血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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短めです。
リクエストにお答えして30年後のお話です。
山田舞の正体についても言及させました。一応確認しておきますが、山田舞は偽名です。本名は別です。今日のお話でだいぶ正体が絞られると思います。


第55話 行方

強烈な記憶が語られ会議室はお通夜のようになってしまった。

 

「壮絶だね…」

 

角谷杏が呻く。仕方がないことである。それだけ重たい話をしているのだから。私は未だに信じられない。目の前にいる4人の女性たちがかつて少女だった時、武器を持って戦い、敵同士だったことに。憎み合い、殺しあっていたことに。私はかつて姉の友人の祖母や私の祖父母から戦争体験を聞いたことがある。しかし、ここまで悲惨な体験は聞いたことがない。姉もこんな体験をしたのだろうか。姉は詳しく語ろうとしなかったが確かあの時彼女たちがいた戦場にいたはずである。そういえば、姉からこの事件について調べて欲しいと言われてから姉には進展を一度も報告していなかった。今度会った時にでも報告しよう。そういえば、ダージリンは一体どうなったのだろう。他の学校のメンバーのその後はまだ聞いていなかった。オレンジペコを自ら殺めざるをえなかった少女のその後はどうなったのだろうか。私はそれを知りたかった。

 

「ダージリンさんたちは今、どんな生活をされているかご存知ですか?」

 

4人は顔を見合わせる。何かまずいことを聞いてしまったのだろうか。私の身体から血の気が引いていくのがわかった。

 

「ダージリン殿は…」

 

しばらく沈黙が続き皆目を伏せ語ろうとしなかったが秋山優花里が呻く。私は息を飲んだ。

 

「ダージリン殿は…自殺しました…卒業式の日に…」

 

「え…」

 

自殺。秋山優花里からダージリンの最期を聞いた時、私は自然と涙が溢れてきた。戦争に運命を翻弄された1人の少女。彼女は何を思って自殺という道を選んだのだろうか。西住みほという存在は彼女にどのような作用をもたらしたのだろうか。今となってはわからない。

 

「ダージリン殿の最期を見た者はいません。ただ、隊長室で頭をピストルで撃ち抜き自殺をしていたとだけ。隊員がピストルを手に倒れているダージリン殿を見つけたそうです。これについては警察が捜査しているはずですが、警察は自殺として処理して詳しい捜査は行われませんでした。あとは、ダージリン殿の手記と遺書が大洗女子学園に送られてきました。ダージリン殿が最後に私たちに託したのでしょう。その遺書と手記がこれです。西住殿はダージリン殿自殺の報を聞いた時、計画通りだと何か企み微笑んでいて…今思い出すだけでも震えが…」

 

秋山優花里が震えながら手帳と手紙を差し出す。私はそれを受け取り、見てみるとそこには壊れていくダージリンの姿が垣間見えた。手記には[全ての闇が私を包み込み飲み込もうとする。悪魔が迫ってくる。苦しい。助けて欲しい。私は人を殺した。ペコは私のせいで死んだ。]など苦悩と自己嫌悪に満ちた言葉が書かれている。

死の間際になると文字が文字として認識できない。まるで幼児が書くような文字やミミズが這ったような文字が多くなっている。死の直前になって書いた遺書はもはや何が書いてあるのかよくわからない。苦労して解読を試みようとしたら、なんとか読めた。

 

[私はこの手でペコを殺した殺人鬼。私は地獄に行かなくてはならない。ペコには生きてと言われたけれど、もう耐えられない。]

 

こんな風に書かれていた。私の涙が手紙に落ちる。こんなに悲しいことはあるだろうか。

 

「ダージリン殿は本当に悲惨でした。本当に…アッサム殿も…」

 

「アッサムさんの身にも何か…?」

 

「え?アッサムにも何かあったの?」

 

角谷杏はアッサムのことは知らないようだった。

 

「あれ?会長。知らなかったのですか。」

 

「うん。知らない。」

 

「そうですか。詳しくは後でお話ししますが、あの処刑の後アッサムさんは事故死したとされています。」

 

「アッサムさんまで…事故死したとされているってどういうことですか?」

 

「戦争なので戦死や事故死するのは仕方がないことかもしれません。しかし、あれは事故死じゃありませんでした。表向きには事故。でも本当はアッサム殿は西住殿に殺されたんです。」

 

「え…?」

 

