お待たせしました。
杏は、完成したカール自走臼砲を視察して大きく頷いた。これで勝てる見込みが出てきた。そう考えたからである。
「アンジーさん。どうですか?カールは。」
組み立てを担当していたサンダースの生徒たちは自慢げに胸を張る。
「すごいよ。これには圧倒だね。みんなありがとう。これで、西住ちゃんに勝てる見込みが出てきたよ。」
「喜んでもらえて、よかったです。私たちも急いで完成させた甲斐がありました。」
「みんな…苦労かけてごめんね…」
杏は思わず泣きだしそうになる。涙を必死にこらえようとしていた。そんな、杏にサンダースの生徒は優しく喝を入れる。
「杏さん。まだ、泣くのは早いですよ。泣くのはみほさんに勝利してからです。」
「あはは。そうだよね。ごめんね。」
「今まで、みほの好き勝手させてきた。だが、これからは違う。絶対に侵攻を食い止めて見せる。」
ナオミが拳をぎゅっと強く握る。杏はナオミの決意を聞き頼もしげに静かに微笑んだ。
「ありがとう。それじゃあ、一度私は生徒会室に戻るよ。これからのことやいろいろ決めなくちゃいけないこととかも山積みだし。」
「わかった。私はここにいていいか?必死にカールを仕上げてくれた労を労ってやりたい。」
「うん。みんなにゆっくり休んでほしいと伝えて。明日も一度休憩のために特に攻撃するつもりはないから、ゆっくり休んで。」
「うん。わかった。」
杏はご機嫌で、生徒会室に戻っていった。
生徒会室に着くと、杏は会長用の椅子に腰かけ机上の書類を見やる。オレンジペコからの密書と思われる手紙とにらめっこしながら、杏はどう対応すべきかずっと考えていた。本物であれ、偽物であれ対応を間違えればどちらの身も危ないのだ。
「どうしたものかねえ。」
杏はため息をつきながら会長の椅子をゆらゆら揺らしながらぽつりとつぶやく。
「そんなに気になるのであれば、お返事を書いてみたらいかがですか?」
あまりにもため息をついていたら、柚子が心配して提案してきた。
「うーん。そうできたらいいんだけど、もし偽物だったら怖いんだよね…」
「まあ、それは確かにそうですが…」
杏は目を瞑りながら相変わらず考え込んでいた。その日はそのまま寝てしまったようだ気が付いた時には朝になっていた。すると、扉をたたく音が聞こえた。杏ははっと目を開ける。杏はそのノックに眠た眼で応答する。
「どうぞ。」
「失礼します。」
「どうしたの?何かあった?」
「はい。実は会長。また、先日のオレンジペコさんの密使と名乗る方がいらっしゃいました。今度は会長に直接お話ししたいそうですがよろしいでしょうか。」
杏は身構えながら尋ねた。
「この間と同じ人?」
「いえ、今日は違う人です。ただ、今回はとにかく直接会って話がしたいとのことで…」
「わかった。ちょっと対応を協議するから待ってて。」
「わかりました。」
生徒が出ていったあと、杏は柚子に意見を求めた。
「小山。どうすべきだと思う?」
「向こうからこちらに来たわけですから、圧倒的にこちらが有利です。お会いしてみてはいかがですか?」
「わかった。じゃあ会うだけ会ってみようかな。」
杏は再び密使の来訪を伝えた生徒を呼び出した。
「一度、会ってみることにするよ。その子をここに連れてきて。」
「わかりました。では、お連れしますね。」
そういうとその生徒は駆け出して行った。しばらくすると生徒が戻ってきた。そばにもう一人女子生徒が控えている。そのもう一人の女子生徒は聖グロリアーナの赤いタンクジャケットを着ている、長髪の女子生徒だった。
「お連れしました。」
「ご苦労様。ありがとう。」
「はい。では、失礼します。面会が終わったらまた伺います。密使の方をお見送りしますから。」
「うん。わかった。」
密使をここまで連れてきた生徒は再び生徒会室から退室した。杏は、オレンジペコの密使と思われる生徒に椅子をすすめた。
「そんなところに突っ立ってないで、そこの椅子に掛けてよ。」
「ありがとうございます。」
「私が角谷杏だ。この学校の生徒会長をしている。」
杏は握手をしようと手を差し出した。密使の生徒は杏の手を取り微笑みかける。
「ええ。貴女のことは存じております。確か、私たちとの練習試合の時に金色に塗った戦車に乗っていたような?あの時の印象は今でも忘れられません。うふふ。私は、聖グロリアーナ1年生のディンブラと申します。以降お見知りおきを。」
「あの事、覚えてたの?あの時はあれがかっこいいと思ってたんだよね。戦車の本来の意味を全くなしてなかったけど。」
杏は二カッと笑う。
「忘れようとしても忘れられませんよ。あんな戦車に出会ったのはあなたたちが初めてですよ。本題に入りましょうか。今回は、私が直接オレンジペコの密書をお持ちいたしました。まずは、密書をお受け取りください。」
杏は密書を差し出され、それを受け取ると中身を確認する。そこには、次のような内容が書かれていた。
[親愛なる大洗女子学園生徒会の皆様
先日のお手紙はご覧いただけましたでしょうか。私たちは、いつでも会見の準備ができております。この動きがみほさんに知られないうちにお会いしたいと考えております。ぜひ、前向きにご検討いただけないでしょうか。私たちはみほさんの悪事にもう耐えられないのです。あなた方なら私たちの利用価値も十分にわかるはずです。私たちがみほさんたちの陣営から離脱すれば、みほさんに大きな打撃を与えることができるはずです。どうかよろしくお願いします。
