長めです。アンツィオ焦土作戦は実行されてしまうのか!?
それではどうぞ。
次の日の朝、みほは川島の紹介で2人の人物を執務室に招待した。その人物はいずれも航空隊の隊長たちだ。1人は知波単航空隊の中でも保有数が一番多い零式艦上戦闘機を擁する第2知波単艦上戦闘機航空隊の隊長でありエースパイロットでもある岩本徹子、もう1人が四式重爆撃機、百式重爆撃機など旧大日本帝国陸軍の爆撃機を擁する知波単飛行第7戦隊隊長大西豊子であった。川島からは面会するのは良いことだが同時に面会することは避けるべきだと強く勧められていた。その理由はいたって簡単な話である。2人の仲が非常に悪いのだ。2人の仲が悪い理由、それは学園創設当時に秘密がある。元々、知波単学園は日本軍の伝統を受け継ぐ学校である。学園を創設する時、日本軍のなかでも陸軍に学ぶべきか海軍に学ぶべきかという議論が生まれた。その時、創設理事会の中で意見が激しく分かれた。最終的には両方から学ぶことで意見の一致をみた。陸軍派と海軍派はそれぞれが分かれて学校づくりに対する提案を行なっていくことにした。最初こそは評議会を設けて提案を協議して投票で決めるという方法をとっていたが、陸軍派が戦車道を行うことを強行採決したため海軍派は強く反発し、航空隊を創設、空戦道を行うことを独自決定、それに反発した陸軍派も飛行戦隊を創設を宣言し、両者の決別は決定的になった。その後、学園創設は陸軍派が主導権を握り、海軍派が推進しようとしていた案をことごとく廃案に追い込むなど露骨な嫌がらせを行い、今では陸軍派が学園運営のほとんどを担っている。海軍派は陸軍派に駆逐されかけたが、陸軍派の中でも穏健派から海軍派の立場も考えるべきだと提言され、海軍派は陸軍派の監視の下、空戦道の存続と学園艦を運航する船舶科の海軍派による独占などが認められたが、今でも脈々と知波単の中に海軍派と陸軍派の激しい対立が続き、海軍派が独占する船舶科とその他の陸軍派の多数学科双方で互いを非難する授業を新入生に行なっていたためいつまでたってもなかなか解決の糸口が見出せないでいたのである。ちなみに、面会予定の岩本は船舶科所属で優秀な零戦乗りであり当然海軍派で大西は普通科に所属している陸軍派だった。こうした歴史から鑑みれば不仲であることは自明の理だった。川島は非常時になってまで続くこの対立構造を苦々しく思ってはいたが円滑に面会が進むようにみほに別々に面会するように提案したのであった。しかし、みほは敢えて同時に面会することにしたのである。その理由は至って簡単な話であった。今回の作戦は陸軍派と海軍派の共同作戦、しかもどうでもいい作戦ではなく重要なこれからの戦争を左右する作戦だ。協力してもらっている手前、あまり偉そうなことは言えないが此の期に及んで対立していてもらっては不都合なのだ。みほは知波単の内部対立を生徒会側につけ込まれて反乱軍の軍事力が著しく弱体化しせっかく手に入れた優位が崩れ去ってしまうことを恐れていた。何としても両者には和解してもらい共に知波単の軍事力を高め、反乱軍に貢献してもらう必要があったのだ。そこで、みほは今回の面会を作戦を引き受けてくれることへの謝礼と激励はもちろんのこと両者同時にそれを行うことにより、知波単学園にはびこる対立に終止符を打ち和解に持ち込もうと目論んでいた。
「まさか、この非常時になってまで知波単で争ってるなんて思わなかったなあ…なんとかしなくちゃね。知波単にはまだまだ私の道具として役に立ってもらわないといけないから。うふふふ。」
みほは綿密に計画され尽くした分厚い作戦命令書を1ページずつめくっていた。すると、みほの執務室に控えていた梓が口を開いた。
「しかし、知波単の海軍派と陸軍派の主導権争いって創立当時からのいわば伝統みたいな感じになっていますよね。それをそんなにすんなりとなんとかできるものなんですか?」
みほは自信満々に頷く。
「ふふふ。簡単だよ。彼女たちは極めて日本人的、知波単はまるで日本人の日本人による日本人のための学校。日本人の性質をよく理解していればコントロールすることなんて簡単だよ。日本人は、押しに弱くなおかつ周りに合わせて秩序を守ろうとする特質がある。これを利用すれば…ふふふ…」
「隊長…貴女も私たちと同じ日本人じゃないですか。」
梓は思わずそう呟いていた。みほはくすりと笑う。
