血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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今日は闇ぽりんの誕生日!
ということで水曜日ですが、特別に公開します!
よろしくお願いします!


第136話 戦斗実験場

今度は、また私、冷泉麻子が証言しようと思う。人事編成会議が終わり、カエサルさんたちが訪ねてきた後のことだった。深夜だった。時刻は2時ごろだったと思う。いずれにせよ遅い時間だった。私は、夜更かしの朝寝坊なので、かなり遅い時刻まで起きている。だから、その日もいつもと同じように夜更かしをして、読書に勤しんでいた。その時だった。突然、廊下に悲鳴が響いた。私は驚いて体を飛び上がらせる。こんな時間にいきなり悲鳴を聞けば、誰もが同じような反応をするだろう。ただ、特に私は幽霊が苦手中の苦手で、恐ろしくて仕方ないので、その恐怖は一入だった。だが、どうやら悲鳴の主は幽霊を見たわけではないような声だ。どちらかといえば、恐怖の悲鳴というよりも、嫌がっている時の悲鳴に聞こえる。どうやらその悲鳴が独居房の辺りから聞こえる。声の主はどうやら落合さんのようだ。そこで、私はああ、やられたのかとすぐにその意味を理解した。なぜなら、西住さんが夜毎にしているあのおぞましい辱めを私も受けていたからだ。私も、元々は西住さんに誘拐されて、ここにいるのだ。始まりは、落合さんたちと変わらない。そして、私は化学研究所長兼保険衛生局長の職を拝命した今もなお、西住さんにこの体を捧げ続けている。そもそも、この独居房は西住さんの奴隷小屋なのだ。西住さんは気に入った囚人を奴隷として躾ける趣味があった。そうした西住さんの欲望のはけ口にするための独居房がここというわけだ。実は、私は落合さんがここに来てから遅かれ早かれ辱めを受けることになるだろうということはわかっていた。そもそも、ここに来た時、落合さんの姿を初めて見て美しい金色の髪に白い肌という容姿端麗な姿の落合さんはこれは西住さんがいかにも好みそうな子だなとは感じていた。もちろん、鈴木貴子さんから相談された時点でこのような目にあう前になんとか脱出させる心算でいたが、間に合わなかった。だが、それと同時に、落合さんのおかげでしばらくは欲望の捌け口を落合さんにそらすことができると心のどこかで思っていた。もちろん、それで何も感じないほど、私も落ちぶれてはいない。悪いとは思っていた。だが、私にはどうすることもできなかった。私は、廊下中に響く悲鳴に耳を塞ぎながら床に就いたのである。さて、その間、落合さんがどんな酷い目に遭っていたのかというのは既に落合さんが話してくれたし、次の日の昼以降のできごとも落合さんが軽く触れてくれたから良いだろう。私が話すのは次の日の午前中のことだ。西住さんが初めて落合さんの体を弄んだ次の日、厳密にいえば弄んだ当日だが、とにかく午前中のことだ。私は、その日もまた朝早くから叩き起こされた。起こしたのはもちろん、西住さんだ。私は目をこすりながら西住さんの横暴に抗議したが、無理矢理起こされた。しかも、その理屈が西住さん曰く、私は寝てないけれども冷泉さんはたくさん寝たからいいでしょとのことだった。寝てないのは西住さんの自己責任だろうと正直思ったが黙っておくことにした。目をこすりながら西住さんの姿を見ると髪は乱れて、顔は蒸気しており、明らかに愉悦を感じて興奮していて、なんだかいつもよりも元気な様子だった。私の疑惑は確信に変わった。

 

「西住さん……昨日……聞こえていたぞ……」

 

私は腕を組みじっとりとした目で西住さんを見る。西住さんは両頬に手を当てると先ほどよりももっと顔を赤くして言った。

 

「ふふふふ。聞こえてた?うん。そうだよ。昨日ね、落合さん、ううん。ひなちゃんと遊んだの。愉しかったなあ……ふふふふ。あはっ!思い出したらまた興奮してきちゃった。ひなちゃんの胸やお腹やお尻や女の子の大切な場所を触った時の体の柔らかな感触と反応、白くてすべすべな肌、そして甘くて芳しい匂いと味。もう、全てが良くて、一晩中可愛がったんだ。あはっ!あの顔、あの表情、あの反応、あの声、可愛かったなあ!」

