もう一つの【銀狼 銀魂版】   作:支倉貢

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志乃と朧、実は会ったことあるんだぜ。というお話。

時間軸としては、銀時達が攘夷戦争で戦っていた頃です。


【another】志乃と朧の話


青い空、白い雲。

それがゆったり流れていくのを、志乃は縁側に座って眺めていた。

 

そよ風が彼女の綺麗な銀髪を揺らし、幼いながらも美しさを感じられる。

花の香りに包まれている少女は今、戦場にポツンと建つ小さなボロ小屋にいた。

このボロ小屋は、志乃の兄である銀時達の拠点とする後方基地より少し離れた場所にある。

外に出たいと願う彼女は、銀時達の出征の目を盗んで周辺の地図を盗み見て、この小屋を見つけたのだ。

志乃はそこに入り浸り、まだ小さな外の世界を楽しんでいた。

柔らかな風、草花の芳しい匂い、空を飛ぶ鳥、蝶達ーー様々なものに出会った。どれもこれもが新鮮で、志乃は心躍らせた。

そんなある日。志乃がいつものように、空をのんびり仰いでいると。

 

ガサガサッドサッ

 

「っ!?」

 

草木の不自然に揺れる音に、志乃は警戒心を強める。音のした方を振り返り、慎重に歩み寄る。

 

「だっ……誰……?」

 

人の気配が確実に察知できる。

そこには一人の男が、血を流して草むらに倒れていた。

 

「え……っ」

 

志乃は思わず呆然として、男の傍らにしゃがみ込む。そーっと男の白い髪を払い、顔を覗き込んだ。

白い髪にシュッとした鼻のかなり整った顔立ち。目元には隈のようなものがあって、服には八咫烏のマークが見えた。

少なくとも、志乃の記憶に彼の顔は無かった。つまり、初めて会う外の世界の人間。志乃は恐る恐る、男の肩をつついてみた。

しかし、反応はない。今度は揺らしてみる。

 

「あの……大丈夫?」

 

話しかけても、男はピクリとも動かない。代わりに、血がドクドクと流れていた。

まずい。このままでは彼が死んでしまう。

一瞬のうちにそう悟った志乃は、男の首根っこを引っ張って、小屋の中に引き入れた。

 

********

 

「……………………」

 

男がまだ重たい瞼を開ける。

夢を見ていた。自分の憧れのあの(ひと)に会う夢を。

視界のピントがようやく合ってきて、古びた木造の天井が映る。どうやら自分は体を横たえているらしい。

状況を判断した瞬間、隣に気配を感じた。

 

勢いよく起き上がって隣を見下ろすと……男は、思わず息を呑んだ。

そこには、幼い少女が自らの腕を枕にして眠っていた。

光を反射し、床に散乱する美しい銀髪。閉じられた目や鼻、口のバランスはどれも均衡が取れていて、綺麗な顔立ちであることを伺わせる。

しかし、無防備に晒された寝顔はあどけなさを感じさせ、まだ彼女が子供であることを証明していた。

 

男が息を呑んだ理由は、彼女が美しいからではない。

彼の夢で見た、あの憧れの(ひと)と瓜二つの顔立ちをしていたからだ。

何で、どうして。だって彼女はもうこの世にはいないはずだ。それに、こんなに幼くはーー。

そこまで考えて、ハッと少女を見やる。

まさか、この娘は彼女の子供……?

 

「ん……」

 

「!」

 

少女がゆっくりと寝返りをうつ。ゴロンと転がって、スヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てていた。

悟られるかと思ったが、大丈夫なようだ。子供であるためか、まだ気配には疎いらしい。

改めて少女の美しい顔を覗き込もうとすると。

 

「ん……?」

 

今度こそ、少女がむくりと起き上がった。寝ぼけ眼を擦って、男を見上げる。

 

「あ……」

 

目を合わせた少女は、微笑しながら小首を傾げ、男を見つめる。

 

「もう……起きて、大丈夫?」

 

「……………………」

 

少女の視線が、自身の体に巻かれていた包帯に行く。

なるほど、彼女が傷の手当てをしてくれたらしい。

見た所、弱冠二、三歳かという幼子なのに、よく的確に手当てできるものだ。男は思わず感嘆した。

 

「……あの?」

 

ずっと黙ったままの男に不安を募らせたのか、少女が男の顔を覗き込む。

その視線に気づいて、男はようやく返事をした。

 

「……ああ。もう、大丈夫だ」

 

「そう?よかった……」

 

にこ、と心の底からホッとしたような表情。綻んだ少女の笑顔が、男の脳裏で別の女と重なった。

やはり、似ている。彼女の面影を、そっくりそのまま残している。

それがむず痒くて、気持ち悪い。

違う。だって、あの(ひと)はもうーー。

 

「……あっ、怪我治るまであんまり動いちゃダメだよ。まだ傷口塞がってないと思うから……」

 

「…………」

 

「あっ、動いちゃダメだって!」

 

さっさとここから出ようと傷ついた体を起こすと、少女がペタペタと歩いて近寄り、抱きついて引き止めてくる。

 

「めっ!だよ!お兄ちゃん!」

 

「………………」

 

ーーめっ!だぞ!朧!

 

子供の頃、耳に残る女の声と、目の前の少女の姿が重なる。

真っ直ぐに見つめてくる赤い目も、動く度に揺れる銀髪も、その柔らかい手も……。

あの時、確かに自分が手に入れたかったもの。

 

「……え」

 

少女の驚いたような声が、耳元で聞こえてくる。彼女の温もりを感じながら、男はさらに少女を抱き寄せた。

少女は抵抗するそぶりも見せず、大人しく男に抱きしめられたままでいる。こうされるのに慣れているのだろう。

 

「お兄ちゃん?」

 

「っ………………」

 

そう呼ばれ、男はゆっくりと少女から離れた。

わかっている。目の前の彼女が、いくら憧れた女と似ているからといって、それが本人というわけではない。

男は立ち上がり、小屋の外へ出ようとした。

 

「あっ!ダメって言ったでしょ!お兄ちゃん、傷が……」

 

「こんなもの、すぐに治る。……手当てのことは、礼を言う。だが、俺はお前の兄達の敵だぞ」

 

男は少女を冷たい視線で見下ろす。少女はキョトンとした表情のままだ。

 

「敵なら、助けちゃダメなの?」

 

「……………」

 

彼女は、自分の善意に従って行動したのだろう。目の前で倒れている者がいれば、それが敵だろうと何だろうと助ける。一般人としては常識なのだろうが、そんなものは戦場では通じない。

おそらくこの娘は、件の白夜叉達の妹。戦地では、攘夷四天王が囲う幼い少女がいるという噂が流れていた。娘の姿を見た者は殺されるとか、実はその娘が戦況をひっくり返せるくらいに強いとか何とか、悍ましい噂まで上がっているほどだが。

 

しかし、目の前の娘はそんな恐ろしい噂とは程遠い、実に純粋な少女。あの悪ガキ三人が育てたとは思えないくらいだ。よほど気を使っていたのか、それとも彼女に気を使われたのか。

真っ直ぐ見上げてくる視線に根負けして、男は溜息を吐いて腰を下ろした。

少女の頬が緩み、眩しい笑顔へと変わる。あまりにも無垢すぎる笑顔に、男はまた息を漏らした。

 

「私、志乃っていうの!お兄ちゃんは?」

 

「…………………朧」




何故いきなりこんな話を書いたかって?
アニメに触発されたからだよっ!

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