「ふふふ…そうだね。私も梓ちゃんたちと同じ日本人だよ。でも、私はみんなと違う。私はコントロールの仕方をよく知っている。黒森峰にいた頃にそれぞれの学園艦における生徒たちの性質に関する研究をしたことがあったけどまさかここで役に立つとは思わなかったよ。ふふふ…梓ちゃんも何か研究してみたら?」
「ふふ…隊長が今度の生徒会との戦いで図書館を燃やさなければそうしてみます。」
「あははは。学問は良いよ。自分の知見を高めることで今まで見えなかったものが見えるようになるからね。手始めに、カバさんチームのみんなに師事して歴史の研究とかしてみたら?あ、それか麻子さんに師事するのも良いかもね。そうしたら毒ガスの研究者がもう1人増えて製造も早く進むだろうし。」
みほは嬉々として楽しそうに語った。
「あはは。考えておきます。でも、私はどちらかといえば文系派なのでカバさんチームに師事したいです。冷泉先輩は天才ですからなんでもできそうですけど私にはとても…」
「そう?私は梓ちゃんならできると思うんだけどなあ…もちろん強制はしないよ。でも、若くて脳が柔軟なうちに多くの学問に触れておくのをお勧めするね。あ、そういえばカバさんチームのみんなの家には歴史の書籍がたくさんあるって言ってたけど、あの子たちの家の場所はどこかな?私の支配地の西地区なら良いけど、もし違う地区なら攻撃対象になって焼失しちゃうかも…せっかくカバさんチームのみんなが集めた知の結晶が灰燼に帰すのは許されない…なんとかしなくちゃね。」
みほは珍しく戦争や残虐、陵辱以外に気を使った。珍しいこともあるものだと梓は心の中で呟く。みほのことだからカバさんチームから燃やさないでくれと懇願されても悪い笑顔を浮かべながら焼き尽くしてしまいそうなものなのに今回は本を保護するなどという。みほの口から保護などという言葉が出るなんて信じられなかった。そんなことを思っていると飛行機が着陸する音が聞こえてきた。
「知波単の皆さん。着いたみたいだね。梓ちゃん、お出迎えしてあげて。」
梓は元気よく返事をすると敬礼して執務室から退室した。みほは満足そうに笑顔で頷きながら答礼する。梓が外に出ると輸送機が一機と零式練習用戦闘機一一型二機がそれぞれ駐機していた。
「やぁ…梓ちゃん…」
川島が疲れた表情で輸送機から降りてきた。梓はその表情に驚き思わず声をかける。
「川島さん!どうしたんですか?随分疲れた様子ですけど…」
すると川島は機内を指しながらため息をついた。
「あの2人の口論を諌めてたんだけど…疲れたよ…こんなに短距離なのに…全く、もう随分昔の話なんだから意地を張らずに和解すればいいのに、今は非常時だというのにまるでわかっていない…海軍派と陸軍派なんて今はどうでもいいことじゃないか。梓ちゃんもそう思うだろ?」
川島は梓に同意を求めた。梓は苦笑いを作る。
「それは大変でしたね…あとは私たちにお任せください。」
川島は安堵の表情を浮かべた。そして、機内の人物に降りるように促す。すると2人の女性が出てきた。2人とも綺麗な黒髪をしている背の高い女性だった。
「申告いたします!第2知波単艦上戦闘機航空隊隊長岩本徹子ただいま着任いたしました!」
「同じく申告いたします!知波単飛行第7戦隊隊長大西豊子!ただいま着任いたしました!」
岩本と大西は梓の姿を認めると直立不動になり、岩本は海軍式大西は陸軍式でそれぞれ敬礼をした。梓は2人の勢いに圧倒され、少し後ろに後ずさりをしながら答礼する。
「お二人ともようこそ大洗女子学園にいらっしゃいました。今日は無理言って来ていただいてありがとうございます。隊長はこちらにいますから、一緒に参りましょうか。」
「「はっ!恐れ入ります!」」
2人は息ぴったりに返事をした。梓はクスクスと笑う。
「ふふっ…先ほど、川島さんからお二人とも仲が悪いと聴いていましたが意外にそうでもなさそうですね。」
すると2人は驚いた表情をしてまた同時に口を開く。
「「そんなことはありません!」」
大西は岩本を睨みつけながら吐き捨てるように言う。
「こんな低俗で低脳の海軍派の人間と仲がいいなんて、反吐が出ますよ!」
すると今度は岩本が大西の胸ぐらを掴んで、憎しみを露わにする。
「低脳だと?貴様ら陸軍派に言われたくない!貴様らこそ、未だに根性論で無意味な突撃で徒らに勝利を逃す!陸軍派こそ低脳だ!」