 

 

「そうか……程々にしろよ……?」

 

西住さんはニヤリと悪い笑みを浮かべると、私の頰を愛おしそうに撫でながら言った。

 

「あはっ!良かったね麻子さん。しばらく身代わりが見つかって。麻子さんいっつも泣いちゃうもんね。」

 

私は、何も言うことができなくて、唇を噛んで俯いていた。

 

「あはっ。でも、やりすぎないように気をつけるよ。まあ、純潔は捧げてもらったけどね。あまり壊しすぎても楽しくないし、あの子にはまだまだ奴隷として私を愉しませてくれなくちゃいけないからね。ふふっ。」

 

ああ、可哀想に。まだまだ落合さんにとっての地獄が続くことになりそうである。あの子の心が完全に折れないうちになんとか手を打たなければ、私はそう誓っていた。さて、これ以上西住さんにこの話をさせてはまた西住さんが興奮して今度は私の体を弄ぼうと画策する危険がある。私は話題を変えた。

 

「それで、今日は何の用だ?」

 

すると、西住さんはあ、そうだ。と言わんばかりの顔になって言った。しかし、それは落合さんの話と変わらないくらい最悪な話だった。西住さんはニヤリと再び悪い笑みを浮かべて言った。

 

「ちょっと一緒に来てくれない?」

 

私は西住さんに言われるがまま着いていった。建物を出て、しばらく歩く。その足が向かう先、それには覚えがあった。あの、二度とは訪れたくはない地獄の入り口。絶滅工場。そうだ。絶滅強制収容所だ。近づくだけで悪臭が漂ってきた。私は思わず、手で口と鼻を覆う。西住さんはそのようなことまるで気にしていないかのように私の手を引っ張ってずんずんと進んでいく。まさか、西住さんは私をここに入れる気なのか。私の顔が青く血の気をなくしていくのがわかった。そして、西住さんは、門の前で立ち止まった。私は恐る恐る首を西住さんの方に向ける。西住さんは満面の笑みを浮かべていた。

 

「なあ、西住さん……収容所に何か用なのか……?」

 

西住さんはニコリと微笑んで頷く。

 

「うん。そうだよ。すぐにわかるよ。」

 

西住さんはそう言うと門の守衛と一言二言言葉を交わす。すると、大きな音を立ててギイっと鉄の門扉が開いた。私は恐怖だった。顔を強張らせてカチコチになりながら西住さんと歩くと西住さんが口を開いた。

 

「安心して。別に麻子さんをここに入れようと思ってきたわけじゃないから。それとも、麻子さん。もしかして、後ろめたいことでもあるのかな?ふふふふ。」

 

 

良かった。どうやら私が色々と企んでいることはバレていないようだ。私はブンブンと首を横に振りながら言った。

 

「無い!断じて!無い!」

 

すると、西住さんは微笑を湛えて嬉しそうに笑った。

 

「ふふっ。良かった。」

 

そして、私たちは管理棟へとやってきた。管理棟ではまだ、人事が公開されていないので、梓が所長として私たちを迎えた。

 

「ようこそ。お待ちしてました。隊長、冷泉先輩。」

 

西住さんは笑顔でそれに答える。

 

「お出迎えありがとう。それで、例の荷物、届いてる?」

 

西住さんの問いかけに梓は頷いた。

 

「はい。届いています。それに、囚人の準備も。」

 

西住さんは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「ふふふふ。ありがとう。それじゃあ、早速頼むね。」

 

私と西住さんは梓の運転する車に乗り込む。すると、梓は車を収容所の端の端まで走らせた。梓が言うには収容所が拡張されて、歩いて行くのは大変になったので、自動車部に相談したら一台融通してくれたらしい。しかし、と私は不思議に感じた。拡張する必要性がわからなかったからだ。拡張しなくても、収容所には現段階で十分の空きがある。これからの戦争で発生する新しい囚人たちの入るスペースも余裕であるのだ。私は不思議に思って首を傾げていた。すると、私の目の前に、突然街が現れた。寝ぼけているのだろうかと目をこすっても何度目を瞬いてみても街だった。私は混乱した。ここは、破壊されたはずなのにどうして。不思議に思っていると、みほが口を開いた。

 

「ふふふふ。目的地はここだよ。麻子さん。」

 

