もう一つの【銀狼 銀魂版】   作:支倉貢

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もしも松陽が生存し、松下村塾が残っていたら、のお話。

※親バカが多数います。苦手な方はお気をつけ下さい。


【if】松下村塾健在の話


「オイコラ銀兄!!」

 

「ぐぼえっ」

 

松下村塾の母屋の縁側。ポカポカ陽気に包まれ微睡んでいた銀時の意識は、痛みにより突然覚醒された。

寝転ぶ銀時を足蹴にしているのは、彼よりも一回りほど年下の少女。銀髪をポニーテールにして括り、大きな赤い目は細められ銀時を睨みつけている。

 

少女の名は吉田志乃。松下村塾で教鞭をとっている吉田松陽の娘だ。また彼女は、銀時の妹でもある。

しかし兄に対するその扱いは、かなりひどいなものだった。

 

「あだだ……何しやがるクソガキ……」

 

「あんた、私の団子勝手に食べたでしょ?」

 

「あぁ?知るか。俺ァそこに置いてあった団子もったいねェなって思って食っただけだ」

 

「結局食ってんじゃねーか!!アレ私のだったのに!」

 

「自分のもんにはちゃんと名前書けって松陽に教わらなかったんですかー。ってことで名前を書いてない志乃ちゃんが悪いでーす」

 

「ぶちのめす!!」

 

ついに怒りがピークに達した志乃は、手にしていた竹刀を銀時に振り下ろす。銀時がその一撃を避けたことを皮切りに、二人の鬼ごっこが始まった。

これは毎日恒例のイベントで、特に昼方に多い。状況によって銀時が追いかけたり志乃が追いかけたりするのだが、基本心底くだらないと切り捨てられる内容である。

こないだなど、銀時が「志乃にジャンプを先に読まれた」という何ともアホらしい原因で喧嘩に発展した。この兄妹はウマが合うのか合わないのか、よくわからないのである。

そして、この鬼ごっこを終わらせるのも、いつも同じ人物だ。

 

「やれやれ、また喧嘩をしているのですか。飽きないですねぇ」

 

くすくすと微笑みながら、逃げる銀時の前に現れた男。髪が長く、なよっとしたような印象を受けるこの男の姿を見るなり、二人の顔色が一気に青くなる。

 

彼の名は吉田松陽。先述した通り、志乃の父親で松下村塾で教師を務める男。見た目からは想像できないほど強く、銀時も現在松下村塾一の実力を誇る志乃でさえ、彼に太刀打ちできない。

 

「し、松陽……」

 

「父さん……」

 

「まったく、今日は一体何が原因ですか?」

 

「今日は私悪くないからね!銀兄が私の団子勝手に食べたんだもん!」

 

「あぁん!?あんなとこに置きっ放しだった志乃の方が悪いだろーが!」

 

二人揃って自分の正当を主張する。どちらも必死だ。

何故かって?それは……。

 

「そうですね。大切なものを置きっ放しにして片付けなかった志乃も悪いですし、確認をせず勝手に食べた銀時も悪い。ということで……」

 

松陽が軽く拳を握り、青ざめた二人の頭に順に軽く叩き込んだ。

 

「ぬぐあっ!!」

 

「うがっ!」

 

「喧嘩両成敗です」

 

二人が自分の正当を主張する理由。単に、このバカげた威力の拳骨を食らいたくないからである。

 

********

 

天人がこの星に襲来して以来、この国は飛躍的な発展を遂げた。志乃達の暮らす片田舎の村もその影響を受け、ありとあらゆるものが溢れてきた。

 

廃刀令の煽りを受けて、松陽達も表立って刀を持つことはなくなったが、松下村塾には今でも人が集う。

卒業した教え子がやってくるのもあるが、多くの人が金を取らずに読み書きを教える松下村塾に、子供を通わせるからだ。

特にそこの娘である志乃は、村でも人気者だった。

剣の実力もさることながら、人に優しく己に厳しい性格。また、粗野な言動を意に介さない程の端正な顔立ちから、村の人達も彼女を愛した。

中には志乃を嫁に欲しいという村人もいたが、松陽をはじめ銀時達弟子が決してそれを許さなかった。もちろん銀時達がただのシスコンであるだけなのだが、実を言うと父親の松陽が一番ひどい。

親バカを発揮させて、彼女が心の底から惚れた男を連れてくるまではどこにも嫁にはやらない、と言っているのだ(しかし、それでも嫁には出したくないとぼやいていた)。

 

