ZAC2034年1月26日 中央大陸 帝国共和国 国境地帯
金属質の樹木が林立する森林地帯、陽光を浴びて銀色に輝く巨木が所狭しと存在するこの地は、大部隊の展開には適さない為、これまで両軍の小部隊同士の戦闘が散発的に起こる程度であった。
神殿の柱の様な巨木が立ち並ぶ中をヘリック共和国軍のゴドスが3機が歩みを進めていた。
共和国軍国境警備部隊所属の彼らは、帝国領より度々侵入してくる偵察部隊の撃破を目的としていた。
そして今、彼らは敵機を追い詰めていた。
視線の先には、敵機…ゼネバス帝国軍のディメトロドン型小型ゾイド ゲーターが1機いた。
つい20分前に遭遇した帝国軍偵察部隊と彼らは交戦した。
マーダ3機、ゲーター2機を撃破した彼らは、今、最後の1機を追い詰めていたのであった。
ゴドス3機は、電子戦ゾイドのゲーターが勝てる相手ではない。
撃破された僚機が救援の信号弾を撃ち上げていた為、付近の帝国領から増援が来る可能性があったが、すぐに救援に到着できるのは、マーダ位であった。
そして軽武装のマーダが、共和国の小型ゾイドとしては重武装のゴドスに勝利するのは、余程のベテランでなければ不可能である。
「さて…どう料理してやろうか…?」
ゴドスのパイロットの一人は、笑みを浮かべて言った。
「さっさと終わらせようぜ…敵の救援が来たら厄介だ」
「どうしたブライアン、グレイ中隊長の慎重さに影響されたのか?」
「そういうわけじゃ…」
そのパイロットは、自身の考えを口に出して言い切ることが出来なかった。
次の瞬間、彼らの周囲を取り巻く森の中から発射されたレーザーが、彼のゴドスの頭部を吹き飛ばしたからである。
コックピットを破壊されたゴドスは、地面に力なく崩れ落ちる。
「ブライアン!」
突然の攻撃に共和国兵は驚く、同時に木々の間から敵機が飛び出す。
彼らの目の前に現れた敵ゾイドは、4足歩行型で、頭部には牙が無く、ゼネバス帝国軍の小型ゾイドの共通コックピットと装甲カバーを組み合わせた従来機と異なった形状をしていた。
その機体は、ゼネバス帝国軍小型ゾイドの多くと同様に赤と銀色のツートンカラーだった。
その機体は、ゼネバス帝国軍が新開発したヒョウ型高速ゾイド ヘルキャットであった。
「新型だと!」
「レーダーにも熱センサーにも全く反応が無かったぞ」
「この森じゃレーダーは役立たずだ!」
2機のゴドスは、腰部のロングレンジガンを未知の敵機に向けて乱射する。
直撃を受ければ、重装甲のゼネバス側小型ゾイドでも損害を受ける攻撃である。
ヘルキャットは、それらの攻撃を軽々と回避する。
「なんて動きだ。照準が付けられん」
ゴドスの右に回り込んだヘルキャットが、ゴドスに体当たりした。体当たりを受けたゴドスは、横転した。
ヘルキャットの胴体下部の高速キャノン砲が横転したゴドスのコックピットを撃ち抜く。
残り1機となったゴドスにヘルキャット2機が正面と背後から同時に高速キャノン砲とレーザー機銃を胴体に向けて浴びせかけた。
生体核のある胴体に2機のヘルキャットの集中射撃を受けたゴドスは、爆発した。
敵機を全て撃破したヘルキャット2機は、しばし動きを止めた。
直ぐに右にいたヘルキャットは、ゲーターに接近する。
もう1機は、頭部を動かすのみで、その場に留まる。敵の増援に備えての、周辺警戒の為である。
「大丈夫…けがはない?」
ゲーターに通信を送ったヘルキャットのパイロットは、まだ若い女性で、オレンジ色の髪をショートカットに整えていた。
その幼さを残した顔は、女性というより、少女という形容が適切であった。
「大丈夫です!」
ゲーターのパイロットは、大声で叫んだ。
その両目には涙が浮かんでいた。
先程まで突如敵に襲撃され、戦友を喪い、敵に包囲され、戦死か、捕虜になるかの選択しかない状況に追い込まれていた。
