血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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第38話 知波単参上 第39話 思わぬ援軍における生徒会側のエピソードです。


第40話 地獄からの来訪者

どこで間違ったのか、何を間違ったのか、杏には何も分からなかった。杏を信じてついて来てくれる、仲間。もう失いたくはない。しかし、戦争を遂行する。それ即ち、仲間に死んでこいといっているのと変わらないのだ。死んでこいという命令でも皆、喜んで笑って出撃する。それが杏を苦しめた。自己嫌悪で心が埋め尽くされそうである。その気持ちを押し殺して、杏は戦争に身を投じている。杏はとても焦っていた。みほの次なる手が全く読めないからだ。展望台の麓の市街地を焼き尽くしたみほは、次はどこに向かう気なのか一体何を考えているのか全くもってわからない。

その時だった。学園艦の航行を司る船舶科から連絡が入った。

 

『会長!我が大洗の学園艦に急速に異常接近する学園艦が…』

 

『所属は?』

 

『はい。知波単学園と思われます。』

 

杏は青くなった。知波単はみほ陣営の学校だ。その学園艦が急速に異常接近などたまったものではない。

 

『まずい…知波単は西住ちゃんの陣営だ!この海域から急いで離脱してくれ!』

 

『わ…分かりました!!』

 

杏は急いで兵士を20名集めた。

 

「西住ちゃんの次なる狙いは恐らく搬入口だ。この学園艦には搬入口が2つある。コントロール室で西住ちゃんたち、反乱軍の兵士が搬入口に入ってくるのを待って入って来たらコントロール室でシャッターを閉めて閉じこめて。狭いところに押し込められて混乱した反乱軍を一気に叩く!」

 

「はい!」

 

杏の作戦は搬入口を制圧しようと奥深くに入りこんだ反乱軍を閉じこめて混乱したところを一気に叩くという作戦だった。上手くいけば少数で多数を叩くことができる。

20人は出かけた。今回は兵士たちに無線をもたせた。しばらくすると、知らせが入る。

 

『こちらA搬入口、敵はまだ現れません。』

 

『同じく、B搬入口にも現れません。』

 

『了解!引き続き警戒頼むね。』

 

今度こそ無事に帰って来てほしい。杏はそう祈っていた。その時である。再び船舶科から連絡が入った。

 

『か…会長。こちらに大量の航空機が向かって来ます。数えきれません…』

 

『え…?なんでそんなに大量の飛行機が…まさか…視認はできる?』

 

『いえ、まだ視認はできません。』

 

『そうか…視認ができたら教えて。』

 

『了解です!』

 

知波単の学園艦の異常接近と大量の飛行機の飛来。嫌な予感がした。

 

『会長!飛来した航空機の視認と特定ができました!一〇〇式輸送機です!所属は知波学園!100機以上近づいています!!』

 

嫌な予感は的中した。輸送機には恐らく、みほの陣営への援軍を乗せていると思われた。

 

『無駄だとは思うけど、一応知波単に警告を出すよ。今から生徒会室で放送してみる。』

 

『わかりました。』

 

『こちらは大洗女子学園生徒会長角谷杏だ。貴校の学園艦が異常接近している。このままでは衝突の恐れがあり危険だ。早急に回避せよ。また、大洗女子学園学園艦の上空に許可なしに飛来するのは主権の侵犯だ。早急に引き返せ。』

 

杏は警告をしたが、それを無視して知波単の輸送機と学園艦は接近する。

 

『やっぱり無駄か…航空機は船では避けられない。しかし、学園艦の接近は何としても回避しろ!』

 

杏は苦渋の命令を下した。しかし、さらに追い討ちをかける知らせが入る。

 

『こちら搬入口Aの近藤です…今、反乱軍に突入されました…申し訳ありませんが…私たちは降伏します…』

 

『え…?突入…?降伏…!?今、どうなってんの?応答して!』

 

杏の作戦はみほに見破られていたのだ。またしても失敗した。

降伏した近藤からの応答は二度と帰ってこなかった。ただ、誰かが無線を入れっぱなしにしたようだ。声が漏れてくる。杏は息を殺しながらその無線に聞き入る。

 

『やっぱりここにいましたか。搬入口に誰もいないからびっくりしちゃいました…罠だなんて…酷い…』

 

杏はみほの声を久しぶりに聞いた。何を話しているのか聞き取りたいのに電波の状態がやや悪いようだ。途切れ途切れでなかなか聞き取れない。

 

(電波が悪いな。なかなか聞き取れない。それにしても西住ちゃん。酷いだなんて西住ちゃんが言えることじゃないよ!河嶋をあんな目に合わせておきながらよくもそんなこと平気で…)

 

『…えへへ。さて、…しようかな。私に逆らったから殺しちゃおうかな。』

 

杏は目を剥く。そして、桃の悲劇を思い出し、嗚咽を覚える。親友もこうして死んでいったのか。そう思うとみほを許せなかった。

 

『…の…やめてください…殺さないでください………なんでもしますから』

 

近藤の声で助命を懇願する声が聞こえた。杏はひどく慌てた。そして、自分の無力さにうなだれる。

 

(ダメだ!西住ちゃんになんでもするから助けてくれなんていったら絶対にダメだ!西住ちゃんは絶対にその言葉につけこむ!何をさせられるかわかったものじゃない…利用されて…殺される…)

 

『…………この……名を捕虜として拘束しろ!』

 

搬入口Aのコントロール室にいた10名は反乱軍に捕らえられた。杏は膝を折り、涙を流す。桃の悲劇が繰り返されるかもしれない。そう思うと耐えられない。杏はしばらく何も耳に入ってこなかった。

