血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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第57〜59話の生徒会陣営のお話です。


第60話 食料施設奪還作戦

時は少し遡る。杏は、2000人の兵士を学校の運動場に集めた。

 

「みんな。よく聞いてほしい。うちらはこれから食料施設の奪還に向かう。この作戦が成功するか否かこれはこれからの戦争を左右するものだ。みんな、気を引き締めてこの任務に当たってほしい。今回は私が陣頭指揮を執るよ。出発は50分後に行うからよろしくね。今回の作戦はカール自走臼砲の砲撃による陽動を組み合わせた作戦だからね。カールが火を吹いたらすぐに奇襲攻撃を行うよ。」

 

「はい!」

 

杏は満足そうに微笑むと解散を指示した。皆、やる気だった。杏はサンダースの兵士たちのもとへ向かう。

 

「みんな!この戦争の勝利はみんなにかかってるからね。カールの運用頼んだよ!」

 

「はい!任せておいてください!」

 

「じゃあ、今から20分後に砲撃頼んだよ。」

 

「はい!みんな!カールに砲弾を装填しろ!急げ!」

 

みんな一斉にカールの準備を始める。杏はまたしても満足そうに頷き頭の後ろに手を組んで歩いて行った。杏は大洗の出撃組のところで色々と声かけなどを行なっていた。50分は案外早いものである。だんだんと攻撃開始の時が近づいてくる。杏は心臓がはち切れそうなほどの動悸を感じた。今まで感じたことのない緊張だった。これからもしかしたら自分の手が血に染まることになるかもしれない。そして、杏は自分の手が震えているのに気がついた。震える手を必死に隠す。殺す殺されるの戦場に初めて身を置くのだ。無理もないことである。杏はちらりと柚子の様子を伺った。柚子は平然を装ってはいたもののやはり冷や汗をかき手は震えている。杏は柚子の手を握った。そして耳元で優しく囁いた。

 

「小山。大丈夫か?小山のことは私が守るから。」

 

柚子は静かに頷く。そして、杏の小さな手を握り返した。

その時である。飛行機が飛んできた。杏の脳裏にあの時の戦車に対する空襲が頭によぎった。杏は飛来した飛行機を戦闘機だと思い込んだようだ。急いでサンダースに確認を行った。すると、サンダースの兵士たちは笑ってその飛行機の招待を説明した。

 

「あの飛行機は偵察機ですよ。カールをどこに撃ち込むべきか偵察してるんです。」

 

「なるほどね。わかった。」

 

「戦闘機は絶対に使うなってケイ隊長に厳命されてますから安心してください。」

 

「そういうことなら任せるよ。」

 

そして20分後轟音が響いた。この作戦の要である陽動作戦が始まった。聖グロリアーナ部隊が駐屯している付近に砲撃を行なった。杏は学校の教室から双眼鏡をのぞいていた。

 

「あはは。驚いてる驚いてる。このままだよ。このまま混乱の渦に巻き込もう。そして、あわよくば西住ちゃんの支配地を解放しよう。」

 

杏はこのまま反乱軍を混乱の渦に巻き込むことを願った。そして、少しでもみほの支配地を解放し生徒会の統治を取り戻すことを誓った。その時であった。運動場から大声が聞こえてきた。

 

「アンジーさん!!そろそろ2発目発射しますよ!2発目は食料施設の奥の焼けた森に撃ち込みます!その時が恐らく攻撃のチャンスです!そろそろ出発してください!」

 

「わかった!すぐに下に行くから待ってて!」

 

杏は急いで階段を駆け下りて運動場に向かった。運動場に行くとすでに兵士たちは整列を完了し出撃を待つばかりの状態だった。

 

「みんな!ついに攻撃の時が来た!私たちは、今から食料施設の奪還に向かう!奇襲攻撃だからなるべく迅速に静かに行動してね。それじゃあ行こうか。」

 

杏を先頭に2000人の兵士が行軍を始めた。杏は食料施設の近く100メートル手前まで兵を進ませそこで停止させた。その時、再び轟音が響き、大きな爆発が起きた。それを合図に杏たちは食料施設に走る。杏たちの食料施設奪還作戦が始まったのだ。

 

「みんな!走るよ!混乱に乗じて食料施設を取り戻す!行こう!」

 

杏たちは銃を構えながら走る。杏たちは建物の手前までやって来て様子を伺った。中から多くの反乱軍の兵士が何事かと外に出て行く。これはチャンスである。様子を伺いつつ、もう誰も出てこないことを確認すると杏は施設の正面玄関まで前進する。そして、杏は慎重に扉を開ける。中からは人の気配がしてこない。杏は手で突入の合図を出した。杏は慎重に反乱軍を捜索し制圧するように指示を出した。しばらくするとあちこちから声と銃声が聞こえて来た。

 

「いたぞ!こっちだ!」

 

「こら!待て!」

 

「逃げるぞ!絶対に逃すな!憎い反乱軍を絶対に捕らえるんだ!」

 

あちこちから憎しみの声が聞こえてくる。杏は焦った。自分たちは人道的でなくてはならない。我を忘れている兵士は大虐殺を起こす可能性があった。杏は必死に声を上げる。

 

「みんな!絶対に殺しちゃダメだよ!特に虐殺や虐待は絶対にダメだ!私たちは人道的でなくちゃダメだ!」

 

「なぜですか!私たちの仲間が今まで反乱軍に虐殺されてきたんです!この恨みここではらさずにいつ晴らすんですか!」

 