私は混乱した。何故アッサムまで死ななくてはならないのかわからなかった。

 

「西住殿のやり方は尋常じゃありませんでした。あの後、アッサム殿は西住殿のやり方や残虐さに疑問を覚え、それを議論するための場を度々設けていたそうです。しかし、いつの間にかそれが西住殿の耳に入ったのでしょう。西住殿はアッサム殿を含めたその議論に参加した者に塹壕を掘るように命じました。その作業中のことです。アッサム殿は死にました。」

 

「何が起こったんですか…?」

 

「撃ったんですよ。戦車で。背後から。榴弾で。突然撃たれてはどんな人でも簡単には逃げられない。生き埋めになった方も多くいたでしょう。それを西住殿は戦車で塹壕堀りをしていた付近を踏み潰させました。その時使用された戦車が…私たちのⅣ号です…西住殿はⅣ号を射撃の訓練をするからと呼び出し、何も知らない五十鈴殿に砲弾を撃たせました。そして冷泉殿に踏み潰させました。あれは、事故とされていますがそんなわけありません。西住殿は、全部知っていたはずです。それにも関わらず西住殿は…戦車で…それを知った時、私は心底恐ろしくなりました…いや、恐ろしいという表現ではもう表現しきれません。その時、装填手の席から見た西住殿の顔は忘れられません。あの楽しそうな笑顔は。西住殿は反逆の兆候があればどんな小さなことでも見逃しませんでした…恐怖する顔を見ながら楽しそうな笑顔で惨殺していきました。あの可愛らしい声と美しい顔で…あの時はもう誰も西住殿に逆らうことなんてできなかったんです。逆らったら殺されるのは私たち。生きるため仕方なく虐殺に加担しました。本当は今でも恐ろしいんです。もしかして、どこから西住殿が見ていてある日私を殺しにくるのではないかと。」

 

「そんな…」

 

「西住ちゃん…そんなことまで…」

 

「西住さん…どうしてそこまで…?」

 

生徒会は知らなかったようだ。苦悶する表情を浮かべる。澤梓は青い顔をしていた。秋山優花里は悔しそうに拳を握る。

 

「それで完全にダージリン殿は正気を失いました。当たり前です。遺体も見つからないのですから。その後、ダージリン殿はいつもうわ言ばかり言ってました。本当に惨めで見ていられませんでした。オレンジペコ殿たちが処刑された後、失意のダージリン殿を支えていたのはアッサム殿だったのです。心の支えがもう1人いなくなったのです。そして、いつの間にかダージリン殿は戦場から消えていなくなっていました。その時は一体どこに行ったのかわかりませんでした。そして、最後には自殺という結果を迎えてしまいました。本当に残念なことです。こんなに悲しいことはありません。」

 

優花里は肩を落とす。私は、澤梓が青い顔をして震えているのに気がついた。私は澤梓に大丈夫か尋ねた。

 

「澤さん。どうしたんですか?」

 

「いえ…実は、アッサムさんが隊長の体制を疑問視している。そして隊長の体制を議論し検討する場を設けていると隊長に伝えたのは私なんです…隊長はあの時、気にするそぶりは見せなかったので、そのまま何事もないかと思ってました。そして、あれもただの事故だと隊長は言ってました…仕方なかったんだと…まさかこんなことになってたなんて…」

 

「澤殿が…アッサム殿のことを西住殿に…」

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…私がアッサムさんを…」

 

「澤殿、自分を責めないでください。仕方なかったです。運命のいたずらはあまりにも残酷なことも起こりうるのです…」

 

「そうだよ。澤ちゃんは悪くない。」

 

澤梓は何度も謝罪の言葉を口にしながら涙を流した。

暗く重苦しい空気はさらに暗く重苦しくなった。時を超えて残された手記と遺書がダージリンが私に語りかけている気がした。あの戦争は何だったのか私は改めて秋山優花里に尋ねた。

 

「あの戦争は全ての地獄と全ての戦争の狂気を混ぜたものでした。まさに悪魔の戦い。悪魔の支配下の元、その支配地を広げる戦い。あの恐ろしさは体験した者にしかわかりません。しかし、この戦争はまだはじまりに過ぎなかったんです。西住殿の計画にはまだ続きがあったんです。私たちはその計画に巻き込まれていきます。」

 

私はいつの間にか西住みほに怒りを覚えていた。この惨状は何としても伝えなくてはならない。私は改めて決意していた。

 

つづく

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