血塗られた戦車道   作:多治見国繁

150 / 150
皆様、お久しぶりです。
だいぶ就職先にも慣れてきたので久しぶりの更新です!
よろしくお願いします!


第140話 進むも地獄退くも地獄

西住隊長は、私に処分の通達をしたら、私はもう用済みとばかりに私を執務室から追い出した。私は、言われるがまま、隊長の執務室を出たが、その後もしばらくの間、茫然と固く閉ざされた隊長の執務室の前にたたずんでいた。

それから、どのくらい時間がたったのだろうか。突然、執務室の扉が開いて、中から西住隊長が出てきた。もしかして、あの重すぎる処分を考え直してくれたのかもしれない、。そう淡い期待を込めて、私は、西住隊長の目を見つめた。しかし、西住隊長は私をじろりと見やるとうっとうしそうに手で追い払う。

 

「ま、待ってくれ。私はどうなっても文句は言えない。西住さんを裏切ってしまったからな。でも、沙織と五十鈴さんは何の罪もない。どうか、あの二人をどちらか処刑しろという命令だけは撤回してくれ。」

 

しかし、西住隊長は首を縦に振ることはなかった。西住さんはとても冷たい氷のような目で私を見つめながら言った。

 

「だめです。この決定は覆りません。決して。それが麻子さんが犯した罪に対する代償です。これ以上言うなら、二人とも処刑してもらうからね。」

 

西住隊長はそれだけ言い残すと表に待たせていた知波単の輸送機に乗ってどこかに行ってしまった。私は、またしばらく茫然と佇んでいた。それから、自分がどうしていたかしばらく記憶がない。その後の一番古い記憶があるのは、私がなかなか研究室に来ないことを心配した五十鈴さんと沙織が私を探しにきた場面だ。

 

「あ!いた!麻子!こんなところで何やってるのよ!心配したじゃない!」

 

沙織がいつものやかましく説教する。五十鈴さんも心配そうに私の顔を覗き込んだ。

 

「大丈夫ですか?だいぶ疲れているようなご様子ですけど。顔色もこんなに悪いですし……」

 

私は心配する二人の声に思わず泣き出してしまった。二人は突然訳も分からず泣き出した私を見てうろたえてしまった。

 

「ちょ、ちょっと麻子。どうしたのよ。」

 

「今日はもう休んだ方が……」

 

「そうだよ。無理しない方がいいよ。」

 

その優しい声に私は二人を心配させまいと涙を拭いていつもはあまり見せない笑顔を必死に作る。

 

「いや、なんでも……何でもないんだ……」

 

「そんなわけないでしょ!」

 

しかし、そんなあまりにレベルの低い取り繕いはすぐに見破られるのは自明である。沙織と五十鈴さんは私の顔すれすれまで顔を寄せて真剣な顔つきで言った。

 

「麻子さん。本当のことを話してください。」

 

「そうだよ!何があったの?」

 

しかし、そうは言われてもあなたたちのどちらかは私の手で死ぬことになりましたなどという話は当然のことであるがやすやすと話せるような話ではない。とてもではないが話せない。いずれは私が選択しなくてはならないが、少なくとも今は無理だ。私は必死に首を横に振り続けた。話せ、話さないの応酬が続いたが、私は頑として譲らなかった。すると、沙織と五十鈴さんは何とかあきらめてくれて、私が話せるようになってからということで落ち着いた。話せるようになる時など、絶対に来ることはないと心の中では思っていたが、少なくともしばらくはこのことは誰にも言わずに心の中にしまっておくことができてほっとしていた。とはいえ、この命の選別の問題は私が選択するまでついて回る問題だから、考えないわけにはいかない。私は、研究室に戻りながら五十鈴さんと沙織、二人の背中をそれぞれ見ながら、脳で二人の命の重さをはかり始めていた。どちらが今回の処刑で死ぬべきなのか、そのような残酷なことを考えていた。今でも、私という悪魔に嫌悪感がわいてくる。私は、言葉を隠れ蓑にして非情で残酷な命の選別をしようとしていた。その選別基準は例えば、このような感じだ。例えば、研究に重きを置くならば、五十鈴さんは技術もそれなりにあるから五十鈴さんを生かし、沙織を殺すことになる。しかし、知り合った時間、友達としてみて、どちらが長く信頼しあった仲かと問われれば、当然、五十鈴さんを殺し、沙織を生かすことになる。私は、こうした内容を総合的にというまるで就職の選考をするかのように私に頭の中で行っていた。しかし、この問題の問いはやすやすと答えが出るようなものではない。結局、その日は方向性すら見つけ出すこともできずに終わってしまった。どちらに進んでも残酷な結果が待ち受ける答えのない問題を解くのは私のような弱冠16歳の少女には無理な話であった。いや、この問題はだれが解いても不可能な問題だろう。いや、だれが解いてもというのは若干間違いがある。私はこの問題を解ける人間を一人だけ知っている。それは、この残酷な問題を出した張本人西住美穂隊長その人だけだ。

