生徒会室では、捕らえた10名の処分に関すること、風紀委員が定められた仕事をしなかったことについての処分に関する会議が行われていた。会議では、10名の退学と風紀委員長園みどり子を職務放棄で委員長の免職処分で決まりかけていた。その時だった。突然激しく扉を叩く音が聞こえてきた。
「うるさい!誰だ!会議中だ!静かにしろ!」
生徒会広報の河嶋桃が苛立ちながら外に向かって叫ぶ。
「秋山です。西住殿の使者として参りました。急用なので急ぎお伝えしたいのですがよろしいでしょうか。」
「うん。いいよ。」
生徒会長の角谷杏は入室を許可した。
「西住が一体どうした?何があったんだ?」
桃が問うと、優花里は懐からおもむろに書類を取り出し、それを読み上げた。
「西住殿からの文書を持って参りました。えっと読み上げます。私たちは48時間以内に先ほど捕らえられた我が兵士10名を無罪とし即時解放、学園艦西地区の割譲、生徒会権限の全権委任及び生徒会三役の生徒会室からの退去を要求します。もし飲めないというのであれば、私たちは宣戦布告と捉え全面的な軍事行動を開始します。だそうです。」
最後通牒だった。杏はそれを聞いた時何を言われたのか分からなかった。
「ん?秋山ちゃんもう一回言ってくれない?」
「ですから、私たちは48時間以内に先ほど捕らえらた我が兵士10名を無罪とし即時解放、学園艦西地区の割譲、生徒会権限の全権委任及び三役の生徒会室からの退去を要求します。もしこの条件を飲めない場合宣戦布告と捉え全面的な軍事行動を開始します。だそうです。」
「え…西住ちゃんがあの暴動に関わってたってこと?」
「はい。関わってたというよりも、主犯です。西住殿の指示で行われました。」
混乱した。まさか、暴動を起こした10名の裏に西住みほが関わっており、ましてや主犯であったとは思ってもみなかったのである。杏は目を剥いた。あの気弱で優しい少女がこんな行動を取るなんて杏を含め誰もが想像できなかった。
「ちょ…ちょっと待って。秋山ちゃん。これ、本当の本当に西住ちゃんが言ってたの?」
「はい。言っていたというか、その文書で渡されました。何度でも言いますが、西住殿本人の計画です。それは、紛れも無い事実です。」
桃が優花里から書類を奪い取り何度も読み返す。
「こ…こんな要求飲めると思っているのか!」
桃は声を荒げる。桃の手は書類を持ちながら震えている。生徒会副会長の小山柚子は桃を宥める。
「桃ちゃん。落ち着いて。」
「とりあえず、この文書は受け取る。だけど、検討するから期限まで待ってて。」
杏は落ち着いて慎重に言葉を選んだ。
「わかりました。いい返事を待っています。私はなるべく貴女たちと戦いたくはありませんから。」
優花里はそれだけ言い残して出て行った。
優花里が出て行くと桃は文書を床に叩きつけた。
「ふんっ!こんなの無理に決まってるだろ!こんな理不尽な要求誰が飲むものか!会長!徹底抗戦しましょう!」
血気盛んな桃は徹底抗戦を主張していた。しかし杏は冷静だった。
「小山。戦車倉庫見てきてくれない?」
「わかりました。」
柚子が戦車倉庫にかけていく。杏は、戦車さえあれば事態を打開できるかもしれないと考えていた。可能性は著しく低いがどうかあってほしいと願った。
「会長!大変です!戦車がありません!」
「やっぱりそうか。」
杏の願いは脆くも崩れ去った。やはり、戦車はすでにみほによって持ち去られたのだろう。戦車倉庫はもぬけの殻であった。
「河嶋。残念だけど、今の状態では徹底抗戦は無理だ。」
「では、会長は西住に屈するのですか?」
「いや、違う。屈しない。西住ちゃんがこうなったのは何か訳があるはず。まずは、西住ちゃんと面会して訳を聞き出してから対策を考えればいいよ。」
杏はみほに親書を書いた。その内容はなぜこのようなことをしたのか。もし何か不満があるなら話を聞く用意はある。ぜひ一度話し合いたいとの内容だった。そして、生徒会関係者の一人に親書を渡し使者として向かわせた。
