血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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お待たせしました。
久しぶりの更新です。
本格的な諜報任務を始めた"私"
彼女はどのような任務を展開するでしょうか。



第130話 全ては知波単の為に

私が継続高校の学園艦の乗り込み口に立っていた生徒に声をかける。すると、どうやらその人も私が来ることを知っていたようだ。ニコニコと笑顔を浮かべて私を迎えてくれた。

 

「前田さん、お待ちしてました。お話は聞いています。ようこそ!継続高校へ!私たちはあなたを歓迎します!まずは、入学に関しての手続きをしてもらうので私についてきてください。」

 

ただの挨拶かもしれないが、ここまで歓迎してくれると悪い気はしない。諜報員として継続学園艦に潜入する身ながら、私は少し嬉しい気持ちになるのと同時に罪悪感を覚えた。もしかして、私たちの作戦の所為でこの目の前の生徒が死ぬかもしれないのだ。そう考えると気分も沈む。しかし、作戦が正式に命令された以上はやらなくてはならない。私は、早速目の前の彼女を諜報任務を遂行する上での情報源の1人にするために彼女と"友達"になることにした。まずは、適当な話題から始めることにした。一応、最近の流行り物についてはテレビならドラマからアニメ、さらに言えば動画サイトの有名人なども把握しているし音楽ならロックから演歌までスポーツも野球やサッカーなどの主要なものはもちろん、マイナーなものにも話を合わせる程度には対応できる程度に準備してある。だから誰とでも話をするのには自信があるし、"友達"になれる自信もあった。諜報員とは斯くもたくさんのことを覚えねばならぬのかと思われるかもしれないが、正直言えばこれでもまだ足りないくらいだ。そもそも、今回の任務は知波単の諜報員養成の教育課程がプラウダを中心とするものであった関係で、継続高校内部には諜報協力者の人脈が全くのゼロだ。そこから新しく諜報協力者や情報源を新規開拓する形になる。本来ならこうしたゼロから人脈を築き、諜報任務を遂行する場合はもっとベテランが任務に就くのが理想だが今回は作戦の都合上、学生である私が生徒として潜入するにはちょうどいいということで派遣されることになったのは既に記した通りだ。もちろん、私一人が諜報員として送り込まれるわけではなく、もう一人ベテラン諜報員の猪俣さんが教師として派遣されることもすでに記したが、猪俣さんが派遣されるからと言って私の任務が軽減するわけではない。私も人脈を築いた上で継続高校の政権を反乱の扇動を以って崩壊させるという重要な任務を帯びた一人である。むしろ、本作戦はどちらかといえば教師として潜入する猪俣さんよりも私が演じる生徒の役割が重要なのだ。学園艦で一番権力を持つのは教員でもなければ学園長でもない。もちろん、学園艦から外に出れば、文部科学大臣が全学園艦を統括するトップということになるが、そうした連中を除くと現場で実質的な一番の権力者は生徒会長でありそれを支える生徒会組織もまた絶大な権力を持つ。また、暴力装置である風紀委員会と戦車隊も動かしているのは教員ではなく生徒だ。もちろん、顧問という形で教員の名前はあるが、基本的にはそれら組織の運営や指揮はほとんど全てが生徒に任されており、どの学園艦でも基本的には教員は二の次で生徒が学園の中枢部や運営部においても中心的存在である。したがって、教員として彼女たちに接触して人脈を築くよりも、生徒の立場から接触して人脈を築く方が自然だし上手くいく可能性も高い。だから、多くの生徒と話し、大勢と一気に"友達"の関係を築く必要があるわけだ。その為には先ほど記したような準備を予め行なっておかないととてもじゃないが諜報員としての任務を遂行できない。だから、派遣までのただでさえ無い時間を更に割いて死ぬ気で覚えたのだ。その成果はすぐに現れた。