Muv-Luv ~岩国基地防衛戦群像劇~ 作:グノーレフリスク
Google earthとか見ながら読むと解りやすいかも
1998年7月8日0900時 岩国市立灘小学校付近
「連隊規模のBETAが接近中、光線級及び要塞級を確認!!」
UAVからの報告を操縦士の岩屋少尉から聞きながら計器の調整中をしていた。
岩国市南部、ここはBETAの主要侵攻予想ルート上にある拠点であり、また同時に下関や周南、下松からの避難民が続々とやってくる山陽道の主要な避難経路上にもある。
司令部は丘陵があるこの地帯に第五師団の戦車第12連隊と歩兵第42連隊、臨時集成戦術機大隊「山桜」
...防人ラインから撤退してきた戦術機の寄せ集め...
を配置、地形を利用した防衛戦略を立てた。
BETAの九州上陸から僅か1日でこのような戦略を立てた岩国基地司令部はかなりの切れ者揃いなのだろうが、避難民への配慮がほとんど為されていないのが問題だ。
と第五師団戦車第12連隊第二中隊の中隊長、山岸大尉は率直に思った。
「大尉、全車定位置につきました!」
「わかった、連隊長に伝えておけ。突撃級は戦術機がやってくれる!!全車目標前方の要撃級!!弾種APFSDS!!...よおし、お前ら、演習通りにいくぞ!ヘマしたやつは合成酒一週間抜きだ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
ハルダウンしていた74式戦車と61式戦車改が一斉に砲塔を動かす。
戦術機部隊は事前の打ち合わせ通り突撃級だけを狩っているがやはり寄せ集めの部隊だ。連携があまり上手くいっていないのがわかる。
「いくぞ!中隊全車、距離2000で砲撃開始!!」
内心の不安を気取られないように大音声で命令を下す。
直後105mmライフル砲が爆音と共に放たれ最前列の要撃級に命中、四散、グロテスクな内臓物が飛び散る。
撃ち漏らした敵は機動歩兵がすぐに殲滅する。射撃後はすぐさま稜線から後退、再装填を行って、再び稜線越し射撃。演習通りの完璧な攻撃だ。だが...
「クソッ、数が多すぎる!!」
「中隊長、このままでは弾がなくなります!!第4小隊から順次一時後退、補給の許可を!!」
彼の言っていることは正しい。このままでは中隊は数に押しきられるだろう。現にBETAの数は減っているように見えない。更に、避難民の脱出路が山陽本線沿いであるため、南への砲撃が制限されていることも問題だ。
「...撤退は許可されない。1小隊でも抜ければ戦線は突破される。各車は現地点を死守せよ!」
BETAは更に迫ってくる。前列の歩兵42連隊の射程にも入ったようだ。盛んにパンツァーファウストや機械化装甲歩兵の36mmの発射音が聞こえてくる。
「第三小隊はHE用意!!奴等の足を止めろ!味方に当てるなよ!!」
「第三小隊了解。」
主砲が火を噴く。
HEを装填した小隊が小型種を吹き飛ばす。
大東亜連合軍カラーのF-5が突撃級の背後に回り120mmで全力射撃を行う。
背後から光線級がその戦術機を灼き尽くす。
パンツァーファウストが泥濘から抜け出そうとした要撃級の脚部に命中し転倒させる。
跳躍ユニットが故障したのか機械化装甲歩兵が戦車級の真っ只中に墜落していく。
36mmチェーンガンがリズミカルな連射音と共に兵士級を薙ぎ倒す。
避難路に闘士級の1群が入り込み避難民の首を捻切る。
歩兵達が火力を集中してそれを倒す。
地獄の全てを詰め込んだかのような光景が目の前で展開されている。
兵士の喚き声、
避難民の怯えた叫び声、
