血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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今日もアンツィオ編です。
お待たせしました。
よろしくお願いします。
今日もかなり大きくお話が動きます。


第115話 アンツィオ編 凄惨

市民たちにこの墜落事件が知られたことが判明して5分もしないうちに無線の呼び出し音がけたたましく鳴った。

 

「緊急!緊急!風紀委員会留置管理課から風紀委員会指令本部へ!風紀委員会留置管理課から風紀委員会指令本部へ!至急応答してください!」

 

無線の向こう側の人は慌てているのかどうやら本来なら風紀委員会同士で交わされるべき無線を複数の周波数から同時に発信していた。無線の向こう側の人は必死な声でこちらに呼びかけている。留置管理課は言葉通り留置所の管理を行う担当課である。私は無線の向こう側から感じ取れる切迫した雰囲気に嫌な予感がして本来ならば風紀委員会指令本部が無線をとるべきだがそれよりも早く慌てて無線を手に取った。

 

「特別災害対策本部から風紀委員会留置管理課!どうしましたか?!」

 

「風紀委員会留置管理課から災害対策本部へ!現在、留置所が数百人の暴徒に襲われています!至急応援を!至急応援を!現在、暴徒の鎮圧を行うも、我々留置管理課だけでは対処しきれない!暴徒は棍棒やナイフ、角材、鉄パイプなどの凶器を所持しており、複数の負傷者が発生しているという情報もあり、危険な状態です!武装風紀委員部隊の出動を要請します!」

 

相手の言葉を聞いた瞬間、私は大きく目を剥いた。私の頭はもうぐちゃぐちゃだった。冷たい嫌な汗が全身から溢れ出て、息が荒くなるのを感じる。身体中の血管が激しく脈を打ち凄まじい勢いで私の全身に血液を送り込む。それはまるで血液が恐怖から逃げようともがいているようだった。感情が今にも溢れ出し、倒れこみそうになるのを必死に抑えて無線を手に取った。

 

「対策本部から留置管理課へ……今、武装風紀委員がそちらに向かっているはずです……それまでなんとか耐えてください……以上、対策本部。」

 

「留置管理課から対策本部へ……到着予定は……何分くらいですか……?」

 

私はその問いに何も答えることができなかった。状況が全く理解できていなかったからだ。すると、私の代わりにまた別の声が聞こえてきた。

 

「指令本部から留置管理課へ。現在、武装風紀委員部隊250名が現急。到着は50分後の模様。受傷に留意しつつ暴動鎮圧を行え。以上、指令本部。」

 

指令本部にいる者は淡々と感情がこもっていない事務的な声で言った。流石、風紀委員会の指令本部である。いつでも冷静だと感心していたら、現場である留置管理課からは怒りの無線が入った。

 

「留置管理課から指令本部!50分って……あなた方は……あなた方はこの状況をわかって言っているんですか!?このままでは確実に死人が出ます!一刻も早く応援を!」

 

留置管理課の風紀委員は声を震わせながら叫んでいた。何とかしてやりたい。だが、どうにもできなかった。私たちとて馬鹿ではない。だから、こうなることを予想して情報漏洩が発覚した瞬間に武装風紀委員の出動を指示したが、私たちは知るのが遅すぎたのだ。留置所は学園艦の先端にあり、風紀委員会本部は学園艦中央部にある。普通の時でさえ走っても20分はかかるのにただでさえ空襲でめちゃくちゃになり、瓦礫が積み上がっていたり道路が寸断されていたりする街を移動するのだから当然時間がかかるのだ。しばしの沈黙の後、指令本部から返事の無線が入った。

 

「指令本部から留置管理課へ。我々も現場へ急行したいのはやまやまであるが、近くに風紀委員部隊がいないため全員本部からの出動になる。そのため距離の問題でどうしても時間がかかる。こちらもできる限り早く現急するようにするのでそれまで持ちこたえろ。以上、指令本部。」

 