 さて、私を絶望の深淵に叩き込んだ西住隊長がその日何をしていたか。その時、私はわからなかったが、のちの様々な記録から、その動向が明らかになりつつある。資料によると西住隊長はその日、輸送機に乗って、知波単学園の学園艦に向かった。知波単の参謀たちと、来る大洗女子学園生徒会との最終決戦の作戦を話し合うためだったという。その内容は極秘で長い間詳しいことが一切わからず、秘密にされてきた。わかっても一兵士の証言しかなく、その正確性に欠けるものだった。しかし、近年、その時の参謀の一人の回想録が私家出版されていたことがわかり、取り寄せてみると、某参謀は「細菌戦が計画されていたことに驚いた。」と回想している。この細菌というのは言うまでもなく、私の研究室で研究し兵器として開発したO-111大腸菌やコレラ、赤痢といった病原菌のことである。参謀はその容赦のない作戦に恐怖を感じ「西住隊長は敵に回してはいけない人とは思えない戦い方だ。」と評し、さらに「西住隊長は人を苦しませ、いたぶることを心の底から楽しんでいる。」と書き残している。さらに、生の資料として、その日に決済され、西住隊長はじめ参謀の判が押された作戦命令書が見つかった。それによると、まずアンツィオの捕虜たちを使って、食糧支援を名目に、生徒会側に侵入して混乱を引き起こし、混乱しているすきに電撃戦で戦車やキャノン砲、並びに爆撃機、戦闘機で繰り返し、空襲を行い、街ごと相手戦力を殲滅したうえで、占領、敗残兵刈りを行うという数にものを言わせた徹底的な破壊を目指すものだった。この戦い方は、これから先の戦いにおいても西住さんのスタンダードな戦法になっていくのであった。

さて、話を私自身の体験についてのことに戻そう。その夜のことだった。私のもとに私がとっくの昔にすべて洗いざらい西住隊長に打ち明けて、裏切っていることを知らずに、カエサルさんがやってきた。

 

「準備ができた。明後日実行することになったよ。明後日は新月だ。月もないから、明かりも少ない。この日を逃したら、次はない。噂によるともうすぐまた戦闘が始まると聞く。チャンスは一度きりだ。冷泉さんには今までたくさん世話になったが、当日も支援を頼みたい。作戦としてはこうだ。まず捕虜の輸送と称してひなちゃんを変装させて、境界線を突破する。

そこから、パルチザンと合流して、ひなちゃんを引き渡し、あとは、パルチザンに海から緊急脱出用の船で逃してもらう。そういう手筈だ。どうかよろしく頼む。」

 

カエサルさんは私に手を差し伸べてきた。私は、その手を取ることを少しだけためらった。私は裏切り者なのだ。そのような人間がその手を取っていいのだろうか。しかし、私は租手を取った。すると、カエサルさんは私の手を強く握ってきた。手の痛みと相まって、心の痛みを感じる。私は、それとなくカエサルさんに中止を勧告した。

 

「なあ、本当に大丈夫か。本当に準備は万端か。絶対に失敗はしないか。」

するとカエサルさんは頭を横に振った。

 

「残念だが、完璧かと問われれば、否というしかない。絶対に計画が露呈しないかと言われたら否というしかない。正直言って絶対という自信はない。しかし、歴史上、こうした決断をしなくてはならない瞬間はいくつもあった。その決断の結果、成功した決断もあるし、多大な犠牲を払って失敗した決断もあった。しかし、それらは確実に歴史を動かしてきた。明後日、どのような結果になろうとも、私の行動で歴史は大きく動くはずだ。たとえ、失敗したとしても第二第三の私のような存在が現れるはずだ。明日、もしも、万が一失敗したら私は死ぬ覚悟だ。だが、ひなちゃんだけはどうしても向こう側に逃すつもりでやる。だから、私では心許ないかもしれないが、どうか頼む。」

 

カエサルさんは必死で頭を下げる。私は、分かったと返事する他なかった。カエサルさんは胸を張って絶対に成功させると自信満々で私の部屋を後にした。私はその後ろ姿を黙って見送ることしかできなかった。この勇ましい後ろ姿に許されない裏切りを働いた私は罪悪感で心をかき乱された。しかし、私にはどうすることもできないことであった。全ての計画が露呈している現状を知っておきながら黙っていなくてはならないことは例えようもなく辛すぎることだった。いや、違う。私は我が身可愛さに黙っていたのだ。何としてもカエサルさんたちを助けたいと思うならば、別にこの話をしても良いはずだった。しかし、私は違う選択をした。もちろん、それが間違っていたとは私は思えない。人間、追い詰められれば、我が身が一番大切になる。誰も進んで死の道を進もうなどという人はいないだろう。だから、仕方ないことだと私は30年間ずっと思い続けてきたのだった。

