もう一つの【銀狼 銀魂版】   作:支倉貢

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第二師団副団長の志乃の一日は、目覚まし時計のアラームを止めることから始まる。

師である馬董に買ってもらったお気に入りの服に着替え、愛刀を腰に挿し、部屋を出る。

 

「おはようございます、副団長!!」

 

「おはよう。昨日頼んだ書類、できた?」

 

「ハイ!」

 

「そう。じゃあそれを後で私の部屋に持ってきてくれる?」

 

「わかりました!」

 

「うん。よろしくね」

 

にこ、と優しく微笑んでから、自らは資料室へと足を運ぶ。

彼女の真っ直ぐピンと伸びた背中に、部下は敬愛の眼差しを向けていた。

仕事以外の余計な事は一切せず、食事中にも隙を見せない。

凛としたその美しい横顔に惹かれる者も多く、その強さに憧れる者も多かった。

 

また、志乃は春雨内で唯一の女。

裏では「女神信仰会」などという、とにかく志乃を愛でるための組織が存在しているらしい。最初はそれこそただのファンクラブだったのだが、今や一大勢力に勝るとも劣らないものになっていた。

もちろんそれは、志乃の知るところではない。もし知られたら、人からチヤホヤされるのを嫌う彼女によって即刻破壊されるだろう。

 

「はぁ……」

 

誰もいない廊下で、小さく溜息を吐く。

団長であり師でもある馬董が、掟を破り幽閉されてから、志乃はその身一つで第二師団を守ってきた。

上に第二師団を潰すつもりがないのはもちろん理解しているが、第二師団の団長に別の人物を就かせようとした瞬間、志乃はすぐに反発した。

 

その座は我が師の座る席だ。誰にも奪わせない、と。

 

自分はただ、師のいない間、副団長としてこの師団を守らねばならない。

誰が何と言おうと、師の居場所を護り続け、「おかえりなさい」と言いたい。

そのために、志乃はその小さな背をピンと伸ばして、今日も艦を闊歩する。

 

********

 

「……………………お、そこにいんのは嬢ちゃんか」

 

「あ……阿伏兎さん」

 

資料室。

第二師団に任された転生郷売買地の情報を集めるべく、そこで多くのファイルを運んでいた時。

背後から、第七師団副団長の阿伏兎に声をかけられた。

 

「久しぶり…………あっ」

 

「あああああっ!?」

 

ぺこりと頭を下げた瞬間、資料のファイルがズザザザザザァッと滑り落ちる。

しまった。やらかした。

志乃は慌てて床に散乱したファイルを拾い集めた。

 

「大丈夫か?嬢ちゃん」

 

「ご、ごめん……」

 

「気にすんな。ガキはガキらしく助けられてりゃいーんだよ」

 

ポンと軽く分厚いファイルで頭を叩かれる。

阿伏兎は、春雨内で唯一志乃を子供扱いする大人だ。

神威(ガキ)の相手をして慣れているのか、それとも小さい頃から見守ってきた志乃に対し、娘のような感情を抱いているのか。

神威(バカ)の尻拭いのおかげで仕事を増やされる彼とはよく会う。

二人で並んでいると親娘みたいだ、と言われたこともあった。

 

「相変わらずちっこいな。ちゃんと飯食ってんのか?」

 

「食べてますー。あ、今日はまだだけど」

 

「そーか。ならコレ終わったら、一緒に行くか?」

 

「阿伏兎さんの奢りなら」

 

「……オイ、断りづれぇじゃねェか。そういうところがいやらしいな、お前さんは」

 

「えへへっ」

 

「褒めてねーよ」

 

本棚の間を通りながら談笑する。

志乃にとって、この時間が一番幸福とも言えた。

ただ、この相手が馬董(敬愛する師匠)ならば、尚更のことだが。

 

「掟破って幽閉された団長の代わりにお仕事か?ガキのくせによくやるねぇ」

 

「そういう阿伏兎さんも、バカやらかした団長の代わりにお仕事でしょ。よくやるよね」

 

「仕方ねーだろ。あんなのが上じゃなけりゃ、俺ももうちょっと楽だったんだがな」

 

「あはは、運が悪かったね阿伏兎さん」

 

「なぁ嬢ちゃん、あのすっとこどっこい一層の事殺してくれよ。そしたら俺もあのバカから解放されるのに」

 

「そんな簡単な相手なら阿伏兎さんが殺せるでしょ。あ、無理か。阿伏兎さん同胞愛好家だもんね」

 

「オイ何だその言い方は」

 

「大体、神威(アイツ)がそう簡単に殺られるワケがない。それなら、とっくの昔に私が殺してる」

 

キッパリと言い切った彼女の口元は、小さく弧を描く。

やはり、か。阿伏兎は嘆息した。

 

志乃が神威のことを、ライバルとして認めているのは、彼女の口ぶりで明らかだ。

馬が合い、よく一緒に食事をしたり休憩をしたりする阿伏兎は、彼女の良き理解者でもあった。

志乃は、神威の強さを知っている。

中身のない空っぽのそれでも、振り向かずに前だけ進む、彼の強さを。

そしてそれを信じ、神威もまた彼女の強さを信じた。

 

「でも、これだけは言えるよ、阿伏兎さん」

 

「あ?」

 

「「神威(志乃)を殺すのは()。他の誰にも手出しはさせない」」

 

不意に、志乃の言葉にもう一人の声が重なった。

本棚の影から、ひょこっとアホ毛が覗く。

 

「あっ、志乃。ここにいたんだ。探したよ」

 

「……何しに来た、神威。用がないならさっさと帰れ。私と阿伏兎さんのほのぼのハッピータイムを邪魔する気か」

 

「嬢ちゃん一体何だそれは」

 

顔を見合わせなければ、二人は互いの事を認め合うライバルのように見える。

だが、こうして顔を合わせた途端、一触即発の喧嘩上等モードに突入する。

周りに何があろうが誰がいようが関係ない。過去には元老の前で、激しい立ち回りを披露したこともある。

そして現在も、いがみ合いムードになって、空気がピリピリしていた。

 

「えっ、志乃まさか、こんなオッさんが趣味だったの?」

 

「バカ、私が一生ついていくと決めたのは師匠だけ。その他の男なんて毛程も興味無いわ死ねアホ毛ハゲろ」

 

「ハゲないよ」

 

「やめろ団長!嬢ちゃんも落ち着け」

 

バチバチと火花を散らす二人の間に割って入る。志乃はチッと舌打ちをして退がり、神威は相変わらずニコニコ顔のままだった。

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