血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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第33話 展望台の悲劇における、生徒会側のエピソードです。


第34話 憎しみの炎

開戦1時間を切り、ピリピリとした空気が流れていた。杏は、柚子に住民を避難させるように命じた。

 

「小山、悪いけど放送室に行って全艦の非戦闘員や一般の住民に避難を呼びかけてくれないか?住民を決して戦火に晒してはいけない。」

 

「わかりました。あのサイレンを鳴らしてよろしいですか?」

 

「あぁ、頼んだよ。」

 

柚子は駆け出して行った。しばらくするとけたたましいサイレンと柚子の声が学校中に響き渡る。すると、一般の住民たちがぞろぞろと集まってきた。有事の際には体育館に避難するように規定してある。今日からしばらく体育館住まいとなる。

 

「皆さん。今日からしばらく体育館住まいとなりますが、戦争終結まで耐え忍んでください。私たちは必ずこの戦いに勝利します。」

 

柚子は、皆に頭を下げた。この戦いが早く終結してほしい。それは誰もが願ったことだった。とりあえず皆、家に一刻も早く帰りたい様子だった。柚子は、突然避難民の一人に声をかけられた。

 

「あの、秋山優花里という生徒を知りませんか?もう何日も家に帰ってなくて…」

 

「あなたは?」

 

「優花里の母です。ほら!お父さんも!」

 

「…優花里の父です…」

 

母親は気丈に振る舞っていたが、父親は呆然としていた。よほど娘の身が心配なのだろう。柚子は真実を告げるのが心苦しかった。

 

「秋山さんは…秋山さんは…私たちの敵です…反乱軍の幹部として…加わっています…」

 

優花里の両親は泣き出してしまった。そして、必死に謝っている。

 

「申し訳ありません…本当に申し訳ありません…まさか娘がこんなことを…」

 

可哀想で見てもいられない。どんな言葉をかければいいのかさえわからない。すると杏の呼ぶ声が聞こえた。

 

「すみません。呼ばれたので一旦離れます…」

 

「引き止めてお仕事の邪魔をしてしまってすみません…」

 

優花里の両親は最後まで頭を上げなかった。

 

「小山。大丈夫か?」

 

「はい。避難民の一人に秋山さんのご両親がいらっしゃって…それで…真実を…」

 

「なるほどね。秋山ちゃんの…仕方ないよ…小山が負い目に感じることはない。」

 

「でも…」

 

「いいか?たとえ敵の家族でも丁重に扱え。避難民には何の罪もない。」

 

「はい。もちろんです。」

 

杏はニッコリと笑い、仕事に戻るように指示をした。避難民の収容を終えた後、杏たちは作戦会議に移った。

 

「敵の数は12000そこにさらに、味方する聖グロリアーナ、知波単などが加わるとさらに増えることが予想され、我々の援軍はいつ到着するかわからない状態だ。そこで、今回はゲリラ戦を主体とする戦いになる。」

 

桃がそう解説すると皆、合意したといった様子だ。すると次は杏が口を開いた。

 

「今回の戦いでは、展望台が戦略上重要な地だな。そこさえ押さえれば、反乱軍の動きは丸見えになる。逆に奪われれば我々の動きも全て察知されるということだ。」

 

今回の戦いではゲリラ戦を主体とし、まずは展望台を押さえるということで全会一致した。問題は、誰がそれをやるかだ。桃が手を挙げた。

 

「その役目、ぜひ私にやらせてください!かならずこの作戦を成功させてみせます!」

 

ゲリラ戦を展開する提案をした桃は自分がまず実践したいようだ。しかし、それに柚子が反対した。

 

「でも、桃ちゃん。この間の戦車道の試合の時、あまりうまく指揮を執れていなかったような気がするけど…」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!この間はヘマをしたが、今回はしない。必ず成功させてみせる!」

 

桃があまりにも強く自分にやらせろと主張するので杏はかけてみることにした。

 

「そんなに言うなら、河嶋に任せるよ。ただし、無理はしないでね。」

 

「ありがとうございます!わかりました!」

 

桃はとても嬉しそうだった。戦果をあげて、杏を喜ばせる。そんな思いでいっぱいだったのだろう。皆、桃の様子をおもしろそうに見ていたが、ただ一人柚子だけはうかない顔をしていた。悪い胸騒ぎがしていたのだった。

 

「小山。どうした?」

 

杏に声をかけられ、柚子は心配そうに呟く。

 

