血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほ陣営のお話です。


第47話 恐怖の心理戦

みほたちが、水産科と農業科の施設を取り囲んだ時、特に抵抗はなかった。おそらく、生徒会側は籠城戦で戦うつもりなのだろう。水産科の養殖施設と農業科の農地を取り囲んだみほは、Ⅳ号戦車の車内で腕を組みながら思案していた。というのも、今回は施設の特性上強襲して、一気に片を付けるのがかなり不可能に近いからだ。もしも、何かの拍子に火でも出たら、せっかくの食料がすべて失われることになる。かといってゆっくりと時間をかけて攻めれば、カール自走臼砲が完成し逆に窮地に追い込まれかねない。そうしたいわゆるジレンマに陥っていたのだ。また、攻城戦における兵糧攻めをしたとしても敵方には食料がたくさんあるのであまり有効打にはならないだろう。優花里が、心配そうにみほに尋ねる。

 

「西住殿、今回の作戦はどうしますか?まさか、施設の特性上強襲するわけにもいかないでしょうし…兵糧攻めにしますか?」

 

「うーん。兵糧攻めをしても今回はあまり意味がないかも…今回は心理戦を中心に展開しようかな。」

 

みほはにっこりと笑うと優花里に指示を出した。

 

「優花里さん。今から、ちょっと森へ行って放置されてる死体を持ってきてくれないかな?あと、市街地とか展望台とかにも確か放置したままだったからそれも、あとは河嶋さんの骨格標本も持ってきて。それじゃあお願いね。」

 

「え…何のために…?」

 

「えへへ。秘密。とにかくよろしくね。」

 

「はい…了解です…」

 

優花里はリヤカーを引きながら焼かれた森へ歩いていく。その足取りは重かった。そして、優花里は森につくと死体を探し始めた。

 

「えっと、確かこの辺にあったはず…」

 

あたりを見渡すと死体はあった。真っ黒に焼け焦げた焼死体だ。逃げようとしてそのまま焼けたのだろうか。走っている体制のまま倒れていた。

 

「うう…すごい臭いです…この臭い…耐えきれません…」

 

優花里はその死体の臭いと焼死体を見て思わず嘔吐してしまった。炭になった死体が崩れないようにそっと持ち上げてリヤカーに詰め込む。優花里は12体の死体を回収した。優花里は一度みほの元に戻った。

 

「優花里さん。ありがとう。残りもよろしくね。あ、そうだ展望台の方に行くならマスクしていったほうがいいかも。」

 

みほは、そういうとマスクを差し出した。

 

「ありがとうございます…」

 

「それじゃあ、よろしくね。」

 

「はい…」

 

再び重たい足取りで、展望台とふもとの市街地に向かう。展望台の死体は腐敗しかけており。ものすごい腐敗臭を放出していた。

 

「ここにある遺体はさらにひどい…うわぁ…蛆や虫がうじゃうじゃと…臭いも…こんな状態の遺体が100体も…ごめんなさい…ごめんなさい…許してください…うっ…」

 

犠牲者に申し訳ないことをしているのはわかっているが、とても耐えきれない。優花里は、再び嘔吐してしまった。展望台の死体は見るも無残な姿だった。蛆や虫がうじゃうじゃ湧いている。死体を動かすと蛆がころころと落ちてくる。持ち上げると感触はぐちゃぐちゃと嫌な感触だ。そんなひどいありさまの死体が100体あるのだ。とても一度では運びきれない。仕方がないので50ずつに分けて運搬することにした。難儀してようやく運び終わったら次は市街地の犠牲者だ。市街地に死体はゲリラと市民を合わせた100体単位でそこら中に転がっている。それらの死体も何度もピストン輸送を繰り返して、ようやく死体の運搬が終了した。

 

「西住殿…運搬…完了しました…」

 

優花里は死んだ魚のような眼をしていた。みほは、それに追い打ちをかけるように指示を出す。

 

「さあ、優花里さんこの惨めな死体たちをここに積んで。」

 

みほの指示で死体はうずたかく積まれ屍の砦を施設の入り口のところに築いていく。あっという間にあたりは嫌な臭いが漂った。2つの屍の砦の間に桃の骨格標本が設置された。

 

「さて、これで心理戦の準備は整った。今から、降伏勧告を出す。」

 

みほは、降伏勧告の放送を開始した。

 

『生徒会の兵士諸君!私は、反乱軍の西住みほだ。諸君、外を見てほしい。諸君は、あのような惨めな姿になって、屍の砦を築きたいか。私は、無益な戦いはしたくない。どうせ勝敗のわかっている戦いをするのであれば、我々に降って幸せに暮らそうじゃないか。私は、諸君を助けたい。もし、降伏すれば命の保証はするし、いつか私が支配を確立したときには、地位を保証する。降伏の窓口はいつでも開いておく。いつでも我々は諸君を受け入れる準備がある。』

 

放送が終わるとみほは、次なる指示を出した。

 

「これから、24時間絶え間なく空砲を撃ち続けろ。」

 

みほは、空砲を撃ち続けることによって夜眠れなくするという作戦をとった。交代しながら24時間絶え間なく撃ち続ける。それでも、生徒会の兵士たちはしぶとく頑張っていた。なかなか、みほに屈しなかった。

 

「生徒会の人たち、なかなかしぶといですね。ここまでやるとは正直思いませんでした。」

 

「本当だね。まさか、ここまで持つとは思わなかったよ。でも、それももうすぐだね。もすぐ落ちるよ。」

 

「なぜ、わかるのですか?」

 

「耳を澄ませてごらん」

 

優花里が耳を澄ませるとうめき声や、苦痛の声が聞こえてくる。その声は水産科の施設の方から聞こえてきているようだった。

 

