血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほ陣営のエピソードです。


第45話 苦戦

みほたちはゲリラからの激しい抵抗に晒されていた。みほは無線で逐一戦況を絶えず報告するように命令した。

 

『情報を密にしろ!些細なことでもすぐに連絡しろ!』

 

『了解です!』

 

『隊長!敵に囲まれたようです!四方八方から銃弾が!』

 

『くっ!!上手く切り抜けられそう?』

 

『とても無理です!』

 

みほは舌打ちした。そしてますます険しい表情をしながら呟く

 

「まずいな…敵に囲まれたか…」

 

『梓ちゃん!聞こえる?』

 

『はい!聞こえます!』

 

『出番が来たよ!歩兵の子たちがゲリラに攻撃されて大変みたい。歩兵の子たちの盾になりつつ、ゲリラを押し返してくれない?』

 

『了解です!』

 

梓たちうさぎさんチームのM3リー中戦車は踵を返し、後方の歩兵部隊の元へ救援に向かう。

 

「あや!機銃で応戦して!桂里奈は後ろの歩兵の人たちに弾が当たらないように上手く合わせながら盾になってあげて!」

 

「うん!」

 

「あい〜!」

 

「この戦いは紗希に捧げる弔い合戦!なんとしても勝つよ!!」

 

「よっしゃあ!やったるぞ!紗希ちゃん!見てて!仇をとって見せるから!」

 

 

うさぎさんチームの活躍でなんとか敵を押し返すことができた。しかし、今度は最後尾の部隊がゲリラの攻撃の晒された。反乱軍は数が多く、縦に長い隊列になる。だから、なかなか上手く陣形は変えられない。しかし、少数の生徒会部隊は縦横無尽に森を駆け巡る。押し返してはまた現れ、また押し返したと思ったら別のところから現れる。その繰り返しだった。みほの元には次から次へと報告の無線が入った。それはあまり良い報告ではなかった。皆、混乱している。一度体制を立て直した方が良さそうだ。

 

『現在、森林にいる全部隊に通達する。一度この森から撤退する。悔しいが、このまま戦ってもいたずらに兵を減らすだけ。皆、落ち着いて撤退して。』

 

『そ…そんな!私たちはまだやれます!お願いです!戦わせてください!』

 

『ダメ!うさぎさんチームの1両だけで何ができるの?混乱は余計な犠牲が出る。敵も同じような服装をしてるから混乱した兵士が同士討ちを始めるかもしれない。そうなったら大変なの。』

 

『でも…』

 

『梓ちゃん…今度、命令に背いたら今度こそ、抗命罪だよ?梓ちゃんはもうわかってるよね?命令に背いたらどうなるか…梓ちゃんはいじめるのは、やぶさかではないけどあの恐怖を味わいたくないなら素直に言うこと聞いたほうがいいと思うな。』

 

 

『うぅ…わかりました…』

 

無線からは梓をはじめ、残念そうな複数の声が聞こえてくる。みほたち反乱軍にとって初めての敗北だった。しかし、当の本人は至って落ち着いていた。冷静に撤退を指示している。みほの頭の中にはもう次なるプランがあった。みほは知波単の川島に他の無線を切って個人的に連絡をした。

 

『川島さん。聞こえますか?』

 

『ああ。聞こえるぞ。どうした?』

 

『ちょっと聞きたいことが…他の無線を遮断してくれませんか?』

 

『あぁ。わかった。今切ったぞ。それで、聞きたいこととは?』

 

『航空隊の装備はどういうものがありますか?』

 

『あ…あぁ、確か通常爆弾と焼夷弾と聞いている。』

 

『そうですか。わかりました。それでは、森を焼夷弾で焼き払い、ゲリラを森ごと燃やし尽くします。航空隊に連絡してもらえませんか?』

 

みほはにやりと嬉しそうに笑う。

 

『あぁ。わかった。すぐに連絡する。』

 

しばらくして、川島から連絡をしたという無線が入った。

 

