みほは、高等部に入学した。そこでも即座に副隊長に任命された。そして、高等部入学までの間に考えた策を実行した。みほは、演説により自身の熱狂的支持者を獲得したのだ。そして、その支持者たちに自身の忠実な組織ができるように裏から働きかけた。そして、すべての準備が整った時、みほは、副隊長という立場を使い、助言のためなどを除いた、自身に楯突く者たちの大規模な摘発を行なったのだ。最初、まほはチームをまとめるためには仕方がないことだと見逃していた。
しかし、みほはこれで止まらなかった。暴走したのである。みほは、最初こそ処分する者は、みほに助言以外で楯突く者のみ、そして処分も謹慎や戒告処分程度で済ませていたが、徐々にエスカレートしていった。助言をする者も含めて楯突く者は全て摘発し、相手に苦痛や辱めを与える。そんな処分が増えていったのである。みほは、それらの苦痛や辱めを与える処分を必ず自らの手で行なった。そして、その苦痛に歪む顔や恐怖する顔を眺めて楽しんでいた。
処分を受けたものがみほに満身創痍の姿で問う。
「なぜ…こんなことを…」
するとみほは悪魔のような笑顔になって答える。
「私、人が苦痛で苦しむ姿を見るのが大好きなんだ。」
また、みほはさらなる狂気を楽しむかのごとく、「秘密警察部隊」を組織した。そして、反逆の動きがあったら、密告するように指示したのである。
密告により、摘発される者は増え続けた。
流石のまほも、もはや許すことはできなかった。みほを隊長室に呼び出した。
「失礼します。」
「入れ。」
「なぜ、呼ばれたかわかってるよな?」
「さあ、なんでかな?お姉ちゃん。」
まほはその答えを聞いて激昂した。
「ふざけるな!みほ!一体何をやっているんだ?あんな虐待行為が許されると思っているのか!」
するとみほはどこ吹く風の様子で
「だって、お姉ちゃんたち、私がいじめられてても助けてくれなかったでしょ?私はお姉ちゃんたちに助けを求めようとした。だけど、お姉ちゃんたちは私を、西住流は前に進む流派だって言って私を突き放した。だから私は自分のやり方でこの黒森峰で居場所を作った。そしてその居場所を守るため、二度と裏切られないため、そのために支配を確立したんだよ?お姉ちゃん、私に逆らうつもり?逆らってもいいけど、あの子たちと同じ道をたどることになるよ?」
みほは窓際に行き、外を歩いている者たちを指差した。そこには、今日、処分が執行された者たちが恐怖に震えながらフラフラと生気のない顔をして歩いていた。その者たちは、皆ボロボロでシマシマ模様の囚人服のようなものを着せられ、罪名と処分の内容が書かれた木の札を首にかけられていた。
そして、「秘密警察部隊」が腰縄をつけて獰猛な犬をけしかけながら学校中を引き回している。
隊長室の外では、いつみほからまほの確保命令が出てもいいように控えているらしい。足音が聞こえてきた。
「みほ…」
まほは、妹の狂気に震え上がった。その様子を見たみほは楽しそうに囁く。
「お姉ちゃん、この黒森峰戦車隊はもはや私のものになったんだよ。お姉ちゃんはただの飾り。そのことだけはくれぐれも忘れないようにね。」
みほの闇はどこまでも深かった。裏切られたことによって生まれた恨みと憎しみがみほを突き動かしていた。
まほは、黙って俯くしかなかった。もはや、みほを止めることはできなかった。みほの後ろには強力な「秘密警察部隊」が控えていた。そして、みほはこれが西住家に伝わらないように厳重な情報統制を敷いていた。
みほの恐怖政治は完璧なものであると思われた。
しかし、みほの恐怖政治には綻びがあった。みほは、少しだけ優しさを残していたのである。
みほが1年生の時の戦車道全国大会決勝。みほが乗っていたのはフラッグ車だった。しかし、その前を走行していた車両が砲撃を受けて滑落してしまった。みほは、その車両の乗組員を思わず助けに行ってしまったのである。しかし、みほが乗っていた車両はフラッグ車。その車両を放置したので相手に撃破され黒森峰は負け、優勝を逃してしまったのである。
そこをまほに付け込まれた。まほは、みほを追い落とすため、ネガティヴキャンペーンを大々的に行なった。
みほには、副隊長の素質はないと。
するとどうだろうか、1つの綻びは次の綻びを呼びやがて破れていく。
みほは、皆から敗戦の最大の戦犯として弾劾され黒森峰から追放された。
そして、みほの黒森峰での行為は西住家の知るところとなった。みほは、西住家に呼び戻され母親からも断罪された。
「あなたは、戦車に乗る資格はもちろんのこと、人としても間違ってるわ。あなた、人間じゃないわ…まさか、あなたがこんなことをやるなんて…もう、あなたにこの家の敷居は跨がせない。この家から出て行きなさい。」
「わかりました。」
みほは一言だけそういうと出て行った。みほはこの時、家族にさえも人として否定され、裏切られたと感じた。そして、とうとう復讐を決意したのだ。
みほは玄関のそばに隠れて立っているまほに気がつくと近づいて耳元で囁いた。
「お姉ちゃん…この恨みは必ず晴らすからね…覚悟しておいてね…必ずあなたを私の闇に引きずり込んで葬ってあげるから…復讐は必ず…」
みほの顔は薄暗い玄関では真っ黒に見えた。まるでみほが孕んでいる闇のように。まほは、妹のあまりの恐ろしさに腰を抜かしていた。
みほは、それをしばらく笑顔で眺めていたが、やがてみほは西住邸を出て行った。
みほは、西住邸を出て熊本駅の方へ歩いて行く。西住家の最後の情けで戦車道をやっていない学校へ転校することになったのだ。その学校が大洗女子学園高校だった。
「まるで、島流しだね…」
みほは呟く。
しかし、みほはこんなことでは折れなかった。みほの頭の中では、もう次なる支配計画を考えていた。
(黒森峰では、私が優しさを持っていたせいであの蛆虫どもに、引き摺り下ろされた。同じ轍は二度と踏まない。それなら、今回は完全なる冷酷だ。今回は、死の恐怖。これで支配しよう。もちろん、今まで通りの手法も使うけど。あと、飴と鞭の使い分けも大切だよね。それに、秘密警察部隊はもちろんだけど、今回は復讐のための暗殺・謀略部隊も用意しておこう。そして、今回の学校は生徒会が大きな力を持ってるみたいだから生徒会の権限も奪い取ることができるような策を考えなきゃ。)
「現地に着いたら、何から始めようかな…」
みほは、極悪人のように笑った。
みほは、完全なる悪魔と化したのである。
つづく
恨みと憎しみが悪魔を産み落とす