それが友軍の新型機によって救出されたのであるから当然のことであった。
中央にゲーターを左右に挟むようにヘルキャット2機は、友軍基地への帰路に就いていた。
「ヘルキャットは、他のゾイドと違って排気口がブラックホール化されてるのよ、おかげで排熱も最小限で済む。だから敵は、このヘルキャットに気付かなかったってわけ。」
右のヘルキャットのパイロット、ダーシャ・ノイホフ少尉は、笑みを浮かべて言った。
「凄いです。2人とも最新鋭機を任されるなんて…」
ゲーターの新兵は憧れに満ちた口調で言う。
「…」左のヘルキャットのパイロット、クルト・ロスナー准尉は、彼女と対照的に無表情で不機嫌そうだった。
彼は、約半年前まで、オルニトレステス型小型ゾイド マーダのパイロットであった。ヘルキャットは、マーダと同様に高速性能に優れた最新鋭機である。
マーダ乗りであったクルトが、ヘルキャットのパイロットに選ばれたのもそのような理由があった。だが、彼自身は、ヘルキャットのパイロットとなったことに不満であった。
マーダは、ゼネバス帝国が独自開発した最初の小型ゾイド1号で、地球人より導入された流体力学を考慮したボディと徹底した軽量化によって最高速度500km/hという現在量産されている帝国、共和国の両国の陸戦ゾイドでも最高レベルの速力を誇り、起伏のある地形での機動性でも大半のゾイドを上回る。
対して現在の彼の乗機であるヘルキャットは、最高時速でもマーダの半分以下である200km/hであった。
それでも最新鋭機として高速移動を長期間可能にしていることや最小限の排熱による優れた隠密性能等、全般的には優れていた。
だが、マーダに乗り慣れた彼にとってこのヘルキャットは、鈍足でしかなかった。
200km程度ならゲーターやモルガでも瞬間的には出せる速度である。
また彼にとってマグネッサーシステムを全開にした超高速移動時のマーダの、風と一体化したかのような感覚は、忘れがたいものであった。
クルトは、マーダで、大型ゾイドを含む共和国軍部隊を翻弄し、時には敵の改造型小型ゾイドを撃破したこともある。
彼は、この基地のゾイドパイロットの多くが羨む最新鋭機のヘルキャットのパイロットに選ばれたことを憂鬱に感じていたのである。
彼らパイロットの想いなど余所に、森林地帯は、静寂を取り戻していた。
周囲の木々から聞こえる地球の虫や鳥に似た野生ゾイドの声は、先程戦闘が発生し、現在も両軍の部隊が森を行きかっていること等、忘れさせてくれるかのようである。
ゾイドと同様にこの惑星の植物の多くも、金属を含有している。その為、金属探知機やレーダーの性能は大幅に制限される。
その上、鉄骨並みの耐久力と太さを誇る金属樹木が無数に存在する為、大型ゾイドや大部隊の行動は、制限されることになる。
これらの理由から、この森林地帯では、これまで小型ゾイド部隊同士の小規模な戦闘が行われてきただけであった。
ダーシャらは、第34基地に到着した。
基地に到着した彼らを出迎えたのは、基地の防衛部隊所属のカタツムリ型小型ゾイド マルダーだった。
丸いボディを重装甲で覆ったマルダーは、ゼネバス帝国軍の小型ゾイドの中で最も重い機種で、機動性では劣る。
装甲殻に内蔵した火器と重装甲を生かした移動トーチカや対空警戒といった防衛任務に利用されている。
この第34基地の部隊は、基地守備隊を除き、共和国側森林地帯への情報収集、帝国側に侵入する共和国軍部隊の発見の為に配備されている。
共和国側に比べ、工兵部隊の規模で大きく劣るゼネバス帝国軍は、森林地帯を切り開いてそこに大規模な基地を設営するよりも、森林地帯に小規模な拠点を複数設営し、それぞれの部隊を連携させることで共和国軍の侵攻を迎撃するという戦略をとっていた。
