血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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アンツィオ高校のお話が続きます。
今年最後の更新です。
6月に連載を始めて半年ですが今年はありがとうございました。
また、来年からもよろしくお願いします。

ノリと勢いだけはあると呼ばれるアンツィオ高校にも空襲の脅威を戦った公的な職務を担っている公務員のような立ち位置の生徒たちがいるはず…今回はそんなことを意識して書いてみました。


第95話 アンツィオ編 貴女にしかできない

カルパッチョは、あちこちに倒れている機銃掃射で命を絶たれた犠牲者の遺体を誤って踏まないように慎重に走った。だが、なかなか走れない。よろけてしまう。カルパッチョの目はだんだん霞んで前が見えなくなった。カルパッチョの頰が濡れる。気がつくとまた、涙が出て来ていた。実際、仲間の死を目の当たりにしたわけではないが、目の前に広がる惨状から鑑みるにそういうことなのであろう。だが、信じたくない。もしかして、階段前広場に行けば誰かいるかもしれない。それに、実は階段前広場で遺体は見つかっておらず情報が錯綜しているだけなのかもしれない。とにかく自分の目で確かめようと中央広場に向かうことにした。とにかく誰でもいいから戦車道の仲間に会いたかった。カルパッチョは拳を強く握りしめ、再び走りだす。しばらくは銃痕でボコボコの建物の壁と薬莢や銃弾が散乱するまるで紛争地のような街並みが広がっていたが、200メートル走った辺りになるといつも通りの綺麗な街並みが広がった。あの惨劇が嘘のように綺麗な街並みだった。ただ一ついつもと違うことといえばいつもの陽気な空気ではないことだろうか。緊迫して張り詰めている。混乱と悲しみと怒りを混ぜ合わせた、そんな空気だった。

しばらく 走り続けてそこに着いた時カルパッチョの目の前には校舎で見た光景と似たような光景が広がっていた。そこにあったはずの多くの屋台は無くなっていて代わりに広場のそばにあった建物から崩れ出た瓦礫と地面に開いた大きなクレーターが何個も出現していた。大勢の消防団の法被を着た生徒たちがシャベルや棒、手押し車を手に大声を張り上げながら作業をしていた。カルパッチョは唾を飲み込むと中央広場に立ち入ろうと一歩踏み出した。するとどこからか怒りの声が聞こえてきた。

 

「こらあ!あんた誰!?はよ避難せな!怪我しても知らんよ!?それとも野次馬のつもり!?ぶっ飛ばしてやろうか!?ここでは人がたくさん死んでるんだ!すぐに立ち去れ!」

 

カルパッチョは驚いて声のする方を見ると一人の消防団員の少女が鬼の形相でこちらを睨みつけている。カルパッチョは突然自分に向けられた怒りにたじろいだが、毅然とした態度で反論した。

 

「違います!野次馬なんかじゃありません!ここに……私の……大切な仲間がいたんです!戦車道の仲間たちがいたんです!私は副隊長です!仲間を心配して仲間がいた場所を探して何が悪いというのですか!」

 

カルパッチョは絶叫した。カルパッチョの叫びを聞いて。その消防団員は気まずそうな顔で頭を下げて謝罪した。

 

「申し訳ありませんでした……気が立ってて……」

 

「いえ……大丈夫です……この状況で怒りを感じない人なんていないと思いますから……こちらこそ感情的になってしまい申し訳ありませんでした……」

 

カルパッチョが下を向いていると今度は別の声が聞こえた。

 

「ちょっとそこどいてください!通りますよ!」

 

毛布に包まれた何かが即席の担架に乗せられてカルパッチョの前を運ばれていく。その毛布には赤黒いシミが滲んでいる。カルパッチョは運ばれていったものが何だったか理解してしまった。それは間違いなく遺体である。しかし、人間の遺体にしてはずいぶん小さいな、とカルパッチョは思った。すると、先ほどカルパッチョに怒りをぶつけた消防団員がその担架を見ながら言った。