事切れた戦友を抱えながら衛生兵を呼ぶ兵士、
我が子を守ろうとBETAの前に立つ母親、
指揮官の命令を狂ったように復唱する兵士、
BETAに喰われた親の死体を呆然と見る子。
「BETA、歩兵部隊の塹壕を突破、連隊左翼に殺到します!!」
ゆるゆると左を見る。
突撃級に砲撃を弾かれブリキのように潰される戦車、
要撃級の一降りで弾薬庫が誘爆し砲塔が吹き飛ぶ戦車、
戦車級に群がられ車長の車載機銃による抵抗も虚しく砲塔を剥がされる戦車。
一瞬の内に左翼の第一中隊は壊滅していた。
「蘆田連隊長戦死!!」
「...この場の再先任は?」
「中隊長、あなたです。」
「...わかった。残存全部隊傾注、戦車第12連隊第二中隊長の山岸だ。まだ避難できていない避難民をこの丘まで移動させここで円形防御だ、戦術機も戻ってこい。2時間程度なら弾も命も持つだろう。各隊、残存戦力の報告をせよ。」
「こちら臨時集成戦術機大隊『山桜』、残存機10。しかし無事な機は一つもない。」
「こちら歩兵第42連隊、残存兵力は1個大隊と2個中隊程度。歩兵戦闘車は8台、野砲は6割が使用可能。」
「...戦術機部隊の損耗率が7割近く、42連隊の損耗率が4~5割、そして我らが連隊は3割程度の消耗ですか。更にこれから避難民を収容する事を考えると...」
「歩兵戦闘車と第一中隊の残存車をまわそう。もはや手遅れかもしれないがな。...ああ、それと岩国基地基地に救援要請を送ってくれ。」
「文面は?」
「『南部防衛線は潰滅せり、残存部隊及び避難民はBETAの包囲下にあり、大至急増援を求む』だ。」
心が、正しい動きをしていない。あれだけの地獄を見て、聞いて、感じて、淡々と戦略を立てることができる自分はなんなのか、本質的にあいつらとオナジモノデハナイカ?
岩屋少尉が司令部に掛け合っている間、俺はそのようなことを漠然と思っていた。
同日 国連軍岩国基地司令部 1515時
「南部防衛部隊、潰滅!!このままでは1時間も経たずに市街が蹂躙されます!!」
アジア系の士官が叫んだ。
「大佐、どうするね?」
目の前で戦域パネルに目を通している将校が苛立たしげにそう言った。彼は確か米国人だったか、
「だから私は反対だったのだ。こんな作戦は!やはり全部隊をキョートまで退かせるべきだったのだよ!!」
別の将校が私に詰め寄る。...馬鹿め、自分の命を優先して、本当に救い難い馬鹿共だ。
「問題ありません。斯衛軍第3戦術機甲大隊と国連軍第512戦術機甲大隊を直ぐに向かわせます。おそらくそれで持ち直すでしょう。余裕があれば西部防衛部隊から強襲歩行機を1個中隊程度引き抜いても構いません。」
口だけは慇懃に返す。
「ふん。弁だけはよく立つものだな。...まあいい、さっさと部隊を呼び出せ。」
「了解しました。」
司令部を退出する。部屋の外では先ほどの士官が待っていた。
「お疲れ様です、大佐。」
「御託はいい。状況はどうだ?」
「現在、達成率は35%程度です。」
「上出来だ。では君も本来の仕事に戻れ。」
「はっ、」
士官が去っていく。彼の様な人間が沢山この基地にいたのは暁幸だった。いや、すでにユーラシア大陸出身の者は大体そうなのかもしれないが。
「さて、此処はあと何日持つかな。」
何日も持たせないといけない。
私の願いが成就するまでは、
たとえ全ての部隊が壊滅しても、
たとえこの基地の生者が私だけになったとしても。
そう強く思いながら私、ジグムント=ナストゥラ国連軍大佐は岩国基地の廊下を歩いていた。
黒幕はかっこよくしないと(使命感)