「あら...これは随分と珍しいお客さんね」
太陽の畑...そこは幻想郷で最も美しい花園であり、幻想郷で最も危険な花園である。博麗の神主はその入り口にて一人の女性と相対している。
「今夜宴会があるみたいでな...あんたも参加してもらいてぇんだわ。風見幽香さんよ」
既に臨戦体勢に入っている幻想郷最強の男。それは目の前の女性が其れ程の危険人物である事を物語っている。
「暫く見ないうちに随分と偉くなったじゃない。博麗の神主」
「今更取り繕うが、戦うつもりなんだろ? 殺気がプンプンするぜ。今すぐにでも始めたそうな殺気がよ」
最早逃げる事などしない。そんな冗談が通じる相手ではないことがわかっているから。
「宴会には参加するわ...少し運動してからね」
その瞬間、両者はすぐさま動き出す。最初に動いたのは博麗の神主。自分より一回り大きいエネルギー弾を瞬時に作り出し相手に放つ。
「なるほどね...単調な攻撃と見せかけて」
それを避ける彼女...風見幽香。しかしエネルギー弾の後ろに時間差で博麗の神主が突っ込んで来ていた。それすらも読んでいた彼女は日傘で突き刺さろうと、片腕を弓矢のように引き絞る。
「二重のトリックね?」
突如後ろから襲いかかるエネルギー弾。先程放ったものは、一旦前に進み後退する様予め決めていた。前方には拳を構えた神主がいるというはさみ打ち、風見幽香は引き絞った腕の方にある傘を後ろの方へ向け軽めの光線を放ち相殺。
「...流石にこの程度じゃ無理か」
「少しは楽しめそうね」
残った方の手で神主の拳を受け止める。その際の衝撃で周囲に風が靡いて植物を揺らす。
神主は触れた所から凍らせる為に冷気を拳に纏い始める。受け止めた手から氷が広がり肩の辺りまで一気に広がる。
「...ふん!」
しかし、彼女が妖力を開放するとすぐに止まり、氷が溶けてしまう。凍った時間が極端に短かった故に芯まで凍っておらず、細胞一つ壊死していない。
「ちぃっ!?」
「舌打ちしている暇があるかし、らっ!!」
掴んだ右手を振り回して神主を投げ飛ばす。自分の庭を傷付けない為に真下ではなく斜めに投げ飛ばし、すぐ近くの森へと彼は突っ込んでいった。追撃の為に追い掛ける大妖怪、その表情は獲物を狩る捕食者のそれである。
「あんな華奢な身体からなんつぅ馬鹿力...オラァ!!」
神主は両腕を振りかぶって、前にクロスさせる動作と共にエネルギー弾を大量に放つ。さしもの彼女もこれを無視してまで前に進めないので、弾いたり避けたりして一旦進みを止めた。
その隙に体勢を整えてから彼女がいる上空へと飛ぶ神主。右手には、先程甘味処で食べ終えて余った串を極限まで凍らせた氷剣を携えている。
「これでも喰らいやがれぇぇぇぇ!!」
「興ざめね...」
そう言いながら、彼女は日傘を剣の様に振りかぶり彼の氷剣に応戦する。
全てを凍て付かせる剣と幻想郷で枯れる事のない花のぶつかり合い。それは一回だけでは終わらず数秒で数十回のペースで斬り合っていた。両者は剣術の心得など知らないが、数多の実戦を経た我流の振りはその道のプロが見れば見事なものである。
「そろそろか...」
どんなものであれ、凍った物質というのは脆い。何度も強烈にぶつかり合えばすぐに罅が入り壊れる。
亀裂の生じたそれに気付いた幽香は、今まで以上のパワーを持って氷剣を壊さんと振り下ろす。普通であれば剣を捨てるなり、その一撃を避けるなりをするだろう。だが、博麗の神主は違った。
「オラァ!」
「何...!?」
玉砕覚悟でこちらも全力を以って傘にぶつける。予想外のことに一瞬思考を停止する風見幽香。それが、直後に氷剣を中心に起こった衝撃波に対する踏ん張りの明暗を分けた。
「今だ!!」
神主は予め圧縮した空気を剣に込めていた。それこそまともに喰らえば中級妖怪程度なら吹き飛ばせる程の威力を。
日傘こそ離さなかったものの、予想外のそれによって彼女の腕は痺れによる震えがあった。
その気を逃さず彼は捻りを加えた蹴りを首元に食らわす。両腕を動かせない彼女はなす術もなく地面の方へと落下していった。
「ふぅ...一息であんたをぶっ潰す」
『連撃 レシプロラッシュ』
「連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打ァァァァァァァァァァァァ...」
さらなる追撃。腕の痺れを無理矢理取り除いて、彼女の全身に熱で加速した拳を連打しながら突き進む。地面に激突しても尚続く連続攻撃。周囲に鳴り響く轟音からその威力の凄まじさがわかるだろう。
「ブッ潰れろぉ!!」
『超熱線 ブレストレイザー ゼロマグナム』
拳と共に至近距離で放たれた熱線。それは範囲こそ狭めなので太陽の畑に被害はなかったが、火柱ならぬ熱柱が空高くまで連なる程の威力であった。
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幻想郷トップクラスの戦い。結果は引き分け。油断していた事もあって、あの後彼女の十八番である
「随分と衰えたわね。最初に会った時と比べると」
「ったりめーだ。日頃だらけるのが俺のモットーだからな、鈍っていても別に不思議じゃあねぇ」
さも当たり前に気怠そうな表情で話す博麗の神主。その言葉が少しばかり気に入らなかったのか、彼女は怒気を含めた声色で話す。
「そういう嘘は嫌いって...言わなかったかしら?」
「人の嫌がる事をすんのが俺のモットーなんでな」
それでも彼は何一つ崩さず話を続ける。あの日から、例え何を言われようとも彼は自分のこの考え方を変えていない...変えるつもりなど、ないから。
「式としての契約がある限りは貴方は此処にいられるけど...その力も、能力も徐々に弱まっている。一体幻想郷に来てどれほどの無茶をしたのかしら?」
心当たりなど幾らでもある。なんだかんだ、面倒くさいという理由で働いていないとはいえ、最終的には何故か無茶をしてしまう...それが博麗の神主という男だから。
「知らねぇな。生憎俺は記憶力が悪いんだ。覚えんのが面倒くさいから。意味ないしな、覚えていたところで」
「そう...貴方はさいごまでソレを貫くつもりなのね...」
「何だ? 文句でもあんのか?」
「ええ...張り合いが無くなるから」
その言葉を最後に博麗の神主は次の場所である紅魔館へ、風見幽香は自分の居所である太陽の畑へと飛ぶ。
「...今だって、相当無茶をして。これで良くやる気が無いと言えるわね」
最初に神主の拳を受けていた彼女の右手には血がべっとりと付いていた。神主が先程まで立っていた場所にも血が滴り落ちている。
「今の貴方はどっちなのかしら?」
自分のものでない赤を見つめて、彼女はそう呟いた。
To be continued...