梓は、毒ガス実験の後何食わぬ顔で学校生活を送っていた。萌がいなくなって1日2日くらいは風邪でも引いたのだろうと誰も気にはしなかったが、2週間も連絡がないので一部の生徒と教員を騒然とさせた。それが、噂であっという間に全校に広まり、学校中を大騒ぎさせたのだった。最後に会ったのが梓であるという目撃情報から色々聞かれたが、梓は知らぬ存ぜぬで最後まで通した。本当は全てを知っている当事者であり、萌をこの世から消し去った張本人であるが、何か証拠や痕跡が見つかるはずはなかった。全て海に捨てたのだから。結局、萌は行方不明として処理された。最初こそ騒然とした学校だったが、進展がないと皆、萌が行方不明だということを忘れ、普通の日常を過ごしていた。行方不明事件は未解決のまま闇に葬られたのだった。
梓は、毒ガス実験後も、相変わらず今後の任務のために必死に諜報員訓練を重ねた。しかし、大問題が発生した。梓は、調略が苦手であった。いくらやっても上手くいかない。理論は理解できるが実践するとどうしてもダメだった。もはやスペシャリストなっていた優花里に比べるとどうしても劣ってしまう。そこでみほは新しい運用を考案したようで、梓にこんな提案をした。
「梓ちゃん。梓ちゃんには、外部より学校内で活躍してもらおうかな。」
「学校内部ですか?」
梓は、学校内部でどんな活躍の場があるのだろうか。事実上の左遷ではないかと不安に思っていた。するとみほは
「えっと、梓ちゃんにはね、学校内部で秘密警察をやってほしいなって思ってるの。」
「秘密警察ですか…?」
秘密警察など何に使うのか、梓にはわからなかった。するとみほはハッとした表情になり、苦笑いをした。
「あ!ごめんごめん。大事なことをみんなに話すの忘れてたね。あはは…優花里さん。麻子さんを研究室から呼んできてくれる?」
「了解です!」
麻子を呼びに優花里は出て行った。そして、3分後麻子を連れて戻ってきた。
「話ってなんだ?西住さん。」
麻子がぶっきらぼうに眠そうにそう聞くとみほは
「私の計画について話しておこうと思ってね。」
と楽しそうに答えた。そしてみほは恐ろしい壮大な計画を話し始めた。
「まず、今日は私の計画の第一段階の話をするね。本当はもっと段階があるけどそれはまたの機会にお話するね。えっと、私の計画の第一段階はこの大洗女子学園の乗っ取り、そして支配をすること。そのために、計画の1番の障害、生徒会を失脚させなくちゃね。実は、生徒会に関するおもしろい情報を掴んでるんだ。」
「その情報っていうのはなんだ。」
麻子が興味深そうに尋ねた。
「うん。この情報は私が大洗に来る前、全国を旅した時に友達になった文科省の役人から仕入れた情報なんだけど、実はね、この大洗女子学園は今年度で廃校になる。って話なんだ。それでね、生徒会の人たちが文科省の学園艦を管理している部署に呼び出されて、廃校の話を聞いて、廃校を防ぐために、戦車道を復活させたんだって。これを改変させて、生徒会が文部科学省と結託して大洗を廃校にしようとしている。そして、生徒会は官僚から協力金として多額な金をもらっているっていう噂を流してみたらどうなるかな?えへへ。」
みほは、そう言って意地悪な笑顔を浮かべる。しかし、麻子は懸念を示した。
「なるほど。西住さんも悪趣味だな。だが、証拠がない。それはどうするんだ?」
そういうとみほは笑って
「うん。そうだね。確かに生徒会の不正を証明する完全な証拠はない。だけど、逆に生徒会にも無実を証明する証拠は全くない。でもね、人は悪い噂っていうのは結構信用しちゃうよ。生徒会は今までかなり強引なやり方もしてきたみたいだし、迷惑を被ってる子たちもたくさんいるんじゃないかな?そういうことなら、なおのこと悪い噂を信用しやすいし、広がりやすいよね?しかも、こっちにはこれがあるからね。」