「桃ちゃん。大丈夫でしょうか?何か、悪い予感が…」

 

「まだわかんないよ。戦う前なんだから。そんなうかない顔してたら勝ちが逃げてくよ。」

 

「そうですよね。考えすぎですよね。」

 

そういうと柚子は笑う。杏も満足そうに笑った。杏は河嶋に銃を持つ兵士 30 竹槍部隊 70をつけた。本来なら100名全てに銃をもたせたいが何しろ現状では100挺しか銃がないので万が一全滅した時にリスクが高すぎるのでやむを得ない措置だった。

 

「大丈夫ですよ!銃の部隊など30で十分です!必ず展望台を奪ってみせます!」

 

桃は強がって大丈夫だと豪語していたが、内心ではとても不安だろう。

 

「すまない…どうか力不足を許してくれ…」

 

杏は力不足によりこんな大変な目に合わせたと皆に謝罪した。

 

「会長…頭を上げてください。私たちは会長だからついてきたんです。会長のために、この戦い、必ず勝利します!」

 

そう言って、笑顔で桃と展望台守備隊100名は出かけていった。杏と柚子はどうか無事で戻ってくることを祈っていた。みほたちは学園艦の西地区を拠点としている。展望台は西地区から2kmほど離れた中地区にある。接敵は約1時間程度だろう。その1時間は杏たちにとって、とても長く感じた。

 

突如、静かな学園艦の空気を切り裂くような発砲音が響いた。

 

「始まったか…」

 

杏は緊張で汗がダラダラ流れていた。柚子も同じように上の空だった。遠くから発砲音が絶え間なく聞こえてくる。懸命に戦っているようだ。杏は心強くその発砲音を聞いていた。発砲音は1時間ほど続いたが、やがて静かになった。勝敗が決したのか、一時休戦かそう思っていた。その時だった。偵察の者が慌てて駆け込んできた。

 

「か、会長!大変です!展望台守備隊全滅しました!指令官河嶋さんは、敵に捕らえられ安否不明です!」

 

「え…?」

 

全滅。それを聞いて杏は青くなった。そしてガタガタと震えた。

 

「全…滅…?全員、死んだのか…」

 

「はい…全員見事に戦い、命の花を散らしました。河嶋さんも最後まで指揮をとりましたが、最後は敵に捕らえられました…」

 

100名もの兵士が命を散らしたのだ。つい2時間前まで一緒に笑っていた娘たちが。あれが最後の別れになるとは誰も思ってもいなかった。しかも、桃は敵に捕らえられたという。安否もわからない。残虐なみほのことだ。タダで済むとは到底思わなかった。どうすればいいのかわからない。もはや交渉の手段もない。こちらにも捕虜がいたら、交換などでなんとかなったかもしれないが、その手段も使えなかった。

 

「私のせいだ…私のせいで…みんなは…」

 

がっくりと膝を折り、杏はうなだれる。出撃した者たちの顔が走馬灯のように蘇る。杏が見た皆の最後の顔は笑顔だった。涙が溢れてくる。柚子を見ると、柚子も泣きながら双眼鏡で主戦場となった展望台付近を見ていた。そして、お経をあげて仲間を弔っていた。その時である。

 

「きゃあ!!」

 

柚子が悲鳴をあげた。そしてへなへなと倒れ込んでしまった。杏は涙をぬぐい、何事かと柚子に尋ねる。

 

「うぅ…小山。どうした…?」

 

「か…か…か…会長…あ…れ…を…」

 

柚子が指差す先を双眼鏡で覗いてみた。

 

「うわあああああああ!!か…か…か…河嶋ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そこには無惨に殺され、腹を裂かれて裸で磔台に縛られ、晒された桃の姿があった。反乱軍の兵士たちが追い討ちをかけるように、石をぶつけている。

 

「やめろ…やめろやめろやめろやめろ!!河嶋をこれ以上傷つけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

杏は半狂乱になり叫びまくった。杏の目は血走り、強く握られた拳からは爪が食い込み、鮮血が流れていた。

 

「あははははは!!ははははは!!」

 

杏は突然笑い出した。そして叫んだ。

 

「西住みほ…絶対に許さない!!この恨みこの憎しみは必ず晴らす!今に見ていろ。必ず河島の仇は討ってやる!!」

 

恨みと憎しみの炎は大火になり、火災旋風のように、杏の心の中で渦巻いていた。

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