ちなみに偵察部隊用の基地は、第34基地以外にも複数存在している。
また偵察部隊用の他にも、ヘルキャットと同様に今年に新開発されたばかりの、ヘリック共和国軍の歩兵ゾイド ゴドスと互角以上に渡り合える性能を有するイグアノドン型歩兵ゾイド イグアンを装備する精鋭部隊を有する第16基地や兵員輸送仕様の森林戦迷彩が施されたマルダーやモルガが配備された第20基地等がある。
これらの基地は、帝国領土側の森林地帯に設営されていた。
ダーシャが指揮官を務める第45偵察隊は、この第34基地で唯一、ヒョウ型高速ゾイド ヘルキャットを配備した部隊である。
ヘルキャットが投入される以前は、共和国側への偵察任務や侵入してきた敵部隊の捜索等は、オルニトレステス型ゾイド マーダが行っており、ヘルキャットが未だに本格的に生産されていない今でも大半の基地はマーダがそれらの任務に従事している。
ダーシャのヘルキャットを先頭に3機の小型ゾイドは、基地の格納庫に入った。
最後尾を務める若い兵士が操縦するゲーターは、戦闘による損傷か、動きがダーシャ、クルトのヘルキャットに比べ、ぎこちなかった。
「大丈夫なのか…」
後ろの友軍機の動きの悪さを見たクルトが呟いた。幸いそのゲーターを含む、3機のゾイドは格納庫の整備スペースにたどり着くことが出来た。
ダーシャのヘルキャットのコックピットが開き、コックピットから灰色のパイロットスーツを着たオレンジがかった赤毛の女が降り立った。
次に隣にいたヘルキャットのコックピットが開き、パイロットであるクルトがそれに続く。
ダーシャとクルトを迎えたのは、先に基地に帰還していたダーシャの部下達だった。
「ノイホフ隊長、友軍部隊の救出には成功したようですね!流石です!」
感激の気持ちに絶えない口調で言うのは、アレク・ボルコフ准尉である。
ダーシャを指揮官として尊敬している彼は、この部隊で最も経験が浅い。
「クルト、お前もそろそろこいつに慣れたか?こいつはいい機体だぞ」
ヘルベルト・シュナイトフーバー准尉は、笑みを浮かべて言った。
過去の戦闘により出来た顔に斜めに走る傷のあるこの男は、一見すると厳格に見えるが、その性格は陽気で豪快という外見とは異なるものであった。
また彼は、クルトと同じ、マーダのパイロットからの転換組だった。
この基地には、現在ダーシャとクルトのヘルキャット2機を含むヘルキャットが、4機配備されている。
「…」
クルトは、無言で格納庫を去って行った。ヘルベルトは、それを不快に思うことはなく、彼の背中を見つめていた。
いつものことだ、と知っているからである。司令部に機種転換願の書類を提出する為である。ZAC2030年代軍に所属するパイロットは、基本自身の乗るゾイドを選ぶことは出来ない。
だが、それには例外があった。
機体との相性が悪い場合、自身の操縦技量に見合っていない等と言った事情がある場合は、以前搭乗していたのと同じ機種に機種転換出来た。
要するにヘルキャットのパイロットになることを受け入れられないクルトは、未だにマーダのパイロットに戻りたかったのである。
その日は、敵襲の警報がなることも無く平穏に過ぎ去った。
1月27日 森林地帯
翌日も第45偵察隊は、出撃した。
この金属樹木が林立する地域では、他の国境地帯、平原や砂漠地帯の様にレッドホーンやゴジュラスといった大型ゾイドの戦闘も、多数のゾイドが投入される大部隊同士の会戦が行われたことは殆ど無かった。
だが、それはこの森林地帯が戦闘が行われることが少ない平穏な地域であることを意味しているわけではない。
むしろ物量や機体性能が戦いの勝因となる割合が少ない分、更に激しく過酷な戦闘が繰り広げられてきた。森林地帯は、攻撃側にとっても防御側にとっても格好の遮蔽物になる。