事実だが残酷な言葉だった。その言葉を投げかけられた相手はしばらく黙り込んでいたが苦しそうな声で言った。

 

「留置管理課から指令本部へ……了解しました……」

 

「指令本部から留置管理課へ健闘を祈る。」

 

交信はそれで終わった。私は机に手をついて震えながら無線機のマイクを握りしめていた。その後、二度と風紀委員関係者から交信が入ることはなかった。風紀委員会指令本部は恐らく周波数を切り替えてこちらに無線が入らないようにしたようだ。そもそも、風紀委員無線は私たちが使っている無線とは周波数が違う。今回は私が一番に留置管理課からの無線を取ったため会話に割り込むためにただ切り替えただけで特段問題があるわけではない。問題は留置管理課から一切の無線が入らなくなったことである。あの慌てようからしてあの後周波数を切り替えたとは考えにくい。無線を手にする暇が無いほどの大激戦か、それとももしかしたら……最悪の事態が頭によぎる。しかし、私にはどうすることもできない。ただみんなの無事を祈ることしかできないのだ。私は自身の無力さと結果としてこのような暴動を招いてしまった無能さに項垂れていた。人は私に同情するだろうが、私は私を許すことができなかったのであった。

次に無線が入ったのはそれから2時間後のことだった。

 

「風紀委員会指令本部から特別災害対策本部へ。」

 

「はい。こちら特別災害対策本部。どうぞ。」

 

「風紀委員会指令本部から特別災害対策本部。暴動は鎮圧した模様。被害は、風紀委員留置管理課夜勤職員20名のうち15名殉職、5名負傷、うち4名意識なし重症。いずれも鉄パイプ等で集団で暴行されたものとみられる。武装風紀委員の死傷者はなし。収容者の被害はなし。まる被は死亡者5名。負傷者121名。全員を拘束し負傷したまる被は病院へ搬送。その他のまる被は留置所に収容した。以上。」

 

風紀委員会指令本部の職員はまたしても淡々と事務的な感情のない声で無情な報告をしてきた。死者が出ることは頭のどこかで覚悟はしていたがここまで被害が拡大するとは思っていなかった。後になって聞いた話であるが、現場はそれはそれは酷い状態だったようだ。怒りという感情に支配された群衆は恐ろしい。特に感情に素直でまっすぐ自分の思った通りに露わにするアンツィオ生の恐ろしさが身にしみてよくわかった。怒りの感情は彼女たちの理性を吹き飛ばしてしまったのだ。後日聞いた話では殉職した風紀委員の顔は元の顔がわからないほどになり、血だらけで留置所の門の近くに倒れていたようだ。だが、誰も逃げようとした形跡はなく最期まで暴動を鎮圧しようと懸命に戦った姿が見て取れたそうである。ある者は警棒を、またある者は警杖を手にしたまま殉職していたそうだ。この時はそこまでの詳しい報告はもたらされていなかったが、私の心は罪悪感と怒りでいっぱいだった。

 

「特別災害対策本部……了解……」

 

私は指令本部の報告に応答すると震えながら天を仰ぐ。そして、再び正面を向き直ると怒りのあまり、手に持っていた無線のマイクを机に叩きつけて抑えていた感情を爆発させた。

 

「なぜ!?なぜこんなことに!?許せない!!今まで辛い仕事を引き受けてきた勇敢な風紀委員たちに何の罪があるっていうの!?絶対に許さない!」

 

私は握った拳を何度も机に叩きつけていた。そんないつもの様子と全く異なる私の様子を見て毅然とした態度で河村さんが声をかける。

 

「落合さん。落ち着いてください。怒る気持ちはわかりますが、これからのことを考えなくてはいけません。選択を間違えると本当に大変なことになります。今、私たちは規律が完全に崩壊する危機にあります。的確な指示をお願いします。」

 