 

「今運ばれたご遺体は女性の右前腕だけ……部分遺体です。」

 

「え……!?そんな……」

 

カルパッチョはぞっとした。自分がこれから対面するかもしれない遺体たちも腕だけや脚だけの部分遺体だったらどうすればいいのだろうか。どんな顔をして仲間たちの検死をすれば良いのだろうか。カルパッチョは恐ろしくて下を向く。消防団員も泣きそうな顔をして呻くような声を出した。

 

「ここは地獄です……私たちがここに救助に来た時、人間の形を保っている遺体はほとんどありませんでした……ほとんどが腕だけや足だけの部分遺体……酷い方だと頭皮らしきものや顔の皮膚らしきものが爆発で折れたと思われる近くの街路樹に引っかかっているものもありました……残念ですが、ここに生存者がいる確率は5%以下です……戦車道の方と思われるご遺体も先ほど運ばれていきました。体育館が遺体安置所になっています。そちらに向かってください。とにかく、ここから早く立ち去ってください。私たちは仕事ですから仕方ありませんが訓練していた私たち消防団でもこの光景はキツイです。」

 

消防団はそう言うと後ろを向いて作業に戻っていった。

 

「わかりました……ありがとうございました……」

 

カルパッチョは頭を下げる。消防団員は何も言うことはなかった。カルパッチョは回れ右をして後ろを向くと元来た道を戻った。遺体安置所になっている体育館に向かうためだ。この広場を突き抜けて真っ直ぐ行けばすぐに着くが目の前では捜索等が行われているのでそれはできない。仕方がないので回り道をして向かうことにした。

しばらく歩くと体育館が見えて来た。体育館にはダンプカーや軽トラが集結し消防団員と思われる生徒とこの安置所の職員と思われる生徒が遺体と思われる毛布に包まれた何かを運び込んでいた。そうした職員や消防団以外は誰もいなかった。やはり混乱しているのであろうか。ここが遺体安置所になっていることなど誰も知らないといった様子である。カルパッチョは受付付近にいた職員の生徒に話しかける。

 

「あの……ここに私の知り合いが収容されていると聞いたのですが……」

 

「そうですか……失礼ですがお名前は……?」

 

「落合陽菜美です……戦車道の副隊長をしています……」

 

「落合陽菜美さん……えっと……失礼ですが本登録はお済みですか?」

 

カルパッチョは「いいえ。」と首を横に振った。すると職員の生徒は申し訳なさそうな顔をした。カルパッチョはなぜ受付の生徒が申し訳なさそうな顔をしたのか理解できたなかったが真相はすぐにわかった。その生徒は申し訳なさそうな口調で言った。

 

「あの……大変申し訳ないのですが、貴女をこの中に今、入れることはできません。」

 

カルパッチョは想定外のことを言われて一瞬何を言われたか理解が追いつかなかったが、すぐに理不尽な回答に怒りがこみ上げ、職員の生徒に詰め寄った。

 

「なぜですか!?なぜ入れないのですか!?私たちは共に戦って来た仲間なんですよ!?友達なんですよ!?なのにどうして!?」

 

カルパッチョにものすごい剣幕で詰め寄られて職員の生徒は思わず後ずさりをした。しかし、職員の生徒は何もカルパッチョに意地悪をしたくてそんなことを言っているわけではない。職員の生徒にも譲れない事情があるのだ。職員の生徒はカルパッチョを宥めながら事情を説明する。

 

「落合さん。落ち着いてください。私も貴女に意地悪をしたいとかそういう理由で入らせないと言っているわけではないんです。理由があるんです。私たちのアンツィオ高校は19世紀末からある歴史ある学校です。そのために古い規定がまだ廃止されずに残っている場合があるのです。その中の一つに日本が太平洋戦争に突入する前、1940年3月に制定された緊急事態規定というものがあります。これはもともと、万が一民間の船である学園艦が米英などの敵に攻撃されるなど不測の事態が発生した時にその混乱に乗じてスパイが紛れ込むことを防ぐために作られた規定です。この規定は緊急事態が宣言された時、災害特別対策行政本部に生存の登録を済ませるまで全ての市民権を停止するというもので、この規定がいまだに生きているので、まだ生存者確認の本登録が認証されていない落合さんは入ることができないということです。」