「父さーん」

 

電話を受けていた志乃は、父を呼ぼうと振り返る。しかし。

 

「どうかしましたか?」

 

「うわっ!?」

 

居間にいたはずなのにいつの間にか背後にいて、志乃は思わず飛び上がって受話器を落としそうになった。

いつもいつも気配を消して近づくのはやめてほしい。驚きすぎて寿命が縮んだらどうすんだ。そんな事を思いながら、楽しそうな父に受話器を手渡す。

 

電話の相手は、桂だ。

桂と高杉は、松下村塾を卒業して既に一人立ちしている。志乃は彼らの仕事というか肩書きを何一つ知らないが、年中暇を持て余している銀時と違ってなかなか会えないので、久々に声が聞けて嬉しかったりする。

それを言えば桂にしつこく付きまとわれるので、口が裂けても言わないが。

 

「ーーそうですか。では、楽しみに待っていますね」

 

そう言って、松陽は受話器を置く。

 

「ねぇねぇ!ヅラ兄何て言ってた?」

 

「今度の土曜日、晋助と一緒にうちへ帰ってくるそうです」

 

「本当!?」

 

パアア、と志乃の表情が明るくなる。

まるで太陽のようなそれに、松陽は頬を緩ませて志乃を抱きすくめた。

 

「わっ!」

 

「はあ……貴女は本当に可愛いですね」

 

「……もう、父さんったら」

 

頬を擦り付ける父に、娘は苦笑する。

松陽がこんな風に甘えるのも、志乃の前だけである。志乃は照れくさそうに微笑し、父の背に手をまわした。

男手一つで育ててきたからか、それとも志乃の顔立ちが母似だからか。妻を溺愛していた松陽にとって娘は妻同様に愛おしい存在だった。

愛した女と瓜二つの娘。もちろん人間としては別人だが、自他共に認める親バカの松陽は、一人娘の志乃に大きな愛情を注いだ。志乃もそれを受け入れ、二人の間には父娘(おやこ)以上の絆があった。

 

「父さん、早く台所行こ?晩ご飯の支度しなくちゃ」

 

「ふふ、そうですね」

 

互いに笑い合って、親娘は手を繋いで廊下を歩き出した。

 

********

 

そして、待ちに待った土曜日。志乃は玄関で、兄二人を迎え出た。

 

「ヅラ兄ー!晋兄ー!おかえりー!」

 

「ヅラじゃない桂だ!……志乃ォォ!お兄ちゃんが帰ったぞォォォ!!」

 

お決まりの切り返しを挟んで、桂はこちらへ駆け寄って来る可愛い妹に向かって、両腕を広げた。

しかしその妹は、天使のような笑顔のまま、父・松陽直伝の拳骨で桂を撃沈させる。

玄関で突っ伏す桂を放って、志乃は高杉に抱きつく。

 

「おかえり、晋兄」

 

「あァ。ただいま、志乃」

 

「父さーん、二人とも帰ってきたよー」

 

奥から松陽がやってきて、志乃に叩きのめされた桂を見下ろす。

 

「先程大きな音が玄関先でしましたが……何かあったのですか?」

 

「んーん、何にもないよ」

 

「そうですか」

 

柔和に微笑む松陽に、高杉と復活した桂が会釈する。そして二人を奥に案内した。

 

********

 

この二人が帰ってきた時、あるいは銀時達悪ガキ三人衆が揃った時は、大概宴会状態である。

酒が入って下手に暴れたり志乃に手を出したりすると、松陽から容赦のない拳骨が降ってくる。これもお決まりのパターンだった。

 

そして例の如く桂にコスプレを強要させられそうになり、父にヘルプを求めて潰してもらう。

はたまた酔った銀時は暴れて家具を壊し、挙句には志乃のファーストキスまで奪おうとした。もちろん、彼にも松陽の拳骨が入ったが。

こういう酒の入る時、志乃は決まって高杉の隣に陣取った。

あのバカ二人よりかはまだマシだし、何より酒は嗜む程度を飲み、それ以上は決して無い。志乃の記憶する限り、彼が酔い潰れるまで飲んだという事例は一度もない。隣にいても、たまに酌を頼まれるくらいだ。

だから志乃は、安全地帯を確保するため、必ず高杉の近くに座った。もちろん今回もそうだったのだが……このザマである。

 

「あーあー、潰れちゃったよ」

 

ツンツンとちょっかいを出しつつ、運んでやるかと腕を掴んだ時、松陽に止められる。

 

