血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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第21話 秋山優花里の新任務

みほの演説の後、やはり全国大会に出ることが生徒会から告げられた。みほからはまだ平然を保つように指示されているので皆いつも通りにしていた。しかし、表では信頼した様な顔をしているが、裏では皆生徒会には不信感を持っている。組み合わせ抽選の結果、大洗女子学園の1回戦の試合相手はサンダース大学附属高校に決まった。強敵である。これは、今の生徒会チームに不信感を持っているチーム状態では勝てない。優花里は、学校が終わった後の拠点で思い切ってみほにどうするつもりか聞いてみた。

 

「先日の演説でチーム状態はかなり悪化しています。みんな、表では生徒会と信頼関係にある顔をしていますが、裏では不信感の塊です。これではとてもサンダースに勝てる気がしません。どうするつもりなんですか?」

 

するとみほは何の問題もないといった口調で驚きの策を話した。

 

「うん。そのことなんだけど、優花里さん。偵察も兼ねてサンダースに行ってくれないかな?そして、戦車隊で主力の戦車に乗っている人を調べてここに連れてきてくれる?」

 

「ま…まさか、西住殿…?」

 

優花里は察した。すると、みほは頷きながら楽しそうに語る。

 

「うん。優花里さんが思っている通り、サンダースから何人か誘拐してきて。今回は早ければ早いほどいいかな。何日も行方不明って状況が続けば、心理状態は戦いどころじゃなくなるだろうからね。」

 

「で…でも今回は殺さず誘拐して捕虜にした人たちはサンダースに返すんですよね?」

 

するとみほはさも当たり前の様な口調で言い放った。

 

「返すなんて、そんなことできないよ。今回も毒ガス実験のモルモットになってもらう。もし、帰してあげてもサンダースで喋っちゃって誘拐が露呈でもしたら大変だよ。」

 

優花里は言葉を返すことができなかった。するとみほはポンと優花里の肩に手を置いた。そして、耳元で囁く。

 

「できないなら優花里さんがモルモットになってみる?ふふっ優花里さんがバカじゃないことを期待しているね。」

 

そういうと、みほは出て行った。優花里は力が抜けたようにうなだれた。涙が頬を伝っていき、冷たい床に落ちた。しかし、いつまでも泣いていられないのだ。やらなければこっちが死ぬ。優花里は急いで準備を始めた。コンビニの輸送船がいつ大洗に着くのかを調べ、潜入した。そしてそのまま、コンビニの従業員のふりをして、サンダース高校に潜り込んだのである。トイレでサンダースの制服に着替えた。みほからは十分な時間が与えられている。まず、優花里は遠巻きから双眼鏡で演習の様子を偵察した。

 

「おぉ…圧巻であります!」

 

優花里は思わず声を出してしまった。しばらく偵察していると、シャーマンファイアフライが現れた。

 

「おぉ!あれはファイアフライ!いいものが見れました!」

 

優花里はしばらく大興奮していたが、やがてファイアフライから人が降りてくると集中した。そして、その人の特徴を克明に記録していく。今回の誘拐のターゲットはファイアフライの操縦手だ。ファイアフライに搭乗する砲手、ナオミは砲手のエースであると聞いている。そのエースが乗る戦車を無力化または弱体化させるため、ファイアフライの操縦手誘拐を最優先で行うようにとみほから指示があったのだ。しばらく偵察していると演習が終わったようだ。優花里は急いでサンダースの戦車隊が出てくるのを待っていた。しばらくすると、ミーティングも終わりぞろぞろと中から出てきた。優花里は必死にファイアフライの操縦手を探した。するとその人はすぐに見つかった。優花里はしばらくして後をつけた。初めての外での任務だ。慣れない土地でドキドキしながらターゲットが1人になるタイミングを伺っていた。1人になった瞬間襲いかかろうと思っていた。しかし、なかなか1人にならない。やきもきしながら後をつけていた。早く1人になってほしい。そんな優花里の願いもむなしく最後まで、1人にならずに寮についてしまったようだ。アパートらしき建物に入って行ってしまった。

