季節の短編集   作:閏 冬月

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夏祭というもの

夕方と言えるべき時間だが、夏のためまだ陽は落ちない。

俺は大好きな人と一緒に、補習を受けていた。ただ、補習の先生が出張でいないため自習だ。

 

「君さ、チラチラ私のこと見るけど、どうしたの?」

 

なんと。

先ほどから続けていたチラ見作戦は気付かれていたらしい。失敗だ。

 

「本当さ。友達なんだから話しかけてくればいいのに」

「何回言ったら分かる?俺はお前のことが好きで、話しかけようとすると緊張すんの!」

 

そう、彼女には俺が彼女のことが好きだ。ということは伝えてあるのだ。その時は物の見事に振られたものだ。その時は初対面だった。その時よりかは印象は良くなっていると信じておきたい。

窓から見える空が朱色に染まってきたところで、俺は意を決して、胸の中の想いを伝えようとする。

 

「なあ、お前に伝えたいことがあるんだ」

「そんなことより今日って夏祭の日だよね?」

 

俺の告白は夏祭に負けた。彼女の中で俺<夏祭なのだろう。あの時よりも酷くなっているような気がするのは、俺だけではないはず。まぁ、彼女と話すことが出来ていることがあの時から考えると、かなりの進歩と言えるのだが。

 

 

「そうだな」

 

そして俺は告白することを諦めた。正確には諦めたわけではない。今、この場所でということだ。

 

「一緒に行こうよ!」

「なんでだよ」

「私のこと、好きなんでしょ?」

「まあそうなんだけどよ」

 

なかなか素直になれないというのが今の俺に必要なことなのだろう。内心、かなり嬉しい。彼女と何かで一緒になるというのは、今のような補習以外は無い。彼女と一緒にいれる時間はもう残り少ない。

 

「じゃあ、7時にこの学校の前集合ね」

「分かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

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「遅えなあいつ」

 

7時に集合だと言っていたが、もう7時30分だ。

目の前には多くの浴衣や夏服を着ている祭に向かう人たちが横切っている。中には独りでいる俺の姿を指差して笑っている無邪気な子供もいる。

 

「お待たせー!大丈夫?結構待たせちゃった?」

 

30分ほど遅刻した彼女は緑を基調として、そこに朝顔の花が描かれている浴衣を着ている。いつもは下ろしている黒い長髪は後ろでポニーテールのように結わえてあった。

 

「大丈夫、お前が思っている以上に待ってたから」

「何その言い方ー。待ってないって言うのが普通じゃないの?」

「30分ほど遅刻したのによく言うな」

 

彼女はふくれっ面になっていたが、すぐに笑顔になり、行こ?と俺に問いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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俺らの学校の近くの祭はほどほどの大きさで、行く人帰る人で入口は溢れかえっていた。

彼女を見失わないか、そのことを心配していると、左手に男のゴツゴツしたような手ではなく、女子特有の細い手が繋がれた。その手は彼女のものだと気付く事にはさして時間はかからない。

 

「見失わないでね?」

 

そう言った彼女は、まるで繋いでいてね。と言っているように見えた。俺はそれに対して、もちろん。と返し、人混みの中に入っていった。

 

 

 

祭は屋台が数多く並んでいて、焼きそばのソースの匂いや焼き鳥の炭の匂いなど、食欲を掻き立てられる匂いがあちらこちらから漂ってくる。

彼女は片手に金魚すくいで捕まえた金魚を入れた袋と綿菓子を持っている。俺は彼女の荷物持ちとなっている。仕方がない。

 

「よっ」

 

この時、話しかけてきたのは中学校の時のの男友達だった。

俺としては会いたくなかった。

 

「そっちの子は誰なんだ?彼女?」

「そんなわけ…「初めまして、彼の彼女です」

 

……。は?

彼女は俺の彼女と言った。何故、彼女がそんなことを言ったのかはわからない。

 

「というわけだ。それじゃ」

 

とりあえず、彼女の言葉で驚きを隠せていない友達の横を通り抜けた。そして、人のいない、小高い丘に登った。

 

「お前……何言ってんだよ」

「え?君の彼女だって言ったよ?君は気付いてないかもだけど、私、君のこと好きだよ」

 

その時、彼女の後ろで大きな花火が上がり始めた。あれは炎色反応によるもので色が変わる。赤く光る花火は、彼女の頬を紅く染めた。

 

「ねえ、もう一回、言ってくれないかな?あの言葉」

 

それに対して、対する答えはYESしかない。

 

「おう。

あなたのことが好きです。付き合ってくれないですか?」

 

「こんな私でも良かったら、喜んで」

 

花火の音が、うるさく響いているが俺には彼女の声がはっきりと聞こえた。

彼女も同じだろう。

 

「あっ!あの花火大きい!」

 

「すぐに花火の方に戻んのかよ!」

 

柵から身を乗り出している彼女は、すぐに俺に来て欲しいように手を振っていた。それに俺は応え、彼女の隣に立った。

 

「来年も来ようね」

「おう」

 

「見捨てないでね」

 

「誰が見捨てるかよ」

 

 

熱を帯びた顔はますます熱を帯びて、そよ風では冷やさないぐらいになっている。彼女には気付かれないように彼女の頭を撫でた。

 

「言うの遅くなったけど、浴衣、似合ってる」

「へへ、ありがとう。また来る時は君も浴衣着て来てね」

 

 

 

 

 

 

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「悪ぃ。今日ちょっと早く抜けないといけねえから、後は頼んだ」

 

そう言って、大学の友達に用事を押し付けた。いつもは俺が押し付けられているのだから、押し付けられても文句は言えないだろう。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ」

「やっと来たぁ。浴衣も……ばっちりだね」

 

「お前こそ、浴衣似合ってるぞ」

「ふふ。褒めたって何も出ないよ」

 

そして、去年と同じように彼女と一緒に夏祭へと出掛けた。

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