 

「会長!会長!!」

 

柚子が杏を心配そうに見つめている。

 

「あ…すまない…小山どうした?」

 

「か…会長…あれを…」

 

柚子が怯えながら空を指差す。杏が空を見ると落下傘で無数の人が降りてきていた。その姿は圧巻だった。落下傘で降下することができるということはかなり本格的な兵士であるということだ。練度が高く、戦いには慣れていることを意味している。杏は恐怖で腰を抜かす。

 

「ついに…ついに来た…知波単が…」

 

震えと嗚咽が止まらない。するとさらに最悪の知らせが入る。

 

「会長!!避けられません!!総員、衝撃に備えろ!!ぶつかるぞ!!」

 

杏が外を見るのもう目の前に知波単の学園艦が迫っていた。叫び声の後、すぐにぐらりと揺れた。知波単学園の学園艦と接触したのだ。大洗女子学園の学園艦に知波単の兵士たちが次々と空から船からなだれ込む。

 

「どうすればいい…私は…」

 

知波単の部隊はすぐに攻めてくるという様子では無い。少しホッとしたが杏の心は限界に近かった。その時、誰かが生徒会室に入って来た。

 

「会長。お電話です。」

 

「後にしてくれ、今はとても…」

 

「黒森峰の西住まほさんからですが…」

 

杏は目を見開き、すがるような思いでその電話を取る。杏は援軍を期待していた。

 

『電話代わったよ。角谷だ。援軍は…援軍はまだかな?もうとても耐えきれないよ…みんな死んじゃうよ…今までだって何人西住ちゃんに殺されたことか3桁いくんじゃないかな…このままでは、確実に全滅だよ…』

 

杏はまくしたてるように話す。まほはしばらく黙っていたが、意を決したように話し始めた。

 

 

『…角谷。落ち着いて聞いてくれ。我が校から戦車が2両、何者かに奪われた。さらに、輸送機と1000名もの生徒までが行方不明だ。』

 

『何が言いたいの?』

 

『察してくれ…私たちは輸送機で大洗に向かおうとしていた。だが、輸送機を奪われたということはさらに時間がかかるということだ。一週間以内につけないかもしれないということだ…』

 

電話の奥はざわざわと騒がしい。あれこれ叫ぶ声などが聞こえてくる。計画が大きく崩れ混乱しているのだろうか。杏の願いは虚しく砕けた。

 

『厳しいね…』

 

『しかも…』

 

『しかも…?』

 

『実は、奪われた戦車の一つはかつてみほが搭乗していた戦車なんだ。しかも、行方不明の生徒たちはかつてみほを慕っていた者たち。これは、もしかしたらあくまで推測に過ぎないが…その者たちが…戦車を奪い…大洗に向かったのかもしれない…みほの元に…』

 

『え…?黒森峰から西住ちゃんに味方する子たちがいて、その子たちが向かっているかもしれないってこと…?』

 

杏は目を剥く。まさか、黒森峰からみほの陣営につく者がいるとは思っても見なかった。まほは、消え入りそうな狼狽した声で謝罪した。

 

『そうだ…すまない…私の力不足でこんなことに…なんとか持ちこたえてくれ…もう一度言う…みほに絶対に勝たせるな…みほに権力を握らせたら生きるも地獄、死ぬも地獄だ…健闘を祈っている…』

 

そういうと電話は突然切れた。

 

『え?ちょ…もしもし!?』

 

今日こそ西住みほがなぜあんな蛮行を取るようになったのか問い詰めるつもりであったが、また聞くことができなかった。杏は静かに電話を置く。心配そうに見つめる柚子に向かって横に首を振った。柚子は俯いてしまった。生徒会室は沈黙と重い空気に包まれた。その沈黙を破るように再びけたたましく、内線電話がなる。

 

『角谷だ。』

 

『会長!また、正体不明機がこちらに近づいて来ます!』

 

『視認できる?』

 

『まだ、無理です。』

 

『分かった。また、警告出しとくね。』

 

『こちら大洗女子学園だ。接近する正体不明機に告ぐ。すぐに引き返せ。大洗女子学園の上空を許可なく飛行するのは主権侵犯だ。』

 

しかし、またしても正体不明機は杏の警告を無視して嘲笑うかのようにこちらに向かって来る。警告しても簡単に蹂躙される。もはや、会長の統治権など無いも同然だった。

 

『視認しました。機種はわかりませんが、黒森峰の機体です。』

 

『黒森峰…そうか。わかった。ありがとう…』

 

恐れていたことが起きたのだ。間違いない。まほが言っていた推測が杏の中で確信に変わった。黒森峰の輸送機は学園艦の周りをぐるぐると大きく旋回している。しばらくすると、西地区への道路へ強行着陸を敢行した。杏はなすすべなく、唇を噛み、外を呆然と眺めて、今の状況を受け入れることしかできなかった。地獄からの来訪者だ。血の味が口中に溢れる。杏はあまりの自分の不甲斐なさに、唇を噛み切ってしまった。

 

「か…会長!血が!血が!!」

 

杏の口から滴り落ちる血を見て驚いた柚子が慌ててハンカチを差し出す。

 

「ありがとう。小山。今すぐサンダースに連絡してくれ。あとどのくらいで到着できるか確認してくれ。」

 

杏は、柚子から差し出されたハンカチで口を拭きながら、柚子にサンダースのケイに電話をするように指示を出した。杏はパンと自分の頰を両手で叩き、気合いを入れ直していた。

 

つづく

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