「頼んだよ。」
「はい。わかりました。」
使者は駆け出して行った。
使者が戻ってくる間、杏は色々思案していた。みほに一体何があったのか、なぜこんなことになったのか。戦車道を無理やりやらせたのがいけなかったのか。それとも、あの屈辱的なあんこう踊りをさせたのがいけなかったのか。しかし、そんなことでこんな大胆なことをするだろうか。もし、あんこう踊りや戦車道を無理やり受講させたことが原因であるならそんなことくらいで理解の範疇を超えるようなこんな大規模な反乱を画策するだろうか。杏は訳がわからなかった。訳のわからない感情が重なり合い、絡み合っていく。杏は平静を装いながら内心では怖くてたまらなかった。西住みほという人物が見えなくなっていく。今までのイメージはどんどん崩れていった。西住みほの可愛らしい笑顔が別の物に見えた。
(あぁ、そういえば私たちの根も葉もない噂があったな。それじゃあ、あれも全て西住ちゃんが…?ありえない。あの子に一体何があったんだろう。)
そんなことを考えていると、使者を出してから2時間が経っていた。使者は、いつまでたっても帰ってこない。
「遅い!」
「まあまあ。気長に待とうよ。」
杏は、桃を落ち着かせる。
「し…しかし…」
桃は部屋を行ったり来たりして相変わらず苛立ちを隠さなかった。
「まだか!まだ戻ってこないのか!?」
確かに異常なほど遅い。使者を出してからもう5時間も経っている。この学園艦はそこまで広くはないはずだ。どう考えてもおかしい。時間はどんどん過ぎて行く。そして夜になった。それでもまだ帰ってきていなかった。
「頼む…頼むから早く帰ってきてくれ…」
桃はもう泣きそうな声をあげていた。杏も内心では泣きたかった。しかし、生徒会長という立場上泣くわけにはいかない。必死に涙をこらえていた。時計は深夜1時を回っていた。その時、部屋の外で物音がした。もしかして帰ってきたのかもしれない。急いで見にいくと杏は言葉が出なかった。そこには変わり果てた使者の姿があった。プルプル震えながら両手両足を縛られ倒れている。ボロ雑巾のように捨てられていた。相当ひどい暴行にあったのだろう。服はボロボロに裂かれ、脚は赤紫色になり、ところどころ出血している。その他にも鞭で打たれたような跡まであった。痛々しく生々しい傷跡を晒しながら使者はうわ言を言っていた。
「許してください…もう…辞めてください…お願いします…助けて…た…すけ…て…あ…あ…会長…西住さんに…従ってください…あれは、人間じゃ…ない…西住さんは…悪魔…です…」
"交渉するつもりはない。降伏か戦争か二つに一つだ。早く選べ。"
それは、みほからの無言のメッセージであった。
杏の心は大いに乱れた。狂気を目の当たりにしたのである。そして、それは恐怖に変わっていった。張り詰めた糸が切れるように杏とうとうワンワンと思いっきり泣き出した。周りを見ると桃も柚子も同じように泣いていた。そして、泣き止んだ時ある感情が心に渦巻いた。仲間をこんな酷い目に合わせ、廃人のようにしてしまった悪魔、西住みほを許さない。そんな感情である。そう。杏の心には怒りと憎しみが渦巻いていた。
こんな、悪魔に学校を渡してなるものか。絶対に学校を守りきる。守ってみせる。それが、生徒会長としての使命だ。これは、正義の戦いである。そう思った。過酷な運命が待ち受けようとも覚悟はできていた。
「決めたよ。西住ちゃんを許せない。徹底的に戦い抜こう。そして、この学校を守ろう。正義のためだ。」
「はい。戦い抜きましょう。正義のために。」
2人とも同意してくれた。杏は心強かった。
徹底抗戦。全面戦争。
生徒会は戦争をする選択をした。しかし、絶対にしてはいけない選択だった。生徒会は、来るべき戦争に備えた準備をしようとしていた。この時、まだ生徒会は自分たちが置かれた状況を全く理解していなかったのであった。
つづく