何か嫌な予感がする。私は、恐る恐る西住さんに尋ねる。

 

「ここは一体……?」

 

西住さんは自慢げな顔をして私の質問に答える。

 

「あはっ!驚いた?これはね、街の模型だよ。本物とほとんど同じ縮尺のね。材質も同じなんだよ。」

 

西住さんは車から降りて、パンパンと建物の壁を叩いてみせた。私も建物の壁に触ってみると確かにコンクリートでできている。しかし、一体何のためにこれを作ったのか。私の頭の中である可能性が頭に浮かぶ。それを確かめたくて恐る恐る尋ねる。

 

「一体何のために……?」

 

 

すると、西住さんは満面の笑みを浮かべて言った。

 

「ふふふふ。武器の性能実験のためだよ。実はね、頼んでた武器が届いたんだけどね。何しろ、紛争地やらそう言うところで出回ってた武器だからしっかり仕事してくれるかわからないんだよね。だからね、その実験をしなきゃいけなくて。もし、実戦の時に使えないってわかっても遅すぎるからね。」

 

確かに、西住さんの言うことは普通じゃないが間違いでは無い。実戦に使えるかどうか、そういう実験ならばおそらく普通の軍隊でも行うだろうし、戦車道でもよくやっていたことなのだろう。そういうことならと私は安堵していた。西住さんの次の言葉を聞くまでは。西住さんは悪い笑みを浮かべて次の言葉を紡いだ。

 

「ふふっ。それでね、囚人を使って実験しようかなって。」

 

私は耳を疑った。囚人を使って、武器の実験。私の目の前に惨劇の映像が再生される。

 

「え……?どういうことだ……?」

 

すると、西住さんは無邪気に笑いながら武器が入った箱のようなものからロケットランチャーを取り出しながら言った。

 

「あはっ!こういうことだよ!」

 

西住さんの持つロケットランチャーが火を吹いた。西住さんは目の前の家の模型にロケットランチャーを撃ったのだ。ロケットランチャーは目の前の家の模型に当たって家の模型は大きな爆発音を立てて崩れ落ちる。その時である。

 

「きゃあああああ!」

 

「何!?何が起きたの!?」

 

「助けて!!助けて!!」

 

「うぅ……痛い……!痛いよお……!お父さん!お母さん!助けて!」

 

「早く逃げろ!火が!火が!」

 

悲鳴が模型の街に響き渡る。人々が火を逃れて逃げて行く。しかし、西住さんはニヤリと悪い笑みを浮かべて、ロケットランチャーから小銃に持ち替え、逃げ惑う囚人たちに向かってバババババッとやった。

 

「いやあああああああああああああああ!助けて!」

 

囚人たちは悲鳴をあげながら次々に弾に当たって倒れて行く。目の前に遺体の山が築かれる。私は恐ろしくて、尻餅をついて倒れこみ、後ずさる。

 

「あははは。やっぱり、そうなるよね。実はね、この実験場、私の為じゃなくて、麻子さんのために用意したんだよ。」

 

「私の……為に……?」

 

私はガタガタ震えながら、尋ねると西住さんは首を縦に振った。

 

「あはっ!だって今度の戦闘は市街戦、ゲリラ戦になって血で血を洗う戦闘になることが十分に予想されるからね。動いてる人を殺し慣れておかないとね。人影を見たら反射的に殺せるようにね。だって、麻子さん、今まで、動いてる人間を直接的に殺したことはないでしょう?人体実験や生体解剖は動かないもんね。それに、麻子さん実験だって言わないと来なかったでしょう。はい、これ。麻子さんの銃だよ。ここにはね、400人の囚人たちが暮らしてる。実験場とも知らずにね。今回の訓練ではここで暮らす囚人たちを一人残らず狩ってきてね。」

 

西住さんは私に自動小銃を手渡す。私は受け取ったはいいもののブルブル震えてそのまま動けなかった。すると、西住さんは私にライフルの銃口を向けた。

 

「ふふっ。やれないなんて言わせないよ。これは命令だからね。それじゃあ、ある程度数はロケットランチャーと迫撃砲で数を減らしてあげるね。それが終わったら行って。」

 

西住さんはロケットランチャーと迫撃砲を何度か撃った。そしてライフルを私に突きつける。そのようなことをされてはやむを得ない。私は仕方なく立ち上がった。

 