 

「そういうことですか……なら仕方ないですね……」

 

「それと、実はまだ医師による個人識別や身元確認が全く行われていない状況です……先ほど一度にダンプカーで100体ほど送られて来たのに対して、負傷者の治療等もあり、現在検視を行うことができる医師が二人だけという状況で……これからどれだけの数の犠牲者がこちらに来るかも未知数で計り知れないのに……さらに、電気も止まっているみたいで……夜は作業することができませんからもしかしたらしばらくは開設することができない状態が続くかもしれません。申し訳ありませんが、ご理解ください。」

 

職員の生徒は身体を70度に曲げて謝罪した。そんな状況なら仕方がない。一刻も早く収容されたとされる遺体を確認したかったが今は諦めるしかないようだ。それに、生存者登録が未登録では何をすることもできない。とりあえず、どこに行けばいいのかカルパッチョは目の前の職員の生徒に尋ねた。

 

「わかりました。とりあえず、私はどこに行けばいいのですか?」

 

「えっと、確か災害本部があるのが3号棟だったはずです。3号棟に向かってください。」

 

カルパッチョは体育館を後にして、言われた通り3号棟に向かった。3号棟には難を逃れた生徒たちが大勢集まり、行列を作っていた。集まった生徒たちは情報を求めて窓口の生徒たちに詰め寄る。3号棟は混乱していた。、行列の先頭で教職員と担当の生徒が声を張り上げる。

 

「押さないで!現在の時刻は仮番号600番代までの方の本登録を行なっています!この番号ではない方は、講堂で待っていてください!600番代までの方はそれぞれ今から言う該当の窓口に並んでください!1番から100番代が1番窓口、200番代から300番代が2番窓口、400番代から500番代が3番窓口、600番代が4番窓口です!本登録が終わった方はそれぞれ割り当てられた教室に行ってください!これからの生活についての説明を行います!」

 

皆、それぞれ自分の番号に従って窓口に並ぶ。カルパッチョも皆に倣って3番窓口に並んだ。カルパッチョは後ろの方だったので本登録が終わるまでしばらくかかったが、1時間くらい並んでようやく順番が回って来た。

 

「お待たせしました。お怪我はありませんか?」

 

「はい。ありません。」

 

「そうですか。それなら良かったです。大変でしたね。もう大丈夫です。それでは、お名前と年齢、生年月日、お住まい、仮登録時に発行された3桁の番号を教えてください。」

 

「落合陽菜美1995年12月19日生まれの16歳です。現在、第3街区の寮に住んでいます。仮登録番号は527です。」

 

「はい。わかりました。少々お待ちください。」

 

窓口の生徒はファイルを確認する。そして、カルパッチョの本名"落合陽菜美"の名前を見つけると蛍光ペンで線を引いた。するとやおら担当の生徒の動きが止まった。そして、ファイルとカルパッチョの顔を交互に見ると「少々お待ちください」と言って慌てて奥へ下がっていった。何事かとカルパッチョが不安に思っているとしばらくして別の女子生徒を連れて戻ってきた。

 

「落合陽菜美さん。お待ちしておりました。消防団から報告された件についてお話を伺いたいのでこちらに来ていただけますか?」

 

「わかりました。」

 

カルパッチョは、責任者と思われる生徒に先導されて建物の最上階にある災害本部に通された。そこでも多くの生徒と教職員が次々と舞い込む情報をホワイトボードに書き込み被害の全容の把握に努めていた。責任者の生徒はカルパッチョに椅子を勧めると、聴取を始めた。

 