「何だと!?貴様は我が知波単学園の伝統を蔑ろにする気か!?」
「ふんっ!無意味な伝統など害悪にすぎん!」
「なっ…!!貴様…!」
2人は互いを睨みつけながら息を荒げていた。今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。梓は今まで無表情でその様子を眺めていたが優しい笑顔を作り2人を諌める。
「まあまあ、お二人ともそんなに興奮することありませんよ。お二人とも知波単学園が大好きなんですよね?お二人とも知波単学園を良くしたいからこそ互いに憎み合う。でも、私はやっぱりそれって何だかおかしい気がするんです。今日、隊長はお二人に頼みがあるようです。とりあえず今はお二人とも矛を収めていただけませんか?」
「「はっ!お騒がして申し訳ありません!」」
2人はまたしても同時に口を開けた。梓はおもしろそうにクスクス笑うと満足そうに頷き、2人を連れて歩き出した。しばらく廊下を歩くとみほの執務室の前に到着した。梓は2人に少しの間静かにおとなしく待つように伝え、ノックをして部屋に入る。
「失礼します。隊長、知波単学園の航空隊の2人をお連れしました。」
「梓ちゃん。ありがとう。」
「隊長…さっきの聞こえてましたか…?」
「うん。もちろん聞こえてたよ。あははは。あんな大声あげられたら嫌でも聞こえちゃうよ。」
「そうですよね…なら、話が早いです。今はあの2人と同時に面会することは避けたほうがいいと思います。とりあえず、1対1で面会したのち2対1の面会に持ち込むべきだと思います。ただ、今の状況だと別々でもどちらが先に面会するかで争いが起きそうなのでコイントスで決めます。それでいいですか?」
「うん。梓ちゃんに任せるよ。はぁ…全く…主導権争いなんて醜い…」
みほは深く大きなため息をついた。梓はそんなみほを横目に再び外に出て、執務室の隣にある控え室に岩本と大西を通した。
「岩本さん。大西さん。お二人には今から隊長と面会していただきますが、今の状況だとお二人同時にやるというのは難しいと判断したので別々で行います。そして、どちらが先に面会するかなどという争いを避けるため、コイントスで順番を決めます。使用するコインはこれです。コインに仕掛けがないか2人とも確かめてください。」
梓がそう説明したらそれなら文句は言わないと納得してくれたので梓はホッとした。2人ともしっかりとコインを確認して最終確認として梓も入念にコインをチェックをする。
「それではいきますよ。表が出たら大西さん。裏が出たら岩本さんが先です。」
梓はコインを投げて両手で掴む。コインは裏を示していた。
「それでは、岩本さんが先です。ついてきてください。大西さんは少し待っていてください。」
「「はい!わかりました!」」
梓の言葉に双方素直に従った。梓は満足そうに頷くと再び、みほの執務室の前に来て扉の向こう側に声をかける。
「隊長。岩本さんをお連れしました。入室してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
「失礼します。」
岩本はみほの姿を認めるなり大声で挨拶した。梓は驚いて体をピクリと震わせた。
「申告いたします!第2知波単艦上戦闘機航空隊隊長岩本徹子ただいま着任いたしました!」
岩本は先ほど梓にしたように直立不動で敬礼をしている。みほは優しく微笑みながら答礼した。
「ようこそ来ていただきました。私が西住みほです。よろしくお願いします。そんなに堅くならなくても結構です。どうぞ席にかけてください。」
みほは右手でソファを指す。
「失礼します。」
「本日は無理を言ってお二人で来ていただいてありがとうございます。今回の作戦は海軍派と陸軍派で共同で作戦を遂行していただく必要がありますので。」
するとそれを聞いた途端、岩本は申し訳なさそうな顔をして、みほの顔色を伺いながら断ってきた。
「それが…今の私たちの状態で陸軍派と共同で作戦を遂行するなんて無理だと思います。我々は双方を憎み合っています。第一陸軍派がそんなこと許すはずがありません…ですから協力するっていうのは…」
するとみほは低い声でまるで脅すかのように岩本に迫った。
「なら、貴女方は作戦に参加しなくても結構です。陸軍派の皆さんに戦闘機の出撃を頼みますから。せっかく海軍派の面子を立ててあげようと思っていましたが…残念です…」
