「一体何だったんだ? 結局」
「きゅぅぅぅ...」
数分後、ボロボロになっていたのは人食い妖怪の方だった。実力も、戦闘経験もはるかに上の三人を相手に勝つ要素など寧ろ無いに等しいわけで、生きていたのが不思議なぐらいである。
「...ほらよ」
そんな様子を見かねた神主が、懐からおにぎりを一つ取り出して少女に差し出す。これにはその場にいた誰もが驚いたようで、沈黙が一瞬だけ訪れる。
「え? いいの?」
「元はといえば、俺たちがお前を無下にしたってのもあるしな。だからこれでお相子だ」
そういって、先を急ぐ神主一行。人食い妖怪...ルーミアは渡されたものをまじまじと見つめ一口だけ頬張った。
「お前が自分から親切なんて...どんな風の吹き回しだ?」
あまりに予想外なことに、魔理沙が思わずそう聞いてしまう。それほどまでに、彼が立ちはだかる敵に対して情けをかける上に塩を送るような真似をするのが珍しい光景だということである。
「あ? ちょうど懐にあったからくれてやっただけだよ」
「...あんたも優しい所があるのね」
幻想郷に現れて日の浅く、意外にも多くの事が謎に包まれている彼ではあるが、そんな神主にも情の一つが存在していたことに思わずほっこりとしてしまう少女二人。だが、次の言葉でそんな気持ちなど吹っ飛んでしまう。
「ワサビ入りのおむすびだけどな(しかも腐りかけ)」
「「え?」」
駄神主は、それはそれは清々しい笑顔を見せている。まるで先程のイラつきやマイナスのオーラが嘘の様に消え去り、水を得た魚のごとくイキイキしている。
「いやー、前に店の余りものという事で貰ったはいいが流石に食べる訳にはいかなくてな、ずっと懐に入れてたはいいが中々食べる機会が訪れないし...ほんとちょうど良かった」
「「(げ、外道だ...悪魔だ)」」
二人がそんなことを思っていたのとほぼ同時刻、一人の少女が空中にて悶絶したという...
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「てか、洗濯物を乾かしたいんだったら俺の能力で一発じゃねぇか」
駄神主はサボる口実を探すのに余念がない。自分の能力さえあれば、そもそも異変解決しなくても良いのではないか? とまで考え提案する始末である。
「どうせあんたの事だから、面倒くさいの一言でやらないでしょ?」
だがしかし、駄目人間の扱いに手慣れ始めている
「あのなぁ。俺だって働く時は「よく来たな! 人間!!」あ? 誰だ?」
ふと、声が聞こえたのでその方向...白い霧がかかった湖の方を見ると、小さな影が神主の目に映った。
「ここを通りたくば最強のあたいと勝負しろ!!」
氷で出来た小さな羽根に、通常の人間より一回り小さい背丈。そして一目でわかってしまう⑨のオーラによって、彼女が一体何者なのかが直ぐ様わかってしまう。それ故に
「妖精か...」
「妖精ね...」
「妖精だぜ...」
あからさまに薄いリアクションをとってしまう3人。外の世界では珍種などと呼ばれているだろう妖精は、此処幻想郷ではさほど珍しくもない。
どれくらいかといえば、普通に人里に行けば会えるレベルのエンカウント率の高さなのだ。
「どうだ!! 驚いたか!!」
しかし、彼らのそんなリアクションも頭が弱いとされている種族である妖精には一切理解できず、何故か誇らしげに胸を張って威張っている。
「...面倒くさそうなのが現れたな。先輩お先にどう、グェッ!?」
神主は直ぐ様二人の後ろに回って観戦を決め込もうとするが、霊夢が首根っこを掴むことにより阻止されてしまう。その光景は情け無いの一言に尽きる。
「零治。今日1日飯抜きでも良いのかしら?」
霊夢が自分ののことを下の名前で呼びながら言う事は、大抵碌なことではない。そしてもし断った場合、言った内容は絶対に実行されるだろう。其れ程までの凄味を、黒い笑顔と共に博麗の巫女は放っていた。
「...やってやりますよ先輩!!」
「(現金というか...本能に従順というか...ま、とりあえず私は一旦休めるから良いや)」
その様子を見て、魔理沙は自分に戦闘の順番が回らなかった事に少しばかり胸を撫で下ろし、観戦を決め込もむのだった。
「おまえ、あたいの強さにびびってるのか? まぁ、それはしぜんのせつりだからしょうがない。なぜならあたいこそが最強だからだ!!」
最強...その言葉と、自分を馬鹿にしていた言葉に反応しピクリと全身を震わせる。
「おい...今なんつった?」
さしもの氷精も、その異様で尋常じゃない雰囲気を察してしまい、何かしらのアクションを取ろうとするのだがもう遅い。
彼女は幻想郷最強の男を怒らせてしまったのだ。
「あ、あたいは...」
「俺はビビリじゃねぇんだよオラァ!!!!