性能で遥かに劣るゾイドが、勝利を収めることもあれば、数に勝る側が完全敗北を喫したこともある。この地では、地形を味方に付けた側が勝利を収める。
この緑色の迷宮では、名も知れない無数の小戦闘が繰り広げられてきた。
今回の出撃は、共和国領内より帝国側に侵入したゴドス12機を迎撃するという任務だった。
恐竜の殺し屋、小型ゴジュラスとも恐れられる共和国軍の高性能小型ゾイド ゴドスを10機以上保有する敵部隊に対して、
最新鋭機といえども、軽武装のヘルキャット4機だけで勝利するのは、困難である。
その為、第45偵察隊だけでなく、最新鋭機のイグアン8機で編成される第21戦闘小隊が投入される。
イグアンは、大陸西南部の森林地帯を生息地とするイグアノドン型ゾイドを素体とした歩兵ゾイドで、これまでゴドスに煮え湯を飲まされたゼネバス軍が打倒ゴドスを目的に開発した機体である。
鹵獲したゴドスや戦場で回収したゴドスの残骸を解析し、開発されたイグアンは、ゴドスと形状が著しく似通っていた。
このためゴドスと80%近い設計が共通しており、更にゴドスとのパーツの互換性すら有していたのである。
またイグアンは、ゴドスの得意技とも言えるキックも可能である。
但し、他のゾイドを捕食することで知られているアロサウルス型に対して金属樹木や露出した鉱石を餌とするイグアノドン型では、脚力に差があり、キックの攻撃力に劣っている為、蹴爪を付けることで攻撃力を補っていた。
ゴドスの設計を徹底的に解析して作られたこの機体は、カタログスペックでゴドスを上回っていた。
だが、これは同時にゴドスの設計が優秀であることの裏返しでもあり、このことは、ゼネバス帝国軍の将軍達とイグアン開発に携わった技術者達を大いに悔しがらせていた。
帝国軍基地破壊任務を遂行する為に帝国側森林地帯に侵入した12機のゴドスは、既に帝国軍部隊と交戦し、撃破していた。
ゴドス部隊の周囲には、撃破されたゲーター、モルガやマーダの残骸がいくつも転がっていた。
共和国軍の勝利は、揺るがないかに見えた。
その時、木々の中から飛び出したヘルキャット4機が戦闘に加入した。
「全機、友軍部隊が来るまでの時間を稼ぐ!無理に撃破しようと思わないで!」
「「了解!」」
「…了解」
4機のヘルキャットは、ゴドス部隊に向けて移動しながらレーザー機銃や高速キャノンを発射した。
ダーシャのヘルキャットが高速キャノンを放った。
その一撃は、1機のゴドスの右腕に見事命中した。「あれが、例の四足獣型か!」
「動きがサイズの割に早い、気を付けろ」
ゴドス12機は、散開隊形から密集体形に移行する。ヘルキャット4機は、散開すると、ゴドス部隊に対して移動しながら射撃を開始した。
200km近い高速を叩きだしながらの射撃は、最新式の照準器や射撃修正プログラムの存在を加味しても停止射撃に劣る。
ヘルキャット4機は、それぞれ散開してゴドス部隊に襲い掛かった。
ダーシャのヘルキャットが、高速キャノン砲を発砲。
その一撃が、最前列にいたゴドスの腹部に命中した。
「そこだ!」
クルトのヘルキャットがレーザー機銃を叩き込んだ。左足の関節キャップが破壊され、ゴドスは、その場に膝をついた。
周囲のゴドスが、損傷機を庇う様に陣形を組み、ロングレンジガンをクルトのヘルキャットに乱射した。
追撃できず、クルトのヘルキャットは後退した。
ゴドス部隊は、陣形を組むことで、機動性に劣るという問題を解決し、同時に数の優位を生かせる状況に持っていこうとしていた。
「ちっ!」
マーダならこいつらを苦も無く翻弄できるのに! クルトはこの状況では詮無いことを思いつつ、次の標的を捜す。
「当たってくれ」
今度は、森林へと離脱するヘルベルトのヘルキャットに向けてロングレンジガンを撃っていたゴドスにレーザー機銃を撃った。
「落ちやがれ!」
ヘルベルトのヘルキャットが、森の中から高速キャノンを発砲した。