そう言うと、みほは一枚の写真を取り出した。それは、生徒会のメンバーが文科省に入っていく瞬間を写した写真だった。
「この写真も私の友達が送ってくれた写真だよ。私はこの噂と写真、そして自分の演説の力を使って、この学園艦の中で私に味方をしてくれる人を手に入れるつもり。だけど、中には私のことをよく思わなかったりそれこそ、生徒会はこの噂を絶対認めないはず。だから、梓ちゃんはそうした蛆虫さんたちを取り締まって欲しいの。どんなことしてもいいから、ここに連れてきて欲しいな。麻子さんは、今まで通り毒ガスの研究をお願い。秘密警察ができたらこれからはもっと高頻度で毒ガス実験やれるようになるかもしれないね。優花里さんも今まで通り、外部の諜報活動よろしくね。」
「了解です!」
「あぁ、わかった。」
「はい。わかりました。隊長、この件私に任せてもらっても大丈夫ですか?」
「うん。いいけど、どうするつもり?」
みほは、少し怪訝そうに尋ねる。この計画が外部に漏れたらみほの立場がない。当然の反応だった。
「風紀委員に行くんです。この学園艦で警察権を持っているのは風紀委員ですから。学園艦の公的機関が生徒会の断罪や捜査を始めればより信用は増します。まずは、風紀委員を私たちの味方につけましょう。この話も、風紀に関わるって言えばきっとすぐに釣れますよ。風紀のことしか頭にない連中ですから。」
みほは、ニヤリと笑った。梓もだんだん板についてきていた。
「ふふ…梓ちゃんもなかなかひどいこと考えるね。いいよ。行っておいで。いい報告を待ってるよ。」
すると、梓は同じようにニヤリと笑いながら
「隊長にだけは言われたくありませんよ。はい。待っていてください。必ず風紀委員を取り入れてみせます。」
「ふふ…そうだね。うん。よろしくね。」
梓は拠点を出た。そして、この大役の任命を喜んでいた。ようやく自分にも活躍の場ができた。そんな風に無邪気に喜んでいたのだった。スキップでもしそうな気持ちで歩く。優花里は学校の外で梓は学校の中でそれぞれ活動することになった。
20分くらい歩き、梓は風紀委員の部屋についた。しかし、徒労に終わった。風紀委員のメンバーはすでに帰宅済みだったのだ。仕方がないので、明日また訪ねることにした。梓はまた20分ほどかけて、拠点に戻る。そして、みほにその件を報告した。
「隊長。風紀委員のメンバーはもうすでに帰宅していました。明日また訪ねてみます。」
「そっか。仕方ないね。わかった。じゃあよろしくね。」
その日、梓はみほから秘密警察に関する講義を受けた。ゲシュタポから、ロシアの秘密警察まで一通り学んだ。そして、秘密警察は主に何を取り締まり、何を担ったのかを歴史から検証した。そうしたことをしてその日は帰った。
次の日の朝、梓は急いで風紀委員の元を訪ねた。しかし、風紀委員の朝は忙しそうだ。門の前で制服の乱れなどを取り締まっている。そこで、梓は風紀委員に来訪の予約をしておくことにした。
「おはようございます。この中に風紀委員長の方はいらっしゃいますか?」
梓が尋ねるとすぐに返事が返ってきた。
「私よ。私が風紀委員長の園みどり子よ。」
「園さん。はじめまして。突然で申し訳ないんですけど、ちょっと本日風紀委員長に折り入ってお話ししたいことがあるのですが、いつなら来訪してもよろしいでしょうか?」
「わかったわ。なら、今日の17:00なんてどうかしら?」
梓は嬉しそうにお礼を言った。
「ありがとうございます!助かります!」
梓はご機嫌でその日を過ごした。そして放課後。梓は風紀委員の部屋の前に立っていた。なんだかわからないが胸の高鳴りが止まらない。自分の活躍の場がとうとうきた。そう思いながら梓は風紀委員の部屋の戸をノックした。
つづく