まずは、軽くこの学校についてはわからないことだらけだから色々教えて欲しいという転校生として不自然では無い話から入った。そうしたら彼女からは好感触な反応が返ってきた。人から頼られて気分が悪くなる人はそうはいないから結果はある程度、頭では分かってはいたがやはり緊張はするので出鼻を挫かれる事態にはならず安心した。その後はスムーズだった。すぐに彼女は自らの名前と所属、そして趣味などを明かしてくれた。彼女の名前は宍戸鳴海さんといって私と同じ16歳で2年生らしい。趣味は読書だそうで歴史小説、特に地元の金沢を治めた前田氏の小説を好んで読んでいるそうだ。歴史小説は私も普段好んで読むものだから、彼女とは馬が合いそうだ。しかも、私は運がかなり良い方のようだ。宍戸さんは生徒会の職員だった。その中でも彼女は法務局学園艦管理部乗退艦管理課金沢港乗退艦管理係の係長という学園艦を入退艦する人を金沢港において管理する審査官を統括する仕事をしていた。第1課金沢港乗退艦管理係は生徒会の末端組織だし、宍戸さんは特別高い役職にいるわけではない。では、なぜ運が良いのかといえば、生徒会関係者と関係を築けたことも理由の一つだが、何よりも彼女の元に情報が集まりやすいというのが大きな理由だ。実は宍戸さんは生徒会上層部に関する情報も外部からの情報も入って来やすい丁度いい立場にいる。どういうことかというと、実は宍戸さんの役職である金沢港乗退艦管理係の係長は本拠地の乗退艦管理事務を現場で担っているだけあり、いわば、エースで幹部候補生がゴロゴロ集まっている部署だった。つまり、他の港の乗退艦管理係よりも実質的に強い権限を持っている。もちろん、見た目だけでは横一列同じ権限だが事実上はそうなのだ。だから必然的に宍戸さんに下からの情報や外部の情報が集まってくるし、上層部からも幹部候補生ということに加え、金沢港乗退艦管理係長は人事上のルールから乗退艦管理課長、延いては学園艦管理部長のポストがほぼ確約されていることもあり、課長クラスの重要会議への出席を求められることもある。そのような事情もあって、当然のように上層部の幹部とのつながりもできるわけであり、幹部たちの間でやり取りされている大量の情報が入ってくるというわけだ。そういうわけで宍戸さんはこれから先、諜報任務の情報源とするのに申し分のない人物だったのだ。更にもう一つ利点があった。その利点は一見関係ないようで実は私が受領している命令が関係している。私は司令部からの命令で"反政権運動"と"戦車隊反乱"を"誘引"するという任務を受けているが、当然ながらそれは通過点に過ぎず、西住隊長の本当の目的はその後にある。西住隊長は反乱が起こされた後について、具体的な方策についてはっきりと言わなかったものの、西住隊長ははっきりとその口で内戦の混乱に乗じて「美味しくいただいちゃいましょう。」と確かに言っていた。その発言に対して私の中では西住隊長がこの作戦が成功した後で何をする気なのか、シナリオがいくつか浮かんでいた。第1のシナリオは、反乱が起きる前に交換留学生と称して大洗女子学園の人間をあらかじめ継続高校に送っておき、反乱が起きた後にそれらの留学生の保護を名目に出兵し、継続反乱軍を支援、介入して新政権樹立を支援し、内戦終結後もそのまま継続に軍を残留、駐屯させ継続の新政権に圧力をかけ、その政治や外交に介入し、更に少しずつ権利を認めさせ領地の割譲を求めていき、いずれ継続高校学園艦の全てを手に入れるというシナリオ、2つ目が継続反乱軍を金沢港の学園艦事務所に人質をとって立てこもるよう手引するシナリオだ。第1のシナリオではなるべくスムーズにかつ継続の生徒会、特に会長などの上層部には知られないように、大洗の兵隊たちを継続高校に侵入させる必要があるし、第2のシナリオでは逆に継続反乱軍を金沢港の学園艦事務所まで連れ出す必要がある。その際に、これは私の腕次第だが、乗退艦管理官の実質的な現場のリーダーである宍戸さんを懐柔することができればスムーズに作戦を遂行することができるだろう。この3つの点から宍戸さんと"友達"関係になれて運が良いという所以だった。