「放っておきなさい、志乃。後は私が部屋へ運んでおきますから」

 

「え?でも……」

 

「わかりましたね?」

 

「……はい」

 

笑顔で圧力をかけた松陽は、桂と銀時の首根っこをそれぞれ掴んで引きずる。

それでいいの。弟子の扱いそれでいいの父さん。ツッコミを入れる間もなく、松陽は部屋を出て行った。

部屋に残されたのは、高杉と志乃だけ。静寂が空間を支配する。

 

「志乃」

 

「何?」

 

「……こっち来い」

 

トントンと軽く膝を叩いて、微笑む高杉。志乃は一度頷いて、高杉の膝の上に対面する形で座った。一層近くなる距離に、志乃は少しだけむず痒く感じた。

髪を優しく撫で、ぎゅっと強く抱きしめられる。

 

「んっ……」

 

「でっかくなったな」

 

「そりゃあもう12歳だもん」

 

「そうか」

 

12、か。と独白のように呟く高杉に、志乃は首を傾げる。

聞けば、彼と桂が松下村塾に入門したのも、大体その頃くらいらしい。まさに、彼の運命が変わった歳とも言えるのだ。

 

「そうなんだ……知らなかった」

 

「そうか?」

 

「うん。そういえば、三人の昔話なんて聞いたことないかも。……ねぇ、もっと聞かせて?」

 

上目遣いでお願いしてみると、しょうがねえなァと高杉は微笑み、語り出した。

初めて松陽と出会った日。何百何千と挑んで、ようやく銀時に勝った日。松陽を超えるために、入門を決めた日。銀時や桂との喧嘩、松陽の拳骨、みんなで歩いた土手……。そしてーー。

 

「お前が産まれた時だ。先生も俺達も、そして……お前を命を懸けて産んだ母親も、みんなお前のことを待ってた。だから、お前が産まれた時……泣いてない奴なんかいなかった」

 

「それは……母さんが死んだから?」

 

「いや、お前が産まれてきたのと、両方だ。嬉しくて悲しくて……色んな感情がごちゃ混ぜになって、みんなよくわかんなくなってた」

 

志乃の頭を撫でながら、高杉は彼女を真っ直ぐ見つめた。

 

「……いいか、志乃。自分のせいで母親が死んだなんて、思うんじゃねェぞ。あの人はな、お前が幸せになるのを誰よりも望んでいた。お前の幸せを奪おうとする奴らがいるなら、俺達がそいつらを皆殺しにしてやる。何だって相談に乗ってやるし、何ならお前を嫁にだって貰ってやる」

 

「晋兄……」

 

 

 

「おや、それは聞き捨てなりませんね」

 

突如割って入ってきた、第三者の声。高杉と志乃の表情が強張る。

 

「晋助。君は先程、"誰"をお嫁に貰うと言いましたか?」

 

松陽が、いつもと変わらぬ優しい笑顔で二人を見下ろしていた。

自分の愛娘が弟子の男の膝の上に、しかも向かい合うように座っている。父親として、これほど喜ばしくないことはない。

 

「父さん?」

 

「先生……いや、これはその……」

 

「言い訳無用。志乃、すぐに降りなさい」

 

「え?……う、うん」

 

再び笑顔の圧力に負けた志乃は、すぐに高杉の膝の上から降りる。そしてもちろん高杉にも拳骨の制裁が下された。

スッキリした松陽は志乃を抱き上げ、自分の膝の上に乗せる。

 

「ちょ、父さん?」

 

「ふふ……貴女は本当に可愛らしい」

 

「く、くすぐったいってば……」

 

高杉から志乃を奪い返した松陽は、娘を愛で始める。

ぎゅっと強く抱きしめて、髪を混ぜ撫でる。たまに頬ずりまでしてくるもんだから、たまったもんじゃない。

 

「父さん……私もう子供じゃないんだけど」

 

「何を言ってるんですか。私から見れば、貴女はずっと子供です」

 

「いや、そうかもしれないけどさ……そういう意味じゃなくて。その……こういうの、恥ずかしいからやめてほしいなって……」

 

「そうですか。では夫婦になれば、そんな心配もなしに貴女を毎日可愛がれますね」

 

「できるわけねーだろそんなの!!ていうか弟子にはダメっつっといて自分はいいのか!!どんな理不尽だよ意味わかんねーよ!!」

 

自分のことを鮮やかに棚に上げた父親に、志乃は思わずツッコミを入れた。

誰かこの親バカを止めてください切実に!!

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