「え…それは…」
岩本の声にみほは悪い笑顔を浮かべる。あと少しで落ちそうだ。みほはここぞとばかりに岩本の肩を抱き岩本の耳元で囁く。
「協力してくれたら、戦争が終わったら海軍派の皆さんにお金を30億円ほど支払います。これでどうですか?」
「え…30億も…!でも、なにか怪しいです…今の言葉、本当ですか…?」
岩本は疑いの眼差しをみほに向けた。当然である。突然、30億円あげると言われても普通は信じられない。著名な実業家ならまだしもみほは女子高生であるならなおさらのことだ。みほは岩本を信用させるために執務室にある大きな金庫を開けてにっこりと笑って頷く。
「はい。もちろんです。この金庫の中には少なく見積もっても250億円を超える金が入っています。どうですか?信じてもらえましたか?」
「こ…これはすごい…!西住隊長、このお金は一体どうしたんですか?」
「ふふふ…これは秘密です。30億円あったら零戦もう一機くらいは買えますよね。」
「は…はい!それはもう!」
岩本は目を輝かせながら取らぬ狸の皮算用を始めた。その金が欲と血で汚れていることなど知る由もない。みほはその様子を満足そうに眺める。
「ふふふ。岩本さん。それでは陸軍派の皆さんと協力していただけるということでよろしいですね?」
「はい!もちろんです!」
「ありがとうございます。助かります。」
岩本は浮かれた様子でそわそわしている。みほはその様子をおもしろそうに眺めていたが、しばらくして梓に大西を呼んで来るように目で指示を出した。岩本は梓に促され、みほの執務室から退室した。しばらくすると今度は大西が梓に連れられ執務室に入ってきた。大西もまた岩本のような挨拶をする。
「申告いたします!知波単飛行第7戦隊隊長大西豊子!ただいま着任いたしました!」
部屋中に大西の大声が響き渡る。梓はそのあいさつにはやはり慣れないようだ。再びピクリと震わせる。みほは動じることなく岩本と接する時と同じように微笑んだ。
「ようこそ来ていただきました。お待たせしてすみません。私が隊長の西住みほです。先ほど、岩本さんにも言いましたが、私の前でそんなに堅くならなくても結構です。どうぞ、席におかけください。」
「失礼します。」
みほに促され、大西も恐縮そうに席に着いた。みほは早速話を切り出す。
「本日は無理言ってお二人同時に来ていただいてありがとうございます。今回は陸軍派と海軍派の共同で作戦を遂行していただきたいのです。」
みほがそう告げると大西は毅然とした態度で断ってきた。
「お断りします。なぜ私達陸軍派が海軍派と共同で作戦を遂行しなければならないのですか?この作戦は陸軍派だけで十分です。お願いします陸軍派だけでやらせてください!」
大西は机につきそうなくらい頭を深く下げた。みほは一つ大きくため息をつくと大西の耳元で囁く。
「海軍派は、協力することに寛容でしたよ?なのに、陸軍派は協力しないんですか…?そんな非協力的で無秩序な知波単陸軍派は逆賊として叩き潰したほうがよさそうですね…別に私は良いんですよ…海軍派にも優秀な爆撃機はありますからね…ああ!そうだ!逆賊の貴女はこのまま岩本さんに引き渡してその場で処刑してもらいましょうか!そうしましょう!ふふふ…」
みほは大西を脅した。その効果は覿面だった。毅然としていた大西は青い顔をして怯えている。そして、慌てて弁明した。
「わ、私たちは別に西住隊長の命令に背きたいわけではありません…ですが、私たちは非常に仲が悪く、とても協力など…それに私たちには独自開発したB29をはるかに凌ぐ富嶽があります!私たちは、海軍派よりも優れた爆撃機を持っているんです!どうか私たちにやらせてください!」
みほは一瞬驚いたような顔をした。まさか、知波単が日本軍が開発していた幻の爆撃機富嶽を所有していたなんて思いもしなかったのだ。これは思わぬ副産物だ。みほは大西を落ち着かせると富嶽がなぜ知波単で開発されるようになったのかその経緯を尋ねた。
「ふふふ…まあまあ少し落ち着いてください。私、知波単が富嶽を所有しているなんて知りませんでした。富嶽って結局戦時中には開発を断念したと聞きましたが…どのような経緯があって知波単で作られるようになったんですか?」
