血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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旅は人を強くする。


みほの回想編 4 旅

みほは、大洗に着くまで途中下車を繰り返した。特に、広島県に位置する、大久野島は、入念に見学した。大久野島には、かつて旧日本軍の毒ガス工場があった。そのため、「毒ガスの島」とも呼ばれている。みほは、毒ガスの知識を得るために大久野島の見学は特に重要であると考えていた。そのため、広島県に着いた時、みほは真っ先に大久野島に向かった。

大久野島に着くと、みほは資料館に向かった。資料館には、毒ガスに関する当時の史料はもちろん。参考とすべき図書もたくさん置いてあった。みほは、それを全て頭に叩き込んだ。そう。暗記を試みたのである。執念で全ての史・資料暗記し尽くした。

そんなことをしていると、資料館の学芸員が声をかけてきた。

 

「若いのに熱心ですね。」

 

「ええ。日本軍の毒ガス研究の実態を研究対象にしていますから。」

 

「そうなんですか。なら、折角なのであまり公開することのない史料があるのですが、ご覧になりますか?毒ガスの製造方法の記述がある軍の機密文書だったものなのですが、敗戦前後に全て処分されたはずなのです。しかし、この史料はなぜか処分されたり燃やされたりせず、個人の方が所有していたのを寄贈してくれたのです。」

 

こんなチャンスはない。みほは、心の中で大いに喜んだ。

 

「はい。ぜひ、見せていただきたいです。」

 

「わかりました。少々お待ちください。」

 

しばらくすると学芸員が史料を持って戻ってきた。

 

「これが、実物です。」

 

そこには、用いられた薬品や、調合の割合など詳しく記述されていた。この史料はこれからの計画に重要な役割を果たすかもしれない。みほは、ダメ元で史料の撮影を願い出た。

 

「すみません。この史料、研究のために写真に収めたいのですが、許可をいただけませんか?」

 

すると学芸員は思わぬことを提案してくれた。

 

「そのことですが、寄贈された時、こちらで史料は全て写真に収めてありますので、それをぜひお持ちください。」

 

なんと全く苦労なしで、史料を手に入れることができた。みほが喜んでいると学芸員は、

 

「あなたは、若いのに熱心だったので特別です。他の人にはこんなことしませんよ。」

 

と笑った。

学芸員は、みほのことを、毒ガスによる戦争の悲劇を研究していると思っているらしい。まさか、みほのことを毒ガスそのものの研究を行なっているなんてことは思いもしていないだろう。また、その裏にある本当の黒い思惑など当然、知る由もなかった。

みほは、学芸員にお礼を言い、資料館を後にした。

そして、最後に実際に毒ガス工場が建っていた跡地を隈なく見学した。

そして、島を去る時みほは呟いた。

 

「いい勉強になったかな。」

 

みほは、ちっとも疲れた様子などなかった。むしろ、新たな知識を得て満足げな表情をしていた。

その後も、みほは何ヶ月も旅を続け、九州はもちろん、中国、四国、近畿、北陸、中部、関東の各地を小さな島まで含めてほぼ全て周り尽くした。その間、みほは各地の大学にも多く立ち寄り、こっそり講義に参加するなど積極的に自身の知識を高める努力と行動をしている。

みほは、この旅を自分の知識を高めるため、そして各地で各学校の動向をはじめとする情報を手に入れるために非常に重要なものになると位置づけていた。

そして、みほは知識と情報を持った万全な状態で、旅の終わりに差し掛かっていた。関東某所から鉄道に乗って、最終目的地である大洗に向かっていた。

つづく

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