俺は神風に「お兄ちゃん」と呼ばれたい。   作:LinoKa

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第4話 本気を出せばなんでもできる変態はタチが悪い。

 

 

例えばの話をしよう。ゲームセンターでやりたい放題やっているヤンキーがいたとしよう。クレーンゲームの景品を低コストで乱獲し、格ゲーで相手の事を完膚無きまでに叩き潰し、ジャックポットでメダルを掃除機のように回収し、レースゲームでは一位と二位の間を大きく引き離してゴールし、銃ゲーでは常にスコアランキング一位をキープ、カードゲームではレアカードを連続で引き当てる。

だが、それは決して悪い事ではない。それだけの実力があるのだし、本人だってちゃんとお金を払っている。周りの奴らがそれを憎むのなら、それは嫉妬という奴だ。

 

「それとセクハラは同じだ。俺は殴られるというリスクを払っているのだから、抱き締めようが股間の匂いを嗅ごうが入渠シーンを覗こうが問題ないはずだ。加賀、あなたが俺を怒ると言うのなら、それは嫉妬だ」

「八つ裂きにするわよ」

 

提督取締委員会、その筆頭に俺は怒られていた。憲兵とは別の組織である提督取締委員会は、うちの鎮守府にしかないものだ。というか、一週間ほど前、俺が神風と仲良くなってから艦娘達が勝手に作りやがった治安組織である。治安組織なのに、俺の行動しか制限する気がないあたり、異議を申し立てたい。

その会長が、この加賀だ。正座して俺の論理を説明したが、どうやら通じなかったらしい。

 

「良い加減にしなさいよ。何やってんですかあなたは」

「だーかーらー、ゲーセンで暴れ回ってんのと同じなんだっつの」

「いや違うでしょう。バカなんですか?それとも憲兵に突き出されたいんですか?」

「ごめんなさい行動を改めます」

 

ベストアンサーとも取れる謝罪をすると、加賀はため息をついた。

 

「まったく……つい一週間前までは、信頼できる提督でしたのに……何があったらこうなるんですか?」

「神風が可愛過ぎるのが悪い」

「なんで人の所為にしてるんですか。………こうなると、神風の方にも提督との接触を制限してもらう必要がありそうね」

「おい加賀。良い加減にしろよ?やって良いことと悪い事があるぞ」

「何逆ギレしてるんですか?」

 

チッ、分からない奴だな。これだから頭の固い奴は……。テメェみたいな奴が冗談通じなくて、カッとなって殺人を犯すんだよ。

 

「鬼ババァ」

「…………何か言いましたか?」

「何でもないっス」

 

こっわ!目力強過ぎて幻術に掛かるかと思った!

 

「とにかく、次このようなことがあれば、あなたの肛門に矢をねじ込みますからそのつもりで」

「えっ………加賀ってそんな趣味あったの?普通に引くんだけど……」

「あなたの事を異性として見てないという意味です。死んで下さい」

「なら、憲兵に差し出せば良いだろ」

「あなたの指揮に勝る他の提督が存在すればそうしていますが」

「お?今褒めた?」

「褒めましたよ」

 

うわあ………正直に答えられた。照れもせずに答えられたということは、どうでも良い相手に本音を言った感じだ。加賀に少しでも好意があれば、多少照れが入るはずだ。

 

「はいはい……分かりましたよ」

「では、今回の罰を発表します」

「えっ、なんかあるの?」

「あります。歯を食いしばって下さい」

「?」

 

直後、脳天に手刀が降って来て、床に頭からめり込んだ。いくらなんでもやり過ぎじゃないですかね………。まぁいいか。

頭を引き抜き、俺はとりあえず仕事に戻ることにした。執務室に入ると、明石の姿はなく、神風がいた。

 

「神風?どうしたの?結婚したいの?」

「違うわよ。………そ、その、今は……妹、だから」

「……………」

 

あんな目に遭っておいて、まだそれでも妹になろうとするなんて………!