「私は、現在、生徒会長に代わって対策本部長をしている河村日和と申します。まずは貴女が知っている全てを一体何が起きているのかお話しいただけますか?」

 

カルパッチョは頷くと全てを告白した。大洗女子学園生徒会から西住みほが武装蜂起した連絡があり援軍を請われたこと、巻き込まれのリスクと金銭的関係からそれらの申し出を黙殺していたこと、西住みほが知波単、聖グロリアーナなどを取り込み残虐行為を繰り返していると連絡を受けたこと、そしてその西住みほを支援している知波単から攻撃を受けたこと、とにかくカルパッチョが知っている全てを話した。そして最後にカルパッチョは謝罪した。

 

「私は、全てを知っていたのに予測を見誤り結果として多くの人命を奪うきっかけを作ってしまいました。私の罪は重いと感じています。本当にすみませんでした。謝って許されるわけではないですがせめて何か償いができればいいのですが……」

 

すると、今まで真剣の顔つきで調書を作成していた河村がカルパッチョの目をまっすぐに見つめて言った。

 

「貴女は悪くない。こんなこと起こるなんて誰が予測できますか。どうか自分を責めないでください。でも、どうしても自分が許せなくて償いをしたいと思うなら、貴女に一つ打診したいことがあります。私に代わって対策本部長に就任してもらえませんか?」

 

「え……?そんな……私にそんなこと……」

 

カルパッチョは突然の打診に戸惑った。すると、河村はカルパッチョの目をまっすぐ見つめながら言った。

 

「貴女なら大丈夫です。貴女は戦車道の副隊長を務められるほどの人ですから。あのノリと勢いがある集団をうまくまとめ上げるというのはなかなかなものです。私はあくまで代理、私より貴女の方が適任です。実は本来この災害対策本部長を務めるべき生徒会長をはじめとする多くの生徒会の役員たちが行方不明になっています。連絡がつかないんです。出どころは不明ですがある情報によると生徒会室があった艦橋付近でも爆発が起きたと聞いています。私も生徒会広報の人間ですがまだ1年生でこういう時、どうすればいいのか何もわからないんです。でも、貴女は違う。貴女は極限状態でも冷静にトリアージを実行し、消防団の活動を助けたと報告を受けています。もちろん、私もここの職員として働きます。ですからどうかお願いします。私たちを助けてください。ここにはもう貴女の他に適任者がいないんです。この仕事は今は貴女しかできないんです。集団をまとめられるのは貴女しか……私たちにはどうしても貴女が必要なんです!だからお願いします!」

 

カルパッチョは目を瞑って少し考えた。こういう時にドゥーチェ・アンチョビはどう答えるか。5分ほどずっと目を瞑って考えていた。カルパッチョ自身も被災者であることは間違いない。カルパッチョも大切な仲間が行方不明だ。断ることもできた。しかし、目の前で小さく震えている1年生の河村日和という少女を放っておいていいのだろうか。彼女の目は今にも壊れてしまいそうな虚ろな目をしている。きっとアンチョビなら何が何でも自分を顧みることなく助けようとするだろう。カルパッチョはついに決断した。カルパッチョは目を見開きおもむろに口を開いた。

 

「わかりました。この話、引き受けます。罪滅ぼしのためにも貴女を助けましょう。」

 

カルパッチョの答えを聞いて河村はホッとしたのか座り込んだ。今まで我慢していた涙が溢れる。1年生でこの極限状態は酷だったようだ。カルパッチョは河村を抱きしめて背中をさする。

 

「良かった……本当に良かった……ありがとうございます……本当にありがとう……」

 

「うん。大丈夫よ。今までよく頑張ったわね。一緒にこの苦難を乗り越えましょう。」

 

河村があまりに大きな声で泣き声をあげるので心配して災害対策本部の職員たちがカルパッチョたちの周りに集まってきた。カルパッチョは立ち上がると集まってきた皆に告げた。

 