さて、私は宍戸さんに連れられて、まずは乗退艦管理課に来ていた。そこで、私はまず自分の身分証明書の提示を求められた。私は偽の身分証明書を提示し、いくつかの書類を書いて乗退艦管理課に提出した。すると、特に問題なく審査が通って私は乗艦が許可された。そして、卒業までの間はこのような煩雑な手続きをすることなく、乗退艦することができるパスポートのようなものを貰った。その後に、継続高校へ転校するための手続き、そして寮に関する契約の手続きと鍵の引き渡し、そして引越しに伴う行政手続きなどが行われ、その日は学校に行くことなく終わり、寮に帰った。部屋にはすでに荷物が届いていたが、荷ほどきするのが面倒で今日は定例報告のための電話だけ引っ張り出して他はそのままにすることにした。今日は他に特にやることはない。しばらくベッドに腰掛けて呆けていたが、空腹に耐えかねて夕飯の支度などしていると、定例報告の20時になったので、私はまず、蜂谷先生こと猪俣さんに電話をかけた。電話は2コール以内に取られた。

 

『はい。』

 

私は電話の相手に合言葉を投げかける。合言葉と言ってもそんなに格好の良いものではない。むしろ侮辱に近い合言葉だった。

 

『骨までしゃぶりつくす。』

 

すると相手は即座にそれに反応して返した。

 

『女悪魔、西住みほ隊長。』

 

本人に知られたら虐殺されそうだが、この合言葉なら滅多に相手に破られることもないだろう。私はちょっと面白くなってクスクス笑い声をあげながら電話の向こうに話しかけた。

 

『ふふふ……定例報告です。猪俣さん。』

 

すると、電話の向こうからもクスクスと笑い声が聞こえてきた。なんとか平静を保とうとしているようだが、笑い声ははっきりと漏れて聞こえていた。

 

『うふふふ。決めた時にも思いましたけど、この合言葉なかなか破壊力がありますね。』

 

『私も自分で提案しておきながらそう思っています。』

 

しばらくは明るい雰囲気が電話の中で流れていたが、電話の向こう側にいる猪俣さんの声は一気に真剣な声に変わった。

 

『さて、それでは本題に入りましょう。報告を聞きましょうか?』

 

私も猪俣さんの雰囲気が変わったことを察知して真剣な表情で受話器に話しかける。

 

『はい。学園艦への潜入、成功しました。今日は学校には行かずに転校に伴う手続き等をしていました。ただ、その過程で生徒会関係者と関係を作ることができました。宍戸鳴海、16歳、私と同じ2年生で生徒会法務局学園艦管理部乗退艦管理課金沢港乗退艦管理係の係長です。もうご存知かもしれませんが、彼女はその役職の位置から上層部の情報も外部の情報も入りやすい、情報源として諜報任務に活用するには申し分のない人物だと評価しています。また、我々の任務が完遂され内戦が起きた後、西住隊長がこの先、何を考えているのかは私には全くの不明ですが、彼女を懐柔すればいかようにも使うことができるはずです。私はこのまま、諜報活動を続けます。では、また明日定例連絡します。全ては知波単の為に。』

 

『報告、ありがとうございます。このまま活動は続けてください。私もあと1週間で入りますから。では、また明日報告お待ちしています。全ては知波単の為に。』

 

猪俣さんはそう言うと電話は切れた。私はしばらく受話器を見つめていたが、そっと受話器を置く。そして、私はバッグに入った甲第1号薬のうちの一袋を取り出してそれを無表情で眺めた。そして、全ての甲第1号薬を金庫の中にしまって、その日は眠りについた。静かな夜は今日までだ。これから混沌に巻き込まれていく継続高校学園艦は嵐の前の静けさかのように不気味なほど静かだった。

次の日、私は朝早く目が覚めた。確か早朝の5時近くだったように思える。少しランニングして寮の近所を周って朝食を取ると、初めて継続高校へ登校した。まずは、職員室へ挨拶に行くと担任の先生と校長先生が迎えてくれた。しばらく応接室で待つように言われた。担任の先生は私をホームルームの時間に紹介するようだ。しばらくすると、朝のチャイムが鳴った。担任の先生がやってきて教室に行くから出てくるように言われた。私は担任の先生に連れられて、私の配属される教室へ向かった。担任の先生からしばらく教室の前で待っているよう指示された。少しばかり、その日の連絡などを行なって私の存在がクラスメイトに紹介される時間になった。担任の先生は私に目配せして入ってくるように促した。私がそれに応じて教室に入ると皆の注目が一気に私に集まった。教室は少しざわざわし始めた。

 

「静かに。今日から転校生がこのクラスに入ることになりました。まだまだ分からないこともたくさんあると思うので皆さん、色々と教えてあげてください。自己紹介をお願いします。」