 

「神風ええええええ‼︎」

「ちょっ、待って待っていきなり抱きつくのはムギュッ!」

「おーよしよしよし。お兄ちゃんだぞー。結婚するかー?」

「んーっ!んーっ!」

「はははは!そうかそうか、一緒にお風呂入りたいかあはははは!」

「ンーッ‼︎ンーッ‼︎」

「はははは!冗談だから腹パンはやめてくれ泣きそうあはははは!」

 

良い加減、腹筋がつらいので手を離した。すると、すぐに神風は離れた自分の胸を庇うように抱いて、俺を睨んだ。

 

「何するのよ!ていうかそういうのやめて!」

「悪い悪い。あまりにも神風が可愛いもんだから」

「ッ!す、すぐに可愛いって言わないで!」

「可愛い」

「〜〜〜ッ!お、お兄ちゃんのばかぁ………!」

「…………お前わざとやってんだろ」

「な、何がよ⁉︎」

 

こ、こいつ………!ダメだ、落ち着け。さっき怒られたばかりだろ。とりあえず、膝枕でもしてもらおう。

 

「神風、実は耳クソが半端じゃない気がするんだ」

「な、何よ急に………」

「耳掃除してくれない?」

「……………」

 

少し悩んだ後、小声で「ま、まぁそれくらいなら良いか……」と呟き、神風はソファーに座って膝をポンポンと叩いた。

 

「どうぞ?お兄ちゃん」

「ヒャッホーイ!」

「ひゃっ⁉︎」

 

ソファーに飛び込んで、後頭部や側面ではなく、顔面を神風の太ももの上に置いた。

 

「ちょっ……お、お兄ちゃん⁉︎なんで顔を埋めるの⁉︎耳掃除は⁉︎」

「実は昨日耳掃除したばかりなんだ」

「っ!………もう、膝枕して欲しければ、そう言えば良いのに……。いや、これ膝枕じゃないわよね」

「神風の太もも超良い匂い」

「へ、変態!良い加減にしてよそういうの⁉︎」

「んー……ねぇ?このまま袴脱がし」

「それより先言ったら嫌いになるわよ」

「…………ごめんなさい」

 

明石の入れ知恵の所為で、神風が嫌な技を覚えた。まぁ、普通なら宣言なんかしなくても嫌うんだろうけど。

…………ああ、それにしても心地良いなぁ、顔面太もも枕。ここが俺の墓場だったら良いのに。

 

「………俺もうここに住むわ」

「バカなこと言ってないの。それより、仕事はしたの?私にセクハラして気絶して、加賀さんに怒られてこうして膝枕してるわけだけど」

「仕事?やってないよ?」

「ダメじゃない!仕事もしないで遊んでたら!」

「大丈夫だよー。俺優秀だから二秒で終わるし」

「そういう問題じゃないの!先にやる事やらなきゃダメじゃない」

「気分じゃないしー。大丈夫、今日中に終わらせるから」

「……………」

 

神風は黙り込んでしまった。気になって、チラッと神風を見上げると、頬を染めたまま目を逸らして、覚悟を決めたように言った。

 

「………し、仕事終わったら、その………一緒に、お風呂入って、あげるから…………」

「よーし、久々に本気でやろうか」

「っ⁉︎ い、いつの間に机の上前に………⁉︎」

 

とりあえず、10分で終わらせようか。

 

 

++++

 

 

仕事を5分で終わらせた。

 

「は、早い………!呆れるほど早い………」

 

神風が引いていた。仕方ないよ、君とのお風呂のためだもの。

 

「さて、お風呂‼︎」

「なんていうか、提督って驚く程欲望に忠実ですね……。まぁ、私が言い出した事だし………良い、けど………」

「俺の部屋の風呂で良いよね⁉︎さぁ、お互いの全てを曝け出そうか!」

「わ、分かったから大声出さないで‼︎」

 

行くわよ!と、神風は執務室の出口に向かった。

 

