんだよね。
「……ふーん。じゃ、次は水族館だなー」
「おお! 水族館。チベスナさん意外と楽しみだと思いますよ。ぴらみっどみたいな感じだと思いますよ?」
「ぴらみっど? ……ああ、確かさばくちほーの……お前ら、行ったことあるのか?」
「もちろんあると思いますよ! ツチノコと会ったりしたと思いますよ。えっへん」
「ツチノコとの遭遇はそこまで誇るポイントじゃないと思うが……」
ま、ジャイアントペンギンが驚くのも無理ない。あそこは本当に過酷だったからな……。パークが運営されてて交通の便がマシだった頃ならまだしも、インフラ関係が軒並み死滅してるこの時代にさばくちほーに好んで足を運びたがるフレンズは早々いないだろう。
「ツチノコね……。まだUMAのフレンズも残ってるのか」
「チーター?」
「ジャイアントペンギンが意味深なこと言うたびに俺に振るのやめない?」
もうジャイアントペンギンの方もこのやりとりが面白くてわざと意味深なこと言ってるだろ。やめろよ、対応に苦慮するのは俺の方なんだからな。
「ったく。UMAってのは未確認生物のことだろ」
「みかくにんせいぶつ……?」
「……あー、説明難しい……。っていうか俺もよく分かってないんだよなそのへん……」
ここはジャイアントペンギンに説明丸投げすべきか。多分コイツならそういうのも理解してるだろ。訳知り顔で話を振ってきたんだし。
「ジャイアントペンギン、ヘルプ」
「……、あはははは」
おい、笑いながらスルーすんなよ。
「む」
水族館に入った俺達だったが──入り口付近で、不意に気になる匂いを感じて足を止めた。
ジャイアントペンギンの方は特段鼻がきかないのか気にしていないが──俺と同様に鼻がきくはずのチベスナの方も立ち止まった俺に怪訝そうな表情を向けていた。お前は分かれよ。
「どうしたんだと思いますよチーター?」
「セルリアンの匂いか? わたしの鼻にはまだ匂ってこないが……」
「いや……そうじゃない。これは多分……フレンズの匂いだと思う」
「フレンズがいるからどうしたんだと思いますよ? チベスナさん達だってここに来てると思いますよ」
……いや、確かにそうなんだがな。
「そもそもこの水族館、ジャイアントペンギンの話だともぬけの殻ってことなんだろ? 基本的に動物はみんなフレンズ化して出ていったし、特に面白いものもないからフレンズがたむろすることもない……。そうだろ? ジャイアントペンギン」
「まー、ここに誰かが来るのは珍しいなー」
「そんな場所に、フレンズが来ている。奇妙じゃないか? だから一旦ジャイアントペンギンの意見を聞きたくて足を止めた」
まあ、特に心配いらないとは思うんだが……もし仮にセルリアンに追われて──とかいう話だったらヤバイし。ジャイアントペンギンの口からセルリアンの目撃情報が出てきたら、それは匂いの下に直行しないとまずいだろう。
「……、心当たりはないな。何か面白いものを見つけたのかもしれないし……セルリアンから逃げてきたのかもしれない。なんにしても、万一のことを考えたらチンタラしてはいられないかもな」
「……とりあえず、急ぐか!」
考えていても仕方がない。最悪のケースを考えると、なるべく早くに向かった方がいいだろう。
「チベスナ! 匂いは分かるな?」
「大丈夫と思いますよ」
「じゃあ問題ないか。俺とジャイアントペンギンが先行するから、お前は後から追ってこい。ソリを持ったままじゃスピードが出ないだろ」
「分かったと思いますよ!」
よし、話がまとまった。
「ジャイアントペンギン、行くぞ! 速さはそっちに合わせるから」
「随分と手慣れてるなぁ~。ま、いいが」
スタミナ切れは怖いからな。最速で動いて疲れてもしょうがないので、ジャイアントペンギンのスピードに合わせつつ移動を開始する。まぁそれでもちょっとした自動車レベルの速度は出ているのだが。
朽ちたとはいえファンシーなデザインの『海底』の景色が、猛スピードで後方へと流れていく。ああ、今が緊急事態でなければもっとじっくり見たかった……。あとで見に戻ろう。
そうして。
時間にして一分程度だっただろうか。『できる限り急いで』向かった先にあったのは──。
「……くっ! これだけデカいと、逃げるのもままならないな……!」
直径三メートル近くもある透き通った水色の巨大なセルリアンと、それと相対しているペンギンのフレンズの姿だった。
片目を隠した、俺と同い年くらいの長身の少女────コウテイだ。
って、やっぱセルリアンに襲われてんじゃん!?
「チッ……。天井に穴が開いてる。あそこから
俺が状況把握をしていた一瞬。
その一瞬の間に、ジャイアントペンギンはそう呟きながらセルリアンの前に躍り出る。うわ、手慣れてるのはどっちだよ……!