 

私は彼女たちを一瞥すると口を開く。

 

「前田愛美です。よろしくお願いします。前は、奥羽陸奥高校という東北地方の学校にいました。よろしくお願いします。きたばかりでわからないことばかりなので色々と教えてくださいね。」

 

私がニコリと笑顔を見せると拍手が起きた。担任の先生は私に窓際の一番後ろの席に座るように促した。私はそれに同意して席に座った。私の紹介が終わるとホームルームが終わって、放課になった。1時間目が始まるまでは少し時間がある。私は皆にあっという間に囲まれた。そもそも、高校で転校してくる生徒などは珍しい。興味津々に話しかけてきてくれた。なぜ転校してきたのかから始まって趣味の話や最近の流行り物の話が中心になった。私は諜報員として話の技術を遺憾無く発揮した。結果としてその日の午前中までにクラスの半分の生徒たちと"友達"になり、午後にはクラス全員と"友達"になった。その中でも私は親友と言うべき人物と出会った。彼女は諜報任務を超えた本当の友達とも言うべき存在になっていくことになる。彼女は、私の前の席に座っていて、放課になったら真っ先に話しかけてくれた。彼女は高校生にしては小さくてまるで小学生みたいに本当に可愛い女の子だった。ブロンド色の髪を二つに結んで小動物みたいだ。彼女は戦車道をやっているそうで、アキと名乗った。苗字は聞いてもなぜか答えてくれなくて、アキと呼んでほしいと言われた。特に問題はないので言われた通りにした。彼女とはなるべく任務とは離れた関係の中で付き合いたいと思ったが、そういうわけにもいかない。こうした関係から情報を引き出し、扇動への糸口を見つけていく。アキさんの話を聞いていると、どうやら彼女は戦車隊の隊長と近い関係であるらしい。話の端々に隊長に対する愚痴があった。しかも戦車道の話ではなく私的な付き合い上のものであったので確実だろう。聞けば、彼女は隊長車の装填手兼砲塔旋回手を務めているという。なるほどならば、隊長とはかなり近い関係だ。しかし、隊長を説得するにはかなり手強そうである。アキさん曰く、隊長はひねくれているそうだ。何か策を考えなくてはならない。その為にはこのようなことは考えたくもないが、アキさんにも犠牲になってもらうこともあるだろう。「全ては知波単の為に」だ。愛する母校、知波単の為に彼女を殺せと命じられたら殺す覚悟である。私がそのような恐ろしいことを考えることは露ほども知らずに、私の目の前の小さな少女は両ひじを立てて頰に手を当てるとニコニコと笑顔を浮かべながら楽しそうに話していた。彼女は、私に戦車道の練習を是非見にきてほしいと誘ってくれた。私はもちろんと返事をしておいた。そして、新しい学校生活の1日目は激動の中で過ぎていった。その日、私が知り合えることができたのは一般の生徒ばかりだった。生徒会につながっている子はクラス委員くらいで生徒会の直接的な関係者は誰1人としていなかった。明日は、 もっと生徒会の関係者と"友達"にならなくてはならないと思いながら、放課後の廊下を歩いていた。すると、私の肩を叩く者がいた。

 

「うわあああ!」

 

びっくりして思わず声をあげて後ろを振り向くとそこには少女が立っていた。おどおどしていて目線を少し下げて恥ずかしそうな申し訳なさそうな顔をしている。

 

「あの……その……驚かせてすみません。ちょっとこっちにきてくれませんか。」

 

私は少し警戒して相手の素性を確かめる。

 

「あなたはどなたですか?」

 

「私は、生徒会の外交部の者です。少しあなたにお話を伺いたいのですが……あそこの会議室でお話伺えませんか……?」

 

私はさらに警戒を強めた。もしかして、正体がバレたのだろうか。それもそうなのだが、おどおどして自信なさげである。このような人物が外交部などとは笑わせる。人選を間違えているのではないだろうかと首を傾げたくなる。外交はもっと毅然とした人が良いのではなかろうか。そのようなことを考えていると彼女は自嘲するかのような笑みを浮かべて言った。

 