「あ、待った」

「な、なに?」

「みんなに見つかるとまずい。屋根から行こう」

「屋根から⁉︎」

「ほら、おいで」

 

俺は神風の前に背中を向けて座った。神風は頭上に「?」を浮かべる。

 

「あ、あの……何を?」

「何って………おんぶ」

「え、な、なんでですか⁉︎お尻触る気ですか⁉︎」

「それもあるけど、屋根の上なんて女の子には危ないでしょ」

「っ!」

 

何故か顔を赤くする神風。俺は背中に神風がチョコンと乗っかたのを感じ、立ち上がった。ふひひ、オッパイが背中に当たってる。

窓に脚をかけると、一気に跳ね上がり、屋根に手を掛けてグルンっと屋根に上がった。

 

「神風ー、落ちてないかー?」

「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃん……」

「そうかー。俺は恋に落ちたぞー」

「恋っ⁉︎」

 

可愛くリアクションする神風を背中に乗せたまま、自室の真上に向かった。自室の窓から侵入すると、神風を下ろした。

 

「さて!脱ぐか!」

「だから堂々と言わないでください!本当に変態なんですから‼︎」

「まぁ、その、なんだ。とにかく、浴室に来い」

「は、はい………」

 

誘うと、神風は後ろからついて来た。浴室に繋がるドアを開け、中に入った。その時点で、俺はタオル一枚になっていた。

 

「き、きゃああああああ⁉︎」

「悲鳴可愛い!どうしたの?」

「な、なんでいきなり裸になってるのよ⁉︎ていうかいつ脱いだのよ⁉︎」

「俺、着替えだけは早いんだよね」

「脱いだだけじゃない!」

 

着替えだよ。心の着物に着替えたんだ。さて、次は神風の番だ。俺はウキウキしながら神風を見た。神風は若干、震えた声で聞いてきた。

 

「………ほ、ほんとに入るの……?」

「え?うん」

「…………わ、わかったわ。……ぬ、脱ぐ………脱ぐんだから……」

 

涙目になりながら、真っ赤な顔でつぶやく神風。

…………なんか流石に申し訳なくなって来たな。ていうか、人としてこれは流石にどうなんだろう。うん、断ろう。

 

「神風、いいよ別に」

「ふえっ⁉︎」

「無理しなくていいよ。神風だって嫌だろ?」

「でも……約束したから………」

「そんなもん『今すぐ入る』とは言ってない。別にいつでも良いから。今は嫌だろ?」

「いつでも嫌なんだけど………」

 

さて、寒くなって来たし、服着るか……。いや、寒くはないな。神風の前で裸になってんのある意味で興奮して来たわ。

そんな事を考えてると、神風の両手が震えたまま和服の襟に掛けられた。

 

「? 神風?」

「や、約束したもの!約束は守るわ!」

「お、おいおい!」

 

マジかよ!大体、お前に脱がれたら俺、我慢しきれるか分かんねーぞ⁉︎いや、そこは流石に死んでも我慢するけど………‼︎

 

「とにかく、入るわよ!」

「あ、ああ……わかっ」

「そのためには、服を脱がなきゃね」

「あ、あわっあわわわ………」

「? 司令官?」

 

俺の視線の先にいるのは、神風ではない。神風の後ろで仁王立ちしている加賀だった。

 

「………バスルームで裸で神風と何を始めるつもりですか?提督」

「あ、あわわわわ………‼︎」

「か、加賀さん⁉︎」

「な、何故、ここが………‼︎」

「屋上に彩雲を配置して正解だったみたいね」

 

こ、このクソ女ァ………‼︎けど、これは弁解のしようが………‼︎

 

「さて、では肛門に矢を捩じ込むから。覚悟しなさいよ」

「ま、待て待て待て!今回の事は神風の方から………‼︎」

「遺言は死んでからになさい」

「いやそれ遺せてな……⁉︎」

 

この後、なんとか神風の説得で助かったけど、翌日から加賀の視線は虫を見る目になっていた。

 

 


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