「皆さん!まずはガス、電気、水道のライフラインの現状把握に努めてください!そのあと、被災地域と被害の状況を詳細に記録してください。これは体力に自信がある方を担当にします。もし人手が足りないようであれば、体育会系の部活動の部員や戦車道隊員にも協力を要請します。また、現在消防団が行方不明者の捜索と遺体の収容を行なっています。風紀委員を中心に消防団の支援と遺体安置所の職員の支援をお願いします。ご遺体を扱う時は尊厳を持って扱ってください。ご遺体は決して物ではありません。彼らはご遺体です。魂はありませんが人間なんです。ぞんざいに扱う行為は許しません。自分が逆の立場ならどのように扱ってもらいたいか考えて丁寧に扱ってください。また、風紀委員の本来の仕事である治安維持も忘れずに行ってください。その他、情報は積極的に開示してください。デマが非常時において1番の敵です。混乱する原因になります。信頼のおける最新の情報を常に新聞部と放送部に流し続けてください。窓口は生徒会広報を担当していた河村さんお願いします。新聞部と放送部の記者を1人ずつ本部に常駐させてください。また、保健衛生を担当している方は少しでも多くの医療従事者と医師免許と看護師免許の保持者に遺体安置所の検視と負傷者の治療の協力を要請してください。現職でなくても構いません。あとは、地上と連絡が取れるかの確認と船舶科にこの学園艦が航行可能かの確認そして現在地の確認をお願いします!航行可能な場合、最短でどこの港にどのくらいで到着することができるかも報告するように艦長または副長それもダメなら航海長に通達してください!皆さん、この学園艦の運命は私たちの双肩にかかっています。これから大変になると思いますが、よろしくお願いします!」

 

「「はい!」」

 

カルパッチョはキビキビと指示を出した。とにかく必死だった。みんなで助かる。これ以上の死者を出さない。それがカルパッチョの願いだった。カルパッチョの的確な指示のおかげで混乱していた災害対策本部も態勢を立て直し、徐々に情報も集まってきた。

 

「随時、私に報告をお願いします!」

 

カルパッチョはホワイトボードの前に立って報告された情報を次々と書き込む。

 

「ガス、電気全地区で止まっています!復旧の見通しは立っていません!ですが奇跡的に水道は生きています!」

 

「火災がヴィア・ディアモーレなど各地で発生!特に、ガスタンク群がものすごい炎です!」

 

「電話、つながりません!また、地上への交信も不可能です!航行継続の可否は不明!」

 

「現段階で負傷者255名、死者336名、行方不明者15513名!」

 

「行方不明者が15513名?本当ですか?」

 

カルパッチョは耳を疑った。行方不明者数があまりにも多すぎたのだ。こんなに多いはずはない。なぜこんなに多い大震災並みの数字が報告されるのかカルパッチョは考える。そしてある一つの答えにたどり着いた。カルパッチョは職員に尋ねた。

 

「現段階で防災無線は使えますか?」

 

「はい。使えます。」

 

「それなら急ぎ、防災無線で伝えてください。これから全地区に避難命令を発令します!おそらく、この15513名という行方不明者の不自然に多すぎる数は生存者登録義務を知らずにまだ登録を行なっていない人たちの数も含まれているはずです。被害を受けていない地区もありますからその地区の住民たちはなおのことです。無理矢理にでも出てきてもらって登録して正確な数字を知りましょう。貴女、放送室に向かうことできますか?お願いしてもいいですか?」

 

「了解です!」

 

カルパッチョに指示された生徒は全地区の避難命令を発令するために防災無線の放送室に向かった。カルパッチョは皆に感謝を伝えるとともに引き続き現状把握に努めるよう指示する。

 

「皆さん報告ありがとうございます!これからも情報を密にしてください!常に最新の情報を収集し続けてください!」

 