対策本部の皆が私の指示を仰ごうとそばにぞろぞろと集まってきた。私は河村さんの言葉を聞いて一度目を閉じて何度か深呼吸をすると目を大きく見開く。さあ、規律を乱すだけでは飽き足らず、学園の功労者を惨殺した極悪人どもをどう料理してやろうか。私は怒りで本来の自分を失っていた。私は瞳を大きく見開くと法務班長の平沼さんに尋ねた。

 

「平沼さん。特別厳戒緊急事態宣言下における反乱罪の現行犯の場合、最高刑と審判方法は?」

 

平沼さんは法令集を捲りその関係する法を確認しながら言った。

 

「えっと……最高刑は死刑で、方法は一審制です。法務官一人、検事役が一人で法令によると本部長が法務官、風紀委員長が検事役になるとありますね。どうやら、弁護は認められていないようです。かなり簡易的なもののようですね。」

 

「そうですか。ふふっ……」

 

「落合さん……ま、まさか!」

 

「ええ、そのまさかです。学園の功労者たちを惨殺した極悪な反逆者には死んでもらいます!例えどんな理由があったとしても彼女たちが犯した罪は決して許されない、許してはいけない罪です!明日、午前9時、特別規律会議を開廷し即日判決即日死刑を執行します!第一次特別規律会議では今回の事件で無傷、もしくは出廷可能な被疑者のうち中心人物と幹部クラスの人物をコロッセオで公開処刑に処します!法務班!風紀委員会に以上を通達!そして、風紀委員会と協力して起訴状を作成してください!総務班!絞首刑の処刑台を10台準備してください!広報班、公開処刑を住民たちに通達!以上各班準備してください!今日は全員徹夜を覚悟してください!」

 

「ま、待ってください!処刑って……それは、やりすぎでは……?それに、落合さんはそうしたことは大嫌いだったはず……一体どうしちゃったんですか……?」

 

平沼さんは私の言葉に震え上がる。他の皆もまた私のあまりに過酷な指令に狼狽していた。その時の私は鬼の様であったと思う。だが、その時はなりふり構っている余裕はなかった。私だって悪魔でも鬼でもないのだから本当は処刑など恐ろしいことはしたくはない。しかし、治安を回復するためにはこれしか道はないと私は確信していた。今まで、私は権力を見せつける政策は極力取らないことにしてきた。しかし、その結果が今回の暴動による惨殺事件である。今回の事件についても甘い処分で済ませたら感情に素直なアンツィオ生は第二第三の暴動を起こすことになるだろう。それは、なんとしても食い止めなくてはならない。今回、暴動を引き起こした被疑者全員を公開処刑にして見せしめにすることによって市民たちに恐怖を蔓延させて治安を回復させる。別に私は権力が欲しいわけでもないし、そのまま恐怖で支配して独裁体制を敷くつもりもない。これは必要悪だ。だから、こればかりは妥協できない。心苦しいがこのまま実行させるしかないのだ。

 

「厳しい処分だってことは重々承知しています。私だって処刑なんてしたくはありません。でも、仕方がないのです。治安を守るための必要悪なんです。絶対にやらなければいけないんです。」

 

