血塗られた戦車道   作:多治見国繁

3 / 150
布石は完璧にしておく。それが、彼女のやり方だった。


みほの回想編 3 計画変更

みほは、そのまま大洗に向かう予定だった。

しかし、みほは予定を大きく変更して未だに熊本にとどまっていた。実は、みほはこれから先、暗殺・謀略部隊を創設するにあたって毒物学の研究が不可欠であると考えていた。もちろん、ありきたりな毒でもよかったのだが、今まで仲間からは裏切られ、何度も失敗を繰り返してきた分、みほは慎重になっていた。そして、深い毒物学の知識を求めた。しかし、その手の研究は大学などの専門機関でしか行われていない。ましてや、大学に直接訪ねて教えてもらうことなどできるわけがない。そんなことしたら何やら良からぬことを企んでいるのではと疑われるに決まっていた。そこで、みほは歴史の史料から毒物学の研究を行おうと試みたのである。戦時中、中国において、日本軍の部隊が生物兵器や化学兵器の研究のため、中国人の捕虜を使って人体実験をしていたということは、周知の事実である。みほは、その日本軍部隊に所属していた研究者が書いた実験ノートや研究ノートが戦争の混乱で放棄され中国人の手に渡り、自宅の倉庫の中に押し込まれている可能性を考えた。そこで、みほは、ダメ元でネットに英語と中国語で

 

[私は、日本軍の某部隊の研究を行なっています。某部隊に関する史料をお持ちの方はいませんか?]

 

と書き込みをしてみた。

すると、なんと幸運なことに返事が来た。

 

[私の家に、日本軍が残した研究ノートらしきものがあります。よかったら、差し上げますので取りに来ますか?]

 

なんと、研究ノートらしきものがあるという。みほは、色々と相手の情報を聞き出した。

 

その人は、現在ハルビンに住む67歳の李朗平という女性であるという。昔、彼女の父親がチチハルにあるその部隊の研究施設に戦後立ち入った時、見つけたのだという。戦前、歴史の教師をやっていた彼女の父親はもしかして、将来この負の歴史を解明するために何かの役に立つかもしれないと取っておいたという。

みほは、福岡に向かい、福岡国際空港から中国の北京に向けて出発した。

中国の北京までは4時間20分ほどかかる。みほは、飛行機の中で嬉しそうに呟く。

 

「まさか、こんなにすんなりと見つかるなんて。幸先いいな。」

 

そして、北京から乗り継ぎハルビンに降り立った。

ハルビンの空港に着き、その女性の家へ向かおうとタクシーに乗り込む

 

「中心街に向かってください。」

 

「はいよ。中心街ね。でも、お客さん。そこまで行くのに3時間近くかかるけど、いいのかい?」

 

「はい。構いません。時間の余裕はありますから。」

 

「じゃ、行くよ。」

 

中国東北部黒竜江省に位置するハルビンは、中国ながらロシア風の建物も多い。それもそのはずだ。1898年ロシア帝国により、東清鉄道建設が着手されると、ロシア人の人口が急激に増加、経済的にも発展した。

また、ハルビンはかつて日本が建国させた満州国時代、特別市として発展した街でもある。

タクシーの中、特に何もしないでいると運転手が話しかけてきた。

 

「お客さん。中国語うまいけど、中国人じゃないよね?普通話で喋ってるからすぐわかるよ。」

 

「はい。私は日本人です。今日は、戦時中の史料をお持ちの方に会いにきたのです。」

 

みほは、日本人であることを素直に明かした。別に現代において隠す必要もない。

 

「あぁ、やっぱりか。日本人じゃないかと思っていたよ。ハルビンでは色々あったからね。色々勉強してくといいよ。」

 

タクシーの運転手は褒めてくれた。当然、みほの本当の目的など知る由もない。

しばらくすると、中心街についた。いつの間にか、タクシーの運転手と仲良くなり、運転手がせっかく遠くから来たのに、歩かせてはかわいそうだと、会いに行く予定の女性の家まで送ってくれた。

女性の家は、一軒家であった。

 

「ごめんください。李朗平さんは、いらっしゃいますか?日本から来た西住みほです。」

 

「あ、西住みほさん。遠い日本からようこそ中国にお越しいただきました。私が李朗平です。」

 

年配の女性がにこやかに迎えてくれた。

 

「こちらこそ、わざわざご連絡いただきありがとうございます。」

 

2人はしばらく、世間話のようなものをして、本題に入った。

 

「あの、それで史料を拝見してよろしいでしょうか?」

 

「はい。少しお待ちください。」

 

すると、李氏は段ボール箱を持って来た。その中には、たくさんのノートが入っていた。みほは、それを手に取る。

 

「あった…」

 

みほは、日本語で呟く。

そう。研究ノートがあったのだ、そこには毒に関する記述もたくさんあった。みほの目論見は見事成功したのだ。

 

「ありがとうございます。でも、こんなにいい史料よく見つかりましたね。」

 

「ネットにも書いたように、私の父は昔チチハルで歴史の教師をしていました。そのため、この史料の重要性に気がついたのでしょう。保存状態も非常に良い状態でした。」

 

みほはその晩、李氏の自宅に泊めてもらうことになった。李氏は、手厚いおもてなしをしてくれた。そして、李氏もまたみほのことを戦争の悲劇を研究する研究者だという認識をしていた。李氏も、みほの真の目的を知らない。

 

「さて、もうちょっと史料を精読してみようかな。」

 

研究ノートには、使用した薬物、捕虜の反応、死亡したかしなかったかなどが克明に記述されていた。なかには、その薬物の作り方などの記述も確認された。

 

「うん。完璧だね。」

 

みほは、不敵に笑った。

 

翌朝、また来ることを誓って名残惜しくはあったが、李氏の自宅を後にした。

李氏と相談して、この大事な史料が中国当局に取り上げられては困るので、かなりの遠回りになるが、警備がガバガバな、国境からベトナムに入国し、そこから日本に戻ることになった。

何日も車を走らせ、ようやく中国を抜け、ベトナムに入国。そして、韓国のソウル空港を経由して、日本の福岡空港に戻って来た。なぜ、大洗がある関東の成田や羽田に向かわなかったのか、それはみほが福岡から鉄道を使って大洗に向かった方が色々と情報を得ることができて好都合だと考えたからである。荷物も無事全て揃っているし、全てが完璧な旅だった。

 

みほは、中国で大きな成果を得た。

 

そして、みほはしばらく福岡に滞在したのち、鉄道で大洗に向けて出発した。もちろん、すんなりと向かうつもりはないみほであった。

 

つづく

 

 




オリジナルキャラクター紹介
名前 李朗平
年齢 67歳
みほが出会った中国人女性。みほのことを高校生歴史研究者だと思っており、好意的な印象を持っている。

本編も、一両日中に更新します。お待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。