もう一つの【銀狼 銀魂版】   作:支倉貢

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「…………ん」

 

ぼんやりした視界のピントが合ってくる。くっきりと見えてきた天井は、見たことがないものだった。

ここはどこだ。体を起こして、キョロキョロと辺りを見回すも、これまた知らない場所で緊張する。

時間がかなり経ったのだろう。障子から西日が差し込んでいて、遠くでは烏が鳴いている。心細さに、志乃は布団を握りしめた。

その時、ガラッと障子が開かれる。

 

「っ!」

 

「あ、起きたんだね。大丈夫?」

 

部屋に入ってきたのは、地味な雰囲気を纏った男。それでも見たことのない男だった。

突如現れた彼に、志乃は怯えて後ずさった。

 

「だ、大丈夫だよ!俺は君の敵じゃないから!沖田隊長から世話を任されただけだから!ねっ!」

 

「沖田……?」

 

聞き覚えのある名前を聞いて、少し安心する。見た所人間らしいし、気絶する直前に見た天人とは全く違う。

志乃は布団の上に座り直して、男を見つめた。

 

「あの……さっきはごめんなさい。私、驚いちゃって……」

 

「気にしなくていいよ。怖かったよね」

 

志乃を労わるような声音に、ホッとする。

この人は優しい人だ。そう判断した志乃は、頬を綻ばせた。

 

「あ、私、吉田志乃って言います」

 

「俺は山崎退。よろしくね」

 

「山崎……さん。あの、ここは……?」

 

「ここ?ここはね、真選組の屯所だよ」

 

「真選組……?屯所……?」

 

聞き慣れぬ単語に、コテンと小首を傾げる。頭の中を、ハテナマークがぎゅうぎゅうに詰め込まれたみたいだ。

彼女の様子を見た山崎は、説明を始めた。

 

「真選組っていうのは、警察組織の一つだよ。俺達は武装警察っていって、攘夷浪士を取り締まったりするのが主な仕事かな。で、屯所は俺達の集会所っていうか、なんていうか……まぁ、みんな普段ここで生活してるよ」

 

「山崎さんも?」

 

「うん」

 

なるほど、と頷いた志乃は、再び部屋を見回した。

特にこれといった装飾のない質素な部屋。かつての自分の家を自然と思い出し、何故か安堵する。

 

「志乃ちゃん、頭とか痛くない?かなり強い催眠薬で眠らされてたみたいだから……」

 

「あ……言われてみれば……」

 

「わかった。もう少し寝てていいよ。沖田隊長には俺から言っておくから」

 

「でも……あんまり長居したら、父が心配しますし……」

 

「じゃあ、旦那にも連絡入れておくから。志乃ちゃん、万事屋の旦那の妹だもんね?」

 

「はい……それなら……」

 

体を横たえて、山崎がその上に布団を被せてくる。

トントンと布団の上から志乃の体を軽く叩くと、志乃はゆっくりと目を閉じ、安らかな寝息を立て始めた。

 

********

 

志乃が眠ったのを見た山崎は、腰を上げて部屋から出ていく。

障子を静かに閉めると、背後から声がかけられた。

 

「起きたか、あの娘」

 

「わっ!!って、副長……」

 

山崎が振り返ると、見事なV字前髪の男ーー土方十四郎が立っていた。トレードマークとも言えるタバコを咥える彼は、この真選組で副長を務め、隊士達をまとめている。

 

「で、何かわかったか」

 

「い、いえ、その……薬がまだ抜け切ってなかったみたいなので、もう一度寝かせました」

 

「そうか」

 

短く切ると、土方は背を向けてタバコの煙を燻らせる。彼についていきつつ、山崎はボソッと呟いた。

 

「沖田隊長の話からすれば彼女、完全に被害者ですよ。いつまでここに留めておくんですか?」

 

「天人との関係がわかったら、だ。それ以上屯所に置いときゃ、真選組のイメージにも関わる。小娘幽閉なんざ、社会的に抹殺されるネタだからな」

 

「そこの心配してるんですか?普通志乃ちゃんの方が先ですよね?」

 

山崎のツッコミを無視して、続ける。

 

「……万事屋に連絡は」

 