私は真っ直ぐにそれぞれの目を見つめて言った。私の意思が固いことがわかると皆、神妙な面持ちで頷き各々作業を開始した。まるで、葬式の様な雰囲気で皆作業をしていた。次の日に処刑する者たちの生前葬だと思えばあながち間違った表現ではないかもしれない。その日は予想通り徹夜になった。全員、各々の作業を朝までに終えることができた。さて、ここからは私の仕事である。私は提出された起訴状を手にして武装風紀委員に警護されながら風紀委員施設へと向かった。これから留置所近くの風紀委員施設の一室において特別規律会議が行われる。だが、判決は既に決まっているため本当に形だけの会議だ。最前線における特設軍法会議のようなものである。いや、それは少し違うかもしれない。あれは確か将校3人によって裁かれたはずだ。今回はそれよりももっと簡単な手続きで行われる。一体どんな顔で死刑と言う判決を言い渡せばいいのか、皆の前では威勢良く言ってはみたもののいざその時が近づいてきたら弱気になってきた。だが、そんなことではいけない。私は自分を奮い立たせる。だが、本当にそれでいいのだろうかと悩み始めると止まらない。私は心ここに在らずの状態で歩き続けていた。いつもならものすごく長く感じるが今日は短く感じた。風紀委員施設に着くと事務担当者が出迎えてくれた。彼女は今回の特別規律会議の事務として記録を担当する職員だ。彼女と挨拶程度に言葉を交わし、特別規律会議が行われる部屋に入った。そこにはいつか見た映画の戦犯裁判みたいに何人もの被告人が椅子に座らされていた。開廷に先立ちその人たちの顔を一人一人確認する。一体どんな悪党がこの事件を起こしたのかと思っていたら全員が普通の女子高生たちであり、こんな残虐な事件を起こすような人という印象は全くなかった。さあ、遂に特別規律会議の開廷だ。形式は普通の裁判とは大きく異なる。まず、起訴状を読み上げるところまでは一緒だがその後すぐに検事役の風紀委員長、稲村さんから求刑されてから一人一人の質問が行われる。私は起訴状にあった一人の名前を呼んだ。

 

「竹下玲、前へ。」

 

「はい。」

 

竹下玲は活発そうな典型的なアンツィオ生であった。私は彼女の目をまっすぐ見て起訴状の認否を尋ねる。

 

「本日の特別規律会議の法務官としてお尋ねします。あなたは、今回起きた暴動の中で幹部を務め、暴徒のうち数十人のグループのリーダーでありそれらを率いて留置所を襲撃し、風紀委員を殺害した。これについては認めますか?」

 

「はい。認めます。」

 

「そうですか。それはあなたの意思ですか?それとも誰かに命令されたものですか?」

 

「殺害すること自体は意思でもなければ命令でもありません。殺意はありませんでしたが誤って殺害してしまいました。気絶させるつもりだったのですが、エスカレートしてしまいました。」

 

「そうですか。では、あなたは風紀委員たちを殴りましたか?殴った場合は殴った凶器は何ですか?」

 

「はい。殴りました。殴った凶器は鉄パイプです。」

 

「鉄パイプ……鉄パイプで殴ったら死ぬかもしれないってわからなかったんですか?」

 

「その時は興奮しており、判別がつきませんでした。」

 

「そうですか……こちらからの質問は以上です。では、判決を言い渡します。あなたは風紀委員たちを殺害した罪、集団を率い反乱を企て実行した罪で有罪。絞首刑に処します。刑は即日執行。以上。」

 

「絞首刑……なぜ!?なぜ!?嫌だ!!死にたくない!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!お願いします!命だけは……!」

 

全身を遠くから見てもわかるほどに激しく震わせて竹下は叫んだ。連行するために手錠を手にして近づいてきた風紀委員を認識すると竹下は必死で抵抗する。しかし、抵抗虚しく警棒で取り押さえられて竹下は連行されて行った。竹下は相変わらず私に慈悲を求めていた。何と見苦しい姿だろう。あれだけ大勢の罪のない風紀委員を殺害しておいてその責任を取らずに慈悲を求めるなど片腹痛い。私はあさましい竹下を見送る。一連のやりとりを見ていた被告人たちは誰しもが震え上がった。まさか死刑が宣告されるなどとは思ってもみなかったのだろう。私は彼女たちに感情の整理時間も与えず次にすでに決定済みの判決を受ける被告人の名前を呼んだ。次もその次もそのまた次も私は次々と死刑を言い渡した。同じようなやりとりと抵抗が24通り繰り返されて特別規律会議は閉廷した。あれだけいた被告人たちは誰一人としていなくなり、部屋には私と稲村さんそして事務職員の3名が残された。そして、即時に事務職員から発行された死刑執行命令書全てに私の名前を署名して風紀委員長に手渡した。風紀委員長は両手で死刑執行命令書を受け取る。そして全員、25名分の命令書があることを確認すると私に一礼して部屋から退室した。私もしばらくしてから後を追うように部屋を出て処刑場になっているコロッセオへと向かった。コロッセオにはすでに住民たちが集結しており、暗い顔をしていた。ある者はぶるぶると震えてある者は今にも嘔吐しそうな表情で息を荒げている。私は裏手からコロッセオに入った。普段はスポーツ競技などが行われる競技場所に当たるところに10台の処刑台がずらりと設置されていた。一台の処刑台につき2名を処刑できるような作りになっている。つまり、一度に20名処刑できるのだ。その処刑台はどれもが太い輪っか状の縄が死刑囚の首がそこに収まるのを待ち構えるかのように揺れていた。私は数ある処刑台のうちの一つ、一番真ん中にある処刑台に上がる。皆が暗い顔をしてこちらを注目している。その視線に押しつぶされそうになりながら私はできる限り声を張り上げる。