「上から見てるからね!もし、変な動きしたら上からドンだからね!死にたくなかったらしっかり狩ってきてね!あ、そうだ。囚人たちに武器は持たせてないから安心してね!」

 

私は生唾を飲み込んで、少しずつ前に歩き始める。すると、すぐに囚人たちに出くわした。皆、銃を持った私の姿を見て一様に逃げ出す。私は銃を構えて目を瞑りながら撃つが、なかなか当たらない。そうしてるうちに誰もいなくなった。失敗だ。こんな残虐行為は早く終わらせてしまいたかった。しばらく進むと、また別の囚人たちに出くわした。私はまためちゃくちゃに銃を撃ちまくった。だが、なかなか当たらない。しかし、その逃げ惑う囚人の少女の一人が石か何かにつまづいて転んでしまった。私は、チャンスとばかりに走って近づく。少女は手をついて後ずさりをする。

 

「いや……近づかないで……!いやぁぁ……!助けて……助けてよ……私が何をしたというのよ……!」

 

そうだ。彼女たちは何もしていない。何もしていないのに訳もわからず、連行されてここで今ここで私に殺されようとしているのだ。何の罪もないのに。だが、私も彼女を殺さなければ殺される。私は、心を鬼にして銃を構え心臓に突きつける。

 

「すまない。許してくれ。」

 

そう告げると引き金を引いて、心臓と頭にそれぞれ2発撃ち込んだ。少女の血飛沫が飛び、仰向けに倒れた。頭からは血がドクドクと溢れ出ている。私は付着した血を手の甲で拭う。一人殺したら、何故だかだいぶ楽になった。もともと、人を殺したことがあるからか、ハードルはなんだかんだ言って随分低いものだった。私は簡単にそのハードルを乗り越えてしまった。その後は早かった。私は無表情のまま、囚人たちを見つけては小銃をババババッとやった。人というのはあまりにも脆くて弱い存在だ。こんなにも軽い引き金であっという間に数十という命が消えるのだ。私がぶっ放すたびに悲鳴をあげながら面白いように倒れ、死んでいく。私は、それに慣れてしまった。「死ね!死ね!」と言いながら小銃をぶっ放して、大量に殺戮する行為を楽しむようになっていた。今まで、そうした大量虐殺行為を嫌悪していた私は死んでしまった。いや、もともと私はそうした素質を持っていたのだ。何を隠そう私は私の好奇心のためだけに人体実験と生体解剖を繰り返していた時期があったのだから。今更、足掻いてもいくら反省し罪を滅ぼそうとしても私も結局は悪魔だったのだ。私はあなたと同じだった。西住さん。私は西住さんがいる後方の監視塔の方を見ながら心で呟く。監視塔では、西住さんがライフルを構えて、悪魔のように笑いながら撃っていた。どうやら、隠れている囚人の狙撃を楽しんでいるようだった。まるでゲームのように人を殺していた。そして、あっという間に私たちは400人を狩り尽くした。囚人たちの血にまみれで錆色になって戻ってきた私を見て、西住さんはニタァと悪魔のように笑いながら言った。

 

「ふふふふ。麻子さん。殺戮はどうだった?」

 

私は銃を投げ捨て、血をタオルで拭き、地面に座って梓から水をもらってそれを飲み干しながら答える。

 

「ああ。意外と楽しかったな。それに、今日は私よりも西住さんが殺した数がだいぶ少ないな。珍しく私の勝ちだな。」

 

西住さんは私の答えに腹を抱えて笑った。

 

「あっはははは!だって今日は麻子さんが主役だもの!それに、私は狙撃用で麻子さんは自動小銃なんだから!それにしてもこんな風になっちゃうなんて!やっぱりやって良かったよ!これで私たちはまるっきり同じになったね。麻子さん。麻子さんは私と同じ。だからもう、私と同じくらい戦えるよね?戦争の時は奮戦を期待してるよ。」

 

私は大きく頷いた。こうして私は直接的な殺戮にも慣らされた。その結果、私はあの戦争で西住さんが予想した以上の活躍をした。殺戮に殺戮を繰り返すことになる。そして、私は敵からも味方からも獰猛な殺戮プロフェッサーと呼ばれ恐れられるようになるが、それはまた別の機会にお話ししようと思う。

 

つづく

 




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