その一撃は、ゴドスの頭部を狙っていたが、寸前で回避され、地面に空しく着弾する。
戦闘がこう着状態に陥ろうとしていたその時、ゴドスの1機が爆散した。
イグアン8機が戦場に到着したのである。マグネッサーシステムを応用した背部のフレキシブルスラスターによってイグアンの機動性は、ゴドスを上回っていた。
この部隊に配備されたイグアンのパイロットは、格闘戦用の装備を追加したガリウス改造型の操縦経験のある者達が中心となって構成されていた。
メガロサウルス型歩兵ゾイド ガリウスは、ゼネバス帝国軍も戦争初期には、共和国軍と同様に運用していたゾイドである。
ゼネバス帝国軍は、自軍が装備するガリウスに特殊金属の爪や尾部にカッターを装着する等の格闘戦用の装備を施し、戦場に投入したのである。
このゼネバス型ガリウスとでも言うべき改造型は、共和国軍のガリウスやエレファンタスに対して格闘戦で優位に立った。
ゲルダーやマーダ等のゼネバス帝国独自のゾイドや共和国軍のゴドスのロールアウト以降は、このガリウス改造型は前線を退いたが、そのパイロット達は、未だに多数存在していた。
帝国軍は、イグアンをロールアウトした際、同じ直立2足歩行ゾイドで、操縦特性が近いイグアンのパイロットに彼らを充てたのである。
ゴドス部隊は、新手の登場に驚いたが、即座に攻撃を開始した。
機動性に勝るイグアンは、それらの攻撃を回避し、接近戦に持ち込んだ。
「まずは1機!」
指揮官機のイグアンは、右足のキックをゴドスの胴体に叩き込んだ。胴体が大きくひしゃげたゴドスが崩れ落ちる。
ゴドスのロングレンジガンを回避すると、胴体目がけて左腕の4連装グレートランチャーを叩き込んだ。
「援護する!」
ヘルキャット4機は、イグアン部隊の掩護に回る。ダーシャのヘルキャットがイグアンと交戦していたゴドスの頭部を高速キャノンで撃ち抜く。
クルトのヘルキャットは、1機のゴドスの背後に回り込んだ。クルトは、レーザー機銃で、ゴドスの背中を銃撃する。
背部の砲が破壊され、ゴドスは、旋回しようとした。そこをイグアンのパイロットは見逃さなかった。
イグアンの右腕のクラッシャーバイスがゴドスの頭部コックピットを破壊した。
イグアン部隊とヘルキャット部隊に挟まれてゴドス部隊は、有効な反撃を行うことが出来ず、撃破されていった。
最後の1機は、イグアン部隊の集中砲火を浴びて砕け散った。
「やったぞ!」
「これからは、共和国の奴らの好きにはさせん」
イグアン部隊は、機体に損傷こそうけたものの、1機も喪失することなく、戦闘に勝利した。
だが、勝利の美酒に酔いしれる彼らに対して砲弾が浴びせられた。
赤熱した隕石の様に砲弾がイグアン部隊の1機の胴体に命中した。直撃を受けたイグアンは爆散する。
「全機、機体を森に隠せ!」
イグアン部隊を率いる指揮官が叫ぶ。イグアン部隊は、散開し、周囲の木々に身を隠そうとした。
それでも2機のイグアンがそれぞれ、下半身と上半身に砲弾を受けて大破、爆散した。
ヘルキャット4機は、その場から飛び退く。
直後、その場にも榴弾や徹甲弾が、隕石の様に降り注ぎ、そこにあった岩や樹木を根こそぎ吹き飛ばす。
「新手か!」
「皆!私達も森に隠れるわよ!」
ダーシャは、突然の襲撃にも慌てることなく対応する。クルトらもそれに反応した。
ヘルキャット4機は、それぞれ樹木の影に隠れる。
「新型機か!」
正面モニターに表示される敵機の姿を見たクルトは叫んだ。
彼らの目の前に現れた敵機…………それは、大砲を背負った鋼鉄の亀とでも言うべき機体だった。
その機体は、ヘリック共和国軍が開発したカメ型 小型ゾイド カノントータスであった。
この小型ゾイドが開発された背景には、1年前のゼネバス帝国軍が新開発した対ゴジュラス大型ゾイド アイアンコングの出現がある。