彼の右手から一つの巨大なエネルギー弾が生成される。所謂弾幕と呼ばれるそれは、余程のこと以外での殺傷能力が付与してしまう位の威力を禁止しているのだが、外道にはそんなの関係ない。
「あたっ」
超スピードで彼女がいた場所を通過するエネルギー弾。空は3人がいる場所より更に上空まで駆け上がっていき、一際大きい爆発となって白い光が辺りを照らした。
「...さて、汚ねぇ花火を打ち上げたし、此処までエスコートしましたしそろそろ俺はこの辺で「まだよ。それに敵の本拠地も近いみたいだし」ですよね〜」
幸いなのは、妖精である彼女は自然そのものが破壊されでもしない限り何度でも蘇ることだろう。そして蘇った時にはすっかり彼のことなど忘れていて、また同じ過ちを繰り返すであろう。チルノという氷精はそういう奴なのである。
「...一応聞くが、その根拠は何なのぜ?」
「勘よ」
話は戻って、どうやら博麗の巫女曰くそろそろ目的地であろう場所まで着くらしい。
勘と聞くと胡散臭くて、絶対に当たらないんじゃないかと思われるが、博麗の巫女のそれは100発100中である。その勘の鋭さは異変解決で本領を発揮し、彼女が行く場所には絶対に黒幕が潜んでいる程である。
「...まさかとは思うんだが、あの館だったりするか?」
神主が指差す先には、一つの立派な屋敷。幻想郷では珍しい西洋の作りであり赤で覆われたその建築物は、誰がどう見ても絶対今回の異変と関係があると睨んでしまう程である。
「「「...うん。どう見てもあれしかないわ」」」
同時に結論を出した後、3人は屋敷の上空で徐々に降下していき門の前で着地する。
そこには、門番らしき人物がいた。らしきというのは、今現在の彼女の状況によるものだ。
「Zzz...」
そう、立ったまま寝てしまってるのである。しかも仁王立ちのまま微動だにせずにいびきをかいてる為、本当に寝ているのか疑わしい。
「...あれは罠と見るべきかしら?」
「別に素通りしても構わないんじゃないか?」
二人が、そのまま進むか確認するかのどちらかで決めあっている傍ら、駄神主は何をしているかというと。
「...くたばれ」
「「え?」」
『超熱線 ブレストレイザー』
片手にとんでもないエネルギーを貯めて照準を館に合わせる駄神主。何とこの外道、主人公として絶対にやってはいけないことの一つ
『初っ端から敵の本拠地そのものへの攻撃の実行』
をしようとしている。普通の人間であれば多少でも躊躇するだろうが、生憎この駄目人間にそういった類のプライドは存在しない。
「テメェらのせいでこちとら面倒くせぇ思いしてんだ、別にぶっ飛ばしても問題ないよなぁ!!」
おおよそ八つ当たりにも近い巨大な光線が、聳え立つ赤い館へとまっすぐ進んでいったのだった...
To be continued...