「私が外交部だなんて、笑えますよね。私も本当は外交部に着任なんてしたくなかったんです。私には向いてないってわかっています……でも、うちの学園は常にあの巨大なプラウダとの間に問題を抱えている外交部は不人気で人手不足だから……どうしてもやってくれって言われて……それで……仕方なく……」

 

私は表情ひとつ変えずに彼女の話を聞きながら、後を着いていった。彼女は私を部屋に通すとまたも自信なさげにおずおずと、私に対して座るように促すしてしばらく待っているように言われた。言われた通り座って待っていると、私に声をかけた少女の他に2人の少女が入ってきた。少女たちは私に対面する形で椅子に腰掛けると、一番真ん中に座った少女が口を開く。

 

「突然すみません。びっくりしましたよね。私は、外交部北海道・東北地方学園艦課の池田沙有里です。こちらは、同課の吉見と柴沼です。よろしくお願いします。」

 

池田さんは堂々としていてまさに外交官というような雰囲気だった。ちなみにあのおどおどした子は柴沼さんというらしい。池田さんは右手を差し出してきた。私は池田さんの右手を取った。

 

「こちらこそよろしくお願いします。それで、私に外交部の方が何の用でしょうか?」

 

池田さんたちとの握手が終わると、池田さんたちは一斉に頭を下げた。

 

「単刀直入に言います。お願いします。プラウダのことを教えてください。」

 

やはりそうか。私の予想は当たっていた。外交部が私を訪ねて来る用事は一つしかない。こちらから関係を作らずとも向こうからやって来るとは良い流れだ。彼女たちの所属から推測して、彼女たちがプラウダとの関係改善及び交渉に取り組んでいる外交官ということになるだろう。外交部の人間に工作することはなかなか厳しそうだと思っていたが、案外そのようなこともなさそうだ。特に柴沼さんなどは少し圧力をかければペラペラと何でも喋りそうだし、私の思うままに使えそうだ。そして、もう一つ彼女たちの間、延いては生徒会全体に甲第1号薬を蔓延させることも難しいことではなさそうである。私はすぐにでも動き出したかったが、もう少し様子を伺ってみることにした。

 

「プラウダのことですか?なぜ、私にプラウダのことを?」

 

私が惚けると、池田さんは書類を差し出した。

 

「失礼ながらあなたの経歴を照会させていただきました。前の学校は東北の方だったのですよね?どんな些細なことでも構わないのでお願いします。」

 

池田さんはどうにか私の協力を取り付けようと必死だった。どうやら、相当追い込まれているように感じた。私は少し考えるふりをして協力に同意した。

 

「わかりました。協力しましょう。」

 

池田さんはホッとしたような表情を見せていた。

 

「ありがとうございます。助かります。」

 

私はプラウダに関する情報を少しだけ、池田さんたちに話した。もちろん、悪い話はしない。なるべく良い話を選んで話した。今回は対プラウダとの関係改善を阻止するだけでなく、内戦を起こして"美味しくいただく"ことが重要だからだ。政権側が、これで対プラウダ感情を悪くして、プラウダと離れることになれば、内戦は発生し得ない。だから、政権側にはあえて良い情報を流し、何としても戦車隊と対立してもらわなくてはならない。しばらく、池田さんたちにプラウダについて話をした後、最終下校の時刻になったのでまた後日続きを話すことになり、お開きになった。ここで私は動いた。私はターゲットを柴沼さんに定めていた。柴沼さんを起点に甲第1号薬を蔓延させる。そうなると、残りの2人は今は邪魔だ。私は柴沼さんと2人きりになりたかった。そこで、私は柴沼さんに近づいて他の2人にはわからないように耳元で囁いた。

 

「柴沼さん。良かったら、後で私の寮に来ませんか?色々教えてあげますよ。あの2人には話していない本当のプラウダことや外交官の心構えなんかも。あなたが望むなら、外交上手にしてあげます。どうするはあなた次第。校門の前で待ってますから。」

 

「え……?」

 

柴沼さんは戸惑っていたが、私は特に反応することなく立ち去った。

校門で待っていると私が見込んだ通り柴沼さんはやってきた。

 

「来てくれたんですね。良かった。では、行きましょう。」

 

「はい……」

 