「突出すんなよジャイアントペンギン! 俺が囮をやるからその間にお前はそっちのフレンズを!」
「だいじょーぶ、コイツならへーきだ。な、コウテイ。……ほかの連中は?」
「あ、センパイ……。大丈夫です。全員逃がしました」
「ならよし。じゃあお前も下がってろ。コイツはわたしとチーターで片付ける」
そのジャイアントペンギンの指示に従って、コウテイは素早くその場から撤退する。さて、これで思う存分動けるな。
敵のセルリアンは──意外とセルリアンには珍しく、透き通った水色の立方体の胴体を持っていた。その胴体の各所にひし形の羽根のようなものがついており、地面から軽く浮いている。なかなかデカいセルリアンだ。
それに形状も珍しい。これは難敵かもしれないな。
「ちなみにチーター、お前ならコイツをどう攻める?」
「どうって……。初めて見るタイプだからな、とりあえず相手の間合いに入って、出方を伺う」
幸いこっちにはジャイアントペンギンっていう(多分)強者もいるわけだ。多少俺がリスクを取っても、尻拭いの方は問題ないだろう。
「にしし。いつの間にか信頼されてるみたいで。……オーケー、じゃあそれで行くか。後ろは任せな~」
「オーケー、頼りにしてるぜ──先輩っ!!」
瞬間。
ジャイアントペンギンの靡く長髪すらも空中に縫い留められ──時の流れが、限りなく延長される。
敵は巨大セルリアンの領域に片足踏み込んでるレベルだ。何かしらの変形があるとみていい。斥候たる俺がまずすべきことは──石の特定と、相手の攻撃手段の看破。そのためには──、
「……おらっ! こっちだ!」
まずは、敵の背後をとる。セルリアンが反応することすらできない速度で回り込み、声を上げれば──当然、敵はそっちに反応する。距離的にも位置的にも、明らかに俺の方が脅威だからな。そして次に──、
「……来た!」
攻撃を仕掛ける。
このセルリアンはどうやら羽が攻撃手段らしく──向きを変えた菱形の羽根が、俺目掛け一気に引き延ばされて迫ってきた。
まぁ、遅すぎるんだけども。
「よっ」
引き延ばされた羽の上に跳躍した俺は、そのままセルリアンがその事態に対応する前に胴体の方へと駆け上がっていき──そして石を発見した。
……よかった。隠れてたりとかはしてない。普通に頭のてっぺんにある。
が、今から攻撃仕掛けると、ちょっとタイミング的にカウンターもらいそうだな……。
元々が斥候という役目を思い出した俺は、特に石には攻撃を仕掛けずセルリアンから飛び降り、ジャイアントペンギンのもとへと帰還する。
と、ここでちょっとしたミラクルが起こった。
俺が飛び降りた直後、上に乗った俺を迎撃する為かセルリアンが羽を伸ばし──一瞬前まで俺がいた場所に攻撃を仕掛けたのである。
だが、そこに俺はいない。
結果、どうなるか?
ぱっかーん、と。
ガラスが砕け散るような音と共に、
「…………えー」
そんな締まらないオチでいいの……? 何気に多分今までで一番の強敵みたいなアレだったのに……。いや現実ってこんなもんなのかなぁ……。
「あははははははは! いやあ、流石だなぁチーター!」
「いや、今のはちょっと誇れないかな……」
完全にラッキーパンチだったし。いや、オウンゴールって言うべきか?
「そんなこと言うな。運も実力のうちだ。わたしもツいてた」
と、完全に一息ついた様子のジャイアントペンギンは、そう俺のことをフォローしてくれた。やっぱ語彙が普通のフレンズとは違うよなぁ、ジャイアントペンギン。
…………うん?
「セルリアンのことは想定外だったし、コウテイ達のことを想えば危なかったが──結果的に特に問題もなく、こうしてお前と二人きりになれる時間ができたしな」
「……どういうことだ?」
俺と二人きりになりたかった? なんで? 今後の旅の話をしたかったとかか? チベスナはまぜっかえしてくるから邪魔だったとかで……。いや、確かにチベスナはまぜっかえし癖があるが、あれはあれで得難いキャラでだな……。そういう言い方はどうなんだ?
「……あー、違う違う。チベスナが邪魔だったのはそうだけど──アイツに聞かせるわけにもいかないだろ?」
そんな俺の内心を読んだみたいに苦笑しながら宥めてくるジャイアントペンギン。……ううむ、じゃあなんだろ、特にアイツがいて困る話題が思い浮かばないんだが。
「ま、これは単なる知的好奇心ってヤツだから別にどうこうしようって意味じゃないし、そこは安心してほしいんだが」
「だからなんなんだよ? いちいち回りくどいぞ」
何をそんなに気を遣ってるんだか……。何かデリケートな話題? セルリアン退治関連か……?
「いやな、多分すっごい驚くと思って。じゃあ前置きも終わったし単刀直入に質問するが」
ジャイアントペンギンはそう言ってから、むしろ肩の荷が下りたとばかりに気安い雰囲気になって、こう問いかけてきた。
「チーター、お前フレンズになる前、
────。
っ!?!?!?!?!?!?!?