優花里はどうしようかと困ってしまった。一度今日中に大洗女子学園の学園艦に帰るつもりだったのである。今日中に大洗に帰るには、夕方にやってくるコンビニの定期船に乗らなくてはならない。しかし、それは諦めるしかないようだ。仕方がないので、夜中になるのを待ってガラスを割り侵入し誘拐することにした。優花里は、みほの携帯に電話をした。

 

『もしもし、優花里さんどうしたの?』

 

『今、サンダースにいるのですが、ターゲットが最後まで1人にならずに、寮の中に入ってしまったので、実行は夜中になりそうです。その関係で今日中には帰れそうにありません。一応連絡しておきます。』

 

『うん。わかった。気をつけてね。』

 

『はい。また帰るときは連絡します。』

 

優花里は電話を切る。そして、夜中までの暇な時間をどう過ごそうかと思ってブラブラとサンダースと学園艦をあてもなく歩いていた。すると優花里はハッとしたような表情をしておもむろにどこかに走り出した。重要なことを思い出したのだ。本当は操縦手を誘拐して今日中に帰るつもりだったのだ。その予定では操縦手を大きな鞄に詰め込んでそのまま運ぶ予定だった。しかし、今回大幅に予定がずれてしまった。まさか、気を失った操縦手をそのまま放置しておくわけにはいかない。優花里は、その操縦手を入れた鞄を置いておく場所を探し始めたのだ。必死に探していると、コンビニの定期船が着岸する場所のすぐ近くに滅多に人が近寄らない場所があった。優花里はそこに鞄を置くことにした。

操縦手を詰め込んだ鞄の一時保管所を見つけ、ホッとした優花里はサンダースの学園艦をブラブラと歩き始めた。折角なので、学園艦の構造をしっかり理解しようと試みたのだ。そんなことをしていると、すぐに夜中になった。優花里が時計を見ると、すでに1時を回っていることに気がついた。優花里は、ファイアフライの操縦手が住む寮に再び向かった。優花里は階段を上がり、その操縦手の部屋の前に立った。鍵をピッキングで開けて部屋に侵入すると、スヤスヤと眠っている操縦手を抱き抱え、そっと鞄の中に詰め込んだ。そして、壁にかかっていた鍵を持ち鍵を閉め、急いで一時保管場所に向かった。ようやく到着した優花里は鞄のチャックを開けた。操縦手はまだスヤスヤと眠っている。ホッとした優花里は眠り薬を静脈投与し、口にガムテープを貼り、手足を縛った。そして、そのままその場所で朝になるのを待った。朝になり、やがて定期船がやってきた。コンビニの商品の荷を下ろし、出航の時間となった。優花里は急いでサンダースの制服からコンビニの店員の格好に着替え、定期船に飛び乗る。バレないようにビクビクしながら乗っていたが、なんとかバレずに済んだようだ。2時間程度だったが長い航海のようだった。優花里2日ぶりに大洗女子学園の学園艦に立つ事ができた。優花里は、大洗女子学園に着いたと同時に急いで拠点に向かった。みほに捕虜を引き渡すためだ。

みほは、拠点の外で待っていた。

 

「あっ。優花里さん!お疲れ様!どう?誘拐できた?」

 

「はい。ファイアフライの操縦手を誘拐してきました。」

 

「わぁ!すごい!ありがとう!優花里さん!」

 

すると、次の瞬間みほは衝撃的なことを言い放った。

 

「じゃあ、優花里さん。もう一度サンダースに行ってきて?」

 

「え…?」

 

優花里はみほが言ったことを理解できなかった。

 

「あの…私の聞き間違いでしょうか?もう一度サンダースに行けって聞こえたんですが…」

 

すると、みほは意地悪そうに笑いながら言った。

 

「うん。言ったよ。だって優花里さん。まだ、1人しか連れてきていないでしょ?最低でもあと4人は連れてきて?」

 

みほは、楽しそうに笑う。

 

「4人も実験できるなんて楽しみだなぁ」

 

優花里の身体からだらだらと汗が流れてきた。そんな優花里を見て悪魔の笑いをしてみほは耳元で囁いた。

 

「今日の夕方の定期船で行ってきてね、よろしくね。」

 

逆らえない。優花里はやむを得ず再びサンダースに向かう準備を始めたのであった。

 

つづく

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