150機のアイアンコングによる共和国本土侵攻で、首都にまで侵攻されたことから、共和国軍は、既存の保有するゾイドで最強のゴジュラスの戦力強化を進めると共に、数的主力となる新型小型ゾイドの開発も進めた。
カノントータスは、大型ゾイドを十分に撃破可能な小型ゾイドというコンセプトで開発された。
主砲である突撃砲は、対ゾイド用の徹甲弾から榴弾、ロケット砲弾等任務に合わせた砲弾が使用可能で、徹甲弾を使用した場合の威力は、帝国軍の主力大型ゾイド レッドホーンに致命傷を与える可能性を秘めている。
また副砲を兼ねる胴体側面の左右に装備した連装対空砲は、帝国軍が対地攻撃用に新型の飛行ゾイドを開発中であるという情報から装備された火器で、上空のみならず地上目標に対しても射撃可能な火器だった。
また防御力の面でも、ゼネバス帝国軍機の攻撃力の増大等を考慮して、これまでの機動性を重視した共和国ゾイドの設計とは異なり、素体となったカメ型ゾイドの特徴である甲羅を生かした重装甲で覆われていた。
その最も分厚い部分の防御性能は、大型ゾイドに匹敵した。
共和国軍は、高い攻撃力と防御力を有するこの小型ゾイドの量産を進めており、前線の各部隊への配備も進んでいたが、この森林地帯に投入されるのは、これが初めてである。
本来ならカノントータス部隊は、先行したゴドス部隊と合流し、帝国領内に存在する敵基地の破壊任務に従事する予定だった。
それが、カノントータス隊とゴドス隊の速度差によって合流できず、戦場に到着したのは、ゴドス部隊が全滅した後となったのである。
出現したカノントータス4機は、突撃砲を目の前の敵部隊に対して砲撃を開始した。
「凄い火力だっ」
撃ち込まれる突撃砲の砲弾が着弾し、土砂や樹木を吹き飛ばすのを見たクルトは、肝を冷やす。
これでは、これまでの戦闘の様に金属樹木等を遮蔽物として利用できるか怪しかった。
「ヘルキャットなら、あの攻撃を回避できます。私達が時間を稼ぐ間に体制を立て直してください!」
ダーシャは、イグアン部隊の指揮官に言う。
「わかった!」
イグアン部隊の残存機は、奥へと後退していく。対照的にヘルキャット部隊は、カノントータス4機に向かっていった。
カノントータスの突撃砲が火を噴き、砲弾が大地を抉った。
ヘルキャットは、それを回避し、レーザー機銃や高速キャノンを連射する。
だが、それらの攻撃は、カノントータスの装甲に弾かれる。
「なんて装甲だ!」
アレクは、僚機と集中攻撃を浴びせても平然としているカノントータスを見て悲鳴を上げた。
ダーシャとクルトのヘルキャットも、攻撃を浴びせるが、カノントータスの重装甲に弾かれ、損害を与えることが出来なかった。
森の中に後退したヘルキャット4機は、それぞれカノントータスに銃撃を続けた。
「こいつの火器じゃ、あの亀の装甲は敗れないぞ!」
自分達の攻撃を受けても平然としているカノントータスを見てクルトが毒づく。
「それなら!」
ダーシャのヘルキャットがカノントータス4機の正面に飛び出した。
「隊長!」
「あの女っ何考えてるんだ?っ」
クルトにはその行為は、無謀な自殺行為に見えた。アレクやヘルベルトも同じ思いを抱いていた。
眼の前に飛び出してきた敵機を見たカノントータス4機は、突撃砲を一斉に発射した。
更に連装対空砲も連射する。ダーシャのヘルキャットは、火の壁にも見えるそれらの砲撃を巧みに回避する。
ダーシャの動きは、まるで相手の攻撃がどこから来るのか予測しているかのようである。
ダーシャは、目の前の敵機の脆い部分を狙おうとしていた。
重装甲のカノントータスの数少ない装甲が施されていない箇所……胴体から飛び出した頭部コックピットを目がけて…そして彼女は、引金を引いた。
「食らいなさい!」