『諸君!これからこの森をゲリラごと知波単の航空部隊の焼夷弾で焼き払う。早急に撤退してほしい。』

 

みほが無線を入れると今まで残念そうな声だった兵士たちは途端に元気になった。みほはその様子をおもしろそうに聞きながら撤退を指示していた。

 

『全員の撤退、完了しました。』

 

『了解!では、この森から半径100メートル以上離れるぞ!』

 

みほは部隊の安全の為、半径100メートル以上離れさせた。しばらくすると、空から四式重爆撃機飛龍が10機ほどやってきた。1機が森の外縁に円を描くように焼夷弾を投下する。すると他の機体も何重にも円を描くように順次、森に焼夷弾を投下した。爆撃機は森からゲリラが逃げられなくするためにわざわざ炎の壁を作ったのだ。10機の爆撃機は次々と焼夷弾を注ぎ込んだ。焼夷弾は着弾し森を焼き尽くす。森を猛火が包み込んだ。

 

「きれい…」

 

沙織は思わずため息をついて呟く。

 

「沙織さんって変わった感性してるのかな?」

 

みほは目を丸くしながらクスクス笑う。

 

「みぽりんはそう思わない?」

 

沙織がみほに問うと、みほは答えずにただニコニコと笑っている。

 

「沙織…あれがきれいって正気なのか?」

 

「キャンプファイヤーか何かと勘違いされていらっしゃるのでしょうか?」

 

「武部殿、あれはキャンプファイヤーではありませんよ…焼夷弾によって焼き払われているのですから…」

 

麻子、華、優花里は沙織のセンスも何もない発言にただ、呆れていた。

 

「そんなことわかってるわよ!でも、火ってなんかロマンチックじゃない?」

 

「あの炎でロマンチックな気持ちになるのは多分、沙織だけだぞ…」

 

麻子はぶっきらぼうに呆れながら首を横に振る。

 

「あの炎を見て綺麗だなんて、もしかして沙織さん…放火魔では…?」

 

華はすこし怯えながら沙織を見ていた。

 

「華!やめて!そんな目で私を見ないで!私、放火魔じゃないから!」

 

そんなあんこうチームの4人をみほはおもしろそうに笑いながら眺めていた。

あまりに激しい炎で完全に鎮火したのは10時間後のことだった。その10時間の間に、みほは拠点に戻り、聖グロリアーナのダージリンに一体いつ来るつもりか確認の電話を入れた。

『もしもし。聖グロリアーナ隊長室です。』

 

『大洗の西住です。ダージリンさんはいらっしゃいますか?』

 

『はい。少々お待ちいただけますか?』

 

しばらくすると、ダージリンが電話に出た。

 

『もしもし。みほさん。ごきげんよう。』

 

『ダージリンさん。突然電話してすみません。今、よろしいですか?』

 

『ええ。構いませんことよ。要件は援軍の件かしら?』

 

『あ…はい。そうです。なかなか来ないのでダージリンさんの身に何かあったか心配になって…』

 

『心配かけてしまって申し訳なかったわ…実は、出発しようと思ってた頃にOG会が我が聖グロリアーナで開催されて、派手に動くことができなかったの…ちょうど、今日OG会が終わったからもう大丈夫よ。みほさん。こんな格言を知ってる?イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない。今回は戦争。存分に働かせてもらうわ。レーダーでは大洗の学園艦の姿は捕らえているそうよ。もうすぐ、そうね。あと3時間ほどで輸送機も出発させるわ。今回も試合と同じように私が聖グロリアーナの指揮をとるからよろしく。』

 

『そうだったんですか…なんか催促するみたいになっちゃいました…ごめんなさい…後3時間ですか。わかりました。えへへ。私たちも戦争では手段を選びませんよ。それでは聖グロリアーナの皆さんの到着お待ちしてますね。』

 

みほは嬉しそうに無邪気にそう言うとダージリンは可笑しそうに笑った。

 

『うふふ。それじゃあ、また後でね。みほさん。ごきげんよう。』

 

そう言うと電話は切れた。みほはそっと電話を置き、満足そうに頷いた。

 

