この作品から読んでくださった方は初めまして。
あらすじの通り、古城君にフラがとシュウ・サウラの前世が二つあるという設定です。
なにその最強、って感じですが、物語序盤の古城君は、二巻の時点での諸葉君と同じくらいの記憶を取り戻してます。
二話目の投稿には、まあまあ時間が空きますが、よろしくお願いします。
12月26日
大幅に編集させていただきました。割かし重要なので、これからも読んでいただける方は、暇な時にでもどうぞー。
暁古城《あかつきこじょう》は、不思議な夢を見ていた。
夢の中の古城は、たった一人で戦場に立っていた。
獣じみた戦場の怒号。鼻を衝く鉄錆の如き匂い。口中に吹き込む砂塵の渇いた味。干からびた大地を染める一面の鮮血。
それらすべてが渾然一体となって古城を取り巻く中、古城は無心に剣を振るっていた。
宝剣と謳われた、鏡のように美しい刀身が、今はこの大地同様、地の真紅に染まり果てる。
戦場にあって一人。孤軍奮闘、四面楚歌、一騎当千。
身に付けた鎧はなく、ただ白い太陽の如き闘気を全身に纏う。
神へと通じる超常の力、
ただしあくまで自然体。
まるで「ただ敵を斬る」ためだけに特化して生まれた、化物のように。
そうして、どれほどの殺戮を経たか――
やがて、戦場に立っているのは、古城一人となった。
他は山と積まれた屍が残るのみ。
数多の敵を討ち取り、ただ一人の勝者となった古城だが、その表情に勝利の喜悦はない。
立っているのも辛い、満身創痍。しかし古城は、足を引き摺るようにして帰路に就く。
その先に、己がいちばん欲したものがあると、分かっているから。
「フラガ! フラガ兄様!」
「戦場にフラフラ一人で来るなと言っていただろう、サラシャ」
目の前で涙を流す、何よりも、世界よりも大切な
そんな少女に、
――ここまで来て、舞台は入れ替わった。
窓の外では、吹雪が荒れ狂っている。
ここでは一年中、空が晴れる日はない。
あたかも、永劫に閉ざされた極寒地獄の如く。
そんな不毛の土地に、古城の居城はあった。
石造りの部屋を深々と冷気が蝕む。この冷気の中では暖炉の火すら意味を為さず、絨毯すら石床と変わらない。
そんな部屋が、古城の執務室だった。
小鳥のさえずりなど望むべくもなく、虚ろに鳴り響く吹雪の音を聞く。吐く息はもう真っ白だ。
棺桶のように冷え切った執務椅子に腰かけていた古城は、やがてふと立ち上がり、凍えた窓に近づいた。
その途中で、まるで甘えるように古城の足に一匹の
「……お前も寒いか? ルズガズリンケン」
低い声でそう呟き、ひょいとそれを抱き上げる。
頭のようになった部分をそっと撫でてやると、すぐに上機嫌になった。
「私も寒いわ――」
足元から、女の声がした。
蜜のように甘ったるく、羽毛のように耳元をくすぐる、艶めいた声。
古城の体にしなだれかかるようして立っていた、長い黒髪の女のものだった。
凍え、震えているのが、密着している体から伝わってくる。
「ねえ、私のことも暖めて? ――シュウ・サウラ」
「……変わらないな、お前も。冥府の魔女よ」
一度ルズガズリンケンを下に降ろし、古城は正面から女――冥府の魔女を胸に抱いた。
そして、その全身から、闇よりなお昏い漆黒の波動を放つ。
世界の法則に干渉し、物理法則を捻じ曲げる魔性の力、
「綴る――」
夢は、そこで終わりを告げた。
§
そこは、どこかの神殿のような場所だった。
白亜の床に石柱が幾本も突き立てられ、円形の天井に嵌めこまれたステンドグラスから射し込む光が幻想的な美しさを演出する、『神』を祀る祭壇。
その美しさは何も、この神殿に限っただけのものではなかった。
立ち並ぶ石柱の隙間から見える向こう側には――
どこまでも続く漆黒の闇の中、ある者は控えめに、ある者は激しく、輝き続ける色とりどりの星々。
それらはまるで人の営みのように、新しく生まれてはやがて消え去って行く。
祭壇の中央に佇む少女は、何も言わずに外の様子をただ眺めていた。
夢の中の古城はその少女にゆっくりと近付く。
純白の神官衣に身を包んだ、新雪のような色合いの長い髪を持つ人ならざるほどの美貌の少女は、隣に立つ古城にチラリと視線を寄越し、再び顔の向きを戻した。