ダーシャのヘルキャットの高速キャノン砲が火を噴く。
その一撃は、胴体から飛び出していたカノントータスの頭部コックピットを撃ち抜いていた。
操縦者を失ったカノントータスは、その場に擱座した。
「よし!」
次の瞬間、信じられないことが起こった1機のカノントータスが、ダーシャのヘルキャットにコックピットを撃ち抜かれて擱座したカノントータスを突撃砲で砲撃したのである。
後方から砲撃を受けたカノントータスは、弾薬庫に誘爆したのか、大爆発を起こした。
それは、貴重な新型機の情報を敵に渡すまいとして行ったことであった。
「なんて奴だ!」
それを見たクルトは、その行為に衝撃を受けた。次に激しい嫌悪を抱いた。
先程までの味方機を、パイロットの遺体が残っている可能性もあるそれを、機密保持の名目で破壊することは、理屈の上では納得できたが、それを実際に行うのには抵抗があった。
ゾイドは、生命体でもある。それを単なる兵器として破壊する、それも戦死した戦友の遺体ごと吹き飛ばす。その行為は、戦場においても許されない行為の様に思えたのである。
他のパイロットも同様に嫌悪を抱いているようで、ヘルベルトは、大きく舌打ちした。
カノントータス3機と4機のヘルキャットの戦闘は、双方ともに決定打を欠いていた為、長引いた。
カノントータスの機体名の由来にもなった突撃砲は、重装甲の機体が多いゼネバス帝国軍小型ゾイドの全ての機種に致命打を与える威力を有している
だが、ヘルキャットの機動性の前に初速の遅い砲弾を命中させることは出来なかった。
唯一ヘルキャットを捉えることのできる連装対空砲も射角が上下に制限されているため、立体的に駆け回るヘルキャットを捉えることは出来なかった。
更に言えば、カノントータスは、全機、胴体上部に搭載していたレーダーを破壊され、射撃精度が低下していた。
対するヘルキャットも機動性で勝るもののカノントータスを破壊できる兵装は無かった。
この膠着状態は、数分間続いた…双方の兵士が永遠に続くのではないかと思い始めたその時、均衡が崩れる事態が起こった。
カノントータス隊に砲撃を受けて後退した筈のイグアン部隊が、側面から襲い掛かったのである。
カノントータスは、主砲である突撃砲も副砲である連装対空砲も上下に動かすことは出来たが、側面の目標には攻撃することはできなかった。
カノントータスは側面の敵に向けて旋回しようとしたが、4機のヘルキャットが、銃撃を浴びせ、それを阻んだ。
もはや3機のカノントータスは、狩られるのを待つ獲物でしかなかった。
最後のカノントータスは、至近距離からイグアン4機のキックを浴びて沈黙した。
この日の戦闘は、帝国軍の勝利に終わった。撃破された共和国軍の新型機の残骸は、後日帝国軍の回収部隊が、回収することとなった。
また、ゴドスを撃破可能な主力小型ゾイドとして開発されたイグアン部隊が、ゴドス部隊を相手に圧倒的勝利を収めたことは、これまでゴドスの性能と、共和国の豊かな国力を背景とした物量によって苦戦させられてきた前線の帝国軍兵士を勇気付けることは間違いなかった。
だが、その後出現した新型機との戦闘で3機を喪失したことは、この大戦果に大きな影を落とした。
またイグアン隊の援護として出撃したヘルキャット小隊は、ゴドス2機を撃破、数機を損傷させ、直後の新型機を有する部隊との戦闘でも1機を撃破し、残る3機をイグアン隊が撃滅する際に退路を断つ等の活躍を齎した。
第45偵察隊が帰還したのは、鮮やかな赤い夕日が彼らを照らす頃だった。
彼らは、敵部隊に勝利し、イグアン部隊が基地に帰還したその後も、数時間その場で待機することを命じられたのである。
撃破された新型機の残骸を共和国軍が回収、もしくは破壊する為に工作部隊を送り込んでくることを警戒したというのがその理由である。