次々と新しい情報が舞い込む。皆からの報告をまとめるとライフラインは電気とガスの機能は失われたが水道は奇跡的に生きていること、電話などは一切繋がらないこと、火災が所々で発生し、特に第7都市公共施設群のガスタンク群を中心に激しく燃えており、更なるガス爆発を誘発する恐れがあること、ガスタンク群における火災は消防団が懸命な消火活動を行なっているが火の勢いは衰えることなく、他の地区の火災にまで手が回らない状況であること、爆発の跡は南市街地、西市街地、戦車演習場、階段前広場、アンツィオ高校校舎1号棟、第7都市公共施設群変電所、電話基地局、艦橋など多数に分散しており、瓦礫と犠牲者の遺体の一部と思われる肉片だらけで行方不明者の捜索と救助が難航していること、現在収容されている負傷者は255名、死者336名、生存はしていると思われるが生存確認登録が済んでいない人を含めた行方不明者が15513名いること、航海科には連絡がつかず未だ艦の運航状況は不明とのことだった。状況はかなり厳しいと言えるだろう。

 

「もう……ダメだ……私たち死ぬのかな……」

 

誰かがそう呟いた。するとそれを皮切りにあちこちから泣き声が聞こえてきた。カルパッチョは職員たちを強く叱責した。

 

「皆さんが弱気でどうするんですか!被災者のみんなは貴女たちが頼りなんですよ!貴女たちがこんなことではダメです!しっかりしてください!」

 

カルパッチョの怒号に静まり返った。しばらく沈黙が続きやがて誰かが絞り出すような声をあげる。

 

「わかっています……わかっているんですが……」

 

「とにかく、口を動かす暇があったら行動してください!河村さん、これ新聞部と放送部の記者に持って行ってあげてください!走り書きですが現状をまとめた資料です!被災者たちはみんな情報を求めています!早く!また、記者からも情報を聞き出し、相互的な協力体制を構築してください!」

 

「了解です!わかりました!」

 

「貴女は食料の備蓄がどのくらいあるのか確認してきてください!」

 

「はい!わかりました!」

 

「現職ではない医師免許保持者と看護師免許保持者の確保はどうなっていますか!?」

 

「10人の市民が名乗り出てくれました!」

 

「それならまず、負傷者の治療の拠点になっているアンツィオ総合病院に連絡!足りそうなら遺体安置所の検視に回してください。遺体安置所では検視を行う医師が足りません。引き続き協力要請を募ってください。」

 

「了解です!」

 

カルパッチョは返事を聞き精悍な顔つきで頷くと後ろを向き、教室の窓を開けて呟いた。

 

「私も、皆さんが嫌いで厳しいことを言っているわけではありません。皆さんは対策本部の職員です。皆さんはこの学園艦の人たちを守らなければなりません。この景色を見てください。炎と煙と瓦礫の山が見えるでしょう。貴女たちはこの地獄に放り出された住民と生徒たちを守らなければいけません。さっきも言いましたが皆さんの双肩には何万人もの生徒、市民、教職員たちの命がかかっているんです。貴女たちが判断を間違えると被災者たちが亡くなってしまうことだってあるんです。それは自覚してください。」

 

「「はい!」」

 

カルパッチョは金色の綺麗な長い髪をたなびかせて窓の外を見つめながら佇む。窓からは硝煙と血の臭いが漂ってきた。窓から見える景色はところどころ発生した火災で真っ赤になっていた。炎は今にも街を飲み込もうとしている。地獄がカルパッチョの目の前に広がる。カルパッチョは目を瞑って呟いた。

 

「酷い景色……戦車道のみんなに早く会いたいな……みんな大丈夫だったかな……どうか無事でいて……私も頑張るから……」

 

その時、また新しい情報が舞い込んだ。新たに遺体が発見されて死亡者数が増えたのだ。カルパッチョはホワイトボードに更新された死亡者数を書き込む。カルパッチョたちアンツィオ高校の長く辛い苦難の戦いが始まった。

 

つづく




皆さま、良いお年をお迎えください。
新年の更新は1/14の21:00を予定しています。
そして、明日元日は角谷杏会長のお誕生日!
おめでとう!
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