柴沼さんは恥ずかしそうに目を伏せながら小さな声で返事をした。しばらく歩いて私たちは私の寮へと向かった。その間中、柴沼さんは何一つ話さなかった。どうやら本当に控えめな性格をしているようだった。しばらく歩くと寮が見えてきた。寮は2階だ。私たちは階段を登って一番奥の角部屋にやってきた。ここが私の部屋だった。解錠してドアを開けて柴沼さんを部屋に招き入れた。柴沼さんは相変わらずおずおずとしながら部屋に入ってきた。私は、リビングに通すとまだ荷ほどきがほとんど終わってないから段ボール箱が沢山あって散らかっていて申し訳ないと伝え、狭いがくつろいでほしいと伝えた。そして、コップに麦茶をついで小さな机の上に運び、柴沼さんにお茶を勧めた。彼女は少しお茶に口をつけると言った。

 

「それで、お話って……」

 

「ああ、そのことなんですけどね。」

 

私はお盆を置いて、柴沼さんの隣に腰を下ろし、隠し持っていた知波単生で軍隊組織に所属している連中なら全員が持っている黒い武器を素早く柴沼さんのこめかみに突きつけた。

 

「え……?な、なに……?」

 

柴沼さんは明らかに動揺していた。恐らく柴沼さんのこめかみにはひんやりとした金属を感じているのだろう。私は黒い武器を突きつけながら声色一つ変えずに言った。

 

「そのまま、騒がず、動かないでください。」

 

柴沼さんは恐怖で震えていたが、抵抗することなく素直に私に従った。

 

「両手を後ろ手にしてください。」

 

私は後ろ手に組まれた柴沼さんの手首を縛る。すると、柴沼さんは今にも折れそうな心を奮い立たせて言った。

 

「私を……騙したんですか……?」

 

「そうですね。騙したかもしれません。でも、これだけは本当ですよ?まだ話していないことを話すって約束はね。実は私、あなたに一つ仕事を頼みたくて、ここに呼んだのです。」

 

「し、仕事……?」

 

柴沼さんは声を震わせ、先ほどにも増してブルブルと体を震わせる。私は頷くと、銃口で柴沼さんの頭を狙ったまま甲第1号薬を入れた金庫を開けて、薬物を取り出し、机の上に投げた。柴沼さんはいちいち私が動きを見せるたびに、ピクリと反応していた。きっと尋常ではない恐ろしさを感じていたのであろう。私は大きな袋に入っている小分けされた小袋を取り出して、柴沼さんの顔にそれを突き出して言った。

 

「実は、これを生徒会の中に蔓延させてほしいんです。」

 

「え……?これは……?」

 

柴沼さんは理解が追いついていないような顔をして小袋に入った結晶を見つめている。私は、柴沼さんの顔をじっと見つめて柴沼さんを洗脳するかのように耳元で囁いた。その姿はさながら悪魔のようであっただろう。

 

「甲第1号薬って言うんです。気分爽快になれますよ。見たところ、あなたはとっても疲れているように見える。というよりか、生徒会の人、全員疲れてますよね?私、知ってますよ。あなたたち、特に外交部はプラウダとの交渉で苦労してるって。そんな苦労も忘れられますよ。」

 

「これって……まさか……」

 

柴沼さんは何か言おうとしていたが、私はそれを遮った。

 

「どうですか?一度試してみませんか?」

 

私はそう言って、柴沼さんの手首をベッドの鉄骨に縛り付ける。私は甲第1号薬の結晶を水で溶かして針が付いた注射器に入れた。

 

「な、何するんですか……!」

 

柴沼さんは初めて抵抗した。流石に身の危険を察知したのだろう。しかし、私は人差し指を口に当ててちらっと拳銃を見せるとビクッと身体を震わせながらも抵抗をやめた。

 

「じっとしていてくださいね。」

 

私は震えて歯をカチカチ鳴らす柴沼さんの腕に針を刺し、結晶を溶かした液を注入する。それが、私が初めて人に直接的な危害を加えた瞬間だった。だが、その時からしばらくの間、私は"全ては知波単の為に"を言い訳にして、自分のした行為から目を背け逃げようとした。私はこれを皮切りにどんどん無慈悲で残虐になっていった。"諜報は至誠"の心でやっていたが、その心は失われていく。そして、柴沼さんは薬物中毒に冒されて、廃人となっていくがそれはまた後の話だ。

 

つづく




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