結局彼らは、敵と遭遇することもなく、後退の部隊が到着した後に基地に帰還した。基地に帰還した彼らは、基地の友軍兵士達から総出で歓迎された。
ダーシャは、ヘルキャットのコックピットを開放し、古代の凱旋将軍さながらに立ち上がって、笑顔で手を振った。
それを見た足元の基地の兵士達がどよめき、歓声をあげた。
それを見て、ヘルベルトは陽気に笑みを浮かべ、実戦経験の最も少ないアレクに至っては、基地の兵士と一緒に興奮していた。
クルトは、それを冷めた目で見ていた。
クルトは、コックピットから降りると同時に一人の兵士に肩を叩かれた。
直ぐに彼が振り向くと、其処には若い兵士が立っていた。
「ロスナー准尉、司令がお呼びです。」
虫族の出身であることを示す褐色の肌が特徴的なこの兵士は、そう言った。
「了解した。今すぐ向かう」
クルトは、その命令通りに司令室に向かった。
何故自分がこの基地の司令官に呼ばれるのか、彼は理解していた。
ダーシャは、それを予め知っていたのか、祝賀の場になりつつある格納庫を去っていく部下の一人を一瞥しただけであった。
「クルト・ロスナー准尉、入室します!」
彼が司令室に入った時、この部屋の主である基地司令官 ヴァルター・ロートマン少佐は、金属製の机に両手を置き、椅子に腰かけていた。
長く伸ばした山羊の様な顎髭が特徴的なこの人物は、2年前に中央山脈のある前線基地を巡る戦闘で負傷した為、ゾイドパイロットとしてではなく、この第34基地の司令官に就いていた。
長引く戦争で、彼の様に戦傷でゾイドの操縦が困難になる兵士は、少なくなかった。これまで、帝国では、基地司令と守備隊指揮官を兼任するケースが多かった。
これは、地球人来訪以前の部族間紛争時代の優れた戦士、ゾイド乗りが砦の指揮官を務めるという伝統の名残である。
だが、地球人の来訪によって両国の技術力や国力が向上し、新型ゾイドの開発等で戦術が大きく変化してからは基地司令としての業務と守備隊指揮官としての作戦指揮を同時に行わなければならないという問題も発生していた。
ゼネバス帝国よりも国土が豊かで人口も多いヘリック共和国では、地球人の技術導入の際に行われた軍制改革で、基地司令官と基地所属のゾイド部隊の指揮官の分離は、1年前に概ね完了していた。
だが建国間もない帝国の場合、人口が共和国に劣ることもあって、人員の余裕は無かった。
そこで帝国は、戦傷でゾイド操縦が出来なくなった士官やパイロット適性が低い士官を基地の司令官に任命し、守備隊指揮官と分離したのである。
「ようこそ准尉、楽にしてくれ」
ロートマン少佐は、クルトが室内に入ってきたと同時に顔に笑みを浮かべ、そして数秒後には、その顔の表情を無表情に戻した。
クルトは、部屋の真ん中に置かれているパイプ椅子に座った。ロートマンは口を開いた。
「君が要望していた機種転換の件だが、帝国軍としては、君は、それに該当しないということになった。つまり君には、引き続き、ヘルキャットのパイロットとして戦ってもらうことになる」
「なぜでしょうか?」
その言葉の意味を理解したクルトは、湧き上がる憤りを自制心で抑えつつ、目の前の上官に尋ねる。
「今回の戦闘でも、貴官は、ゴドス数機を行動不能にし、直後の新型機との戦闘でも撃墜される事無く敵の牽制に成功している…この戦闘終了の直後に秘匿回線で送られてきたノイホフ少尉の報告と貴官の乗機の戦闘記録を参照する限り、君は、ヘルキャットの性能を十二分に活かしている。ヘルキャットのパイロットとして優秀な兵員を配置換えにすること等できんよ…」
ロートマンは、命令の根拠を示して相手の反論を封じようとしていた。
クルトは、反論できなかった。
「…わかりました。退出してよろしいでしょうか?少佐殿」
「許可する」
あの女…
不快感を押し殺しつつ、彼は、司令室を離れた。