「知波単学園の前進が千葉県立短期大学附属高校であったことは西住隊長もご存知でしょう。その後、千葉県立短期大学から分離し今の知波単学園が創られました。分離した千葉県立短期大学も時代の流れで短大から4年制大学に改組されました。その数年後、大学に工学部ができたのです。その時、かつての縁でありがたいことですが開発途中で放棄された幻の爆撃機、富嶽を完成させ我が知波単に寄贈するというプロジェクトが始まりました。それが我が知波単に幻であったはずの富嶽がある理由です。ちなみに、我々の学園艦には飛行機の開発や空戦道で使用する飛行機そして武器を作ったり戦車道で使用する戦車の整備をしたりする工廠があります。この工廠は千葉県立大学の研究所も兼ねた施設で戦時中に作られなかった幻の兵器を現代に蘇らせる研究もしているみたいです。」
「ふふふ…なるほど。なかなか興味深いですね。私は富嶽と零戦部隊が協力すれば最強の部隊になると思いますよ?」
「し、しかし…協力するのは…」
みほは協力するように強く促すが大西は渋っていた。なかなか首を縦に振らない。大西にとってはこれは陸軍派の面子に関わる問題である。そんなにやすやすと言うことを聞くわけにはいかないのだ。しかし、みほに脅されたことで大西の心は揺れに揺れていた。大西もあと少しで落ちそうだ。まさにみほの計画通りだ。みほはニヤリと悪い笑顔を浮かべて岩本に行ったのと同じように大西の肩を抱き再び耳元で囁く。
「ふふふ…もちろんただで協力しろなんて言いません。戦争が終わってこの大洗が復興したら30億円差し上げます。どうでしょう?」
「さ、30億円ですか!?」
「はい。30億です。ふふふ…信じられないって顔してますね。」
「それは…突然30億って言われても…」
「ふふふ…そうですよね。良いんですよ。当たり前の反応です。では、これならどうですか?これでも信じられませんか?」
みほは岩本に見せたのと同じように大西に金庫の中にぎっしり敷き詰められた大金を見せる。
「すごい…本物だ…西住隊長…これはどうしたんですか…?」
「ふふふ…それはちょっと言えません。どうですか?信じてくれますか?」
大西は首を縦に振った。そして、恐る恐るみほに尋ねる。
「に、に、西住隊長…本当に…本当に…30億円いただけるんですか…?」
「はい!もちろんです!協力していただけるなら、必ず差し上げます。どうですか?協力していただけませんか?」
「はい!もちろんです!協力します!いえ、協力させてください!これさえあれば、止まっていた富嶽の生産をまた一歩進めることができます!」
大西も岩本と同じように嬉しそうに顔を綻ばせている。2人と一緒に面会し、和解させるなら2人の機嫌がいい今である。みほはにっこりと微笑み、梓に岩本を呼んで来るように命じた。1分もしないうちに岩本は梓に連れられてやってきた。
「お二人のおかげで、零戦と富嶽が共同して作戦に当たる最強の部隊になりそうです。本当にありがとうございます。さて、お二人は今から敵同士ではなく仲間です。知波単はこの非常時においてまで陸軍派と海軍派に分かれて争っている。しかし、それは愚かなことです。双方は和解し、憎い敵を協力して倒すべきなのです。敵は知波単にはないのです。本当の敵は、私たちの学園艦を私物化しようとした大洗女子学園生徒会とそれに追従するサンダース、黒森峰なのです。さあ、今こそ和解する時です。それでは、お二人ともこちらの書類にサインをお願いします。」
みほは岩本と大西に書類を手渡す。それは和解したことを宣言する書類だった。2人はそれを受けとってそれぞれの書類にそれぞれの名前を記入した。記入が終わると仲介をしたと言う印に双方の書類にみほと梓がサインをして手渡す。これで正式に和解の書類が発行された。みほは満足そうに頷くと、大西と岩本に隠さず全ての航空戦力についての能力と保有数を開示するように求めた。特に、大西には今回、四式爆撃機に加えさらに富嶽の能力も試したいので急いで開示するようにと指示した。今は朝7時である。出撃まであと4時間ほどしかない。大西と岩本は乗ってきた輸送機に搭乗して急いで知波単の学園艦に戻った。みほは一仕事終わりため息をつきながら椅子に座った。
「隊長、お疲れ様です。コーヒーでもお淹れしましょうか?」
「うん。お願いしようかな。ブラックで。」
「はい。わかりました。」
梓がコーヒー机に置くとみほは「ありがとう」と言ってコーヒーを啜った。
