Muv-Luv ~岩国基地防衛戦群像劇~    作:グノーレフリスク

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なにもせずになつをおえた


4 旭日の帝国の落日

1998年7月9日0530 岩国市市街地郊外

 

山岸大尉は包囲網から北東へ後退中の戦列の最後尾についていた。彼は、部隊全員は、綿のように疲れきっていた。斯衛軍の瑞鶴が救援に来たのも、もうどうでもよくなっていた。

 

しかし彼は見た、1機の紅の瑞鶴が化物共に突っ込んでいくのを。

 

それはお伽噺のように儚く残酷な光景で、それはお伽噺のように雄々しく気高い光景だった。

 

近づいてきた戦車級を踏み潰し、腕を振り上げて迫る要擊級を叩き斬り、遮二無二向かってくる突撃級を往なして横に薙ぐ。垂直噴射で倒れかけた要塞級の直上までいくと、急降下で長刀を突き刺し地面に縫い止める。

 

1機の戦術機ではなし得ない陽動をその瑞鶴は行っていた。

 

だが衆寡敵せず、多勢に無勢、破局はついに来た。

 

後方から這い寄ってきた要擊級が左側跳躍ユニットを粉砕、バランスを崩した瑞鶴に突撃級が追撃し左脚を破壊する。

 

脚から崩れ落ちた瑞鶴に戦車級が群がろうとするのを短刀で排除、しかし斬っても斬っても際限なく戦車級は管制ユニット目指して登っていく。

 

瑞鶴はそれでも尚動こうとしていたが、終に跳躍ユニットが全損したらしくBETAもに咀嚼されるのは最早時間の問題と言えた。

 

「...ッツ、畜生っ!」

 

自分を生き永らえさせる為にやることはわかっている。あの斯衛軍衛士をそのままにしておきBETAへの囮とする。それが満点の戦術的な対応だ。

 

 

...だが、そんなことを平気で出来るようなモノは果たして人間なのだろうか?

 

 

「...砲撃用意、目標は8時方向の瑞鶴、弾種HEだ!」

 

やることなんて最初から決まっていた。

 

直後61式戦車改から発砲された105mmHE弾が瑞鶴へと飛翔。その大威力は速やかに瑞鶴の衛士とその周りの戦車級を死に至らしめた。

 

生き残ったBETAがこちらに気づいて向かってくる。

 

「介錯の代償は高くついたな。」

 

誰にも聞かれないように小声でひとりごちる。

 

「各車全武器使用許可。BETAに向けて交代射撃、射撃間隔は自由、目標選定も自由だ。」

 

車外に出てM2重機関銃のトリガーを掴む。肉眼で見る異星起源種は吐き気を催すほどおぞましい。

 

BETA接触まであと300m、戦車級の硫黄臭が鼻をつく。

 

200m、M2のトリガーをひく。重低音が響き硝煙のにおいと共に兵士級や闘士級がもんどりうって倒れる。

 

100m、弾倉が空になる。再装填しようとしてたマガジンを焦りで取り落とす。主砲は全弾撃ち尽くし残りは一発HEAT。全員に89式小銃を装備するよう命令する。

 

10m、終に先頭の戦車級の前肢が車体を捉える。車体前部が凹み履帯が切れる。車体は勢いよく回り砲塔は照準を合わせられず、咄嗟に後を振り向くとそこには冒涜的な顎が迫っていた。やんぬるかな。

 

絶望と締感に支配されて目を閉じ苦痛が一瞬で終わるように祈りポケットをまさぐってナイフを探す。

 

それはすぐに見つかった。喉に狙いを定める。硫黄の臭いは耐えがたいものになっている。その臭いから逃れるように機械的にナイフを動かそうとする。

思えば自分が陸軍機甲科に志願し、奴等が日本に上陸してきた時から自分はこの運命の行き止まりに向けて走っていたのだ。日本皇帝陛下万歳、将軍殿下万歳、日本帝国万歳....

 

だが、その時は永遠に来なかった。

 

なぜなら、

 

AH-1Sの20mmガトリング砲が戦車級を薙ぎ倒し、彼のナイフの軌道を大きくねじ曲げたからだ。

 

「こちら国連軍岩国基地所属第2攻撃ヘリ大隊、ただいまより航空支援を開始する。」

 

無線機がキングス=イングリッシュでがなりたてる。

 

助かったと安堵に包まれるまえに疑問符が脳裡を駆ける。

 

その答えはすぐに見つかった。

 

南から僅か十数機にまでその数を減じた、いや、最後に会った時から一機も減っていない瑞鶴が南の空からやって来た。

無事な機体は一機もなくどこかが焼け焦げたり脱落したりしている。

 

彼は、そしておそらく彼が介錯した瑞鶴の衛士も気づいていないことがあった。

 

斯衛大隊は包囲下の部隊と接触後、独断で任務を変更、光線級吶喚を開始したのだ。斯衛軍といえども、第一世代機においての中隊規模での光線級吶喚なんてほとんど前例がない。しかし彼等はやってのけたのだ。

 

「此方は斯衛軍第三大隊也。我等光線級の殲滅に成功せり。損傷機多数、損失機4。」

 

この報告が入った直後に基地司令部は攻撃ヘリ部隊の出撃を決定、彼等は悪天候のなかここまで支援に来たのだ。

 

周りにいる戦車級が、死の象徴が沈黙していく。じきに外に出て予備履帯への交換もできるだろう。

 

フライパスする瑞鶴を見上げる。垂れ込める雨雲の中でも太陽が昇って来るのがわかる。

そうだ。まだ戦える。たとえ死の袋小路だとしてもあと何千匹かのBETAを道連れにはできるだろう。彼は爆音と銃声の多重奏のなかガスマスク越しの空気を吸いながら暗灰色の空を見つめてそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

同日0600時 国連軍岩国基地作戦司令室

 

なんとかなった

 

ジグムント=ナストゥラ国連軍大佐はそう素直に思った。

インペリアルロイヤルガードが光線級吶喚を独断ですると聞いた時は彼らの正気を疑ったものだ。事実、第一世代機でそんなことをする部隊は彼らの他に一つ、東独の伝説的な中隊しか知らない。もし失敗していたらと考えると震えが止まらない。

 

...当事国の許諾なしにオルタネイティブ計画権限で直属のA-03部隊に戦術核を落とさせる、といったようなこと流石に軍法会議からの縛り首の流れは避けれないだろうから。

 

まぁ結果として南部の攻勢はゆるくなり戦力の再配置の時間も稼げたのでよしとしよう。

そう考えているときだった。

 

「大佐、緊急連絡です。」

 

「...どこからだ?」

 

「島根県警からです。」

 

警察からの連絡だと?そのような些事にかまけさせるな。

彼は思わず通信士官を怒鳴りつけようとした。

しかし、そこから続く言葉は彼だけでなく司令室内の将校全員を凍りつかせた。

 

「BETAの地中侵攻により津和野防衛線が陥落、県民は無防備、至急救援を乞う。」

 

破滅の口が 開き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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