輸送機の飛行音が聞こえてきた。みほは上空を見上げて笑顔になる。空には100機を超える輸送機が飛んでいた。パラシュートで次々と人が降りてくる。さらに戦車も5両落ちてきた。ダージリンは張り切ったのだろうか。何度も何度も輸送機を往復させていた。結果として聖グロリアーナの援軍は戦車がマチルダⅡ歩兵戦車2両・チャーチル歩兵戦車2両・クルセイダー巡航戦車1両、そして歩兵は6000名という大軍だった。

 

「ごきげんよう。みほさん、大洗・知波単そして、みほさんと固い絆で結ばれた黒森峰の皆さん。」

 

「こ…こんにちはダージリンさん。すごい数の援軍ですね…」

 

みほは顔を引きつらせて必死に笑顔を作っていた。

 

(あの紅茶格言バカめ!こんな大軍連れてきて!補給どうするつもりなんだろう?まさか紅茶がないと戦えないなんて抜かすんじゃないよね?もしそんなこと言ったら頭でもかち割って脳みそ入ってるか確認してあげようかな?)

 

「うふふ。みほさん。もしかして補給の心配してる?大丈夫よ。食料と弾薬は聖グロリアーナの学園艦の協力で提供してもらうようにしてるから。もちろん。貴女たちの食料と弾薬も増産させてるわ。総動員でね。学園艦ぐるみで協力して総力戦で戦い抜きましょう。」

 

「ダージリンさん!そこまでしてくれるなんて…」

 

みほは涙を流した。もちろん演技だが、ダージリンには本物の涙に見えたらしい。

 

「うふふ。みほさん。泣かなくてもいいのよ。こういうのはお互い様。もし、私たちが武装蜂起した時にはその時はみほさんも助けてね。」

 

「はい!」

 

ダージリンはニッコリと笑っていた。

 

「さて、ところでみほさん。戦争の話なんだけれど…」

 

ダージリンは咳払いをしながら真面目な顔になった。

 

「みほさん。随分と派手な戦いをするのね。上空から見てたけど、ところどころ瓦礫の山だったり、焼け野原になってたり…あそこなんて今、火の海。」

 

「あはは。まあ、戦争ですからね。そうなりますよ。」

 

「うふふ。おやりになるわね。」

 

みほとダージリンはニヤリと笑い合う。

 

「えへへ。では、聖グロリアーナの皆さん。歩兵6000人と戦車は私たち主力部隊に加わってください。あの炎の奥に見える水産科の養殖施設と農業科の農地を押さえます。あの森の炎が鎮火してから進軍を開始しますから、準備してください」

 

「わかりましたわ。」

 

 

7時間後、再びみほは聖グロリアーナ部隊の6000人と戦車5両を加え、進軍を開始した。道中何人かの焼死体が発見された。しかし、その数は思った以上に少ない。報告によると少なく見積もっても100人はいたはずである。しかし、遺体は10人にも満たないほどであった。みほたちを深追いした者は命を落としたが、どうやら、みほたち反乱軍が撤退した時に何かを察知し、多くは逃げ出していたようだ。

 

「逃げられたか…」

 

みほは炭になった生徒会側の兵士の遺体を踏みにじりながら悔しそうに呟いた。しかし、何はともあれ森を焼き払ったことで、この森に隠れ場所はない。みほは、この森の焼け跡を前線基地と定めた。

 

「さらに進撃するぞ!次は水産科の養殖施設そして併設する農業科の農地を手に入れる!」

 

「はい!」

 

みほは、食料の補給を断つことでの餓死作戦を敢行しようと考えていた。生徒会側の食料の補給を断てば抗戦意欲を失い、簡単に根をあげるだろうと考えていた。

みほたち反乱軍は速やかに水産科の養殖場を取り囲んだ。

補給路をめぐる新たな戦いが始まろうとしていた。

 

つづく




今回の戦いにおける戦死者

両陣営不明
原因 主戦場となった森を焼き払ったため、死体がどちら側の人間が判別不明。
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