「はあ〜美味しい。一仕事した後のコーヒーは最高だね。」
みほは幸せそうな顔をしている。梓はコーヒーを楽しむみほの幸せそうな顔を見て素直に可愛いと思った。
「それにしても、さすが隊長です。上手くいってよかったですね。」
「うん。意外と簡単だったけどね。ちょっと脅して報酬をチラつかせたらすぐに落ちた。下の連中は上さえ落とせば忠実についてくる。だから心配もないし、それにまさか思わぬ副産物の存在を知ることになるとはね。えへへへ。大成功以上だよ。」
梓は子どものように喜ぶみほの姿を見て面白そうに笑った。
「ふふふ。西住隊長、言っていることが悪辣ですよ。それで、この後のご予定は?」
「えっと、この後は10:00に知波単航空隊のみんなに訓示と作戦の説明を行うために外に駐機している零式練習用戦闘機一一型で大洗女子学園学園艦を発艦して10:30くらいまで訓示と作戦の説明を行なった後は基本的に計画通りアンチョビさんを脅してYESといえば作戦中止、抵抗したらちょっと脅す程度に市街地への機銃掃射。それでもNOと言ったらアンツィオ焦土作戦に移行。そんな感じかな。」
「わかりました。」
「ふふふ…アンチョビさんがどんな反応してくれるか楽しみだなあ。ふふふ…あの強がってるアンチョビさんをたっぷり甚振って心を壊しちゃおうかな。あ、でも壊しちゃったら反応しなくなっておもしろくなさそうだから壊れるか壊れないかくらいでおもちゃにして遊んであげよっと。ふふふ…」
みほは顔を赤らめて喘ぎながら悪い笑顔を浮かべている。梓はつくづくアンチョビを気の毒に思った。突然何の前触れもなく攫われて二度と故郷の土を踏めないと言われた挙句人体実験の材料として病気にさせられさらに苦しい選択を迫られるのだ。なんと悲惨な運命だろう。
「隊長は本物の悪魔…いえそれ以上の存在ですね…」
梓は遠くを見ながら呻いた。
*****
3時間後、梓とみほは機上の人になった。知波単航空隊に訓示と激励そして作戦命令を下知するために知波単の学園艦に向かうためだ。といっても飛行機で行くほどの距離はない。大洗女子を離陸してから5分もしないうちにすぐ知波単に着陸した。飛行場でみほと梓は大歓迎を受けた。みほと梓は舞台の上に案内される。
「「我が知波単へようこそおいでくださいました!西住みほ隊長!澤梓殿!」」
3時間前に面会した岩本と大西が敬礼しながら迎えてくれた。岩本は今日の行動予定を報告する。
「先ほど、我が知波単が誇る偵察機彩雲20機が発艦し東海地方方面へ向かい偵察任務を開始しました。我々は先発の偵察機部隊がアンツィオの学園艦を発見次第発艦し房総半島で大西隊と合流その後東海地方へと向かう予定です。」
「了解しました。皆さんの準備はどうですか?」
「岩本隊は順調です。現在、各々整備を行なっています。」
「大西隊は富嶽20機全機に陸軍100式50キロ投下焼夷弾九七式爆弾と四式重爆20機に250キロ爆弾を搭載中です。間も無く準備完了します。」
みほは満足そうに何度も頷きながら「了解です。ありがとうございます。」と言った。みほは岩本と大西を労うと訓示をするために演壇に立った。久しぶりのみほの演説だ。梓は息を飲む。みほの身体に軍人西住みほが降りて来た。みほの顔つきが一気に変わる。みほは静かに語りかけ始めた。
「知波単航空隊諸君。今回の任務を快く受け入れてもらったこと、感謝の念に堪えない。さて諸君。今回の任務はアンツィオ高校戦車隊隊長アンチョビこと安斎千代美への脅迫が主たる目的だ。安斎千代美の身柄は我が軍の管理下にあり、我が軍への協力を命じたところ協力することを承諾した。しかし…残念なことに未だ安斎千代美は我が軍へ完全なる忠誠を誓ってはおらず、いつ叛旗を翻すかわからない状態だ。そこで諸君の出番だ。安斎千代美の愛校心は非常に強い。諸君には爆撃機及び戦闘機でアンツィオ高校上空に押し寄せ、苛烈な空襲に晒される危機を演出してほしい。安斎千代美に我が軍の力を見せつけ我々に逆らったらどうなるのか安斎千代美に思い知らせてやれ!それでは、後は航空隊両隊長に任せる。諸君は彼女たちの命令をよく聞いて的確に行動するように以上だ。」