「わかる?この苦痛にゆがむ声が。ひどいありさまの死体を目の前にして、さらに砲撃の音で、まあ空砲だけど音がうるさくてろくに眠れない。さらに、臭いもひどい。そんな環境で精神壊さないほうが珍しいよね?」

 

「まさか…西住殿はこれを狙って…」

「うん。そうだよ。」

 

みほはにっこりと笑った。みほはこれを狙っていた。所詮は高校生である。心理的な揺さぶり、特に恐怖を植え付けてしまえばあとは簡単に音を上げることをみほはよくわかっていた。

 

「そうそう。もっと苦しんでよ。その声が私にとって快感。大好物なんだから…ああ…いい声だね。うふふ…」

 

みほはこうして人が苦しむ声や顔が大好物であった。優花里はもはや考えるのをやめていた。みほの思考がどうなっているのか到底理解が追いつかないのだ。みほはにこにこと楽しそうに笑いながら、1人の女子生徒を呼びだした。

 

「杏奈ちゃん。いる?」

 

「はい。お呼びですか?」

 

上村杏奈。1年生だ。彼女は梓の友人である。彼女は、とてもおとなしく、あまり目立つ方ではない。俗にいう影が薄い子だった。だが、今回の任務はそんな影の薄い杏奈が適任であった。

 

「杏奈ちゃん。今夜生徒会の陣営に忍び込んで噂を流してくれないかな?」

 

「噂…ですか?」

 

「うん。生徒会側の軍の中に忍び込んで、こうやってうわさを流してほしいの。投降した人や生徒会から寝返った人の命は救われる。だけど、投降もしくは寝返らなければ、屈辱を受けた上に、ひどい方法で殺されておなかを裂かれて晒されるって。」

 

「わかりました。今夜忍び込みます。」

 

「うん。頼んだよ。」

 

杏奈は頭をぺこりと下げて持ち場に戻っていった。その夜、杏奈は生徒会軍が籠る水産科の施設に忍び込んだ。そして噂を適当な人を見つけて吹聴して回った。噂の効果は覿面であった。この噂は不安定で壊れつつあった生徒会側の兵士たちの心にすうっと忍び寄って入り込んでしまった。1日もしないうちにこっそりとみほのもと投降や寝返りについての問い合わせが相次いだ。そしてまた一人、みほのもとを訪れる人影があった。

 

「あの…西住みほさんはいらっしゃいますか?」

 

「はい。私です。」

 

「あの…投降や寝返れば命を助けてくれるっていうのは本当ですか?」

 

「はい。本当です。絶対に約束します。」

 

すると、一気にほっとした顔になり緊張が抜け落ち、彼女は泣き始めた。よほど心配していたのだろう。

 

「あの…私、寝返りたいのですが…もう耐えられません…私は死にたくない…私は生きたいのです…」

 

「わかりました…賢明な判断だと思います。あなたの身の安全は保障します。では、あなたのお名前を教えてください。」

 

「はい。大川奈那です。2年生です。」

 

「大川さんですか。では、私たちは明日の朝、攻撃を仕掛けます。貴女は、明日の朝合図を聞いたら水産科の施設の扉を開けてください。そのあとは私たちと一緒に行動しましょう。」

 

「わかりました…」

 

そう言いながらも、奈那はうつむいている。みほは不安げな那奈の心を見透かしたようだ。優しく語り掛ける。

 

「不安ですか?大丈夫ですよ。もう寝返りや投降をしたいと申し出た子たちは大勢いますから。」

 

「そんなに多いんですか。わかりました。」

 

みほはうなずいた。そして、奈那は持ち場に戻っていった。施設を守っている生徒会側の軍はもはや崩壊寸前だった。まるで、白ありに食い尽くされた家のようだ。みほに中から食い尽くされていつ倒れてもおかしくない。そんな組織に成り下がっていた。

 

そして、翌朝みほは合図を出した。それを見て、協力者が水産科の養殖場の扉を開ける。そのあとは早かった。寝返った兵士のおかげで生徒会軍は統制が全く取れずに機能は完全に失われた。そして、あとはみほたちにやりたい放題に蹂躙され、寝返った者以外は全員捕虜としてとらえられてしまった。ふたを開けてみると、寝返った者は1000人中900人を超えていた。

 

「こんにちは。惨めな捕虜の皆さん。どうですか?信じていた子たちに裏切られる気分は?うふふ。」

 

みほはくすくす笑いながら、嘲笑うかのように捕虜たちを見下ろし、捕虜の頭を踏みにじっている。

 

「くっ…私たちをどうするつもりですか…」

 

「さあ、どうしましょうか。処分は考えておきますね。最高に楽しい処分を…おい!捕虜たちを連行しろ!」

 

「つくづく、恐怖しながら待っていてください。処分が決まるまでの間は可愛がってあげますからね。えへへ。」

 

みほは、隣接する農地も手中に収めた。長引くと思われた戦いはわずか3日で片が付いた。みほの進撃は一度、敗れたことにより止まったかと思われたが、そんなことで簡単に止まるようなみほではなかったのだ。みほは、生徒会から完全に食料の補給先を奪い取り、生徒会を確実に追い込んでいた。食料がなければ戦うことは難しい。みほは、これで勝敗は決したと考えていた。

 

つづく




オリジナルキャラクター紹介

名前 上村杏奈
学年 1年
梓の友人。梓とは同じクラスである。心理戦の要となる、噂を吹聴して周り、みほの勝利に貢献した。

名前 大川奈那
学年 2年
最初は生徒会陣営だったが、みほからの勧告を受け、生徒会から寝返る。
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