血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほの諜報員はこうして作られる


第5話 教育

練習試合は結局、優花里たちAチームの一人勝ちとなった。

優花里は、みほの囁きのおかげでとてもじゃないが集中などできなかった。

今は、お風呂でゆっくりと練習の感想などをそれぞれ話している。

 

(冷泉殿を狩る?狩るってどういうことなのでしょうか?西住殿は一体…)

 

優花里は、戦車の中でみほに囁かれたことを考えていた。またみほが恐ろしいことを考えている。それだけは確かである。しかし、逆らえばみほに殺されかねない。

どうすればいいのだろうか。

そんなことを考えていると、顔に出ていたのだろう。沙織が心配そうに声をかけてきた。

 

「ゆかりん!難しい顔してどうしたの?」

 

「いえ、なんでもありません。」

 

「ゆかりん、今日1日なんか変だよ?本当に大丈夫?」

 

沙織には心配されたが幸い、みほには気づかれていないようだった。沙織には、大丈夫だと伝えたが本気で心配させてしまった。沙織が心配する気持ちもわかる。なんでも一日中気難しい顔をしていたのだ。心配するに決まっていた。

しかし、このことを誰かに話すわけにはいかない。話せば、優花里だけでは済まないだろう。

気づけば、みんなの話は戦車における役割分担の話になっていた。優花里は装填手を引き受けることになった。

その時、操縦手の席が空いてしまったので、麻子を操縦手にしようという話になった。最初こそ、書道を選択しているからと断っていたが、沙織が巧みに単位のことなどで脅し、なんとか戦車道をやってくれることになり、まとまった。そして、沙織は

 

「じゃあ、やっぱあそこ行かなきゃ!!」

 

と言った。優花里はてっきり戦車道ショップに行くのかと思っていたのだが、沙織が向かった先はディスカウントショップだった。優花里はがっくりきてしまった。

ディスカウントショップで、クッションなど色々買い揃えて解散となった。空はすっかり夕焼け空に染まっていた。

しかし、優花里は帰れない。

みほとの恐怖の時間の幕開けである。

学園艦の端にある、拠点に向かって歩く。しばらく二人は何も話さなかった。しばらくしてみほが口を開く

 

「秋山さん。今日1日ずっと、難しい顔で思案してたけど何かあったの?」

 

バレていた。バレていたのである。みほにだけは気づかれないように細心の注意を払っていたつもりだった。しかし、それは無駄な努力だったのである。汗をダラダラ流しながらみほを見るとちょうど空と同じように、昼から夜に切り替わるように、みほの顔も優しいみほから闇のみほに変わろうとしていた。

 

「秋山さん。まさか、裏切ろうなんておもってないよね…裏切ったら、秋山さんの家族もろとも皆殺しだよ?」

 

みほはまた楽しそうに笑う。

 

「う…裏切ったりなんてしませんから、家族だけは…」

 

「えへへ。よかった。」

 

嫌だ。皆殺しなんて絶対に嫌だ。絶対に生き延びてみせる。みほの支配の下で何としても、優花里は誓った。しかし、みほはそれを知ってか知らぬか呟く

 

「でも、秋山さんの絶望した顔は見てみたいなぁ…」

 

みほの思考は狂気な化け物であった。通常の人間の理性は通用しない。悪魔を具現化したような、そんな存在である。

優花里は俯きながら歩く。みほは優花里の様子を見てより一層楽しそうに歩く。

しばらく歩くと拠点に着いた。

古いドアが音を立てて開く。その音はまるで優花里の心境を代弁してくれるような重い扉の音だった。そして、昨日優花里が監禁され屈辱を受けた部屋に通された。今日は、椅子と机そしてホワイトボードが置いてあった。席に座るよう促され座るとみほは講義を始めた。

 

「じゃあ、第1回目の講義を始めようか。今日は、諜報員の役割と実行指令の受け方。そして誘拐術についてだよ。」

 

「じゃあ、まずは諜報員の役割から説明するね。諜報員の役割は主に相手チームへの偵察、そして、破壊だよ。もちろん、殺すこともあるし、食中毒程度で済ますこともあるけど…まあ、時と場合によるね。その他にも…」

 

聞けば聞くほど狂気だ。殺すという言葉が繰り返し使われる。みほの闇はどこまでも深かった。

 

「実行指令は、ラジオで行うよ。ラジオで乱数暗号文を毎夜深夜1時に流すから忘れずに聞いていてね。ちなみに、実行日時もその乱数暗号文で送るね。あ、あと乱数は自力で頑張って覚えてね。もし覚えられなかったら、罰として昨日と同じような目にあってもらおうかな。」

 

みほに笑顔で乱数表を渡された。昨日の屈辱を味わうなんて2度とごめんだ。優花里は食い入るように乱数表を覚えようとした。しかし、まだ講義は終わっていない。みほから

 

「秋山さん。まだ講義は終わってないよ。講義に集中できない悪い子は殺しちゃうよ。」

 

「い、いえ。集中します!集中しますから…」

 

汗が止まらない。みほは満足そうに微笑んだ。

 

「じゃあ、続きをやるね。誘拐術っていうのは文字通り、人を誘拐する方法のこと。私は時々、"狩り"って言葉を誘拐するときに使うことがあると思うんだけど、この"狩り"っていうのは特別な意味があるの。それはね、私が指名した人を誘拐してくるって意味だよ。なんで誘拐するのかっていうと、秋山さんみたいに諜報員になってもらうため。でも、秋山さんはさらってくるところまででいいからね?仕上げは私がやるからやらなくても大丈夫!他にも、他校の生徒を誘拐して情報を聞き出したり、人質にとって色々な交渉を行うコマに使うからこの誘拐スキルは覚えておいてね。」

 

なるほど。さっき戦車の中でみほが冷泉さんを狩ると言っていたのはこのことだったのかと優花里は理解した。こんな汚れた仕事やりたくない。そんな風に思っていると、みほは

 

「それで、次のターゲットは冷泉さんなんだけど…秋山さんには冷泉さんを眠らせてここまで連れてきて欲しいの」

 

「え!私がここまで連れてくるのですか!無理です!まだできません。」

 

「へぇ〜、私に逆らうの?」

 

みほは、毒針入りペンを取り出す。

 

「い、いえやりたくないというわけではないのです。ただ、失敗して西住殿にご迷惑をおかけしたらと思うと…」

 

「大丈夫だよ。まだ、決行までに時間があるから訓練しようか。」

 

冷泉麻子誘拐計画の訓練が始まった。

 

つづく

 




優花里はこのまま、諜報員になってしまうのか?そして、冷泉麻子はみほのものになってしまうのか?
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