さて、その日の夜のこと、私は2日連続、西住隊長に弄ばれた。西住隊長はその日の深夜に私を迎えに来て、再び、私の体を求めたのである。西住隊長がなぜ、裏切り者の体を求めるのか、私はわからなかった。しかし、どうやら西住隊長は私の子どものような小さな体がお気に入りのようだった。西住隊長にとって、私を殺さない理由は私の持つ知識と体、この2つだけだった。この2つを満たす他者が見つかれば私は簡単に殺されてしまう。私はそれが恐ろしかった。だから、私は出来る限り西住隊長の求めに素直に従って、西住隊長の好みの女になろうとしていた。私は今回の裏切り行為が露呈してから更に西住隊長の好みの女になろうと決意した。最初の頃とは180度態度が違う。最初は絶対に屈服しないと誓っていたのに、今や従順な犬になっていた。ただの西住隊長を喜ばせるためだけの奴隷と化した私は西住隊長に連れられて執務室へ向かった。この瞬間、私は娼婦へと変貌する。いつものように執務室のダブルベッドの前に来ると西住隊長は私をベッドの上へと押し倒すと服を切り裂く。もう何着服が破り裂かれ無駄になったかわからない。私はただ抵抗も何もせず、西住隊長の手の動きを見つめるだけだ。西住隊長は裂かれた服を脱がせると、私を押し倒し、私の体に触れる。まず最初に触れるのは腹だ。まず、臍に触れるとそのままその手を上に撫であげて私の慎ましい胸に触れる。沙織や西住隊長に比べると随分と控えめで小さな胸を掴んで捏ね回す。しかし、いつもと違い昨日から裏切り者の私を扱う西住隊長の行動はだんだんと荒々しくなっていた。いつもは何というか荒々しい中でも優しい手つきなのだが、今回は刺々しい扱いで荒々しさの更に度を越していた。こういう裏切り行為があると徹底的に痛めつけて屈服させることが特に好みという歪みに歪んだ好みを持っているので覚悟はしていたが、正直な感想を言えばかなりの肉体的、精神的な痛みを伴った。まあ、私がこの身で受ける苦難はカエサルさんたちが受けるかもしれない苦難に比べたら命を奪われない分、まだマシだ。

私は苦い生唾を飲み込んで、西住隊長の細くて白い指の動きを見つめていた。そして西住隊長は今日もまた私を強姦し、私の体を汚したのである。そして、散々、私を弄んだあと西住隊長は、私の臀部を撫で回し、下腹部に舌を這わせながら言った。

 

「ねえ、麻子さん。あれから、何かわかったことはある?裏切り者たちの話。」

 

「うっ……くっ……あ、ああ……明後日新月の闇に紛れて計画を実行するそうだ。捕虜と称して輸送して、そこからパルチザンと落ち合って、海から緊急脱出用の船で逃すそうだ。」

 

「ふふふふ……そっか。なら、忌々しいパルチザンどももまとめて処分できるってことだね。麻子さん。よく知らせてくれたね。ありがとう。ご褒美あげなきゃね。」

 

西住隊長は私の報告に対して満足そうに笑うと、私の下腹部をより一層激しく弄んだ。私は痛みで顔を歪ませ、泣きながらそれに耐えていた。その様子を西住隊長は楽しんでいた。

 

「ふふふふ。泣くほど良かったの?なら、もっとやってあげないとね。」

 

西住隊長は、そう耳元でささやくと更に私の体を侵略してきた。

 

「や、やめ……て……もう……こんなこと……したくない……」

 

しかし、西住隊長は許さない。西住隊長は、私の頬に愛おしそうに触れながら耳元で囁く。

 

「ふふふふ……可愛い……ダメだよ。言ったよね?麻子さんには私なしでは生きられないようにしてあげるって。さて、麻子さん。やめてだなんてまだそんなこと言ってるんだね。もっとちゃんと躾けてそんな口を聞けないようにしてあげないとね。」

 

西住隊長は更に繰り返し繰り返し私の体を強姦しておもちゃにした。そして、何度も何度も体を重ねた。そして、私はようやく解放された。

次の朝、西住隊長は、朝日を浴びて思い切り伸びると極悪人が犯罪を成し遂げたときのような笑みを浮かべながら言った。

 

 

「あはっ!明日が楽しみだなあ!裏切り者たちの絶望に沈む顔もパルチザン狩りもね。今のうちに機銃の準備をしておかないとね。ふふっ……ふふふふふ。」

 

すぐそばにこの戦争有数の惨劇が迫っていた。

 

つづく




次回はまた、時間かかるかもしれませんが、Twitterと活動報告でお知らせします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。