みほは手短に訓示を終わらせると知波単航空隊の面々をゆっくり眺め回した。みほの訓示に知波単航空隊の面々は海軍派陸軍派問わず互いに沸き立った。みほは満足そうに笑うと演壇を降りる。その後、改めて岩本と大西が今回の作戦についての説明を行い各々準備を始めた。さしずめ、トラブルなどはないようだ。やはり、上を説得し和解に成功したため、下も問題なくついて来ているようである。みほと梓は安心して岩本と大西に知波単航空隊を任せることができると判断し大洗女子の学園艦に戻ることにした。再び5分ほど零式練習機に乗り大洗女子に戻る。すると時刻は午前11時になっていた。みほが執務室に戻った矢先、電話が鳴った。知波単の航空管制から先発の偵察機彩雲が静岡県伊豆半島の沖合20km地点でアンツィオ高校学園艦を発見したため、今から順次岩本隊と大西隊の発艦を開始するという連絡だった。みほは了解した旨を伝えると電話を置く。みほはまるで週末、遊園地に連れて行ってもらえることを心待ちにしている子どもの様だ。胸の高鳴りが抑えられないらしい。みほはそわそわして部屋を行ったり来たりしている。みほは一旦落ち着こうと椅子に座って目を瞑った。しかし、どうしても笑みが顔に出てしまう。みほは顔を抑えて手足をジタバタと動かしたり急に立ち上がってみたりなど自分の心と格闘している様子だった。梓はそんなみほを愛おしそうに見ていた。みほが自分の心と格闘すること45分。また電話があった。知波単管制からであった。岩本隊、大西隊の両隊がアンツィオ高校の学園艦を発見したという知らせだった。みほはタブレットを持って成果確認機に無線でつなぐ。無事繋がった。映像も音声も良好である。知波単航空隊が関係する機材の準備は整った。しかし、肝心の人のアンチョビの準備がまだである。そろそろアンチョビを起こさなくてはならない。みほは未だに研究室で眠りこけている麻子を叩き起こす。
「麻子さん!麻子さん!起きてください!」
麻子は眠そうに目をこする。
「う…う〜ん…なんだ…西住さんか…もうちょっと寝かせてくれ…眠いんだ…」
「ダメです!起きてください!今日は作戦の日なんですから!麻子さんが起きてくれなきゃ始まりません!」
みほに叩き起こされて麻子は渋々従った。麻子は顔を洗い身支度を整えるとみほとともにアンチョビが監禁されている部屋を訪れた。アンチョビは仰向けで手足を縛られた状態で寝ている。みほは部屋に入るとアンチョビのベッドのそばに立ち、愛おしそうな目でアンチョビを見つめ、アンチョビの柔らかい頬を撫でる。しばらくするとアンチョビは目を覚ました。アンチョビは自分を見下ろしている悪魔、西住みほの顔を見てビクリと震える。
「ふふふ。おはようございます。アンチョビさん。よく眠れましたか?」
みほがアンチョビに声をかけるとアンチョビはみほに憎悪の目を向けた。
「西住みほ!しばらく会わなかったな…よくも…よくも私に非道な人体実験をしてくれたな!この悪魔!」
「ふふふ…どうでしたか?人体実験のモルモットになった感想は?楽しかったですか?嬉しかったですか?あっはははは!」
みほはアンチョビの怒りを逆撫でするかのように嘲笑う。
「そんな訳ないだろ!苦しくて痛くて死にそうだった!人を苦しめて痛めつけて何がそんなにおもしろいんだ!?」
「私は人が苦しむところを見ていると心が昂るんです。楽しくて、おもしろくて仕方ないんです。本当は人体実験に使用したモルモットはさっさと処理するのが慣例ですが貴女は特別です。アンチョビさん。貴女にはまだ利用価値がある。」
アンチョビはみほを睨みつけながら尋ねた。
「何が望みだ…?」
「ふふふ…私が何か望みがあるとわかっているなら話が早いです。アンチョビさんが察した様に今日はアンチョビさんにお願いがあって来ました。アンチョビさん。この間、私に協力してくれるって言ってくれましたよね?」
「それがどうした…?」
アンチョビはハッとして過去の自分の発言を激しく後悔している様子だった。
「ふふふ…宣言通り協力してください。アンツィオ高校の戦車隊全員をここに呼び寄せてください。」
みほという悪魔はとんでもない要求を突きつけてくる。こんな要求を飲んだら純粋で大切な後輩や仲間たちがどんなひどい目にあうかもわからない。アンチョビは毅然とした態度でみほの要求を断った。
「断る!絶対に断る!言ったはずだ。アンツィオはおまえの好き勝手に蹂躙などさせないと!」
しかし、みほは表情を変えることなく笑顔でアンチョビの耳元に囁く。