「憎しみは憎しみを生むだけだよ!私たちの目的は西住ちゃんたちを滅ぼすことではなく、西住ちゃんたちの目を覚まさせることだ。みんな頼む!特に反乱軍の兵士の子たちは西住ちゃんに騙されて戦っているだけだ。私に免じて許してあげてほしい。」

 

杏は必死に説得して頭を下げた。これに承諾してくれなくては本当に困る。暴走したらこちらにも非があることになり、正義がわからなくなってしまう。何としても納得してもらう必要があった。

 

「わかりました…会長がそうおっしゃるなら…」

 

「みんなありがとう。」

 

生徒会軍が議論しているうちに反乱軍の兵士たちは食料施設を放棄して逃れたようだ。杏たちは完全に制圧を完了した。

 

「よし!みんな、養殖場から魚と野菜を採ってきて!急いで!ただし、小さな魚や鮮度が落ちやすい魚は残念だけど持ってきちゃダメだよ。それじゃあみんな農業科と水産科の子たちの指示のもと作業よろしく。」

 

「はい!」

 

生徒会軍の兵士たちは詰め込みの作業を開始した。柚子には外で反乱軍の動きの監視を任せた。杏はその様子を頼もしげに眺めていた。しばらくすると柚子が震えながら飛び込んできた。

 

「会長大変です!」

 

「小山!どうした?」

 

「あ、あれを見てください!」

 

柚子の指差すその先には再奪還のために進軍してくる反乱軍の大軍があった。

 

「早い!もう来たのか…やむを得ないな…みんな!撤退するよ!急いで!」

 

杏は撤退の指示を出す。そして、杏はペンと紙を取り出した。

 

「会長!何してるんですか!早く行きますよ!」

 

「小山!そんな急かすな。ちょっと待ってて。」

 

「もう!早くしてくださいよ!こんなところで西住さんたちに捕まったら元も子もないんですからね!」

 

「うん。わかってるよ。」

 

杏は急いで置き手紙をしたためた。

 

[西住ちゃんへ

角谷杏参上!悔しければ捕まえてごらん。私はいつでも待ってるよ〜]

 

柚子はその置き手紙を見て目を丸くした。

 

「会長!こんな手紙書くなんて!怒らせたらどうするんですか!?」

 

「いいから。それじゃあ行こうか。」

 

「どうなっても知りませんからね。」

 

杏は頷きながら微笑む。柚子は訝しげに杏を見ていたが杏に促されて立ち去った。杏は学校まで逃れ、食料をたっぷり持ち帰った。そのため、食料を持ち帰った兵士たちは避難民を含め皆から英雄視された。杏は食料も手に入り、すっかり安心していた。しかし、それも束の間だった。とある報告が入ったのだ。

 

「会長、コントロール室との連絡が取れません…」

 

「え?なんで?」

 

「わかりません…全く応答がありません…」

 

「まさか…」

 

杏の頭にある可能性がよぎった。それは、みほの襲撃。得体の知れない謎の応答なしに杏は汗をダラダラ流す。しかし、それを確かめる術はない。もし、みほによる襲撃によってコントロール室を奪われたということならば非常に危険なことだ。この船はみほの思うままに動くことになる。みほの味方をしている学校の兵士を簡単に迎え入れることができるようになるということだ。さらに杏はもっと最悪な事態に陥っていることに気がついた。今日はそのコントロール室がある棟の近くにある市街地の住民たちの一時帰宅の日だった。

 

「もし、あの市街戦みたいなことになったら…」

 

杏は震える。みほは嗜虐的性格を持っている。何をされるかわからない。住民たちの安全は保証できない。その時である。突如、炎と銃声が聞こえてきた。杏は必死に校舎に登る。教室から炎が見える方角を見てみると市街地の住宅密集地が燃えているのが見えた。杏は涙を流した。

 

「私が油断したばっかりに…こんなことに…」

 

杏は肩を落としながらフラフラとおぼつかない足取りで再び運動場に向かった。

 

「会長…」

 

柚子はひどく落胆した杏を見て何もいうことができなかった。その時である。

 

「誰か来る!」

 

門の近くにいた生徒が叫ぶ。走ってきたのは避難民の女子生徒だった。

 

「開けて!早く開けて!助けて!」

 

門を開けるとその生徒は駆け込んできた。杏はそばに駆け寄り、何があったか尋ねた。

 

「人間狩りです…恐ろしい人間狩り…地獄です…」

 

「人間狩りって何!?」

 

「突然、武装した反乱軍の兵士が現れて次々と家に火を放って…逃げようとしたら、笑いながら銃を私たちに乱射しまくられて…生き残った人もみんなどこかに連れていかれました…私は死んだふりをしていたので助かりましたが…」

 

「やっぱりそんなことが…ごめんなさい…許して…私が油断したばかりにみんなをこんな目に合わせて…」

 

その生徒は肩を抱かれながら何も言わずに去っていった。杏は跪きながら呆然としていた。迫り来る西住みほになす術なく蹂躙されるだけなのか。悪魔は少しずつ杏の近くに近づいて来る。そして、殺戮を純粋に楽しんでいる。このままでいいはずなどない。何としてもこれ以上の蹂躙は避けなくてはならない。しかし、現状ではみほの思うままにされている。みほに全て奪われるしかないのだろうか。杏の目の前は真っ暗になった。このまま自分の指揮で皆を幸せにすることができるのだろうか。杏は何もわからなくなっていた。杏はすっかり自信を失っていた。

 

つづく

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