オレンジペコ]
杏は手紙を見ると、腕を組み考え込んだ。
「私を含め、オレンジペコを中心とした者は、一刻も早くみほさんの陣営を離脱し、あなた方に合流したいと考えています。しかし、私たちの中にも生徒会陣営につくのを不安視する者がいるのです。」
「なるほどね。しかし、うちらのなかでも会見に慎重な姿勢を示す子たちがいてね。まあ、西住ちゃんがあれだけ残虐なのことをしたからこっちもそんなに簡単にはうんと言えないんだよね。本当は信じてあげたいんだけど。」
「確かに、それはわかります。しかし、私たちもいつまでも待っていられるわけではありません。私たちも命がけなのです。いつ、みほさんにこの計画が露呈するかわかりません。もし、どうしても信用できないということであれば、私を人質として留め置いたうえで、会見に臨んでいただいても構いません。」
「なるほど。とりあえず、もう一度協議するね。一両日のうちには返事を出すからそれまで待ってて。」
「わかりました。いいお返事をお待ちしています。」
杏は頷くと柚子にディンブラを案内した生徒を呼ぶように指示をした。
「小山。さっきこの子を連れてきてくれた子を呼んで。」
「はい。わかりました。」
「お気遣いなく。私は、1人で帰りますから。」
「そういうわけにはいかないよ。お客さんなんだから。」
しばらくすると案内を担当した生徒がやってきた。
「会見は終わりましたか?」
「うん。終わったよ。また、この子を送ってあげてね。」
「はい。お任せください。」
ディンブラとお見送りの生徒が出ていくと杏はさっそく柚子にナオミを呼んでくるように指示を出した。しばらくすると柚子とナオミが生徒会室にやってきた。
「ナオミ、ごめんね。さっきまた、聖グロリアーナのディンブラちゃんと名乗る子が来たよ。どうしても会見を実現したいという様子で、信用できないなら自分を人質にしていいから何とか頼むといっていた。」
「なるほどな。それで、なんて返事したんだ?」
「一両日のうちに返事をすると伝えたんだけど。正直参ったな。まさか、自分の身を差し出すなんて言うとは思わなかったよ。ここまで言うなら信じてみようと思うけどどうかな?」
「そうか。まあ、ここまで言うなら一度信じてみてもいいとは思うただし、必ずこちらの支配が及ぶ場所で会見することだ。これは必ず守れよ。」
「うん。わかってる。」
「では、こちらの会見の条件を書いた書類の作成を始めますね。」
「うん。小山、よろしく。」
柚子はさっそく書類作成に取り掛かった。
「それじゃあ、解散。」
杏がそういうとナオミは生徒会室から退室した。杏はしばらく、ゆらゆらと会長の椅子を漕いでいたが、静かに柚子に語り掛けた。
「なあ、小山。」
「何ですか?」
「私は、次の戦いから最前線で指揮をとろうと思ってる。」
「え…?」
柚子は目を剥いた。まさか、そんな話だとは思ってもみなかったのである。柚子は声を震わせながら、杏に質問した。
「冗談ですよね?」
「冗談じゃないよ。本気だ。」
「そんな…危険すぎます…桃ちゃんの例もあるし…」
杏は口に指をあてて柚子を諭した。
「小山。それ以上は言うな。」
「しかし…」
「小山の言いたいこともわかる。だけど、私だけが安全な場所にいるのは許されないだろ?」
「それはそうですが…」
「もちろん。これは、私の決意だ。だから、小山はここに残ってもらっても構わない。小山は好きな道を選んでくれ。むしろ、私は小山にはここに残っていてほしいと思ってる。私にもしものことがあったら、小山が生徒会陣営の指揮を執って。」
柚子はしばらく黙っていた。杏の言うことはいたって正論である。自分だけ逃げるのは忍びない気がした。そして柚子はついに腹を決めた。目を瞑り静かに頷く。
「いいえ。会長。そんなさみしいこと言わないでください。私も行かせてください。最後まで、会長と一緒にいたい。例え、最後の一兵になろうとも、私は会長のそばを離れません。会長のためなら、何も怖くありません。」
杏は驚いた。そして、涙がこぼれそうになる。杏はその涙を必死にこらえた。真剣な顔をして再度柚子に問い直す。
「でも小山、本当にいいのか?過酷な戦場だよ?覚悟はできているんだな?」
「そんなの、この戦争が始まった時から覚悟していますよ。私も、生徒会の一員ですから、私も戦います。」
柚子は静かに笑った。杏は柚子の覚悟をしかと受け止め、頷いた。
「そっか。それじゃあ、よろしく頼むよ。」
その日、杏は生き残っている全兵士を集めて訓示を出した。
「みんな!カールが完成した!これからうちらは大反攻へ打って出るよ!私は、次の戦いからみんなと同じように最前線で戦うよ!みんなばかりに負担をかけちゃいけないし、自分ばかり安全なところにいるのは不公平だ。みんな!これ以上、西住ちゃんの好き勝手にはさせてはいけない!私も全力で戦うから、みんなも何とか頑張って西住ちゃんを食い止めてほしい!頼む!でも、今日は戦わない。みんな疲れたでしょ?ゆっくり休んで明日以降また頑張ろう!」
杏の決意を聞いた兵士たちは沸き上がり、杏の気遣いに感謝をしていた。そして、改めて全力で戦うことを誓った。カールの完成と杏の最前戦への出撃で生徒会陣営の士気は格段に上がっていた。
つづく