「ふふふ…そう言うと思ってました。でも、私が何の対策もなしにそんなことを頼むと思いますか?これを見てみてください。」
みほはアンチョビにタブレット端末を投げ渡す。
「これは…?」
「見てわかりませんか?ちなみにライブ映像ですよ。」
「これは…アンツィオ高校の学園艦…!なぜ!?」
みほはアンチョビの困惑顔に悪魔の様な悪い笑顔を浮かべる。
「ふふふ…今からつい1時間前、知波単航空隊の皆さんがアンツィオ高校学園艦に向けて零戦30機と爆撃機40機が発進しました。爆弾と機銃弾をたっぷり詰めてね。ふふふ…何を意味するかアンチョビさんにはわかりますよね?」
アンチョビはダラダラ汗を流す。そして、自分に言い聞かせる様に何度も同じ言葉を紡いだ。
「嘘だ…これは何かの間違いだ…合成だ…これは嘘の映像だ…」
するとみほは悲しそうな表情をして口を開く。
「信じてくれないんですか…仕方ないですね…」
みほは無線機を手に取ると低い声で画面の向こう側に命じる。
「大洗総司令部から岩本隊へ。機銃曳光弾の発砲を許可する。アンツィオ高校南市街地に銃弾の雨を降らして安斎千代美を震え上がらせてやれ!」
「何をする気だ…?」
「見ていればわかります。」
みほは笑顔でタブレット端末を差し出した。その時だった。凄まじい機銃の発射音ともに土煙が上がったのが見えた。機銃弾は容赦なく人家に降り注いだ。アンチョビは目を剥く。
「な、何を…!西住みほ!おまえ!」
「ふふふ…わかりましたか…?アンツィオ高校の皆さんの命は貴女の選択にかかっています。これは警告です。5分後までに要求を飲まなければ、アンツィオ高校を焼夷弾と通常爆弾を用いて空襲します。学園艦は閉鎖空間です。仲間たちの無残な姿を見たくないなら…ふふふ…もう言わなくてもわかるはずです…5分間は待ちましょう。その間に答えを出してください。YESかNOか。」
みほはアンチョビが寝かされているベッドに腰掛けていやらしい手つきでアンチョビの全身を撫で回す。アンチョビは恐怖と嫌悪感で顔を歪ませる。
「やめろぉ…触るなぁ!」
「ふふふ…怖がっているアンチョビさんとっても可愛いです。さあ、時間は刻一刻と過ぎて行きますよ。画面の向こうの仲間たちが黒焦げの焼死体になっても良いんですか…?あ、でもそれでもいいですね。黒焦げの焼死体の中にアンチョビさんの親友を見つけた時のアンチョビさんの反応を見るのも楽しそうですし。えへへへ…」
アンチョビは唇を噛み、目を伏せる。みほは再び無線機を手に取って画面の向こう側に命じた。
「大洗総司令部から大西・岩本各隊へ。爆撃の準備を行え。大西隊は格納庫展開を準備しろ。岩本隊の諸君は味方の爆弾に当たらない様に高度を取りつつ空襲後の機銃掃射攻撃の準備をしておけ。」
その時である。アンチョビが何事かを小さく呻くような声をあげた。
「……る…」
「アンチョビさん?何か言いましたか?」
「やる!協力するからもうやめてくれ!あいつらをこれ以上傷つけないでくれ!お願いだ!お願いだからもうやめてくれ!」
アンチョビは大粒の涙を流しながら半狂乱になりながら叫んだ。アンチョビはみほの前に屈した。それは仕方ないことだった。意地を張って大好きなアンツィオ高校学園艦を滅ぼすよりはどんなに汚い仕事でもみほの要求を受け入れたほうがマシである。
「ペパロニ…カルパッチョ…そしてみんな…すまない…私は…私は…みんなを守れなかった…弱い私を許してくれ…私はみんなのドゥーチェ失格だ…う…うぅぅぅぅ…あぁぁぁ…」
みほは苦しそうな声を上げるアンチョビの顔を愛おしそうに撫でると耳元で囁いた。
「ふふふ…アンチョビさん…協力ありがとうございます…でも、アンチョビさん。口ほどでもないですね…もう少し抵抗してくれるかなって思いましたが…アンチョビさん以下アンツィオ高校の皆さんは私がたっぷりと可愛がってあげます。ふふふ…」
「や…やめろ…近づくな…」
怖くて仕方がない。アンチョビは思わず後ずさりをしようとした。しかし鎖で拘束されているので避けることができない。みほは震えるアンチョビを見て喘ぐ。
「ふふふ…可愛い…子羊みたいに震えちゃって…アンチョビさんの大切なもの一つずつ壊していってあげますからね…ふふふ…」
ドス黒い何かがアンチョビの心に送り込まれアンチョビを支配した。
つづく
次回は恐らく生徒会陣営のお話になると思います。