みほの回想編 1 きっかけ
西住みほは、フリージャーナリストが30年前のことを色々と探って、戦車道関係者と連絡を取っていることを掴んでいた。一体何人目だろうか。30年間もの間多くの者がこの事件を追ってきた。みほは、事件に至るきっかけとなった、できごとを思い返していた。
「あれは、私が黒森峰の中等部に入学した時だったな…」
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全ての始まりは、みほが黒森峰の中等部に入学し、戦車道を黒森峰で始めた頃にさかのぼる。みほは、入学して即、西住流の後継者として戦車隊の副隊長に任命された。しかし、わずか1年生での抜擢に妬む者も多くいた。
そう。みほは、いじめられたのである。みほは、優しく気弱な女の子だった。だからこそ、反撃することも叶わず、格好のターゲットになったのである。
姉も母も、みほがいじめられていることには気がついていた。しかし、西住流は前へ進む流派だとして、特に何か手を差し伸べるなどはしなかった。みほに自分でなんとかしていじめをはねのけることを求めたのである。
みほは、考えに考えた。どうすればいいのか。そしてとうとうみほは、一つの答えを導き出した。副隊長という立場を使うことにしたのである。手始めに、自身をいじめた者を戦車隊から追放した。自分の指先一つで今まで苦悩させられてきた者たちを逆に追放してしまうことができたのである。みほの中で自信と快感が生まれた。
しかし、こうした行動はさらなる反感を買い、みほの目論見は結果として失敗した。
そこで、みほは次なる行動を起こした。それは、自身の能力を高め、卓越した演説力により自身の味方を増やすという手段であった。みほは、戦車戦略など戦車道関連の研究はもちろんのこと、人心を惹きつけ、独裁政権を確立したアドルフ・ヒトラーを参考に演説を研究した。みほは、持ち前の一生懸命さでそれらを習得した。もともと、人前で話すことなど苦手でみほにとっては避けたいものであったが、こういう事態なのだから仕方がない。みほは懸命に練習した。みほの演説は素晴らしいものだった。
「…皆さん!私たちは、互いに傷つけあっていて良いのでしょうか?否、いいはずがありません!私たちの共通の敵は結束を以って私たちを打ち倒さんとしています!私たちは、何としても優勝を成し遂げなければならないのです!…」
演説は成功したのである。みほは、仲間同士で痛めつけ、傷つけ合うことがいかに愚かであるかを語り、本来の共通の敵と目標を語った。共通の敵を示された群衆は互いに結束を強め、口だけではなく実際の研究に基づいたみほの実力を知り、みほに憧れ、みほを目指した。姉のまほはその様子をみて、これなら大丈夫だろうと思った。みほの努力は身を結び、自身の仲間を増やすことに成功し、そのまま楽しい中学生活をおくれる。
はずだった。
みほは、裏切られたのである。みほのことをおもしろく思わない者がいたのである。姉のまほが卒業すると、みほは何者かに根も葉もない良くない噂を流された。そして、みほの周りから仲間が1人また1人と離れていってしまったのである。みほはまたもや孤立してしまった。そして、一度流れた噂はなかなか消えず、孤立したまま中等部の生活を終えたのであった。
卒業後、みほは次なる策を考えた。中学時代と同じ轍は2度と踏まぬと
決意した。そして、悟った。今までやり方では生ぬるい、優しさだけではダメなのだと。
「そっか。これじゃダメだよね。方法を変えないと。今までの生ぬるい優しさだけじゃダメだね。優しさだけじゃ、裏切られる。裏切られた結果がこれだもん。なら、絶対に裏切れないようにしてあげるね。」
みほは、笑う。
みほの中で何かが壊れ、悪魔が産声を上げようとしている瞬間だった。
つづく