話は二日前に遡る。
「バーサーカーなんて町中に出せる姿してないから……まぁ、この森に根城を作りますか」
「ィィ……」
人が出すとは思えない声を出すこのバーサーカーを霊体化させる方法も忘れ、私の目的もわからない今、この圧倒的な火力を盾に今は守りに入るしかなかった。この時、私はまだ記憶がなかった。なんで、ここにいるのか。なんで、こんなに疲労させるバーサーカーなんてサーヴァントとして選んでしまったのか。霊体化させないと体力が潰れる。そういえば、冬木の聖杯戦争でバーサーカーを召喚したもののほとんどが自滅で終わっているそうだ。
「?」
バーサーカーが首をかしげる。
「どうしたの?誰かいるの?」
バーサーカーに問いかけた瞬間、バーサーカーはその大きな拳で私を吹き飛ばした。拳が動くたびにメリメリと骨が砕ける音が響き渡る。
「が……!? 何を……す……る」
木に寄りかかるように倒れる。息ができない。苦しい。
涙で前が見えない。拭いたくても腕が動かない。ただ、バーサーカーは唸り声をあげて吠えている。苦しんでいる私の前で雄たけびを上げているかのように。
呆然としていると、徐々に周りが見えるようになってきた。
遠くから外国人のような金色の短髪の女の子が歩いてくる。隣には杖を突いた老人が、多分、あれが魔法使いだよと子供に言ったら納得するぐらい貫禄が漂っているみたい。
どう見てもキャスター陣営みたい。まだ、話したこともしっかり見たこともないのだから憶測だ。ただ、わかることはただの一般人ではない。
微動だにしないバーサーカーの脇を通り抜け、その女の子は私の血まみれになっている左腕を持ち上げた。
「うぅ……お、おま……えは……」
「貴女のサーヴァント、大切に使わせてもらうわ」
耳元にその女はささやき、私の視界は真っ暗になった。
「ということがあったのだよ」
しんみりと自分の死を悼むやよい。
「で、なんで、今、華やかな青春時代を過ごしてるのさ。今いるべき場所は墓地か病院だろ」
「あのあと目が覚めたら教会だったの」
はぁ?と俺が言っているなか、やよいは話し始めた。
聞く分には篠座が、蘇生、生徒としての戸籍の確保等お世話をしてくれたそうだ。今、篠座は死んでいるとは言いづらい。
「結局、おまえはなんで俺をこんなところに連れてきたんだ?」
「貴方の新しい拠点を紹介するためだ。私の体はもう駄目だから聖杯戦争に復帰はできないし、かといってあんなズタボロにされて悔しいわけがない。篠座に貴方たちのことを聞いて準備しておいた」
「ちょっと待て、篠座に会ったのはさっきで、そのすぐに彼は死んだ」
篠座が俺たちと会う前に俺たちのことを知っていたと話を聞くと俺は口を滑らせてしまった。
篠座が死んだという話を聞いたやよいは、そうと一言いうと
「まぁ、しょうがないか」
と少し笑った。
「しょうがないって……命の恩人だろ?」
やよいは俺の言葉を聞かず、すぐさまそっぽをむいた。
「篠座が死んだんじゃぁ、私ぐらいしか助けられる人がないのか。なら、ヒントをあげよう」
「ヒントじゃなくて答えを教えてくれ。俺は何者なんだ。なんでここにいる?」
やよいは俺のほうを向かなかった。ただ、背中を向けている。
「教えただけじゃ、貴方の実力を表すことはできない。偉人の伝記を読んだだけでは、その人の真似はできないように、君について教えたところで何も発揮できないし、逆に貴方の邪魔になる。だから神流君にヒントだ」
やよいは振り返った。彼女は泣いていた。それでも平然を保とうとにこりと笑った。
「神奈君は二回記憶を失っているわ。1回目の時の回復は貴方のセイバーにある。そこから探ればいい」
二度?
「これが合鍵だ。もちろん、玄関や窓には呪詛が仕掛けてある。解除方法もあとで教えよう」
「つまり、お前が言いたいことはセイバーに俺の記憶の取り戻し方を思い出させればいいってことか?」
鍵を受け取りながら俺はやよいを見た。少しだけ腕が振るえている。まだ心の整理がついていないようだ。
「そうだ。貴方にとってすべてのカギはセイバーだ」
やよいは言い切ると再び煙草に火をつけてそっぽを向いた。謎は増えた。セイバーについて、そして篠座について。彼はまだ俺たちについて調べ終わってはいなかったと水無月と俺にそういった。そのあとのバーサーカーの襲撃のうちに何者かに暗殺された。恐らくアサシンだろうと言われているが、もしかすると篠座は何か知られてはいけないことを知っていたのかもしれない。そのために消されたのかもしれない。
「篠座が消されたとなると、貴方たちの形勢は圧倒的不利だ。散らばったライダーのマスターとランサーのマスターももう消されたかもしれない。そこでだ。貴方にバーサーカーの真名を教えようと思う」
そういうと、やよいは一呼吸して真剣な目でこちらを向いた
「バーサーカーの真名?」
「そう、バーサーカー、私の元サーヴァント。彼の真名は、戦国時代、日本だけじゃない、アジア中にその名を広め、恐れさせた侍。島津義弘」
セイバーの刀が少し震え、俺は唖然としただろう。
そう、彼を、島津の名を、日本人の大抵は、その凄さも知っているのだから。