 

「ただ今から、公開処刑を行います!今回処刑する死刑囚の氏名は竹下玲、今野絵梨、千葉七瀬、横尾仁美、野田桃華、木野夏帆、太田瑠花、浜西佳子、奥原早織、大鹿みゆ、草津鈴音、志賀夕貴、梅原弥生、蓑田麻央、大内世那、矢作真紀、末田亜紀、佐久間美桜、森島紗希子、松倉莉央、飯岡翼、若宮速香、熊本亜矢子、新田芳乃、則本春郁、以上25名を絞首刑に処します!罪名は殺人罪と反乱罪!彼女たちは罪のない風紀委員15名の命を奪い、治安を大きく乱したその罪は重罪です!学園艦の治安を乱し、学園艦の功労者を殺害した者の末路がいかに悲惨か市民の皆さんは目に焼き付け、二度とこのような悲劇が起きないことを望みます!」

 

私は処刑台の上から降りるとまずは最初に処刑される竹下玲、今野絵梨、千葉七瀬、横尾仁美、野田桃華、木野夏帆、太田瑠花、浜西佳子、奥原早織、大鹿みゆ、草津鈴音、志賀夕貴、梅原弥生、蓑田麻央、大内世那、矢作真紀、末田亜紀、佐久間美桜、森島紗希子、松倉莉央、以上20名の死刑囚を連行した。いずれも全身が震えてまともに歩けていない。まるで風紀委員に引きずられるかのように手錠をかけられてやってきた。私は彼女たちの前に立ち、死刑を執行する旨を通達した。彼女たちの目は当たり前だが生気は感じられなかった。そして、私は彼女たちを処刑台の上へ上がらせた。彼女たちは一歩一歩ゆっくりと踏みしめるように足を引きずりながら上って行った。太いロープの前に竹下玲以下20名の死刑囚を立たせて足首にも枷をしてさらにロープで身体を固定して黒い袋を頭に被せて首にロープを括り付ける。 準備は完了した。後は彼女たちの背中を押すだけで死刑は執行される。だが、そんな汚れ仕事をやりたい者など一人もいるわけがない。この国の死刑執行でさえ刑務官の心理的負担軽減のためにどのボタンが死刑執行のボタンにつながっているかわからないようになっているという。ボタンでさえそうなのに、実際に死刑囚の背中を押して執行するなんてできるわけがない。これは、私の責任である。私が彼女たちの死刑を決めたのだから私が彼女たちに引導を渡すべきだ。私は竹下の背後に立つ。私は震える竹下の背中をじっと見つめていた。私の手も同じように震えていた。しかし、いつまでもそうして彼女たちを苦しませるわけにはいかない。恐怖は早く終わらせる必要がある。私は大きく震える手にできる限りの力を込めて竹下の背中を押して突き落とした。竹下の身体はするすると落下していき一定のところで滑車が止まって、首を締め上げた。竹下の身体はブラブラと揺れて死刑は執行された。私が人生で初めて人を殺した瞬間だった。

 

つづく


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