「今からです。沖田隊長は連絡無しに志乃ちゃんを連れてきたみたいですから……」

 

「ったく……あのバカ」

 

溜息と共に、紫煙を吐き出す。それが赤紫の空に消えゆくのを眺めた後、土方は自室に戻ろうとした。

しかし次の瞬間。

 

「副長ォォォォ!!」

 

叫びながら、一人の隊士が駆け寄ってくる。額に汗を滲ませ、何やら緊迫した表情だ。

 

「何だ?どーした」

 

「大変です副長!!屯所に万事屋が殴り込んできてッ……」

 

「はぁ?」

 

思わず顔をしかめた瞬間、大きな音と共に障子ごと数名の隊士達が吹っ飛ばされる。

縁側に出てきたのは、銀時達三人ともう一人、見覚えのない男だった。木刀を手にした二人に、土方は腰の刀に手をかける。

長髪を流した男が、鋭くこちらを見つめて歩み寄ってくる。

 

「ここに、志乃という娘がいるでしょう。私の子です。返していただきたい」

 

「……てめェ、あの娘の父親か?」

 

「そうです。あの娘は私の子。誰にも渡さない。たとえ天人だろうと、警察だろうと」

 

ジッと真っ直ぐこちらを見つめてくる長髪の男の視線は、鋭く睨みつけるわけでもないのに確かな威圧を持っていた。

見ただけでわかる。この男、強い。

木刀を肩に担いだ銀時も言う。

 

「ついでに言うと志乃は俺の妹だ。てめーらみてーな薄汚え犬コロ共に嫁にやってたまるか。つーことで返せ。今すぐに」

 

「誰も嫁にするために誘拐したとは言ってねーだろ。つーか誘拐してねェ、保護だ。さらに言えばあんな小娘嫁にできるか!!見た所まだ10くらいだろが!!アホかあぁアホなのか、そうだよな」

 

「いやぁどうだか。おたくら女との接点0だから、案外志乃みてーな歳の娘もいけちゃったりするんじゃねーの?なっロリコン警察」

 

「誰がロリコンだシスコン!!」

 

「シスコンじゃねェ!!妹を愛でるのは兄として当然だろーが!!」

 

「それをシスコンだっつってんだよ!!」

 

いつものノリで喧嘩をおっ始める二人。このままでは埒が開かない。新八と神楽が銀時を引っ張って諌めると、一歩、松陽が前に出る。

 

「とにかく、あの娘を返していただきたい。私はそれで満足なのです。あの娘を返していただけるなら、すぐにでもここから出て行きましょう」

 

「そうか。父親のアンタがいるなら話は早え。俺達ゃあのガキが何故天人に攫われそうになったか、それだけわかれば構わねェからな」

 

「……………………」

 

「おそらくあの娘に訊いても知らぬ存ぜぬだろう。なら、説明はアンタにしてもらうぜ、お父さんよ」

 

松陽を値踏みするような視線は、警察として彼らの正体を暴くためのもの。

しかし松陽も、志乃の正体をあっさり明かすようなことはしない。するつもりもない。

真選組は幕府の組織。つまり、天導衆の配下ともいえる。もちろん彼らがそんな連中だとは思えないが、もしここから天導衆の耳に志乃と自分の情報が入れば……間違いなく自分は捕らわれ、志乃は奴らに利用される。虚の血と銀狼の血が生み出した娘を、天導衆が放っておくわけがない。

だが、この場は彼らの納得のいく説明をしなければならない。それも、敵の目的も含めて納得させなければ、自分達親娘は疑いの目を向けられる。

 

ーー天乃、どうか許してくださいね。

 

心の中で亡き妻に一言詫びて、松陽はゆっくりと口を開いた。

 

「……………………わかりました。説明は私からしましょう。ですから、志乃のいる場所へ案内してください」

 

「…………こっちだ」

 

背を向けた土方についていくと、銀時が松陽に問いかける。

 

「いいのかよ松陽。奴らに正体知られればマズイんだろ……?」

 

「心配いりませんよ。上手くやりますから」

 

にこ、と微笑みかけた松陽に、銀時はそれ以上何も言わなかった。




字数が最近減っているような気がする。

オリジナルって難しい。
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