夢の中の古城はポツリと独り言のように呟いた。
「……綺麗だな」
「ええ、本当に」
クスリと笑声を零し、少女は古城に向き直る。
「どうですか? ルシフェル。これが、あなたに見せたかった景色です」
「なかなか、言葉が出てこないよ。今まで、こんな景色は見たことがなかったからな。以前の大雪山の頂上で見た星空もこれほどではなかった。何より……」
「?」
「こんな景色を、ガブリエル。君と見ることが出来て良かったと思うよ」
「……ふふっ。はい。私も、こうしてあなたと並んでこの景色を眺めるのを楽しみにしていました」
二人はそのまま視線を戻し、無言で目の前の景色に見入った。
「ルシフェル」
「ん?」
「叶うのならば、ずっと、このまま二人で、永遠に……」
「ああ……俺もだよ。ずっと、君と一緒に……」
静かに呟き顔を横に向けると、青く澄み渡った瞳がこちらを見つめ返してきた。
その瞳の端に溜まった雫を、
「俺は、君と出会うために、ここまで辿り着いた。君と共に生きるためなら、俺は何だってしてやる」
「……神に誓って?」
「何にだって誓ってやるさ。神だろうが天使だろうが、それこそ悪魔や堕天使にだって」
「神と天使以外はダメですよ? それと、ちゃんと私にも誓って下さい」
拗ねたようなガブリエルの言葉に
「もちろんだ。ガブリエル。俺は、生涯君だけを――」
「はい――」
春の訪れを喜ぶ花のような儚い微笑みを浮かべた彼女は、自らも
§
真夏の街――
その都市は絃神島と呼ばれていた。太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって作られた人工島。
この絃神島では、とある噂が流れていた。
退屈を紛らわすだけの意味のない話題。ありふれた都市伝説。第四真祖。この街のどこかに居るという吸血鬼の噂話を。
第四真祖は不死にして不滅。一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する。世界の理から外れた冷酷非情な吸血鬼。過去に多くの街を滅ぼした化物。
しかし、それを聞いたこの島の住民、その多くは、きっとこう言うだろう。
――ふうん、それで?
絃神島・魔族特区。この街では、化物など珍しくもない。
例えそれが世界最強の吸血鬼だとしても。
§
真夏の森――
深夜の神社境内。季節を忘れるほどに空気が冷たく張りつめているのは、社を包む結界のせいか。
騒がしかった虫たちの鳴き声も、今はもうほとんど聞こえない。
無言で広い拝殿の中央に座る、綺麗な顔立ちの少女。
細身で華奢だが、儚げな印象はない。むしろ鍛えられた刃のような、しなやかな強靭さを感じさせる少女だ。
少女が身につけているのは、関西にある私立中学の制服。
神道系の名門校だが、その実態はこの神社と同じ、獅子王機関の下部組織である。
少女の前にあるのは、一振りの銀の槍。
「これは……」
「七式突撃降魔機槍〝シュネーヴァルツァー〟です。銘は〝雪霞狼〟。知っていますね、姫柊雪菜」
女の問いかけに、雪菜は頼りなく頷いた。
この槍は、特殊能力を持つ魔族に対抗するために獅子王機関が開発した武器だった。高度な金属精錬技術で造られたその穂先は、最新鋭の戦闘機にも似た流麗なシルエットを持ち、まさに機槍の呼び名に相応しい。
だが、武器の
高が一人の
戸惑い、緊張を露にする雪菜に、彼女の目前に陣取る獅子王機関の長老〝三聖〟の長たる女は、重々しく告げた。
「剣巫、姫柊雪菜。あなたに改めて命じます。魔族特区・絃神島に住まう〝
そう言って、一息ついた女は、さらに何かしらの覚悟を決めたかのように顔を上げ、もう一言付け加えた。
「もし、彼の真祖がこの世界にとって危険な存在であると判断できたのであれば……全力を以てこれを抹殺してください」
§
とある夏の日のことだった。
人の不幸の何割かは、誰かの悪意によってできている。
あるいは、悪意でなくとも、そうなのかもしれない。
どちらにせよ、こうして、本人の与り知らぬところで、第四真祖暁古城の、苦難と波乱に満ちた日々は幕を開けた――
三つ目の前世設定入れました。